やはり俺のボーダーでの短編集は間違っていない。 作:ハーマィア
今回は国近先輩です。
クリスマス間に合ってないけどクリスマスネタです。
クリスマス。聖なる夜。
恋人達は秘密の時間を過ごし、子供達はサンタクロースからのプレゼントに心を躍らせる特別な日だ。
外を歩けば街のあちこちでサンタの姿を目にすることができるし、電飾などで飾り付けられたクリスマスツリーはこの数日間だけしか飾られない特別なもの。家に帰れば、ターキーやクリスマスチキン、クリスマスケーキなどが食卓を飾り、今日が特別であることを際立たせる。
異世界からの侵略者達の脅威に晒され、日夜戦闘の絶えることのないこの三門市でも、非戦闘区域である市街地はクリスマスに染まっていた。
日が沈んで間もないこの時間。街中はクリスマスを求める人でごった返しており、忙しなくあちこちを行き来している。
昼過ぎから続くこの人混みに揉まれながらこの場所にたどり着いていた八幡少年は、世の中への反抗を込めて、誰へともなく睨みつけた。
「お待たせ〜! 比企谷くん……待たせちゃった?」
しかし、そんな彼の鋭い視線もその一言で霧散する。
おっとりとした口調に、幼さの抜け切らない声色。すまなさそうに八幡を見上げる視線には、謝罪と可愛さがたっぷり詰め込まれている。
「や。どうも。特に待ってないすよ」
国近柚宇。八幡の可愛すぎる先輩にして、可愛すぎる彼女。可愛すぎる性格で、可愛すぎる天使だ。
性格や容姿は勿論、呼吸の間隔や瞳の瞬き、歩幅やちょっとした癖でさえ、八幡を魅了してやまない。
〝地上に産まれた唯一の天使〟と八幡は柚宇をたとえて、それを聞かされた時の彼の妹の心中は、恥ずかし過ぎて熱を出すくらい、荒れに荒れたという。
そこまで行くと流石に変態の領域だが、八幡は柚宇にイヤラシイ真似を一度もした事がない。
伝えるべき気持ちかそうでないかの区別はつくし、何より八幡は柚宇に嫌われたくない。
そうして慎重になり過ぎた結果、二人は付き合い始めて10ヶ月、あと2ヶ月もすれば一年が経とうとしているのに、八幡が頑張った事といえば、手を握った——それくらい。
八幡の記憶に確かな事は、それ以上の関係を望んでいても、あと一歩踏み出せずにいる情けない自分の姿のみ。
『え? ……ああ、別にもし赤ちゃんができてもお父さんと柚宇さんのお父さんが全力で支援してくれるから大丈——え? は?』
それを初めて身内に相談した時の、妹の愕然とした顔は忘れようにも忘れられない。
——そんなこんな、諸々の後押しをされて。
今日二人が待ち合わせをしたのは、二人の関係を進める為の、妹の話を参考に八幡が計画したクリスマスデートのためだ。
気温が0度を下回り、雪も降る中、単純にデートを楽しみにし過ぎたせいで4時間も外に立っていた八幡は、トリガーを起動しとけば良かったと後悔しながら、柚宇に心配させまいと誤魔化そうとする。
「えっ? ……でも、鼻が赤いし、頭に雪積もってるよ?」
身震いして、頭や肩の雪を振り払う。
「そこらへんの雪を肩に乗せてただけなんで、大丈夫です」
「……比企谷くん、辺りに雪を掬った跡無いよ」
じと、と自分を見上げる柚宇の視線はほぼ確信しているらしく、手袋越しにぎゅう、と八幡の手を握ってきた。
「空から落ちてくるやつなんでまぁ無いですよね」
「やっぱり待ってたじゃん! もう……!」
素直に負けを認めた八幡の胸をポカポカと叩く、可憐と可愛さとcuteの塊。
「いや、すいません。楽しみにしすぎたんで」
「……う、嬉しいから困るんだけど……どれくらい待ってたの?」
「15分くらいです」
「……それでもだよ、む〜」
ぴろりん。柚宇のケータイが鳴った。
「ちょっとごめんね」
スマホのロック画面に表示される通知を見れば、急ぎの用事かそうでないかはわかる。
ただ、文章が長文で表示される枠に収まり切らず、メッセージの意図が分からなかった場合はロックを解除してアプリを立ち上げなければならない。
もしかしたら、何か緊急の連絡かも。
八幡との時間を邪魔されて若干不機嫌になりながら、柚宇はメッセージ画面を開いた。
『そういえば2時過ぎに三門市商店街のデカいクリスマスツリーの近くで比企谷が立ってたって米屋が言ってたんすけど、なんか約束してたんですか?』
メッセージは、柚宇と同じ部隊の後輩出水から。
現在時刻午後6時である。
「……比企谷くん」
メッセージ画面を八幡に見せて、上目遣いで見上げる柚宇。八幡はそんな彼女に取り乱す事なく、こう返した。
「はい、な——違うんですよ。これは別件で外出てただけで一回家に帰りましたし」
「ほんとに?」
「本当です。風邪引いて先輩に心配かけたくないですし」
ニット帽に、もこもこのイヤーマフをつけた防寒スタイルで詰め寄ってくる柚宇を見ただけでにやけそうになりながら、八幡は彼女を宥めようとする。
「それよりほら、せっかくのクリスマスなんですし。店を予約したんで行きましょうよ」
彼の知り合いに聞かれたら驚かれるに違いないが、意外にも八幡は柚宇と過ごすこの日を本気で楽しみにしていた。
