二本立てです。
はい、葱とかの奴はゲームのネタ装備を出したいが為に作った話です。
許してクレイモア。
〔その後のVRS装備と播つぐみ〕
それはマンドーセが現れる数時間前の刀剣類管理局本部で起きた出来事である。
綾小路から技術者、研究者の増援人員として招集された渡邊翼沙は実に困っていた。
「ふんふん…ナルほどナルほど…、ノロが少量でもS装備の活動時間を延ばす効率方………相変わらず優秀で大活躍だね
機器を操作する翼沙の周囲をウロチョロする赤毛の丸みを帯びたボブカット。
長船の制服の上に白衣を纏う眼鏡の少女。
彼女の名は渡邊エミリー。見ての通り長船女学園の技術科に属する生徒にして、翼沙の従姉である。
「エミリー……僕の方ばかり構ってないで、自分の仕事を………いやダメだ、考えたらこの
毎度毎度聞こえてくるエミリーの所業に頭を抱える翼沙。
周りから見れば彼もそう大差無いのだが、そこは変人なりに譲れない分水線と言った所か。
「失敬な、ワタシはこう見えてちゃんと弁えてるヨ?荒魂が出現したらなるべく邪魔にならない様に、腕の立つ娘の側に着いてだね…」
「結局、最前線間近で撮影してるじゃないか!?それにヒートアップして他の人の所にも現れるから煙たがられてるって聞いてるよ!!」
基本的誰に対しても敬語の彼が唯一、タメ口を訊く相手がこのエミリーである。
彼女もそれを理解しているのか翼沙に対してはですます口調を交えない完全なタメ語で接している。
「そこは研究の発展、技術の発達の為には止む終えないと言うべきか…まぁこうしてワタシも任務に出たメンバーも無事何だしノープログレム!それに、それを言うなら従弟だって随分と派手にやってるんじゃないかい?」
悪びれも無くいけしゃあしゃあと言ってのけるエミリー、眼鏡のツルを上げ眼鏡を光らせるその顔はマッドサイエンティストのそれである。
「別に僕だって好き好んで爆発してる訳では無いんだ。ただ……想定より出力が高くなり過ぎて結果的にソフトにハードが着いていけなくて爆発するだけなんだ!」
此方もまぁ似たような理由で悪びれ無く述べる。
そんな2人のやり取りを聴きたくも無いのに聴かされている作業中の土師景子は思う。
(どっちも大差無いので勘弁して欲しいって、巻き込まれる側は思ってますよ、きっと……私がそうですから……)
しかし色々怖いので口には出さない。
そして彼女とは別に偶々来ていた播つぐみがイマイチ変化の少ない表情で翼沙達に訊ねる。
「先程から気になっていたのですが、お二人は御姉弟で?」
「違います」 「残念ながら違うんですネ、これがまた」
ほぼ同時に返ってくる翼沙とエミリーの答え。
これだけ息ぴったりなのに違うのかとつぐみは思った、思っただけである。
「それは…失礼しました。名字が全く同じなのでてっきり」
「まぁ、そうですよね…初対面の人達から二人で居ると良く訊かれます。ただ、僕と彼女の関係は従姉弟ですので親族であることは違いないんですけどね」
「なるほど…それで」
翼沙の説明に得心がいったと返事をするつぐみ、その時、翼沙のダグコマンダーが緊急呼集で点滅する。
「?!すいません、つぐみさん。折角来て頂いている所、申し訳無いのですが少々急用が出来たので席を外します。なるべく急いで片付けますが、時間が掛かるかもしれないので、もしつぐみさんに何か用事が有るようでしたらそちらを優先して頂いて構いません。後、エミリーは僕のデスクのパソコンには絶対触らない様に!」
この間、椅子から立ち上がって、研究室の扉を出るまでの事である。
勿論翼沙の急用とはダグオンとしての任務であり、彼はこの後、敵の攻撃により倒れそのまま戻って来なかったのであるが……。
ともあれ翼沙が居なくなった事を見計らい、エミリーはニヤリと笑った。
「うふふ~。古今東西の創作物にもあるように、触るなと言われると途端に触りたくなってしまうのが研究者たる性なのだよ、従弟」
翼沙が電源を落としたパソコンを立ち上げ、翼沙の施した三十通りの難解なパスワードを難なく解除しデータの閲覧を始めるエミリー。
つぐみはそれを少々呆れ気味に眺めながら、しかし自身も彼の研究に興味があるのか、エミリーの背中越しに画面を覗き込む。
「ふむふむ…以外と整理されたデスクトップですね。おや?VRS装備?はて?」
その中で見付けたファイル名が気になり首を傾げる。それに気付いたのかエミリーが面白そうに笑い、ファイルに掛けてあるロックを外し開いた。
「中々興味深い事を考えてる様ですね我が自慢の従弟は…しかし、翼沙らしくない」
