やはり俺のボーダーでの短編集は間違っていない。   作:ハーマィア

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長らくお待たせしましたっ! バレンタイン編最終話です!

……あれ? ホワイトデー?


一度きりのバレンタイン⑥【最終話】

 

 ——わわっ、わっ、わっ……!?

 

 

 

 ——風に流されるように茜ちゃんに飛び込んだわね。意識は失っているのに、どうしてかしら。

 

 

 

 ——そそそそれよりっ! こんなところで寝てたら風邪ひいちゃいますよ! 先輩、風邪ひきやすいんだから……!

 

 

 

 ——あら、こんなところで親密アピール? そういうのは小町ちゃんにするべきじゃないのかしら。ほら、将来的な義理のいもう——

 

 

 

 ——わーわーわーっ!

 

 

 

 

 

 

 ——……すみません、先輩を運んでもらって……。

 

 

 

 ——良いのよ。トリオン体だから全然重くないし……顔が近くて緊張しちゃうから運べないっていう茜ちゃんのかわいいところも見れたから。

 

 

 

 ——あぅ。

 

 

 

 ——それより、今のうちに伝えるべき言葉はきちんと伝えなさい。来年なんて待ってられないわよ。朝まで時間は作っててあげるから。

 

 

 

 ——ありがとう、ございます……!

 

 

 

 

 

 

 ——今日は、月が大きい……明るい夜だな……。

 

 

 

 ——……ごめん、日浦。俺、多分お前と会う事を避けてた。偶然とかじゃなくて、……ちゃんと、自分の意思で……。

 

 

 

 ——先輩? ……ううん、寝たまま……。

 

 

 

 ——俺が、ちゃんとしてなかったから。……日浦に、本当は向き合ってなかったんだ……。

 

 

 

 ——…………。

 

 

 

 ——ちゃんと、別れなきゃいけない。「さよなら」を、俺は言えなかった。

 

 

 

 ——……先輩、なんでそんな事言うんですか。そんな、自分を傷つけるような事……!

 

 

 

 ——怖いんだ。

 

 

 

 ——?

 

 

 

 ——お前がいなくなった後……本物をなくした俺、が、どうなって、しまうのか…………。

 

 

 

 ——……もう、十分ですよ先輩。先輩は人付き合いが苦手で、誰かを信頼することがあまりなかったから知らないかもですけど、わたしと同じくらい、みんな先輩のことを知ってるんですよ。

 

 

 

 ——だから、安心してください。

 

 

 

 ——もし先輩がいじめられてても、ボーダーのみんながきっと助けてくれます。でも、先輩が悪かった時はちゃんとごめんなさいしましょう。

 

 

 

 ——もちろん、わたしを頼ってくれても良いんですよ?

 

 

 

 ——メール一本ですぐ駆けつけますし、慰めて欲しい時はいくらでも良い子いい子してあげます。

 

 

 

 ——先輩、ありがとうございました。先輩のお陰で今までのボーダー生活、楽しかったです。

 

 

 

 ——……あ、あの、泣いちゃいそうなので後一つだけ。

 

 

 

 

 

 

 ——わたしがボーダー辞めるって聞いてすぐに、那須先輩や熊谷先輩とか志岐先輩に那須隊に勧誘されたって本当ですか? 先輩が起きたら、詳しく聞きたいです。

 

 

 

 ——ごめ、んなさい……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『——き、——ぱい……——』

 

 ……ん。

 

『——きです』

 

 …………なん、だ……?

 

『……っと、——いで——』

 

 ……気持ちよく昼寝をしていたというのに、どこか遠くで俺を呼ぶ声がする。

 

 癒される声だ。もっと聞きた——

 

『コイツ寝てる時はとことん無防備だから落書きしてもバレませんよ。柚宇さんがコーヒーこぼした時も起きなかったくらいですし』

 

 誰だか知らんがお前じゃねえ吹っ飛べ。

 

『……!? ——う、——なこと言……』

 

 ……うん、心地のいい声に戻った。

 

 その声は俺の眠りを妨げるもの。……でも、どこか心地が良くて耳を傾けたくなる声だ。

 

 声の主を探すために立ち上がったその場所は、光の草が生い茂る野原。

 

 あれだ、ナウシカの王蟲が作った金色の草原だ。え? 死んだの、俺? いや生きてるよね? ナウシカ死んでないよね?

