やはり俺のボーダーでの短編集は間違っていない。 作:ハーマィア
テーマはバレンタインにチョコを渡せなかった日浦ちゃんと罪悪感に包まれた八幡。
ダイパリメイクきたぁぉぁぁぁ!!
2、3話くらいを予定してます。4話になるかも。
バレンタイン。
金と陰謀に塗れた綺麗で素敵なイベントだが、生憎と俺には縁がないものだった。
昨日までは。
『比企谷先輩。とても美味しいチョコレートを用意したので、ぜひ那須隊の隊室に遊びに来てください! 待ってます!』
名前だけは知っていた、自分とはかけ離れた別の世界のイベント。最悪の体験で始まっていなければ、もう少し楽しめたのかもしれない。
……こんな手紙を受け取ったのは、2月13日——一昨日の事だ。
いや、この手紙を読んだのはつい先程なのだから、正確には手紙を受け取った時は今さっきだ。この手紙に気づいたのは、とも言うべきか。言い訳してる訳じゃないけど。
とにかく、俺はその手紙を読むことなく、バレンタインを過ごしてしまった、ということ。
…………日浦が何を目的としていたのかはともかく、朝早くから一日中那須隊室で待ってたのに、俺はそれに気づかず防衛任務に勤しんでいたという訳だ。
……手紙を送り合う習慣なんてなく、郵便ポストは普段からあまり見ない——なんて言い訳はいくらでもあるが、拒否をする訳でもなく、まず手紙を読まなかった俺が悪い。
ガチギレ状態の妹からこの健気な手紙を突きつけられるまで、家を追い出されるまで……俺は日浦が昨日の那須隊室で日が暮れても待ち続けていたことに、一切気付いてはいなかった。
——だから、じゃあ、ごめん、で済むものではないのは誰にだってわかる。そんな軽い言葉で済ませてたまるか。日浦の行動を踏みにじったんだぞ。
『……あ、比企谷先輩、その……昨日……』
……けれど俺は。
『……あー、その……なんだ、俺も悪気があった訳じゃ……』
ちらり、と向けた彼女の後ろ手に隠されている、綺麗にラッピングされた手のひらサイズの箱が見えたのだ。
『あっ……えっと、その』
その日の為に色々と練習して、積み重ねていたであろう日浦の大切なもの。
日浦の想いを潰してしまった——それを謝るために日浦を訪ねた筈なのに、出てくるのは自分を庇う言葉ばかり。
俺は彼女の気持ちを、好意を、行為を——2度も踏みにじってしまっていた。
『そう……ですよね、いきなり手紙だけ送りつけられて、ご迷惑……でしたよね。すみません、次からは気をつけます!』
『…………ああ』
次、と彼女は言った。そんな機会は俺にも日浦にもないとわかりきっているのに、俺は否定も肯定もできなかった。3度目を、俺は裏切ったのだ。
あと一ヶ月もせず、日浦はボーダーをやめる。
両親の決定で、三門市から離れた場所で暮らすことになるらしい。原因は言わずもがな、ボーダーという仕事の危険さだ。
緊急脱出装置がついているとはいえ、化け物と命のやりとりをするボーダーは命の危険度の高さでいえば、高所作業員とはまるで比べ物にならない。
それに加えて、先の大規模侵攻。
結果として民間人に被害が及ぶことはなかったが、ボーダーの隊員が攫われてしまったという事実が、追い討ちとなった。
これがボーダーという職の危険な環境を強調する形になり、事実として大規模侵攻直後はかなりの数の隊員がボーダーを辞めた。
ボーダーの人間ですらこうも簡単に……逃げ出すのだから、一般市民である日浦の両親が何を思うかなんて、容易に想像がつく。
あり得る選択肢を挙げてみる。
1・ボーダーだって人間が運営してる組織だ。完璧じゃないかもしれないが、彼らを信じて三門市に住み続けよう。
2・娘が攫われるかもしれない。逃げる。
1……は、まぁそう思う人は俺達を信じてくれている人なんだろう。
けど、補償があることを知ったうえでそれでも2を取る親の気持ちが
リスクに命をかけるべきじゃない。正しいのかはわからないが、逃げる事は間違ってはいない。
『良いか、クソガキ。生きることと勝つことは違う。死ぬことは負けることだ。勝っても死ぬことはあるし、負けたからといって死なないこともある。…………ええと、だから、…………勝っても負けてもどっちでも良いから、とりあえず死ぬな。
そんな事を抜かしておきながら、自分はあっさりとくたばった俺の元保護者。
小さい頃に攫われた近界で出会った不審者は、人生の終着駅を見つけたとかなんだと俺を守る為に黒トリガーになったくせに、肝心の俺には適合しなかった。
……敵さんに適合して、見事に起動してたところは血生臭い戦場だったにもかかわらず、思わず笑ったんだっけか。
——その後に黒トリガーの能力で自滅してそいつが死んだのは、笑えなかったが。
そんなろくでなしの言葉を思い出してみれば案外まともな事を言ってるものだ。
————?
