ゆめアン回です。
やっと、やーーーーーーと、構想していた物の2つ目が出来たよ!!
はい、当初から結芽にライアンを持たせる事は予定しておりました。長かった……
そして、本編を書き始めた頃、シンデレラ百剣にて久能山の真恒が欲しいと書いたところなんと………同時期にイベントで活躍する熱田康継が出ました。
うん、いやまぁ嬉しいけど個人的には瓶底眼鏡っ娘で義属の貴重な薙払タイプのくのさんが欲しかったんですよ……熱田も西田ボイスで名古屋弁喋るから可愛いんですけどね。
前回の"刀使ノ指令ダグオン"
宇宙監獄エデンの囚人達が地球への侵攻を開始した。
世界の秩序を守護する管理者と宇宙警察機構がブレイブ星人の手により、スーパーパワーを与えられた選ばれた5人の高校生達。
そんな彼等に頼もしい6人目の仲間が加わった!
━━エデン監獄・地下
人工の光が瞬く大地の底で奇っ怪な音がそこかしこから聴こえて来る。
それは何かが悶える音だったり、苦しみ呻く音だったり、或いは歓喜に叫ぶ声であったり……。
「こんなかんじかなぁ~?」
「ええ、大分こなれて来たわねぇ。後は器の方が持てば完成かしらぁ?」
妖精と女医が何事かを為している。
周りに転がるのはザゴス星人だった残骸、そして結合が融けたノロ。
「ぐーる、ぐーる、ぐーるぐる……まぜてこねてたたいてのばしてばらしてくんで……かーんせーい!やった~♪」
「うふふ…遂に出来たわねぇ荒魂混成型ザゴスソルジャー。ノロは放って置いても自然と結合するけどぉ、ザゴス星人の方はクイーンのコンディションもあって中々上手くいかないからぁ大変だったわねぇ」
「でもかずがすくないね」
「そこはまぁ試作品ですもの…三匹程手元に残して、後は地球でどの程度使えるかの試験ねぇ」
妖精と女医が話す視線の先には十数匹の橙色とも朱色ともとれる輝きを仄暗く発するザゴス星人が培養液の中で蠢いている。
「たのしくなるといいな!」
そのあまりに無邪気な声が場違い感を加速させる。
驚異は容易く増殖して行く。
━━京都・綾小路武芸学舎
早朝の露が薄れる時分、門前に立つ刀使が1人。
「久し振りの我が学び舎!ってやつですね」
定期的に行われる各学校と本部間での人員の移動。
とは言え刀使はまた直ぐにでも各地へ派遣されるので、精々が学長への報告と家族への顔見せ等を兼ねた小休止といった所か…。
そんな理由から綾小路へ帰還した山城由依が大きく伸びをして長時間の移動で固まった凝りを解す。
「さぁて、久々のホーム……我が校の美少女達と触れ合うとしましょうか!」
指をワキワキさせながら涎を垂らして瞳を輝かせるその姿はどう優しく見積もっても"へんたいふしんしゃさん"である。
そんな欲望にまみれた顔で門を潜ろうとした瞬間、眼前に竹刀が現れ道を遮る。
「な、何ですか?!」
「む…?うちの生徒だったのか。あまりの邪な怪しい気配を感じ剣を向けてしまった、済まない」
竹刀の元を辿れば立っていたのは綾小路の男子制服をキッチリと着た青年。
「いえ!大丈夫です!えっと…あなたは?」
「君は中等部の生徒か、私は燕戒将。高等部の人間で風紀委員長をしている」
青年──戒将が名乗った瞬間、由依の顔が青くなる。
「これはご丁寧にどうも。あた…わたしは中等部の山城由依と言い…ま…す(って!?燕?!?!親衛隊の燕結芽さんの関係者?!それに風紀委員長!!?もしかして、綾小路の鬼の風紀委員の?!)」
由依が名乗り返そうとして、戒将の綾小路中に轟く噂を思い出す。
「?どうした山城くん?どこか気分でも悪いのか?」
「いえいえいえいえいえいえ!!何でも無いです!誓って無いです!断じて無いです!お気遣いなく!!」
噂に聞く彼の恐ろしさに震え上がり、必死に首を振る由依。
「ででででわ!あたしは学長に報告がありますので!!」