閲覧途中でエミリーが内容を怪訝に思ったのか眉根を上げる。
「らしくないとは?」
「この理論ではVRS装備とやらは実現不可能の産物。あの子が技術的に開発不可能な物を構想するなんてらしくないんですよ」
「もしかしたら私の研究に関係あるかもしれませんね」
「と言うと?」
エミリーの言葉を聞き、VRS装備とやらの実現性の不可能さに以前、自分が見せたVR空間を利用したシミュレーターの話をするつぐみ、エミリーは何処と無く納得したようなそうでない様な顔で考え込む。
その間につぐみはパソコンの画面に開かれている項目を何とはなしに読み進めて最後にある事に気付く。
(この変わったデザインのシンボル、先程先輩の腕に付いていたアクセサリーにも有りましたね、それに…他にも何処かで見覚えが……しかしVRS装備ですか、折角なので私のシミュレーターにそのアイディアを使わせて貰いましょう。一先ずはこのデザイン以外のモノもデータを作らねば…先輩が戻って来たら持ち掛けてみましょうか)
つぐみの中で考えが纏まる。しかし、知っての通り翼沙が今日中に戻って来ることはなかった。
その為つぐみは仕方無く己の研究に戻った。
後日、エミリーは翼沙に叱られたが、彼女自身は反省せずケロッとしていた。
〔葱、大根、チョコミン刀〕
これは撃鉄がドリルゲキとなってから次の日に起きた出来事である。
「むー……」
戒将と共に使用している部屋で結芽が膨れている。
(御刀があれば戦えるのになぁ……悪い宇宙人を倒せばみんな私の事をスゴいって言ってくれるよね。それにお兄ちゃんとも一緒に戦えるのになぁ)
基本的に弱い相手や興味が無い相手には冷淡な結芽であるがダグオンの5人…今や6人となった彼等との交流もあってか以前に比べれば幾らかマシになったと言える。
まぁ、そうであっても弱者に対するスタンスはそう簡単には変わらない、弱い者は弱い。
(でもあのおねーさん達は少しメンドくさかったな……次にもし戦ったら今度は余裕で勝つけど)
あの時は身体の事もあり、心身共に余裕が無かったが今は違う、とは言え長船の2人と戦った経験は彼女なりに弱い者なりの矜持を理解する切っ掛けにはなった様だ。
「弱い人の中にもそこそこの人はいる、それに…そういう人達が群れると倒せるけど面倒。多分あのアリの宇宙人も数が多いとそれくらい面倒なタイプ……翼沙おにーさんが作ってる装備、出来るのはまだ先だしやっぱり御刀が欲しい……ニッカリ青江を取りに行けないかなぁ」
ここには無い愛刀を思う結芽、とは言え兄から耳がタコになるくらい聴かされた事情もあってか、ニッカリ青江を取り戻すのは難しい。
「むー、そうだ!おねにーさんにちょっと訊いてみ~よ!」
とても良いことを思い付いたと言った顔で部屋を飛び出す結芽、個室を出ればダイニングを掃除する兄が最初に目に飛び込んでくる。
「結芽?どうした、そんなに急いで?」
「ちょっとおねにーさんに訊きたい事があるから訊いてくる」
そのまま自動扉が開くのを待って、開いた瞬間廊下を速足で駆ける。
目指すはダグベースの頭部、メインオーダールーム。
「え?御刀が欲しい?いやムリだよ。ボクでも流石に御刀は簡単には造れないよ?」
見付けて早々、本題を直球で切り出した結芽にアルファは手を振って答える。
「でもライアンって剣は荒魂斬れるんだよね?」
「あれは基になったのが特殊だし特別だし。まぁ刃に使った金属は特に硬度と切れ味のあるのを使ってるし」
その金属を別の世界から使わないでしょと言う理由でシータから融通して貰っているので彼自身は本当に型に当て嵌め造り上げたに過ぎない。
「一つも無いの?」
「そうだね…一本も………いや待って、確かこの間焔也君達がフェニックス星人だかガロン星人と戦ってた時のザゴス星人が赤羽刀の荒魂を捕獲しようとしてその時妙な赤羽刀が出たのをつい持って帰って来てた様な………いや、でも…あれは…うーん」
結芽の疑問にアルファは何か思い当たる節が有ったのか口許に手を当て考え込む。
「結芽ちゃんさ、要は写シとか迅移とか刀使としての能力が使えれば取り敢えずは問題無いんだよね?」
「一応悪い宇宙人も倒したいけど…うん、迅移が使えたら色々楽だと思う」
「ちょっとさ、ラボの方で待っててくれない?」
「?…分かった」
アルファの態度にどうにも意図が読み切れないが、どうやら御刀の心当たりは在るらしい様なので素直にラボがある技術・研究区画に移動する結芽。
