やはり俺のボーダーでの短編集は間違っていない。 作:ハーマィア
クリスマスにやろうとしたけど書き始めたの昼過ぎでどうにも間に合いませんでした。
メリークリスマス。
クリスマス。ヴァレンタインやハロウィンと同じく、世に溢れるリア充御用達(笑)の一大イベントである。
都会はクリスマス一色で溢れかえり、サンタの格好をした売り子さん達が忙しなくそのままでは確実に負債となるであろうケーキ達を必死に売り捌いていく。
きっとその中にクリスマスと普通の日の区別なんてないに違いない。彼らは神聖なキリスト生誕の日を、金を儲けられるブーストデーか何かと勘違いしているのだから。そしてそれは毎年のように繰り返され、最早日常、当たり前の景色と変化していく。
そして当たり前となった特別な日に感謝すら抱かなくなり、それが無くなると誰もが心の中で舌打ちをもらす。
何が言いたいのかといえば、人の欲には際限がないということだ。
収入があればボーナスを求め、生きるに事欠かなければ次は富を求め始める。
しかし俺は違う。常に一定の水準を求め続け、それより上を望むことは決して無い。人殺しをしない吉良吉影なのだ、俺は。
振り返ってみれば、今年も去年も、習ったような行動しか繰り返していない気がする。その中身は何であれ、俺自身を取り巻く環境の変化は無いに等しい。それはつまり、俺の思うがままに事が廻っているということ。
だから、変化を望まない俺にとって最大級の楽しみである、クリスマスのブックタイム(本を買ったり読んだり本屋を梯子したり)が何人であっても邪魔されて良い筈がない。
故に俺は今日も、年に一度の一歩を踏み出すのだ。
あの、特にこだわりなんてものはないんだけど、甘口のコーヒーケーキはほんと美味しいと思います、はい。
「……あの」
こぉうぉぉぉ、とこたつに内蔵された電熱ヒーターの吐き出す温風が足下を暖かくする。が、そんなものでは俺の冷え切った心情が晴れることはない。こたつは温いけども。
握っていたシャーペンを離し傍に置いてあった財布を握りしめ、顔をあげる。
俺が声をかけた先には、委細省略したとしても美少女だけは発言せねばならない程のクラスメイトがいた。
「なにかな?」
「今日……12月の25日です」
「うん。クリスマスだよね。イルミネーションも綺麗だったね」
「見たのは電飾が付く前の真昼間、しかも学校帰りですけど」
「それでも綺麗だったよね?」
「綺麗だったかどうかは問題ではなくて、俺が言いたいのはだな……」
「じゃ、それが終わったらこっちの課題の間違えたところをもう一度解き直してね」
そう言って、無情にも傍らに積み上げられた問題集を指し示しつつ会話を打ち切り、俺と対面するコタツの反対側で数学の教科書を広げるのは綾辻遥。生まれた頃からの馴染みである。
生まれ持ってしまったサイドエフェクトのせいか、他人に認識される事が難しく、文字通りの日陰者である俺なんかとは違い、彼女も彼女で生徒会やら仕事やらで付き合いがあるだろうに、わざわざボーダー基地を挟んで真反対側にある俺の家に来て勉強会を開いていた。
興味がないのかどうかはわからないが、こいつがクリスマスではしゃいでいる姿を見た事がない。去年も、一昨年も、その前も、十年前ですら本を読む俺の側でじっと俺を見つめているのだ。何が面白いのかと聞いてみれば、本人にも「わかんない」との事。もう理解しようとするのを諦めました。
そう。俺と綾辻は一緒に居る事が多いのだ。高校に入ってからは流石に仕事量が増えた為か、こうして平日に会うことも珍しくなったが、少なくとも普通の友人よりは会う頻度は多い。週に二度は絶対顔を見るし。
そして一体何故、こいつと俺がクリスマスに俺の家で勉強会なぞやっているのかといえば。
『小町ー、お兄ちゃん嫌な予感がするから買い物に行ってくっ——』
『八幡くん。今日は家から出なくていいよー』
出かけようとして手をかけたドアが一人でに開き、外からその言葉と共に姿を現した綾辻が紙袋に入れた大量の問題集を両手に携えて、そう朗らかに笑っていた。
訊けば、綾辻は俺にこの問題集を渡すように頼まれたらしく、綾辻を遣わした平塚先生の言伝が数分後にメールとして俺のケータイに届いた。