正に脱兎の如く校舎へ消えていく由依。戒将はその背中を見送った後、門を閉め始める。
「ふむ、忙しない娘であったな。登校する生徒の影は無し、時間帯としても刻限。これ意向の登校は遅刻と見なし記録する!」
周囲に誰1人居なくとも銘々に宣言する戒将、職務に真摯な彼であった。
綾小路武芸学舎の学長室、そこで由依は学長相楽結月に近況を報告する。
「ご苦労だった、短い間だろうが英気を養ってくれ」
「了解です!では!」
結月からの労いを受け立ち去ろうとする由依、が結月が待ったを掛ける。
「少し待て。山城由依ついでと言っては何だが、これを高等部警邏科の燕戒将に渡して貰えるか」
そう言って彼女が机の引出しから取り出したのは辞令と書かれた封筒。
由依が首を傾げつつ受け取ると、結月がその表情から察したのか説明をしてくれる。
「どうにも今の私では彼に直接これを渡すのは憚られる。使い走りにして済まないが、代わりに渡しておいてくれないだろうか?」
怜悧な瞳が僅かに揺れる。学長からの珍しい頼み事に惚けながらも引き受けた由依。
そして学長室から出た途端、どう渡した物かと悩み始めるのであった。
斯くして学長からの使命を帯びて休み時間に高等部の教室棟にやって来た由依、しかし着いて早々彼女は他の事に目移りしてしまう。
「ひゃ~!キレイなお姉さま達がいっぱいっ!ここは天国ですか?!」
一応男子生徒も居るのだが、今の彼女の眼には年上のお姉さま方しか映らない様である。
「あら中等部の子がいるわ」
「見たところ刀使科の生徒ですね」
「誰かに用でもあるのかな?」
等々周りから声が挙がる。そんな中で由依を認め声を掛ける刀使が1人……。
「ねぇ貴女、もしかして山城由依さん?」
綾小路武芸学舎高等部3年、浦賀奈緒である。
「はい!そうです!よけろしければ手を握っても…出来る事ならハグの方が……ああっ!でもこうして向き合ってお話しするのも捨てがたい!」
「ええっと…大丈夫?何か用があって来たんじゃないの?」
欲望駄々漏れの由依に困惑こそすれ嫌な顔1つしないのは小隊を任される程の実力故か。
「はっ!そうでした、学長から高等部の燕先輩に渡す物を預かって来たんです!」
奈緒からの声で一応本来の目的を思い出した由依がそれを告げる。
「高等部の燕……ああ、戒将くんね。二年生の教室はここの一つ下ね」
「なんと!?あの貫禄でまだ二年生だったとは……」
奈緒から件の人物の居場所を聞き驚く由依、噂こそ有名であったが男性の方は特に興味が無かった為、学年を勘違いしていたのだ。
「まぁ彼の雰囲気からして、そう思われても仕方無いかも…良ければ案内しましょうか?」
「是非!お願いします!!」
こんな美人にエスコートされるなら本望と言わんばかりの顔である。
そして階を降り、2年の教室へ。
「さて…この時間なら彼の性格からして教室に居ると思うけど……いたいた」
等と奈緒が中間の教室辺りを覗き込むと黙々と次の授業の準備をしつつ、自習の為にノートを開く彼の姿を見付ける。
「おーい!戒将くーん!燕戒将くーん!中等部の子が呼んでるよ~!」
奈緒の呼掛けに気付き即座に姿勢正しく席を立ち、教室の扉へと近付いて来る戒将。
「浦賀先輩、出来ればもう少し声を抑えて頂けると助かります。それで…用向きのある中等部生とは………おや?君は今朝の」
「あはは…どうも、山城由依です。今朝ぶりです、実は先輩にですね学長からお手紙を預かっていまして…」
恐る恐る両手で辞令の封筒を取り出し差し出す由依。
奈緒は苦笑し戒将はそれを折り目正しく受け取る。
「態々済まない。感謝する…………本部の警邏実習?今更?……(もしや翼沙か?申一郎が働きかけたとは思えん、しかし翼沙にしても理由をでっち上げるには些か無理がある)…むぅ」
