やはり俺のボーダーでの短編集は間違っていない。 作:ハーマィア
出血描写があるので苦手な方はブラウザバックお願いします。
「比企谷くんっ!」
「はい」
よしよし。
「比企谷くん、比企谷くんっ!」
「はいはい」
よしよしよしよし。
「えへ……」
よォーしよしよしよしよしよし!
地点Tから作戦司令部へ。こちら八幡。目標の鎮圧に成功した。これから二次段階へと移行——は? いや、成功はしましたけど性交はしてないですから。雪ノ下陽乃をして「理性の化物」と言わせしめたこの俺があんな前振りでコトに及ぶわけないでしょ。……ちょっ、平塚先生耳元で意味もなく叫ばないで! 婚期の納品が遅れますよ!
…………。
脳内で独身王国の侵入ミッション編ごっこをして気を紛らわしながら、俺は国近先輩の頭を撫でていた。
無論、この作業は先の「俺の処女強奪」宣言を受けての対策行為であり、滾りに激った先輩の衝動を鎮めるための応急措置でもあった。正しい処置はする訳にはいかないので割愛。
国近先輩の頭を撫でながら、ふと思う。
高校三年生、それも十八歳になったというのに、この人にはどこか幼げな印象を持ってしまうのは、こんな風に頭を撫でているからか。
俺に頭を撫でられて嬉しそうに顔を綻ばせる姿は可愛いの女神「国近柚宇」そのもの。
この溢れんばかりの可愛さを例えるとしたら、……小動物的? いや、肉食動物すら軽く屠りそうな程
包容力? ……包み込むモノはモノでも、抱きしめる感触からしてクッションのような感覚だ。違うな。……ぬ?
「……」
「起きてください」
「にいっ!?」
立ったまま寝ようとする国近先輩の餅みたいに柔らかくて白い頬を引っ張る。すると、国近先輩は小さく悲鳴を上げて目を瞬かせた。
「……もっ、もうっ! 比企谷くん、何するのさ〜」
よほど痛かったのか、目尻に涙を浮かべてぷくっ、と頬を膨らませて抗議してくる国近先輩。やばい、可愛(殴)……ぐふっ、危なかった……もう少しでやられるところだった。
「な、なんで自分の顔を殴ってるの?」
「頭のネジが緩んでたんで気を締め直しただけです」
目をぱちくりとさせる国近先輩にそう話す。……すると彼女は、視線を落として両腕を胸の前に持ち上げて、自分の拳を見つめ始めた。
「……」
嘘は言ってない。気つけ程度にしかならないかもしれないが、先輩と逢いたい……相対する時はこうでもしないと正気を保っている自信が……あ、いや、今のは気の迷いが過ぎてましたねホントごめんなさい。落ち着かないのは俺が処女ではなくて童貞だからかしら。誰が童貞だコラ。
——と、そろそろ時間だ。
「先輩、仕事の時間なんで今日はこれで……っ?」
むにむに。にむにむ。
国近先輩が両手を猫の手にして、自分の頬をマッサージするかのように押し上げていた。
垂れ目やおっとりとした表情と相まって猫が毛繕いをしているようなリラックス効果のある微笑ましい光景となっていて、正直破茶滅茶かわいい。
「……ふえ?」
あまりの可愛さに俺が言葉を失っていると、国近先輩がこちらを見上げてきた。
「どうしたの、八幡くん?」
「いや……何してんすか」
しまった。あまりに気になり過ぎて、実直に聞いてしまった。
女の子の事情に抵触する可能性のある行動だったかもしれないし、こういうのは気安く聞くべきではないと前に小町も——
「えっ……? ううん。ちょっと、比企谷くんと一緒にいて幸せ過ぎたから緩んだ頬を引き締め直してただ——ひゃっ!? だ、どうしたの比企谷くん!?」
気付いたら鼻血が出ていたようで、慌ててティッシュを差し出す国近先輩からそれを受け取って鼻に当てる。