——あれ? いやいや違う。こういう事を思い出したかったんじゃない。
日浦の両親がいかに間違っていないのかを説きたいんじゃなくて、俺が今どうするべきなのかを考えているんだ。
そう、だから——
『良いか、クソガキ。言いてえ事は言っておくべき時に言っておくことだ。もちろん言わない方が良かった場合もある。……この国がアフトクラトルに喧嘩ふっかけて死にかけてんの、俺の言葉のせいだけどな!』
『それじゃ、おっさんを差し出せば被害は収まるね。トリオン器官抜き取って死体は向こうに渡すから、そこのベッドに横になって』
『まてまてまて冗談だ! 嘘嘘嘘!』
——いやダメだ。解体新書みたいな内容の記憶ばかり思い出しても何も意味がない。
というか、今必要なのって誰かの意見じゃない。
それっぽく考えてみたところで、出てくるのは誰かの受け売りに過ぎない。
必要なのは、日浦が俺にしてくれたことに対するお返しだ。
…………謝る?
————、言葉が行動に追いつけるものか。それに、日浦が積み上げてきたものを軽く超えてしまうようなお返しでなければ返す意味がない。
だから、チョコを作ってお返し——とかいう訳でもない。それは仕返しだ。
日浦が、チョコを通して俺に渡したかったもの。
ボーダーでの残り少ない日々を丸々一つ潰してでも、やり遂げたかったこと。
バレンタインのあの日、熊谷も那須も志岐も、日浦を除いて那須隊の部屋には誰もいなかった。それどころか、小町が俺に結果を聞いてきて初めて俺が知ったように、周囲の人間に対するある程度の根回しはしていたらしい。
人避け……人に直接見られたら困る事。
自分の目的を周知できる……他人に迷惑がかからないこと。
反発した者がおらず、人避けに協力者さえいた……賛同されるもの。あるいは賞賛されるものか。
以上の点から推察するに……。
「…………俺の殺害、か?」
「お前バカだろ」
即答。身も蓋もない罵倒を添えて返事をくれやがったのは、ボーダーの中でも特に強者がひしめくA級の一位部隊、太刀川隊の出水。ナンバーツーしゅーたー。
「……弾バカにバカと言われた……」
結局、一人で考え続けたところで出る答えはなかった。
そこで、一番遊んでそうな見た目で恋愛事情に詳しそう(笑)な唯一の知り合いを訪ねたわけだ。
「誰が弾バカだ。バレンタインに自分の殺害計画に行きつく奴の方がよっぽどバカだろ」
呆れた様子の出水だが、いやお前俺をバカにすんなよ。
「いや……でも、割とありそうなんだよな……」
他人(この場合は日浦)を使ってでも、俺に手を下したい人とか。
だけど、そうするとあの人が俺が犯人だと特定したことに……。
「……心当たりがあんのかよ」
「……そばかす顔につけて髪をちょっと伸ばして顔も変えて声も寄せたトリオン体作って換装して、『にのみやさんっ! 私に逃げられてどんな気持ち?』て話すだけのショートムービーを二宮隊宛に匿名で送り付けた…………」
あらふしぎ。いずみんの顔色がどんどん青くなっていくわ。
「…………アレお前かよ」
大正解で。
「……なんでそんな事したんだ?」
「いや……二宮さん元気なかったから、元気付けようって事で……笑いを取った」
結果命を取られかけたけど。
今日まで俺が二宮さんと顔を合わせていない理由がそれである。