果たして然る後に焔也を伴ってやって来たアルファが手に持っていた物は赤羽刀であった。あったのではあるが………
「ナニこれ?」
何とも独特な形であったのである。
「御刀だよ。ね、焔也君」
「いや…御刀か?コレ?」
錆びた段階から判る刀に見えない2本と刀の体は成しているが妙な臭いがする1本。
「取り敢えず研いでよ焔也君」
「おま…何も言わずにいきなり連れてきて言うに事欠いてそれか!」
アルファの態度に釈然としない焔也、目の前に結芽が居る事もありおおよその経緯を察する。
「まぁ、何となく俺がここに呼ばれた理由は察した。待ってろ今から研いでくる」
アルファの手にある3本を掻払い、ラボの刀工スペースに入っていく焔也。
3時間と40分の後、作業の工程を終えた焔也がとても釈然としない顔で出てくる。
「なぁ、持ち帰った俺が言うのもなんだけど……これ本当に御刀か?」
果たして彼の手にあった3本は錆を落とされ新品同様の輝きを放つ3振りとなった。
それが葱と大根と刃がチョコミントである事を除けばだが………。
「折れそう…」
「一応、ちゃんと斬れるよ?本当だよ?」
胡乱な目を2人から向けられるアルファが必死に身振り手振りで説明する。
「むぅ…取り敢えず使ってみるけど……都合よく荒魂か宇宙人がいるかな?」
と結芽が口にした途端アラートが鳴る。
オーダールームに揃う6人と結芽、場所は富士の樹海に近い。
「これは…転送せずとも、場所からして我々が動いた方が特祭隊よりも速く現場に着くか」
「お兄ちゃん!私も着いてって良い?」
場所の詳細を確認した戒将に結芽が手を挙げて懇願する。
「駄目だ」
「まぁまぁ、戒将君。そんなつれない事を言わないで、結芽ちゃんを連れてってあげなよ。大丈夫、この眼鏡とフード付きパーカーを持ってけばバレないバレない」
アルファが何処からか取り出した桃縁眼鏡と白いパーカーを結芽に着せて太鼓判を捺す。
尚も戒将は反対を主張したが焔也、撃鉄、龍悟、翼沙、果ては申一郎までが流石に籠りっぱなしは酷だろうと彼女の肩を持った為、渋々折れる事となる。
「分かった。但し、俺からあまり離れるな」
こうして念願の外出を果たす結芽。
ダグオン達と共に荒魂の出現場所に到着する。
「ふむ、この辺りの筈だが」
「どこかな?どこかな~?」
ターボカイと共に木々を縫って進む結芽、探す事10分、漸く見付けた数匹の荒魂。
「よし、お前はここに居ろ」
「待って、荒魂なら私がやるよ」
結芽が突然そんな事を言い出すので固まるカイ、何だとと口を開こうとして結芽がアルファから貰ったブローチを弄るとそこから取り出されるのは例の葱だ。
「な、何…だと…」
目が点になるカイ、そんな兄を尻目に飛び出す結芽、荒魂が彼女の存在に気付き迎撃しようとする。
結芽が葱を振るう目の前の2匹が真っ二つになる。
「ホントに斬れっちゃった……よし!」
ならばと試しに写シと迅移を使用する結芽、更に数匹の荒魂を刻んだ後、葱が限界を迎える。
「折れちった…じゃ、次!」
再びブローチを弄り大根を取り出す。
今度は大根で三段突きを披露する結芽、瞬く間に数匹葬る。
「葱と大根で荒魂が斬れるだと……!?」
カイの驚きは至極当然のモノである。
然る後大根が砕けた。
「次!」
最後に取り出したのはチョコミントで出来た刃の刀。
「俺は夢を視ているのか………」
右手で顔を覆うカイ、そしていつの間にか合流した5人。
「マジで使ってるらぁ…」
「ブッァハ!ナンだアレ?!チョコミントで出来た刃で斬ってらぁ!!」
「ちょっと待って下さい。結芽さんの足下に落ちてる折れた葱と砕けた大根からもあのチョコミント剣同様、御刀の反応があるんですが…」
「……葱と大根か……謎だな。チョコミントの方は納得いくが……」
「いや、チョコミントは納得すんのかい!おかしいじゃろ?!」
6人が見守る中、結芽はふざけているとしか思えない御刀で荒魂を殲滅し終えたのであった。
7人がダグベースに帰還して、結芽はアルファに例の3振りの調子を報告する。
「おねにーさん。ネギとダイコン、折れたよ?チョコミントはまだ使えるみたいだけど……正直、いいかなって…」
「お気に召さなかったかぁ…あ!葱と大根は後でプランターの方に埋めといて、また生えると思うから。チョコミントは冷凍庫で冷やしといてね」
結芽は思った。果たしてそれは本当に御刀なんだろうかと…。
結芽が望む刃は未だ遠い。
幕間でつぐみにちょっとした疑念を持たせたかったのです。
従姉とはいえエミリーは翼沙にとって割りと理不尽な天敵だったりします。
やはり姉には逆らえない。