数日前からクリスマスディナーの予約ができる店舗に実際に足を運んでサーチし、その中から雰囲気の良さげなところを選び、予約しておいたのだ。
勿論、一緒に過ごすクリスマスの夕食は外食にするつもりな事は柚宇に知らせてある。
柚宇のオペレーターの仕事が午前中と午後に少しあったので、一日を共に過ごすことはできなかった。
その分、残ったクリスマスを幸せな時間にしようと八幡は頑張ったのだが——
「うん、ありが——ええっ!?」
ただ、彼氏と彼女の間で『夕食』という言葉の認識に大きな齟齬があった。
柚宇が想像していたのは、サイゼやジョナサンなど、学生でも楽しめるリーズナブルなレストランチェーン。
恋人同士でクリスマスを過ごす場所としては安っぽいのかもしれないが、変に気取った店よりは落ち着きやすく、ぶっちゃけ八幡と一緒ならラーメンでも出店でも食べ歩きでも構わなかったりするからなのだ。
……なのだけど。
「……え、……えぇ……!?」
八幡が今から行くという店は、客単価にして1人につき
「……? どうかしました?」
学生の分際でこの店を選ぶというのは、あまりにも常識からかけ離れすぎている上に店舗へ向かう八幡の態度には余裕すら見られる。一方でざ・しょみん代表柚宇の脚は、子鹿のように震えていた。
「……おっ、おしはらいっ、……は、大丈夫、かな……?」
最近、一緒にいる時間が増えたことでようやく慣れ始めた八幡の手をゆっくりと優しく握り、か細い声で柚宇は八幡を見上げた。
八幡よりも柚宇の方が年上だというのに、柚宇の威厳の無さと八幡との身長差から結果的にもたらされる上目遣いは、二人をカップルどころか歳の近い兄妹のように見せている。
——おい兄貴、妹さんを泣かすんじゃねーぞー。
——と思うじゃん? 実は男の方が年下なんだよ。
——えーっ。どう見てもハチ先輩の方が大人に見えるなぁ——
——しっ。気付かれるぞ。ハチの成長記録を撮影してんのに途中でバレたら売り物にもならなくなる。
——あー、そっか。
——そーだなー。
…………。
「……
——んぎゃあああああっ!?
「……? なんか、いずみん達の悲鳴が聞こえたような……?」
「市街地ですよ? 気のせいでしょ。……それより、もうすぐ予約した時間なんで少し急ぎましょうか。一部前払いの完全個室なんで、多少遅れても大丈夫だとは思いますけど……」
「……そ、そうだよ。そんなに高そうなお店、わたしにはとて……ま、前払いっ!? お金出してくれたの!?」
「最近予約キャンセルがどうのこうのって厳しいらしいですからねー」
「そういう事じゃなくてっ。……い、いくらくらいなのかな!?」
柚宇の手が八幡の手を離れ、懐から財布を取り出す。しかし彼女の手がたがたと震えているせいで小銭がちゃりんちゃりん、と音を立てて転がってしまい、それを八幡が屈んで拾う。
手渡す際、柚宇の手を自分の手で包み込むように握り、柚宇の震えは止まった。
「あ……わ、わ……」
代わりに、柚宇の顔はリンゴのように真っ赤になっていたが。
カチカチに固まってしまった柚宇を、八幡は見つめる。
「……別に、黒トリガー所有者ってだけでA級隊員なんかよりも懐が暖かいんですよ。実は知られてない事ですけど。……それに」
「……それに?」
「……彼氏なんで、それくらいの見栄張ったっていいじゃないですか。良いとこ見せたいし」
不機嫌そうでいてその実、照れた表情。
まだ、触れ合ったことは少ないけれど。それでも、彼女が彼氏をわかる時がある。
八幡がこうやって柚宇から顔を逸らす時は、心の底から思ってる事を言ってくれた時なのだ。
「…………ありがとう」
寒空の下。柚宇の胸の奥は、雪の舞っているにもかかわらず、暑いくらいにポカポカしていた。
——お会計、52000円になります。
「カードで」
「ぽえっ!?」
——ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております——
「やっぱ良いところなだけあって、美味しかったですね。……どうしたんですか、先輩」
「……きっ、きんし!」
「?」
「わたしだってお金あるもん! ……けど、今後はもうちょっと二人で相談してデートの場所決めよ!? 高過ぎるよぉ……!」
「……先輩を養えるだけの額は毎月振り込まれてますんで、気にしないでください」
「ボーダーやめたらどうすんのっ!?」
「今銀行に預けてるだけでも年に500万の利子が付くんで、働かないでも食っていけます」
「……ふっ、不労所得……っ!」
黒トリガー
いくつかのモードを適宜切り替える事で黒トリガーとしての性質が変化する異質なトリガー。
遠距離とか対集団戦闘とか白兵戦とか液体〜とか色々なモードがある。トリガーそのものが独立したりすることも。
八幡の1番のお気に入りはアイビスを素手で弾けるくらい防御力に特化したモード。超高密度超硬質のトリオン体なのでアレクトールには瞬溶けしたりして相性が悪い。「自信満々の相手の意表を突くのが楽しいから」という理由で選ばれてるあたり本人の性格も悪い。