やはり俺のボーダーでの短編集は間違っていない。   作:ハーマィア

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——女、何を以って彼の者に近づく。

——自らの知(恥)欲のために。

——女の求める者は至高か。

——彼以外にあり得ません。

——何の権利がある。

——恋人ですから。

——其は、何者なるか。

——童喰い(ショタコン)です。




一部屋共同生活 後編

 添い寝、或いは同衾。

 

 後者は性的な意味を持つことの方が多く、彼らが只今楽しんでいる(?)行為については添い寝の方が正しい表現ではあるのだが、この二人の間に男女的——主に恋愛という意味で——な関係が全く無いのだとすれば、それもまた間違った表現である。

 

「八幡」

 

 指を伸ばせば簡単に触れる、僅か数センチの距離。彼らの間に有る空気は、障害たり得ない。

 

 指の関節二つ分にも満たないその距離において、那須玲は自分に背を向けて寝ている少年に声をかけた。

 

「……」

 

「寝てるの?」

 

「……なんだよ」

 

 再度の問いかけに、間を置いて応えが返ってきた。

 

 少年の話す拗ねたようなトゲのある声に、何故か玲は嬉しさを感じながら、自分と少年の間に空いていた隙間を無かったことにした。

 

「……っ!? おま、ブラ……!?」

 

 玲の行動に、少年の顔色や反応はわかりやすい。

 

「ぶら? 一体何のことかしら。たとえば、八幡が今朝着替えさせてくれなかったせいで、私が何か(・・・・)身に付け(・・・・)忘れている(・・・・・)物がある(・・・・)としたら、それは着替えさせてくれなかった八幡のせいよね」

 

「てめぇ……っ!?」

 

 ふにゅん、とパジャマの下は肌シャツ一枚の少年に対し、玲は何故か、柔らかく触れる。

 

 何か大切なものをつけていない。

 

 少年の抱いた疑惑は確信に変わった。

 

 少年の背と大きくはないがしっかりと膨らんでいる玲の胸でくにゅくにゅと擦れるその感触は、布越しでも十二分に伝わってしまう。

 

「おまえ、また、なにして、……ふえ……っ!?」

 

 ただ密着するだけでは少年が押し出されてしまう。

 

 特にこの少年は恥ずかしがり屋なので、玲が少年の脇の下から腕を回し、抱きしめてやる必要があった。

 

「——もんだい」

 

 少年の耳元で、玲は蜂蜜のように甘く蕩ける声を出した。

 

 少年の耳が、わかりやすく朱に染まる。

 

「わたしは、何を忘れたのでしょう……?」

 

 より密着して、玲は少年のうなじを舐めた。

 

「ん……ろっ」

 

「!???!?!!? ちょっ、おまえ……!」

 

 わかりやすく取り乱した少年は、玲を押し除けようとして——更なる罠に突き落とされる。

 

「いいかげんに……にッ!?」

 

「ぅひぅ!? ……ふ、ふふふ……」

 

 玲の体がびくん、と跳ねて少年の胴に回している腕が一瞬強張る。その原因は少年が玲に向けた腕だ。強く目を瞑り、狙いなど定めずに突き出したものだから、少年の指先は玲の体のある箇所を掠めていた。

 

「……ヒント。忘れものは、ひとつではありません——」

 

「……あっ、…………あ、あぅあ、あ゛、うあ、あ゛あ〜〜っ!??!??!?」

 

 玲の口から言葉として吐き出される艶かしさは、少年を絡めとる罪悪感と相まって、少年の声を、体を、心を、震わせていた。

 

 そして、痙攣のような少年の喘ぎ声は突如止む。

 

「……八幡?」

 

 玲はそう呟くと、動かなくなった少年の口に指を差し入れ、舌を指で挟み脈を確認する。

 

「…………やり過ぎた、かしらね。……んっ」

 

 指を少年の口から抜き取り、ちろりと舌を指に這わせる前に、玲は呟く。

 

 少年は。

 

 失神、していた。

 

 こうなってはやりたい放題だ。

 

 少年の服を剥こうが少子化対策を実践しようが、全ては玲の思いのまま。

 

「……ふふ。ありがとう、わたしの王子様」

 

 しかし、パジャマをめくって少年の腹部に這わせていた反対の手を玲は引き抜いた。

 

 未遂とか言ってはいけない。

 