文面曰く『比企谷ぁ。お前、このままだと数学の単位が落ちる。課題をこなせば何とかしてやるから、綾辻に渡した問題集を休み明けまでに解いてもってこい』とのこと。
『おう、そうか。わざわざ悪い、届けてくれてありがとな』
それを一度で理解し素早く納得したかしこい俺は、綾辻から問題集を受け取り、彼女にも仕事があるだろうし、早く帰らせてやりたいと思いつつドアに手をかけ、この前開発した工業作業用トリオン兵を改造した「俺の筆跡で宿題をこなすトリオン兵」の試験運用ができるな……としみじみ思っていると。
『うん、それじゃあお邪魔します』
訳がわからなかったよ。
『……は?』
思わず本気の疑問符を投げかける。
それに対して綾辻は小首を傾げ、
『だって八幡くん、このままだと数学の単位が貰えないんでしょ? 平塚先生にも、面倒を見てやってくれって頼まれたんだよ』
……その笑顔を見た瞬間、俺は背筋が凍りつくような寒気を感じた。
そして気づく。あっさりと話すその少女の瞳は、決して笑ってはいないということを。
……やってしまった、ということを。
『八幡くん終業式の日に言ってたよね? 数学も最近頑張ってるから、問題ないって。それを聞いて「ああ、もう大丈夫なのかな」って思ってたんだけど。……こんなに八幡くんが
やばい。綾辻がいるとズルができない。ズルって言っちゃったよ。
『課題は必ずやります! 単位を落とすような真似は結果的にはいたしません! 今宵は「くりしゅます」!どうか、どうかお見逃しを……!』
噛んじゃったけどそれどころではない。数学なんて数字を見るだけで熱が出そうなのに、割と激おこ状態の綾辻と同じ空間にいたら生命活動が停止してしまう。なんとしてでも事態を回避せねば。
『うーん……ちゃんとやる?』
すると、必死の祈りが綾辻神に届いたのか、悩む素振りを見せた。俺はここを逃さない!
『絶対にやります! 天地神明、綾辻御大明神に誓って!』
真剣な眼差しで見つめ合う二人。こうなったら根比べだ。絶対に勝つ!
しばらく見つめ合い、綾辻が顔を赤くして目を逸らす。やったッ! 勝ったッ! 終わったァァァァ!!
『そういえば、この前開発室から経費の相談が来てたんだけど』
しかし、勝ってはいても終わってはいないようだった。
『? それがどうかしたのか?』
『八幡くん、作業用のトリオン兵を開発したんだって?』
『ああ、した。まぁ人手不足を解消したいというのはあったけど、トリオン兵使うと他人に見られたら困るもんも一人で管理できるからな』
『ちょっとスペックと起動データを見せてもらったけど、すごかったね。五指を取り付けてバナナの皮を剥いたり、箸でラッキョウを摘んだりしててさ』
『まぁあからさまに戦闘用じゃない分、技術をそっちに詰めたからな。習字の止め、ハネ、はらいだってきちんとできるぞ』
……今思えば、ただ純粋に嬉しかったんだと思う。自分の業績を褒められて、のせられたというか。
『へぇ。例えば、この問題の読み取りとか解いたりするのもできるの?』
冊子を開いて問題を指し示す綾辻に、頷きをもって返す。
『カメラをもう少し整えなきゃいけないけどな』
『すごいね。これがあればこの宿題なんてすぐに片づいちゃうんだね』
『ああ。お前が帰ったら試運転も兼ねて稼働させてみる予定だ』
『…………へぇ』
『————あ』
しまった。そう思うも、時すでに遅く。逃げる事叶はず。
それから数時間。俺特製のトリオン兵は日の目を見ることなく卵形態のまま全てが一緒に来てた嵐山隊に没収され、開発室長である鬼怒田さんとこ行きとなった。課題の方は、十何冊ある問題集のうちの5冊目に手をつけようとしていた。
問題と睨み合い唸る俺を見て、綾辻はいつものように楽しげな笑みを浮かべる。
もうにっこにこ。すっげぇにっこにこである。
何が楽しいのだろうか。
俺なんかと一緒に居るだけなのに。
……ただ一緒に居るだけでも緊張してしまうのなんて、知りもしないくせに。
そんなことを考え、俺は次の問題へと取りかかった。
次は(胸が)A級の誰かの予定。
-追記-
訂正——B級に降格しました。(胸が)