やはり俺のボーダーでの短編集は間違っていない。 作:ハーマィア
クソ長くて申し訳ございません!
「……この辺り……」
ボーダー基地の形を頼りにして俺の家を探す事30分。
それらしき場所にまでやってきた……のだが、肝心の比企谷家が見当たらない。
「……なら」
見当たらないという事は、場所を間違えたということか……。
「……基地の反対側か」
そもそも俺の記憶が間違っているという可能性はある。
ボーダー基地西部は、俺と同じ黒トリガー使いの天羽が大規模侵攻(二回目)の時に更地にしたお陰でわかりやすくなってるし、そこじゃない事は確認してきた。
どうせあと二箇所。夜明けまで8時間。ゆっくりといかせてもらおうか——
「よう、比企谷」
——振り向いた先に、その男はいた。
トリオン体につける意味があるのかわからないサングラス、染めてるようには見えない茶髪、腰に刺したのは紛れもない黒トリガー……。
「っ!!?!?!?!!!?」
びっくりして家二軒分くらい飛びのいた。
なっ、……はぁ!? 何で迅さんがここにいるんだよ!!
「……迅……!」
あ、やべ。敬語敬語。
「……お前まで呼び捨てかよ。まぁ、いいけどさ」
「……さん……!」
「遅いよ」
そう言って、ニヒルな笑みを浮かべるのは実力派不審者迅悠一。ボーダーにおける最高戦力の一人で、未来を視る俺の天敵だ。
「……なんの用ですか」
この人と対峙したらもう、一切の油断ができない。確か一度は黒トリガーを手放してA級に戻った筈のこの人が、今再び黒トリガーを手にして俺の前にいるという事は、俺に対する牽制以外の何物でもない。
……ただ。
この人が出てきた事で『日浦に会う』という目的について、基地内で会うという選択肢が増えた。
この人には俺は絶対勝てない。じゃんけんに例えるなら、俺がパーで迅さんがチョキみたいなものだ。反則でもしない限り、勝てるわけがないからだ。
「言わなくたってわかるだろ?」
風刃を抜いた。……やる気か。
「ええ、まあ」
俺の方は、迅さんと遭遇した時から臨戦態勢だ。
この勝負、俺が迅さんから『逃げ切れるかどうか』で結果が変わる。
けど、有利不利は確定的。この人の前でまだ使った事ないけど、奥の手『分身』を使っても恐らくは本体を斬られる。
俺の本能も理性も降伏したほうがいいと説いている。
そうすれば、今無駄に敵対して一度たりとも会えなくなるよりは、格好はつかなくなるが日浦にちゃんとした言葉が——
『ず、ずび、ずびばぜん……わだしのっ、勘違い、でし、たっ……!』
…………! …………。
——。
————。
「…………」
格好はつかなくなる? 誰の?
会えなくなるよりは? 謝れてもいないのに何様だ。
ちゃんとした言葉? 自分の本心を何も話さないで、相手ばかりを気遣った音を言葉と呼べるのか。
それは、全て俺の保身に過ぎない。妥協して送られた言葉なんて、納得も満足も日浦にはきっとさせてやれない。
……ならば。
……それをまた繰り返して日浦に恥かかせてまで自分のとこに呼びつけるくらいなら。
「俺としては、このまま大人しく捕まってくれた方がいいんだけど……」
——プライドも建前も何もかも全部捨てて、自分から頭下げに行った方がマシなんだよなあ!!