 

『——から、——なん——』

 

 ……俺の生死については置いておくとして、声の主はどこにいるのか。

 

 辺りを見回してみても、それらしい人影は見当たらない。

 

 仕方ない。どこまであるのかわからないけど、声の方向目指して行くしかないか。眩しいけど。

 

 ——と。

 

『——っ!?』

 

「……?」

 

 ふにふに。眩しさを軽減させるために前に翳した手が、見えない何かに触れた。

 

「…………」

 

 すべすべした肌触りの良い感触に、仄かな暖かさ。お湯に触れているのかと思いきや、押してみれば押し返される、確かな弾力がある。

 

『んっ、ためっ、ほこっ……!』

 

 手を上下に滑らせてみれば、小指と薬指に引っかかるものがある。人差し指と親指で摘んで、くにゅくにゅとした感触が段々とかたくなっていくのはどういう理屈なのか。

 

 もっと調べる必要が——

 

 

 

 

 

 

「…………ん?」

 

 視界が暗い。……どうやら目覚めたらしい。

 

 何か心地の良い夢を見ていたような気もするが、思い出せない。どんな夢を見ていたんだろうか……。

 

 ……ていうか。

 

 どこだ、ここ。

 

 いつものボーダー基地に作られた俺の部屋の天井じゃないし、星空というわけでもない。

 

 隣を見れば、頬を上気させた日浦が潤んだ目でこちらを見ているくらいだ。別におかしなところは何もない。

 

「……ていうか、今何時だ……?」

 

「……ごぜん、1時を、まわった……くらい、です……っ」

 

 俺の独り言に日浦が返事をしてくれた。……そうか、1時か……。

 

「……あ、あの、ききがや、せんぱい……」

 

 呂律が錆び付いてしまったかのように回ってない日浦が、たどたどしい日本語で俺を呼ぶ。

 

「……なんだ?」

 

「……赤ちゃんは、2人欲しいです。女の子と、男の子……」

 

 窓から差し込む月光に照らされて、潤んだ瞳や朱に染まった頬が色っぽくて、息遣いまでもが扇情的で、とても中学生には見えない。

 

 日浦は、泣きそうなくらいうるうるした目を閉じて、俺の頭を抱き寄せて——ん。

 

「……!?」

 

 キス——した。俺と日浦が。

 

「——っ、ひうら……?」

 

 現実ではないという違和感が、……日浦?

 

 ——そう、だ。

 

 ずっと日浦に伝えなきゃいけないことがあったんだ。

 

「……日浦」

 

 同じベッドで同じ布団で二つの枕に文句は多々あるけれど。

 

「ふえ……?」

 

 とろん、と焦点が定まっていない目と半開きの口。普段の元気いっぱい天真爛漫な雰囲気は微塵も感じられず、明らかに正気じゃない。

 

 かわいい。……じゃなくて。

 

 自分にまさかの危険な感性があったこともとりあえず置いといて。

 

「…………すみませんでした」

 

 ベッドから降りて、床に正座をして、そのまま頭を床に付け、土下座をする。

 

「……なにが、ですか?」

 

 戸惑いながらも日浦は、俺の声に耳を傾けてくれた。

 

「……その、バレンタインの日に、日浦さんの手紙を無視して防衛任務についてた事を……です。恥ずかしい話、小町から聞かされるまで手紙の事にすら気づいてませんでした。それは俺の予定が合う合わない以前に、日浦さんに失礼な事をしてしまった。……本当に、すみませんでした」

 

 日浦に会うまで、ずっとその事を考えていた。……でも、他に謝り方が思い付かず、誠心誠意を込めた結果、こんな言葉になってしまった。

 

 でも、謝るときに偉そうな態度が必要だとは思わない。

 

 謙った表現とか、感心を惹く言葉ではまともに思いは伝えられない。

 

 究極伝えたいのは、言葉じゃなくて心なんだから。

 

「先輩。……頭を上げてください」

 

「…………」

 

 上げない。日浦から赦しが得られるまでは。

 

「……上げてください」

 

 上げない。

 

「……お、面を上げい!」

 

 上げない。

 

「…………うぅ」

 

 ——と。

 

 日浦の反応が無くなった。……かと思ったら、すぐに再び日浦の声が聞こえた。

 

 えっと、うぅん、……と、色々考えているらしい。

 

 俺は日浦に向かって頭を下げたまま、日浦は何かに悩む様子がしばらく続く。

 

 日浦が再び口を開いたのは、それから割とすぐの事だった。

 

「……先輩は、そうやって形だけやってれば満足するんですか?」

 

 ……え?