ていうか、今の何か引き締め効果あったんすか。どう見てもやわ餅をこねてるようにしか見えなかったんですけど。
可愛さを膨れさせているかのような。
ああ、いかん。考えれば考えるほど頭から血が抜けていく。落ち着いて、深呼吸。はい、落ち着いた。
「大丈夫?」
むにゅ。
「に゛っ!?」
心配してくれているのか、不安げな表情でこちらを見上げる国近先輩はおれと正めんから向きあってだきあうようにみっちゃくしていてそのほうまんなにくまんがむっちりと柔らかくおしつぶれていてぶらのかんしょくとかそれいぜんにせんぱいのむねのあつがすごくてあついというかあつくてもうなにもかんがえられなければそれでもいいかなとおもうじぶんがいてそれじゃだめだここからだっしゅつしないとしこうのぬまにどんどんしずんでいってにげだせなくなるああでもぬまっていちどはまるとぬけだせないんだっけそうかんがえるとやすっぽいしつれんをなんかいかくりかえすよりはこのしんじつのぬまにしずんでいったほうがいいなああああああああああああああああああああああああああああああ。
オイ俺を殺す気か。本望ですよ。
「……? だ、大丈夫?」
「……あ、いや、大丈夫、です。……ん?」
ピロン、ピロン、とケータイにメールの着信が。開くと——
『比企谷くん、どこに居るの? 気付いたら返事をください』
メールは複数来ているようで、一件目は三上から。俺のことを探しているみたいだし、何か用事だろうか。
『もしかして寝てるのかな? 雪ノ下さんも探してたよ。起きたら返事ください』
綾辻。俺が寝てる……? 何回かメールを送っているのにそれに気付いてもらえない、といった文面だ。
『比企谷くんはアイドリッシュセブンでいえば六弥ナギくんよね?』
橘高さんから。何の話をしているんだこの人。
『最近スマホゲームにハマってしまったの。下手なホラー映画よりも怖いんだから。今度一緒にプレイしましょう』
人見さん。今度ということは(略)なので、その機会はないのだろう。
というか、これらのメールよりも前に、かなりの数の着信……が……。
ふと気になって見た、スマホ上部に表示されている現在時刻。
「えっ」
それを見て、俺は思わず声を漏らしてしまった。
現在時刻、午後五時二十分。
俺が太刀川隊室にお邪魔してから、どう控えめに見積もったとしても、一時間半が過ぎていたのだ。
一体、何が……? 新手の黒トリガー使いか?
不審に思って、状況を確かめようと身動ぎする——
「……っ?」
体に電気が流れたかのような感覚が身体中を突き抜ける。
その感覚はまるで全身から力だけを引き抜かれたような錯覚に似ていて、思わずたたらを踏んで、オペレーターデスクに手をつき、踏ん張って、転倒を回避する。
首を傾げていると、国近先輩に服の裾を引っ張られた。
「……えっ、えっとね、比企谷くんに……だっ、だきちゅっ、だだだだ、抱きついた、のは、わたしから、なんだけど」
はいかわいい。……もうかわいい。
「抱き着く」の単語をつっかえさせながらしどろもどろに口を開く国近先輩を見て、胸が締め付けられるような錯覚を感じました。
いやそんなことはどうでも(良くない国近先輩可愛すぎる)とりあえず置いといて、国近先輩が話す続きを待つ。少し呼吸を整えて、彼女は再び口を開いた。
「……そのあと、比企谷くんが話してくれなくて、あったかくて、あの、いや、違くて、……違わないけど、比企谷くんが、ずっと、わたしを、抱きしめてました」
「…………」
マジか。……なんてことを……。
「すいません! 任務もあるのに、時間を使わせてしまって……」
急いで国近先輩に頭を下げる。一時間以上抱きしめてたってことだろ? そりゃ迷惑だよな、任務も全然出来な——あれ?