————『起動』————
「……やっぱ、そう来るか」
もう、なりふり構ってはいられない。
覚悟を決めて、迅さんを睨む。
————『 』————
無謀でも無駄でも、とにかく風刃の残弾を超える数に分身すれば————あれ。
「……仕方な、…………オイ、比企谷?」
———— 『 』 ————
体が——フラつく。
———— 『』 ————
「ぁ————く、…………」
———— 』『 ————
……意識が、なんか、どろっと、眠——
……最後に聞いた声は、迅さんでも、俺の声でもなかった。
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☆
突然だが敢えて言おう、比企谷小町は寂しくなんかない。
広い一軒家に一人で暮らしている事もそうだし、両親がこの世にいない事も、だ。
両親は10年も前に他界し、当時5歳だった小町は親戚に引き取られて暮らす筈だった——が、彼女は5歳にして、既に自分が今置かれている状況を認めていた。
『小町! ——ぜったい戻ってくるからな、それまで父さんと母さんと家で待っててくれ!』
化け物に呑まれて消えた兄が残した言葉。その言葉を信じて、小町は自分達が暮らしていた家から動こうとはしなかった。
小町の強情さだけが彼女の行動を後押ししていた訳ではない。生まれた時から小町に宿っていた〝学習能力の異常な高さ〟——つまり、トリオン能力の高さから来るサイドエフェクトも、彼女の独り立ちを後押しした。
一度見たら完璧に覚えたり忘れたりできる完全記憶能力に加え、絶対に見間違えない空間認識力、4つ以上の並列思考力など、人間としての性能が大幅に強化された状態——僅か5歳にして成人と同じ精神力で生きていたから、一人でも生きて来れたのだ。
しかし、孤独が平気な彼女でも、友人と過ごす時間は堪らなく楽しいものだ。
22時30分。特殊な事情を抱えている為に、再会した兄とまた5年以上も離れて暮らしている彼女は、今日、突然家を訪ねてきてくれた友人達とホームパーティーを楽しみ、今はその後片付けをしていた。
「小町ちゃん、このお皿はこっちで良いのかしら?」
「はい、大丈夫ですよ。……いやー、後片付けまで手伝って貰っちゃって、ありがとうございます!」
「気にしないで。パーティはみんなで楽しむものだから、後片付けもみんなで分担してやるものだし」
「必殺、韋駄天拭き……!」
加古望。よく遊びに来てくれる友人の中では最年長の美人で、今はテーブルを拭いてくれている最年少の美少女、黒江双葉とは同じチームなのだとか。
ソファでくつろいでいる喜多川真衣も同じチームだ。でも、そのチームのあと一人、小早川杏は予定があって来れないらしい。
双葉や望が時折耳に手を当てて話をしているのが杏で、仕事が終わらない彼女に通信で声をかけてあげている、とのこと。
食後のゆったりとしたひとときを一同が過ごしていると、リビングのドアが開いた。
瞬時に三人はドアの方を振り向く。……ボーダー隊員ともなると、僅かな物音にも警戒心を抱かずにはいられない——との望の言葉だが、少し警戒し過ぎなんじゃないか、とも小町は思っていた。
「!」
「……」
「……あら、日浦ちゃん」
しかし、今回も杞憂に終わったようだ。
部屋に入ってきたのは望達とは別の部隊の日浦茜という少女。同い年で同じ学校に通っている事もあってか、お泊まりに来た回数は茜が一番多く、小町にとって一番仲良しな友人だ。
「小町ちゃん、お風呂掃除終わったよ! もう沸かして良いかな?」
「ありがと、茜ちゃん。お願いできる?」
「任せてよー!」
言って、部屋を出ていく茜。元気の良い二人に、望が笑んだ。
「……二人とも、本当に仲が良いのね」
「1番の親友と言っても過言じゃありませんから」
眩しい笑みだ。サイドエフェクトのせいで常人とは異なる世界の見え方で生きてきた筈なのに、まるで普通の少女のような顔をしている。
(……いえ、この子の笑みはそんな幼稚なものじゃない……何かを成し遂げた、勝者の笑み……つまり)
彼女にとって兄の存在は、心の孤独を跳ね除ける程に強いもの。
兄の言う事なら、たとえそれがどんな言葉であっても、それに従ってしまうかもしれない。
(ひょっとしたら、本部基地から長く離れさせられない比企谷くんを小町ちゃんが匿う可能性もある。それをさせないための見張り……はぁ、やりづらい仕事だわ)
ただ、八幡が脱走した目的は判明している。それを諦めさせれば望達が比企谷家に任務を理由にして滞在することも無いのだが、何の因果か、その目的そのものである茜が今は比企谷家にいる。
もしかして。ひょっとしたら。……八幡の願いを叶えて、これ以上本部が気を揉まれる事がなく、事を穏便に済ませられるかもしれない。
緊急事態を知らせるオペレーターの緊迫した声が望の鼓膜を打つまで、彼女はそんな風にお気楽に考えていた。
『——望さん! 比企谷先輩が現れました!』
「——!!」
……期待は所詮、現実から外れた先の未来を照らしているものだ。それを望は、たった今、痛感した。
設定
冠トリガー「
ウェコンを護る為に存在する射撃系憑依型のクラウントリガー。使える弾は何種類かあるが、主に威嚇射撃に使われる(使われたことがない)レベルの1番威力が低い弾一発の威力はガトリン隊長の大砲一発分くらい。トリガー発動には起動者が必要だが黒トリガーとは違って対象者との相性問題は存在しない。本来は母トリガーに危険が迫った時、もしくはパンゲアの所持者が生命の危険に晒された時にのみ所持者の意識を乗っ取って顕現する。
ワートリ最新話見て草壁隊長勝手にお姉さんキャラだと思ってた幻想が打ち砕かれました。