やはり俺のボーダーでの短編集は間違っていない。   作:ハーマィア

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日浦さんは多分次で出てくる……。ていうか長い……。

 今回設定を重く見過ぎてる気がするから、次回からもっとバランスよくしなくちゃ……。


一度きりのバレンタイン③

 ボーダー本部基地作戦司令室。

 

 常日頃から近界民対策の為の緊張感に満ちているこの場所は、この時、大規模侵攻時よりも大きな緊張感に満ちていた。

 

 それは主に、この男のせいだ。

 

「出動可能な隊員全てに招集をかけろ! いいか、一刻も早く比企谷を基地内に連れ戻せ!」

 

 ボーダー技術開発室室長、鬼怒田本吉の怒号が作戦室内に響き渡る。彼の額には汗がたれ、拳は小刻みに震えていた。余程の恐怖が彼を襲っているらしく、その後に沢村響子が上げた報告に真っ先に振り向いたのも彼だった。

 

「現在、命令を受けてB級の二宮隊・A級の風間隊・嵐山隊・冬島隊・太刀川隊・草壁隊、番外部隊の雪ノ下隊・葉山隊の8隊が捜索に向かっています。加古隊・片桐隊を追加で向かわせますか?」

 

「うむ……いや、念のため片桐隊は比企谷の家で警戒にあたるよう伝えてくれ。加古隊も同様にだ」

 

「了解しました」

 

 指示を終えて、本吉は背もたれに背中を預ける。リラックスできる訳はないが、少しでも気休めになればそれでいい。

 

「き、鬼怒田開発室長……」

 

 水をあおった本吉に、ボーダーメディア対策室の根付栄蔵が額の汗をハンカチで拭いながら話しかけた。

 

「何ですかな、根付メディア対策室長」

 

「その……いくら黒トリガー使いとはいえ、ここまで大部隊を動かす必要があったのでしょうか? 特に、風間隊や太刀川隊、黒トリガーをゆうに超える戦力として位置付けされた番外部隊の葉山隊と雪ノ下隊を投入するなんて……」

 

 根付の疑問も尤もだ。それだけの大部隊が動いていると市民に知られれば、余計な緊張を呼び込んでしまうかもしれない。それは将来における遠征計画の妨げにもなり得る。メディア対策室長の根付が心配するのは、当然のこと。

 

 しかし、それを押してでも八幡を連れ戻さなければならない理由が本吉にはあった。

 

「彼奴が、唯の黒トリガー使いならそこまで必要はなかったでしょうな」

 

「……?」

 

 意味がわからない、といった体で根付は首を傾げた。彼の他にも、響子やオペレーターとして隊員達をサポートしているA級2位冬島隊の隊長、冬島慎次が説明を視線で求めていた。

 

 本吉は事情を知るボーダー本部総司令の城戸正宗と本部長の忍田真史と視線を交わし、短くため息をついた。なりふり構っている暇は無いらしい。

 

「……八幡の体には、普段使っているものとは別に近界民のトリガーがもう一本、埋め込まれているのですよ」

 

「!? ……そのもう一本が理由だと……? ……まさか、黒トリガー……?」

 

「……いや」

 

 余程口にしたくないことなのか、機密事項なのか。本吉は一旦口を閉じ、たっぷりと間を空けて、再び口を開いた。

 

 

 

「……未起動の、母トリガーだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、八幡を捜索中のA級部隊。住宅地や商店街に入り、まだ人が出歩く時間帯であるため、また隊服で探し回ることで市民に警戒させない為に、隊員達は私服姿のままトリオン体に換装し捜索にあたっていた。

 

「はあ!?」

 

 そんな中、ボーダー本部基地南東を捜索していた冬島隊の狙撃手当真勇が、素っ頓狂な声をあげた。

 

「「「?」」」

 

 それに振り返る、A級部隊の面々。捜索の網を広げるためにある程度の距離はあるが、常時通信を繋げてある。彼と共に行動しているのは嵐山隊と太刀川隊、葉山隊で、彼らは東側、他の部隊は西側を捜索していた。

 

『どうかしました? 当真先輩』

 

 嵐山隊の狙撃手、佐鳥賢が一番に当真に声をかけ、当真もそれに答える。

 

『……ハチは、所持している黒トリガーとは別に、体内に母トリガーを宿しているらしい。何かの弾みに母トリガーが起動したりでもしたら、良くて三門市が壊滅状態、悪くて地球滅亡だとさ』

 

『ちょ……え……は?』

 

 言葉に詰まる佐鳥。他の隊員達も同じように言葉が出ないらしい。

 

『……それは、比企谷も知っているのか?』

 

 西側を捜索している風間からの通信。

 

『知らない、らしいすよ。精神のショック……偏りがトリガー起動の原因となってもいけないそうなので、この事を本人に知らせるのはタブーだと』

 

『了解』

 

 それだけを言って、風間はマイクを切った。多分、死ぬ気で探し始めている。

 

『——こちらも了解した。各自全力で比企谷を探せ。ボーダー本部基地内にさえ入れば基地のトリガーが比企谷の母トリガーの覚醒を完全に抑えこむらしく、そこまで連れ戻せば任務完了だ。この件で特別ボーナスも出る』

 

『——いいか、各自ハチに返さなきゃいけないもんはてんこ盛りだ。つまらん死に方をするつもりもない。だから、俺たちは死ぬ気でハチを連れ戻す。いいか、全員気を抜くなよ!』

 