 

「……ち、ちがう……」

 

 そんなつもりじゃない。……けど、日浦にはそう見えて……?

 

「……人を動かすのは、単なる言葉や行動じゃないんです。心がこもってるから、言葉や行動に命が宿って人に伝わるんです。……でも、先輩のそれは、『謝ってる』っていう形を見せようとしてるだけにしか見えません」

 

「そんな『つもり』じゃ、……!」

 

 反射的に顔が上がる。……!?

 

「——ん——っ」

 

 顔を上げた先に待ち構えていたのは、鼻先数ミリくらいしかない、超接近してきた日浦の可愛らしい顔。

 

 何も考えられない俺は、そのまま日浦の口撃を躱す事ができなかった。

 

「——んはっ。……先輩は、わたしが、冗談でこういう事をすると思いますか?」

 

 触れ合うだけですぐに離れた日浦は、そう言って顔を赤くする。

 

「……い、いや。思わ、ない……」

 

 ……顔が赤くなってんのは俺も、か。

 

「……それじゃあ、先輩がわたしのお願いに応えてくれなかったくらいで『もうどうでもいいや』って嫌いになるような軽い女に見えますか?」

 

 そんなわけあるか。

 

「……見えない。……あんな、手紙まで書いてくれたんだ。軽いだなんて、そう思える筈が……」

 

「……そうですよ。わたしはかーなーり、重い女なんです。……先輩にぞっこんなんです」

 

「…………っ」

 

「……そんなわたしが、デートに来てくれなかっただけで先輩を嫌いになると思いますか? 逆に心配してたんですよ。何かあったのかな、って。……それで、先輩がわたしの手紙に気づいてなかっただけって知った時はもう安心したんですから」

 

「…………日浦」

 

 ……そうか。……俺は、最初から間違えていたんだ。

 

 贖罪に走ることばかり考えて、日浦自身が俺に何をして欲しいのかを考えてなかった。

 

 それこそ、謝ることが全てだ、みたいに……。

 

 呆然とする俺の前で日浦は、はにかんだ。

 

「……大好きですよ、先輩。これから末永く(・・・・・・・)よろしくお願いしますね」

 

「……あ、ああ……。……………………ん?」

 

 何か、変だ。…………あ、そうか。

 

「……そういえば日浦。どうして、……ここに? ていうか、ここは何処?」

 

 当たり前過ぎて忘れてた。俺、こんな事してる場合じゃない。早く小町に日浦の家の場所を聞かないと、でも日浦はここにいて……あれ?

 

「先輩のお家です。先輩は、ボーダー基地を抜け出した後に先輩のお家に行って、小町ちゃんにわたしの家の場所を聞こうとしたんですよね?」

 

「……ああ、そうだ」

 

 あれ。

 

 ……確か迅さんと会って、絶対勝てないだろうけど覚悟決めてやるか、ってなって……。……あれ、そこから先が思い出せない。

 

 ひょっとして、オルタナティブの隠された機能が働いたのか? とか考えていると、日浦が話してくれた。

 

「……今日は、いえ。もう昨日は、ですね。……昨日は、わたしが小町ちゃんの家に泊まりに来てたんです。色々荷物を運んだりしましたし」

 

 なるほど。だから日浦が小町の家にいた、と。……ん?

 

「……荷物?」

 

「はい、荷物です。わたしの衣類とか、私物ですけど」

 

「……何日か泊まる、ってことか?」

 

 けど、連泊するだけだと私物を小町の家に持ち込む理由がない。どういうことだ?

 

「……んしょ」

 

 こんがらがる俺に、日浦はベッドから降りて正座し、俺と向き合う。

 

「えっと、本当は明日、いえ、今日。今日です。……ボーダー本部にお邪魔した時に、小町ちゃんと先輩に伝えようと思ってたんですけど」

 

 ……?

 

 思考が追いつかない俺を置いて、日浦は上目遣いに俺を見た。

 

「……今日から、先輩のお部屋でお世話になる事になりました!」

 

 え?