 玲に抱かれてすやすやと眠る少年(・・)の体の向きを変え、わざわざ自分の方に向かせて、玲は改めて彼を抱きしめる。

 

 玲と少年の間には二倍近い身長差があり、絵面的にぬいぐるみを抱きしめているかのような格好なのだが、少年と玲は同い年だ。

 

 無意識ながらも無意識(・・・)に自分の胸に顔をうずめてくる少年に微笑ましさと仄かな眠気を感じながら、玲はつぶやいた。

 

「不便なものね。……生命力強化と……譲渡だったかしら。自分での調節が難しく、慌てたり、取り乱すだけで殆どの力がわたしに吸い取られてしまう——」

 

 

 ——サイドエフェクト。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サイドエフェクト。副作用。

 

 体内で生成される物質トリオンが人体に影響を及ぼした結果、ヒトの身体能力の延長線上に現れるモノがそれだ。

 

 五感が強化されることの他に嘘を見抜けたり、未来を予知したり、敵意を察知したりなど様々な能力を得ることがあるが、少年——比企谷八幡の場合は、それが彼の儚い命を繋ぐほど強力なものであった。

 

 彼にサイドエフェクトが備わっていなければ、今の彼の見た目であるおよそ九歳〜一〇歳程度の寿命で彼の人生は終わっていたらしい。

 

 彼の側にいる玲は、元々病弱体質というものを抱えており、小学生生活の殆どを自宅で過ごすなど、幼い頃から果てしなく病弱な体であった。

 

 だが八幡の場合、玲とは文字通り虚弱体質のケタが違う。

 

 空気中を漂う排気ガスや何かしらの雑菌を吸い込むだけで、気道や肺が炎症を起こす。

 

 走るだけで、骨にヒビが入る。

 

 笑うだけで内臓が痙攣を起こし、痛みのショックで気絶してしまう……など。

 

 生きる為には無菌室から一歩も出てはいけないほどに、彼は虚弱だった。

 

 しかし、それが発覚するのは彼が小学四年生の時のこと。

 

 つまり、少なくとも小学四年生までは、彼はただの健康優良児として生きていたのだ。

 

 彼の能力が発覚した時。それは、彼の容態が急激に悪化した時期であり、幼少期から既に病弱だった玲の体調が著しく快復した時期と重なっていた。

 

 ただ、八幡が自分の能力を知ることができたのは玲が居たからに間違いはなく、玲との出会いがなければ今頃も彼は自分の能力に気づくことはなかったかもしれない。

 

 元々家が隣同士だったこともあってか、那須家と比企谷家は子供達を除いて家族ぐるみの付き合いがあった。子供達は面識もなくあまり遊んだことは無かったが、ある時病弱でロクに外出することすら叶わなかった玲のおねだりで、旅行に行ってみようという話が持ち上がった。

 

 結局玲が出発直前に体調を崩してしまったことで計画は白紙化されたが、それが気に食わなかった、旅行を楽しみにしていた妹が悲しむ姿に我慢が出来なかった八幡が玲に食ってかかったのだ。

 

 胸ぐらを掴むような真似はしなかったものの、額を指で弾く程度の身体接触によって八幡の生命維持に使われていた生命エネルギーの大部分が玲へと譲渡され、玲の体調はすこぶるよくなった。

 

 それまでずっとベッドの上で過ごしてきていたのが、外で走り回ることすら可能になる程に、だ。

 

 学校にも通えるようになって玲は大喜びしたものだが、玲が学校に自分の足で通い始めたちょうどその日から、ほぼ全ての生命エネルギーを譲渡してしまった八幡は学校へは来なくなった。

 

 自分と入れ替わるようにして八幡が学校に来なくなった事を、偶然にも玲は知ることができた。

 

 だが、当時はトリオンについては研究どころか存在すら認知されていなかったし、せいぜい玲の病弱体質が感染るものだったのか、と思いかけたくらいだ。

 

 玲の体質は病気でないのだから感染する筈がない、と割りを入れるよりも、子供だった玲は彼女にとって初めてとなる学園生活を楽しむことの方に夢中になってしまっていて、八幡のことなど最早気にも止めることはなかった。

 

 それに、玲にとって期待した学園生活が予想以上に楽しいものだったことも、脳の片隅から八幡のことを追い出すのを手伝っていた。

 