封筒から書類を取り出し難しい顔をし始めた戒将に由依は手持ち無沙汰になり、奈緒は後輩の珍しい顔に意外な顔をする。
「あら?良いことじゃない?戒将くんってば真面目で優秀なんだし本部に招集が掛かるのもおかしくは無いと思うけど?」
「しかしそれだけならば他にも候補が居たでしょう。自分である理由が俺には解りません。以前は結芽の事もあっての本部務めでしたが……」
そう口にする戒将の言葉を聞いた瞬間、奈緒が地雷を踏んだかと言う顔になる。
「あ……ごめんなさい。失言だったかしら」
「いえ、先輩が気にする事では……ともあれ事情は理解しました。山城くん、学長には了解したと伝えてくれ。無論、直ぐとは言わないが」
「は、はい、承りました!この身に賭けて伝えます」
ビシッという音が聴こえるくらい敬礼をする由依に戒将は困った顔をする。
「…………そんなに恐ろしい顔をしているのだろうか…?」
「戒将くんはいっつも眉間が寄ってて真面目だから誤解され易いんだよ?」
「そういう物ですか…」
先輩女子からのからかい気味の言葉に些か拗ねた様な声で応える戒将。
由依は敬礼したまま器用に後ろ向きに去って行った。
━━ダグベース
「そう言う訳で、明後日から鎌倉の本部に改めて出向の身となった。宜しく頼む」
メインオーダールームの中央卓で切り出す戒将に残りのメンバーも各々に反応する。
「おお!ってことは名実共に俺達ダグオンが勢ぞろいすんのか!」
「ハーン…それってヨ、ガクチョーからの推薦か?」
「いや、真庭本部長からの嘆願との事だ」
「本部長から……一体どういった趣きなのでしょう?」
「……どちらにしても、俺たちが一ヶ所に集まるのはそう都合の悪い事でも無いだろう」
「確かにな、頻度にもよるが…一纏めで集まれるのは有難い」
と、兄の話を黙って聞いていた結芽が撃鉄の行動に疑問を挟む。
「ところで撃鉄おにーさんは何をやってるの?」
「なんでも…例の宇宙呪術師との戦いで使い物にならなくなったお守りの中からまだご利益がありそうなお守りを見付ける作業だそうです」
翼沙の言う通り、学ランやシャツ、ズボンのポケットや縫い付けた内側からボロボロの御守や護符を取り出している撃鉄。
「うーむ、これもダメ。こっちもダメ……ぬぅ!?金運上昇の仏も錆びておる!!くぅぅう、もったいないのぅ……」
一体いくつ仕込んでいたのかと言うくらい大量に出てくる御守やらに皆呆れている。
「ふへぇ…こんなにあったら確かに"本物"が混じっててもおかしくないね」
アルファですらそんな事を宣うのであった。そしてそんなアルファが思い出したかのようにあ、そうだ!と口にする。
「前回の件含めダグテクターの機能を強化するからみんなダグコマンダーを貸して──」
等と口にしようとした所で爆撃の音と震動がダグベースに伝わる。
「な、何だぁ?!」
焔也が椅子からずり落ちながら思わず叫ぶ。
「待って下さい……映像出ます!」
翼沙がコンソールを操作して音と震動の発生源を特定する。
「これは…空母か?!」
「……艦載機ではなくミサイルを撃ち出すとは、地球のモノじゃ無いな」
戒将と龍悟が発生源を見て敵だと断定する。
「ヤロウ、どっから現れやがった?」
「衛星の監視網に反応はありませんでした。恐らくは海中からかと」
「それより被害はどうなっておるんじゃ?!」
撃鉄が空母が発射したミサイルの被害を気に止める。
「どうやらかなり広い範囲で出ていますね……って、これはっ?!!?!」
翼沙が詳細を調べていると何かに気付き声を挙げる。
「どうした?!」
「撃ち込まれたミサイルらしき物体から謎の人型機械とザゴス星人の軍団が日本のみならずアメリカ、中国、ロシア、オーストラリアに出ています!」
「…遂に他の国にも直接的に攻めてきた……。そういう事か…?」
「だったら大人しくしてる場合じゃねぇ!おいアルファ、