 元A級部隊の隊長である二宮に続いてA級1位、太刀川隊隊長の太刀川が、そう言って締めくくった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ、困ったぞ」

 

 比企谷八幡——俺は、A級部隊から見事逃げ切って颯爽とボーダー基地を後にしたものの、早速壁にぶち当たっていた。

 

「……日浦の家に行こうにも、そもそもアイツの家知らないしな……。クルマとかで行こうにも俺じゃ運転できないし。地図を大体知らん」

 

 しかも、よくよく考えてみれば現在は夜の21時。中学生が出歩く時間では明らかに無い。下手したら寝てる。

 

 どうしたもんかね。

 

 黒トリガー所有者であるという理由からこの世界に来てからずっと本部基地に住んでいる俺は、外泊というものをしたことがない。

 

 偶に比企谷家に林藤支部長運転のクルマで行くくらいだが、泊まるわけではなく、妹の小町に顔を見せるだけだ。

 

 本部内にある売店には欲しいものがほとんどあるし、通貨だって鬼怒田さんにもらったカードで支払うから使ったことがない。ネットで見たゲーム機とか本なんかは、専用の端末で購入すれば遅くても3日以内に俺の部屋に届く。不自由のない生活だ。

 

 これらの事からわかってもらえると思うが、俺は基本的に外では何もできない。

 

 鬼怒田さんからもらったカードもボーダー本部内でのみ使えるものらしいし、マジで何もできん。

 

 けど、出直そうにも今回無断で出てきちゃったから、基地に帰ったら帰ったで二度と外出れなくなるだろうし、どこかで一夜を明かす必要がある。

 

「どうしたもんかな……」

 

 カネ、は最悪誰かから貰えばいい。チンピラでも宿に一泊できるくらいの金は持ってんだろ。武器は位置がバレちゃうから使えないけど、トリオン体だからステゴロは生身相手だと余裕なはずだし。

 

 問題は、その使い方を俺が知らない事だな……。

 

 そういえば、どれが宿なのかもわからん。

 

 この外装だけは城みたいなのとか、派手な色の電飾で覆われたやつとかはその入り口に値段っぽいの書いてるけど、多分寝泊まりする場所じゃない。

 

 誰かの家に上がらせてもらう? ——いや無理、知ってるやつの家でも泊まるのは無理だ。

 

「……それに」

 

 よく考えなくても、目立つような行動は避けるべきだ。特に、今は仮にも追われてる身なのだし。

 

 トリガーを起動すればトリオン体だから、眠る必要は殆ど無い。そう考えれば、夜の間にできる事はまだあるだろう。

 

「警戒区域に戻るか……」

 

 あそこなら、捨てられた家々がごまんとある。所有権も放棄されていることだし、勝手に寝泊まりしても文句を言われる事はない。

 

 …………。

 

 その前に、日浦の家がどこにあるのか調べなきゃいけない。

 

 …………、……………………。

 

 あ、むりだ。

 

 地図も日浦の連絡先も何も知らない。

 

 唯一知っている場所といえば、警戒区域内から行く比企谷家くらいだが……。

 

「……小町に事情を説明すれば行けるか……?」

 

 俺の両親は既にこの世にいない。俺が拐われた時に殺されたらしいが、詳しい事は何もわかっていない。親戚の鬼怒田さんがやりくりして名義上は俺に引き継がれている比企谷の実家は、今は妹の小町が一人で住んでいる。

 

 偶に女性隊員が家に泊まりに来てくれるらしいので寂しい思いはしてないようだが、俺の居場所がないのは少し寂しい。

 

 ……って、そんな事はどうでもいい。

 

 小町は以前、日浦の家に泊まりに行った事があると言っていたし、日浦の家の場所を教えてくれるかもしれない。

 

 そうと決まれば、俺ん家にゴー、だ。

 

 基地の形から大体方角を予想して行くのが正解だろうな。家から見える基地の形は覚えているし、ポイントのマーキングは済ませてるから近くまで来れば黒トリガーの能力で簡単に中に入れる。

 

 ここで気をつけなくちゃいけないのは、おそらく俺を探し回っているであろうボーダー隊員達。

 

 特に、菊地原とか迅さんはサイドエフェクトが厄介で……あ。

 

 ……そういえば、今日迅さんに会ってない。……あの人のサイドエフェクト超厄介だから、先回りされたりしたら面倒くさいな……。

 

「……姿を見られなければ、大丈夫」

 

 カメレオントリガーにバッグワームの能力を合成(・・)して、起動。今はレーダーのみを無効化している状態だけど、姿を見られたりしたら終わりだから先に手を打っておく。

 

 ガンガントリオン減るけど……。

 

 黒トリガーだし、多少の出費なんてどうとでもなる。二の次だ。

 

 こうして、俺は万全の準備を施した上で、迅さん来ないでくれと祈りつつ比企谷家へと向かうことにした。

 

 ……小町に『茜ちゃんに謝って来るまで2度とくんじゃない!』と言われたことは、胸にしまって。




設定

母トリガー『ウェコン』
7、8年前にアフトクラトルによって滅亡させられた惑星国家の母トリガー。ウェコンの王族は滅亡の時に全て皆殺しにされ、所有していた黒トリガーも全て強奪されたが、当時その名が他の国にまでその名が知れ渡る程強く、黒トリガー顔負けの猛者と言われたウェコンの王属軍隊長とウェコンの母トリガーの行方がわかっておらず、今も近界のどこかでアフトクラトルへの復讐を胸に生き延びているとの噂がある。

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