 玲の容姿は控えめに言っても可愛かったし、本当は人に好かれやすい性格である玲を誰も拒むことはしなかった。

 

 誰もが好意的。誰もが協力的。

 

 ……だから、だろう。

 

 そのクラスの、元々八幡が座っていた机の中、引き出しに相当する部分に、落書きされたり千切られたりした彼の私物、ゴミなどが入っている事に気づきはしなかった。

 

 そのクラス一丸の穏やかな雰囲気が、たった一人、とある少年がそのクラスに在籍していることで成り立っていることを、幼き日の玲が知る由もない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん……? あ………?」

 

 何が。というわけではないが、寝ていた八幡の目は自然と開いた。

 

 窓の隙間、カーテンの隙間から顔を照らす光は、いつのまにか暖色が混じっている。

 

 昼寝がいつのまに長引いたのか、と八幡が思いかけたところで、ふと彼は身体に奇妙な違和感を覚えた。

 

 目覚ましに起こされる時とも、朝に気持ちよく起きる時とも違う。

 

 睡眠時間は足りていて、体の疲れは取れているのにどこか虚しい。

 

 何か変わっているのだろうか。

 

 そう思って、彼は身の回りのものを確認してみる。

 

 枕もベッドも、意識がなくなる前に見たものと同じだ。

 

 部屋だって、照明や机など、消耗品を除くものは五年は変えていない。

 

 それなのに、何かが違う気がする。

 

 具体的には腕にかかる圧迫感——

 

「…………くぅ」

 

 美少女が彼の左腕を自分の枕にして寝ていた。とても気持ち良さげに。

 

 とても静かな寝息だ。呼吸による体の動きも腕に伝わるものではなく、加えて起きてすぐには気付かなかったくらい、玲の体は重さを感じさせるなかった。

 

 同じベッドで寝ているのだから、そういうこともあるだろう。

 

 自分なんて、何度玲の胸をごにょごにょ——と八幡が過去の己の蛮行を羞恥していると、思考の途中で彼は答えに行き着く。

 

 ……そうか。そういえば自分は、玲にチカラを吸われたんだったか。

 

 思えば、今日は月に一度と決められた「玲にチカラを渡す日」。

 

 幼い頃は自らの生命維持にチカラを使い切っていた八幡だが、時が経ち、体が成長するにつれて使い切っていたチカラが有り余るようになった。そのため、月に一度のペースで同じ家に住む玲に有り余ったチカラを生命力として渡しているのだ。

 

 ただ、能力の発動条件や他に何ができるのか、など、八幡は未だに自らの能力を制御し切れていない。但し、最近は適度な身体接触か適当な間隔で同じ場所にいることでそのエネルギーを安全に譲渡できることはわかっている。

 

 故にこうして、エネルギーが溜まりすぎた時に起こる八幡の身体の若返りが元に戻るまで、玲が八幡の側にいることでエネルギーの発散を効率化するために添い寝をしているのだ。

 

 彼女が健康でいるため、玲と八幡との間で交わされた約束を守るために、月に一度玲の部屋で行われる神聖な筈の儀式。

 

 目的は玲が健康であるためでその他にはなく、恋人同士である彼と彼女の関係からすればその後がとんでもないことになりそうではあるが、一応二〇歳まではそういうことはしない、と約束の中で決めてある。

 

 なるほど、妙に気だるげなのはそのせいか、と自分で納得し、軽いのに強固な玲の腕力のせいで抜け出せないことだし、と自分を説得して彼も再び目を閉じる。

 

 次に起きるのは、一時間後か、二時間後か。

 

 ……この習慣を始めたばかりの頃はこの妙な気だるさを寝起きに感じる事なんて無かったけどなぁ、と既に蕩けかけている脳で八幡はそんなことを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 こんな日常を繰り返すことで慣れた彼は、いくつかのことを見落としている。

 

 

 

 自らの腕枕で幸せそうに眠る玲の肌が妙につやつやとしていたこと。

 

 感じた気怠さはチカラの譲渡とは無関係なところで起きていたこと。

 

 月に一度のこの日は決まって玲が下着を付け忘れること。

 

 

 

 ——気づくことはなかった。

 

 




主人公がショタでひどい目にあって泣き叫ぶも誰にも助けてもらえず絶望の淵に沈んでるところをヒロインに救ってもらって泣きながら×××されるオリジナルストーリーが描きたい。ギリギリR17くらいのやつを。

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