「焔也の言う通りだな。出動だ!各員別れて敵に対処する。焔也はアメリカ、俺は中国、翼沙がロシア、オーストラリアは申一郎。日本に現れた連中は龍悟、撃鉄頼めるか?」
「しゃっ!」 「はい!」 「アイヨ!」 「…承知した」 「任せろ!」
即座に出動する6人、結芽も出ようと後に続くが…。
「結芽、お前は待機だ」
「どうして!?もう私も戦えるよ!」
「以前の外出を許したのは、相手が荒魂であった事と、ストレスを考慮しての物だ。今回はそうはいかん、我々がバラバラに行動する以上、フォロー出来ない可能性が高い……聞き分けてくれ」
真剣にお願いされでもと開きかけた言葉を呑み込む結芽、それを素直に聞き分けてくれたと取った戒将は改めて現地に出撃した。
皆が出撃し暇を持て余し気味の結芽は不貞腐れながらオーダールームに居座る。
「仕方無いよ、ぶっちゃけザゴス星人だけなら未だしも……あの機械の兵士、多分元はエデンに配備されてたガードロイドの一種だね。大分改造されてるけど……戒将君的にはさ、結芽ちゃんが大事だから心配なんだよ、そこに君の強さは関係無く、ね」
アルファが目一杯フォローしている、結芽自身も兄の気持ちを理解はしているがやはり納得はいかない。
「でも……折角病気も治って身体も平気なんだよ?おっきいのはムリでも人間サイズなら私だって…御刀も
"あんなの"とは結芽が以前、アルファに頼み込んだ際、焔也協力の元再生した赤羽刀の3振りである。
見た目はとても……いや大分個性的だが、一応御刀としての機能が存在しているのだ。
「うん…あんなの呼ばわりがちょっとショックだけど……うん、いやわかるけどさぁ…」
思わず釈然としない顔となるアルファ、そんな2人きりの空間にブレイブ星人が現れ風雲無休の事態を告げる。
<管理者よ、緊急事態だ。勇者達が対処している場所とは別に敵が現れた>
「えっ?!場所は!!?」
<小笠原諸島の一つと思われる>
「アメリカに焔也君、中国に戒将君、オーストラリアに申一郎君、ロシアの翼沙君、九州に龍悟君、東北に撃鉄君。関東と関西は刀使の子達と機動隊、自衛隊が対処してて手が放せない……って言うか数おおくないかな?!まだあんなにいたの?!!」
ザゴス星人の多さに目を剥くアルファ、しかしブレイブ星人は首を振り……。
<どうやら例の漆黒の新幹線によって新たに補充された様だ>
「またあの黒い新幹線!?何でレーダーに映んないんだよ?!!折角シャトルの繋留地点として棄てられた衛星を改造してまで作ったのに!!」
アルファの言う衛星とはデブリと化していたモノを寄せ集め改造し、世界各国の衛星と勝手にリンクし地球外から襲来する敵を早期発見する為の物である。
<どうする?その漆黒の新幹線は其々、中国、ロシア、オーストラリアに現れているが?>
「うそん、三輌とか聞いて無い!焔也君は?!それか龍悟君か撃鉄君!?」
<アメリカにも正体不明の敵が現れている。シャドーリュウ、ドリルゲキには改造ガードロイドを中心に足止めがされている様だ>
八方塞がりな状況にアルファは慌てふためく。
「まだ最後の一人も見付けてないのに!?!あぁぁあ?!どうしよう!!?」
「私が行く!」
そんな状況で結芽は声を挙げアルファとブレイブ星人を見る。
しかしアルファは眼をパチクリとさせて勢い激しく首を横に振る。
「いや…いやいや!え?いやいや、だって…無茶だよ!?敵の規模は他に比べて少ないとは言え、ガードロイドもいる。結芽ちゃんだけじゃ…」
「みんなは動けないんでしょ?!なら私しか残って無いじゃん!」
<燕結芽。敵は君が思う程容易い相手では無い、もし功名心で口にしているのであれば出撃は推奨出来ない>
ブレイブ星人も諫める言葉を口にするが結芽は折れない。