二宮隊オペレーター氷見亜季曰く、二宮さんは俺の送ったバレンタインプレゼント()を見てからというもの、出会ったボーダー隊員を滅する殺戮機械と化していたらしい。
氷見の話だと、最初に話を聞いた影浦さんに笑われたのでランク戦でボコボコにして、その勢いのまま対戦ルームにいた太刀川さんに「勝負に勝ったら教える」とか言われたらしく、勝ってボコボコにしたら何も知らなくて、近くにいた生駒さんとかA級番外部隊(強過ぎて部隊としてS級と同じ扱い)の雪ノ下さんとかをも巻き込んでボコボコにしたらしい。
今は落ち着いたらしいけど、一時期、二宮さんと目があったら即ランク戦みたいな殺伐とした雰囲気が個人ランク戦ブースに漂っていて、ランク戦の人気が閉店間際のスーパーくらいに落ちていたのだとか。
お陰で二宮さんが総合一位に返り咲いたとかなんとか聞いてるけど、それどころじゃねえ。
「ズレてるズレてる」
ごもっともで。
その後の二宮さんの犯人探しもマジやばかった。メールアドレスをアカウントごと消してなければ今頃見つかってたかもしんねえ……。
候補を絞るとか目星をつけるとかそのレベルじゃなく、もう手当たり次第って感じで訊きまくっていたらしく、玉狛や鈴鳴などの支部まで行って果てには迅さんの予知まで利用しようとしたらしい。
「自分をイジられてそこまで執着する事かとも思ったけど、二宮隊のスーツコスを天然でやるくらいだから、意外と鳩原先輩がおちょくられたのでキレてたりするのかもな」
「…………………………………………あ、……っす」
ところで、出水からの返事がない。屍か?
首を横に向けようとしたところで、ガチャコン、と音がした。
横にある自販機で飲み物を選んでいたようで、取り出し口から飲み物を取り、出水は俺の隣に腰を下ろした。
封を開けて、一服。
「つまり、お前が主犯というわけか」
主犯て。
「単独なので主犯格という表現は間違ってますね。企画から実行まで俺が全部やったんですよ。いや、編集が思ったより難しくて————」
…………。
あれ。
設定
日浦茜
B級那須隊のスナイパー。ボーダーに入りたての頃、ゲームとは違い人を撃つということに悩み始めていた時に八幡と出会った。
悩みを何となく打ち明けていくうちに、日浦ちゃんの心は自分の悩みに真剣に付き合ってくれる八幡に傾いていったという。
一日中健気に待っていたと書けば聞こえはいいが、その間八幡の事しか考えていなくて時間もいつの間にか経っていたという感じ。チョコは渡せなかったけど待っている間はずっと幸せだったらしく、「チョコを受け取れなかった事を八幡先輩が気まずそうにしてた」とその時のことを笑顔で話された那須隊の三人は正直ちょっと引いた。
比企谷八幡
S級ボーダー隊員。幼い頃にそのトリオン能力の高さから近界民に攫われる。攫われた先の国が別の国の侵攻によって滅亡する際、指導役兼監視役として八幡に付けられていたとある男性が八幡を助ける為に黒トリガー化し、八幡はその手にした黒トリガーでこちらの世界にまで逃れてきた。初起動時は何故か黒トリガーと適合せず、起動しなかった。その後は問題なく使えている模様。
二宮隊
八幡の悪戯によって影浦パイセンにゲラ笑いされた。隊長の二宮が血眼になって犯人探しをしているが、用意周到に計画された犯行だったらしく犯人の手掛かりすら掴めていない。そんな中、A級部隊の間でその悪行が騒がれている八幡の噂を聞きつけ、彼らは八幡を訪ねることに。