 

「ボーダー退職撤回です!」

 

 え、

 

「ちょ、ちょっと待て。そもそも両親の決定でボーダー辞める事になってたんだよな。何でそれが突然……」

 

「先輩の事を話したら、お母さんが「そんな人がいるなら安心だけど、……早く紹介しなさい!」って。お父さんは「刀に錆がついてないか心配だから、彼氏さんが来る前に手入れしておく」って言ってくれて」

 

 いかん。彼氏さんが刀の錆にされる。

 

 風前の灯火になる——その感覚を自分の命で楽しんでいると、日浦はまた笑った。

 

「先輩がセキニンを取ってくれるなら心配ないって、わたしがボーダーを続ける事を許してくれました。家はもう売却が決まってるから、小町ちゃんと相談して先輩と一緒に暮らさせてもらうのが良い、って言われたんですけど、……ダメですか?」

 

 ……あざとい。けど断れない。

 

「良いに決まってる。大歓迎だ」

 

「不束者ですが、これからずっとよろしくお願いしますね、比企谷先輩!」

 

 ……そう言って、日浦は俺に頭を下げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【後日談】

 

 

 

「——先輩っ! 勝ちましたよ、わたし達!」

 

「……ああ、観てた。最後決めたのすごいじゃん。置き玉と色々使った三角攻撃は最初からその予定だったのか?」

 

「チャンスがあれば、って感じで最初はあちこちにメテオラを置いてました。……でも、最後に狙う場所を選べる余裕ができたのは那須先輩のお陰です。……あ、先輩ケータイ鳴ってますよ」

 

「ん? ……すまん、ちょっと失礼……もしもし。……那須か」

 

「…………那須先輩?」

 

「……ああ。……ああ。よく頑張ってたよな。……今日? いや、今日は一日日浦に付き合うって約束してるからダメ。……明日なら、まぁいいけど。言っておくが俺は基地から出れないから、那須隊の部屋でいい……特別許可? いつの間にそんなもんを……いや、それなら別に大丈夫だと思う。日浦にも都合を、……? わかった。それじゃ、忍田さんに車出してもらうから——っと、すまん。なんか日浦が用事あるらしいから、変わるわ。……ほら、日浦」

 

「人の彼氏寝取ろうなんて100年早いんですよ明日は先輩の為に開けた時間を使って一人でワイヤートリガーの対策でも考えてくださいね病弱メンヘラ先輩来週まで寝てろ」

 

「…………自然な流れで切りやがった」

 

「どうしました? 先輩?」

 

「……いや、俺のケータイめっちゃ鳴ってんだけど。『那須』って出てんだけど」

 

「無視しましょう。どうせ悪質な宗教勧誘か集金に見せかけた詐欺話です。それより、食堂で新メニューが出らしいので食べに行きませんか? スイーツらしいですよ?」

 

「無視っていうかブロックしてる……いや、そうじゃなくて那須が俺の為になんかやってるらしいんだけど」

 

「りぴーとあふたみー。『おう、楽しみだな』」

 

「……おう、楽しみだな」

 

「それじゃいきましょう! 楽しみですね、先輩!」

 

「……明日が怖い……那須隊との防衛任務なんだけど……」

 

「トリオン兵が怖いんですか? でも先輩の黒トリガーが最近攻撃性能を獲得したって聞きましたけど。その練習のためでもありますし、大体トリオン兵くらい楽勝ですって」

 

「怖いのは味方の方なんだよ…………」

 

 

 




設定


冠トリガー「閃刃(パンゲア)」改メ「パンドラ」

閃刃とオルタナティブが融合した新たなトリガー。主に閃刃の射撃性能を引き継ぎ、さらには発射する弾を透明化したりとオルタナティブの機能も一部引き継がれている。また、融合後トリオン弾が着弾した箇所に「トリオンを物質化した」エスクードのような盾を生成する機能が確認されていることから、使用者本人に自覚はないもののトリガーが学習する機能を備えている事が推察される。


備考:母トリガー「ウェコン」について

融合によって閃刃が消失したために自らを護る手段が無くなった八幡の体内の母トリガーは八幡のトリオン器官と完全同化し、結果母トリガーとしての機能も無くなった。

次は黒江か真木か草壁隊長か……。月見さんという手もあり。
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