「確かに…私が一人で悪い宇宙人をやっつけたらスゴいって褒めて貰えるかもって思う事はあるけど……違うよ。私もみんなと一緒で地球を守る為に戦いたい!お兄ちゃん達が足止めされてるなら、他に方法はないよね?!」
「で…でも……」
<…………。了解した、燕結芽。君を臨時隊員として任命する、共に地球を守ってくれるか?>
「うん!」
言い淀むアルファに対し、ブレイブ星人は暫し黙考した後、結芽を臨時の隊員を任命した。
ブレイブ星人からの言葉にパッと顔を輝かせ、力強く返事をする結芽。
「ちょっ?!ブレイブ星人?!」
これに驚いたのはアルファだ、しかしブレイブ星人は意に留めず話を進める。
<転送座標は此方で設定しておこう、君は装備を整え装置内で待機していてくれ>
「了解!…えへへ、ありがとうブレイブ星人のおじさん!」
<ああ>
ブレイブ星人に礼を述べ走り去る結芽。後に残ったアルファはとんでもなく情けない顔でブレイブ星人を見やる。
「ちょっとちょっと!勝手に決めちゃって、まずいよ!!」
<責任は私が取る。燕戒将への謝罪も私だけがしよう。だが、地球という星を守れるのはやはり其処に住まう者達なのだ>
そう言い残し消えるブレイブ星人、恐らくは結芽の為に装置の制御に向かったのだろう。
「言わんとする事は分かるけど……大丈夫かな…」
一抹の不安を覚えるアルファであった。
━━小笠原諸島の某島
東京の一部として扱われるこの島で人類の脅威が縦横無尽と暴れ回る。
無慈悲に冷酷に冷淡に……、其処に住まう人々の命など何とも思わずに殺す。
潰して殺す、刺して殺す、撃って殺す、引き千切って殺す、捩り切って殺す、溶かして殺す。
人が雑草を踏む様に、或いは道端の小石を何と無しに蹴り付ける様に、子供が無邪気に蟻等の小さな虫を潰すように、彼等は人を殺す。
いや…彼等にはそんな感情すらあるのか怪しい。何せロボットだ、機械生命体では無く…完全に人口物として作られたロボット。
本来の目的用途からは完全に逸脱したそれが逃げ惑う人々を老若男女構わず殺す。
そしてそんな光景を後ろから眺める橙色に発光する躰のザゴス星人達、それを更に離れた場所から監視している大型の2輪車跨がるライダースーツの人物。
「経過は順調ってところか、ウン。荒魂の怒りに委せて暴れてる様子も無い、知能もウチで働かせてるソルジャーより高い、これはもう成功なんじゃないかな?ウン。いい加減お宝探しに移行したいし今回の結果次第で前線基地は連中に任せて、オイラとグシアノースはこの地球に在るって言うお宝を探したいね。ウン」
ライダースーツの人物…と言うよりはバイクの方だが、状況を確認しながらそんな事を呟くアスクラ、退屈そうに監視を続けながらこの星に眠るとされるお宝の存在に思いを馳せる。
「ま、ぶっちゃけ嘘か本当か怪しいとこだけど、船長が乗り気だし…副船長は死に場所求めてるようなもんだし、他のメンバーもそろそろスキャンするモノが決まってるだろうし本格的に探したいね。ウン……ウン?」
おおよそが死体の街と化したその場所に現れたる白いフードを被った小柄な人間、その普通とは違う気配にアスクラは眼を見張る。
「へぇ…ダグオンの仲間か?でも見た感じ刀使っぽい……ウン。取り敢えずはお手並み拝見」
半ば屍山血河と化した街に降り立った結芽はその光景に嫌悪を覚えつつも目の前の敵を見定め、武器を構える。
葱……と言っても御刀だが、それを構え迅移にてガードロイドが此方を認識するよりも早く懐へ入り切断する。
以前の使用感から焔也とアルファにリクエストして少なくとも見た目を他者からは刀に見える様にして貰った葱、そして大根。
焔也によりコーティングされ鈍色になった葱を振るいながら結芽は戦況を見立てる。
(ロボットが多い……、後ろで集まってるのはアリの宇宙人のヤツ?でもなんか変……とにかくこれ以上は好きにさせない!)