任務があるなら、出水か太刀川さんが強制的にでも俺と国近先輩を引き剥がしてる筈なんだが……。
「任務なら今日は休みだから安心して良いよ〜。けど、さっきからケータイがなってたから、大丈夫かなって」
「あぁ……」
納得。通りでそんな事がある訳だよ。ただ……。
最初の約束の時間が四時からだから……まぁ、うん。
「すみません、ちょっと釈明だけ失礼します」
「あ、うん。わかった、……っ!?」
断りを入れた直後に手元のオペレーターデスクを見て何か驚く国近先輩だったが、恐らくは忘れていた宿題か何かなのだろう。
だったら後で手伝えば良いと思って、先ずは綾辻に電話をかける。確か手伝っていた書類の締め切りは来週までだから、明日今日の分を頑張ればまだ間に合うはず。
三上との約束は妹が意外としっかりしてるので、この前は一緒に三上の家で妹主導で餃子なんかも作ったし、まぁ大丈夫だろう。あとの二人はメールで謝罪を。
連絡帳からいつの間にかお気に入りに入っていた綾辻の連絡先を呼び出して、電話をかける。すると、ワンコールで綾辻は出た。
『……もしもし』
心なしか言葉にトゲがあるような。……綾辻だし、気のせいか。
「『もしもし綾辻か? すまん、仮眠室で寝てたらこんな時間になってた。手伝いは明日でも良いか?』」
……ん? なんか今、〝俺の〟声がケータイのスピーカーから聞こえたような……?
『うん、大丈夫だよ。ここ最近は比企谷くん、働き詰めだったし、仕方ないよね』
心から俺を気遣ってくれている、いつもの綾辻の声。良かった、気のせいだ。
「『すまん、助かる。それじゃ、明日朝にでも——』」
やっぱりエコーがかかっているような気もするけど気のせいだな。
『でも』
安心して次の予定を決めようとする俺の声を遮って、綾辻の声が聞こえてくる。……ん? 国近先輩が、何かを手に持って、こちらに差し、出……して…………。
『……でも、比企谷くん。そのかわり、これから私たちの隊室に来てくれないかな?
震えるチワワのように怯えた表情(かわいい)で国近先輩がこちらに向けてくるのは、滅多に使わない共通放送用のスイッチコントローラー。その電源が、オンになっていた。
共通放送とは、登録した部隊の間でのみ一斉通信ができる仕組みのこと。確か冬島さんか誰かが試作で作って、試しに使ってみてって事で配って……あ、これ作ったの、俺でした。データ取ろうと思って配布したのも俺でした。
ともかく、その機器があれば登録した部隊に一方的な通信が可能だ。通知だけしたい場合とかに超便利……なのだが。
簡単に説明すれば、いつの間にか機器のスイッチが入っていて、いつからか俺と国近先輩のやり取りが太刀川隊が登録した連絡先にどういう訳か垂れ流しという訳でして。
嵐山隊室にもしっかりと放送されてるようだった。
『お土産とか欲しいなー?』
「『…………いいとこのどら焼きで如何でしょうか』」
『良いよー。なら三十分後に嵐山隊室で待ってるから。ちゃんと、
「『了解……』」
『あ、国近先輩にも話を聞きたいから、伝えておいてね?』
三上のその言葉を受けて、こく、こく……と必死に頷く国近先輩。いつの間にか風間隊も共通放送を使用しているらしかった。
『ハチ。アタシは和栗どら焼きな』
「『……かしこまりました』」
なんか他にも漏れてるし、十個で足りるかな……。
通信を切って、財布の中身を確かめる。ギリギリ足りそうだ。
肩を落とし、和菓子屋に行こうと国近先輩に声をかける——と。
「……だっ、大丈夫だよ、比企谷くん! 二人なら、もう何も怖くない!」
「それ死ぬやつです……」
こんなところで勇気を振り絞る国近先輩は、やっぱり可愛い。
そんな先輩の可愛い姿に少しだけ癒されながら、扉を開けて——双月。
「はぁぁぁぁちまぁぁぁぁん!?」
ぴしゃっ。……訂正。どら焼きが一個増えるな。
「じゃ、テレポーターで行きますか」
「う、うん……」
その後国近先輩の支度が整うのを待ってから、太刀川隊室から離れた場所に二人でテレポートして、そのままどら焼きを買って〝帰宅〟しました。
『おいしいね、比企谷くんっ!』
どら焼きを頬張る国近先輩が可愛くて、買った後に何か予定があった気もしたけど、そんな些末な事は国近先輩の可愛さインパクトに吹き飛ばされて、忘れてしまった。
まぁ良いよね、嬉しそうにはむってどら焼きを食べる国近先輩の笑顔が見れたことだし。
そうして迎えた翌日は、ボーダー史に残る惨劇として、又は俺を語る際の代名詞になったのは語るまでもない。
次は木虎か小南の予定です。