20もの改造ガードロイドを屠り敵の注目を集める事に成功する結芽、そのまま人里から連中を遠ざけようと付かず離れずを繰返し挑発する。
「前より頑丈になってる、焔也おにーさん意外とスゴい?」
50を越えた辺りでコーティングが剥がれ落ち、元の色が見てとれる葱型の御刀。
ザゴス星人がそのふざけた得物に憤慨する。
「あはは!怒った?でもこんなのにやられる程弱いのがいけないんだよ?」
それを笑って挑発する結芽、ノロをその身に宿したザゴス星人の1体が向かって来る。
「…っ!ちょっとはやるじゃん」
葱を折られ跳び退る結芽、折れたそれを仕舞い(棄てるとアルファが泣きながら怒る為)次なる得物として大根を取り出す。
「こーんなのもあるんだけど?」
そしてこれ見よがしに見せる事により更に敵を挑発する。ザゴス星人達も少なくともそれが本来は武器では無く人間の食材である事は理解しているらしく、そんな物に斬られるガードロイド達の情けなさに怒りを覚える。
「ニンゲンめ…生意気ニモ我々に歯向かうノカ!」
「わっ…?!喋った!!いつもギィとかしか鳴かないのに」
言いつつ葱を折った荒魂ザゴスを大根で斬り伏せ、周囲のガードロイドも行動不能にする。
流石に実力の高さを察したか、今度は徒党を組んで襲いかかる荒魂ザゴスとガードロイド達、結芽は自身を囲む敵と自身が持つ御刀の耐久性を加味し体術主体の体捌きと戦術を採ることにする。
「やっ!(ダイコンもそろそろ限界かなぁ、後はチョコミントだけど……焔也おにーさんと龍悟おにーさんからパルクールとか習っておいて良かった。ネギもだけど使えなくなった瞬間だけ写シも八幡力も切れるから、力負けしちゃうんだよね…)」
僅かな間に思考を纏め敵陣を掻き乱す、荒魂ザゴスが2体ガードロイドを盾にしながら連係して結芽に爪を振り下ろす。
「斬られちゃった…、もう!予定より早いけどっ!!」
キレイに斬られた大根の残った側をブローチにしまい、最後の1振りを取り出し構える。
小笠原諸島の1つに上陸した計100余りのザゴス、ガードロイドの集団は僅か1人の少女の手により既に半数まで数を減らしていた──
そして小笠原の上空を自らの内から発する声に従い飛行している獅子の意匠持つ黄金の剣。
『胸騒ぎか虫の報せか……我が内より響く声に導かれこの地へ来たが……む?』
それに気付いたのは必然か、とある島に眼を向ければ、白い衣を纏った少女らしき人影が度々邪魔立てする異星人と刃を交えているではないか。
『……あれは刀使か?それにしては随分と妙…と言うか杜撰な得物を使っている、あれでは折角の腕も宝の持ち腐れではないか…』
少女が手に持つ刃はお世辞にもマトモとは言い難い緑色に茶黒っぽい斑点が付いたふざけた刀であった。
そうして辺りを改めて見渡せば夥しい数の破片と異星人の死骸。
『あれは…全てあの少女が倒したのか!?何という……む、あれは荒魂だと?!異星人が…またしてもその身に荒魂を宿している……いかん!!?』
黄金の剣──ライアンがノロを宿したザゴス星人に気付き、そしてその荒魂ザゴスが倒れた仲間から流れるノロに触れ何事かを行うとノロが結合し荒魂が生まれる。
『少女の得物も限界が近い……ふっ、ダグオンめ…私にも一端の守護者としての矜持がある!』
少女の獅子奮迅の戦いに感心しながらも、彼女が振るう得物の限界、敵の悪辣な手段を目撃し自らの心に従う。
黄金の剣が少女に向け舞い降りる。
──いくつ敵を倒しただろうか、正直疲れが出てきた。
しかし退く訳にはいかない、1人で出来ると豪語した。自分はダグオンの臨時隊員に任命された。弱者に見向きもしなかった己でも兄達が成そうとする正義は理解出来る。
無力な守るべき者と立ち塞がる弱者の違い、それを理解した今、これ以上異星人の好きにさせる事は許されない。
そう思いながらも刀を振るうが刀身に限界が来る、中腹からチョコミントの刃が折れる。
「折れちゃったかぁ…」
よく見ると少し溶けている。恐らくは周囲の気温差などもあり折れたのだろう。
(そんなとこまでアイスじゃなくても良いのに…)
幸いなのは刀身が折れても写シが継続出来ている事、ならば迅移、八幡力も問題は無い。
しかし決め手が無くなった。
(ヤバい…かも……)
流石に折れた得物でやり合うのは分が悪い。どうしたものかと嫌な汗がしたり落ちる中、空から舞い降りる黄金の剣。
「え?」
「ギッ!?」
これには結芽も荒魂ザゴスも驚愕する。
『少女よ、私を使え。敵に荒魂が居るのであれば私としても戦うのは吝かでは無い。しかし、人と同等の大きさの者を相手にするのは私だけでは厳しい。故に少女よ私に力を貸してくれ、代わりに私が君の刃となろう』
突如空より現れた剣に目を白黒させる結芽、一拍の後に剣の言葉を理解し口端に笑みを浮かべる。
無論、敵方もむざむざ結芽に力を与えよう等とはさせない、だがしかし、元親衛隊は伊達では無い。
体格の差を生かし、身を屈め後ろから飛び掛かる荒魂ザゴスを躱し、倒れ込む勢いでライアンが刺さる地点に駆ける。
対岸の荒魂ザゴス達が対処するよりも結芽がライアンをその手に掴むのが早い。
柄を握り、その力の凄まじさを瞬時に理解する。
そのまま前に進む勢いを梃子にして剣を振るう。
目の前の荒魂ザゴスは簡単に真っ二つに斬られ倒れ臥した。
「スゴい…なんだかすっごく力が湧いてくる。それにニッカリ青江と同じくらいしっくりくる!」
獅子剣を振るいながらガードロイドもザゴスも荒魂ザゴスも斬り伏せる。
『ほう…私の眼に狂いは無かった様だな、少女よ名は?』
「結芽。燕結芽だよ、よろしくね剣のおじさん」
『おじさんでは無い。我が名はライアン。結芽よ然らば存分に私を振るうと良い!』
「そのつもり!」
残る数匹程度の荒魂ザゴスと荒魂を前に1人と1振りは余裕を以て軽口を叩く。
剣は出逢った、己の力を十全に発揮する使い手に
少女は出会った、力持つ喋る剣に
2人の邂逅は必然であった。
穢れし業を黄金の剣にて燕が断ち斬る。
続く
次回予告(BGM:transformation verシャドーリュウ)
ゼータちゃんきか~ん!
やっと帰ってきたな……。
シーちゃんおこなの?
いや…なんかもう私も貴様に怒るのが馬鹿馬鹿しくなってきたところだ……。
そして空気を読まずに予告するのは儂、イプシロン。
次回は遂にダグシャドーが登場するの。
闇に潜みし紫の影!竜の翼を獲たるが如し!
次回、"刀使ノ指令ダグオン"
幻影!ダグシャドー!!!!
でるでるは相変わらず難しい言い回しにこだわるね!
さて次回はダグシャドー回、これを書き終えたらちょっと時間をとある事に使うので少し間が空く可能性がなきにしもあらずでございます。
まぁ幕間くらいは直ぐに書けるかもしれませんが
ともあれ次回、またお会いしましょう!