やはり俺のボーダーでの短編集は間違っていない。   作:ハーマィア

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お久しぶりです。

衝動と眠気のせめぎ合いの中で書き上げました。やっぱ夜は眠いです。


絶対無敵幼馴染小夜子ちゃん

 バレンタイン。年に何度あるかわからない、乙女の祭典。

 

 コイスルオトメたちはこの日に、募らせた想いをチョコと共に相手に渡すのだ。友チョコや義理チョコは個人的にマナー違反、想い人に対する裏切りだと思っているので、彼女は彼以外の異性に渡したりはしない。

 

 ……んゆ? いや、そもそも彼女は彼以外に渡す事どころか、彼以外から(・・・・・)チョコを貰った事がない。

 

 チョコは女の子から渡す物だということを知ったのも、つい最近だ。小さい頃からこの時期は彼が彼女の為にチョコレート菓子を作ってくれているので、バレンタインといえば彼女にとっては彼から甘いチョコレートをもらえる日として認識されている。

 

 しかし、少し気になって調べたバレンタインの本来の意味や現代の日本におけるバレンタインの楽しみ方を知ったからには、自分も何か行動を起こさなければならないだろう。

 

 まがりなりにも彼女は、彼を少なからず想っている人間なのだから。

 

 ……。しかし、基本的に外出というものをしない彼女だから、ネットや同じチームの先輩達などから情報を仕入れるしかない。

 

 ただ、バレンタインの贈り物に関してチームメイトに頼るのだけはやめておこうと思う。何故なら彼女らは心強い仲間であると同時に彼を巡るライバルでもあるのだから。

 

 そういえば、彼女——志岐小夜子にとって真面に話せる異性も彼だけだ。今更だが。

 

「……だからこそ、わたしが比企谷先輩を逃がす訳にはいかない……けど、ネットにでてる情報じゃありきたり過ぎるものばっかだし」

 

 という訳で、頼れる同性に頼ってみたところ。

 

『小夜子の母親の場合』

 

「インパクトが欲しいなら直球勝負が一番じゃないかしら。下手な手作りよりもその気が伝わりやすいというか」

 

「……それって具体的には?」

 

「あの子のお風呂上がりもしくは入浴中を狙ってチョコを頭から被って突撃するとか」

 

「それどこの民族の風習? お母さん頭茹ってるの?」

 

 バレンタインとはいえ未成年であるし、人には言えないが彼と同棲している身としては未だにキス以外に何もさせてくれないのはある意味安心ではあるが、このまま手が出されないまま結婚年齢を迎えるのもどうかと思う。

 

 だからといって破廉恥な真似をしても逆効果だと小夜子は考えたのだが、

 

 食器の水分を拭き取る手を止め、母親は小夜子にジト目を向けた。

 

「……あのね。めんどくさがりなあなたの為にって八幡くんにあなたの身体を洗わせたり、夜は八幡くんを抱きしめながら一緒に寝て腕枕までしてもらっておきながら、今更何が破廉恥ですって? 今日も八幡くんに起こしてもらえなかったら、あなた仕事に遅刻していたでしょう。その分の感謝を込めて身体で払うべきだと思うわ」

 

「それはそれ。別に如何わしいことをしてる訳じゃないでしょ」

 

「……( ^ω^# )」

 

 何か言いたそうにしている母親にジト目を返し、

 

「……それなのに感謝を如何わしいことで払うなんて言われたら、さすがの先輩も三十分は口を聞いてくれなくなっちゃうからだめ。先輩が酔っ払ってたらそういうのもアリかもしれないけど」

 

 直後、小夜子は堪忍袋の緒が切れる音をきいた。

 

「……日頃からでろ甘のイチャつきしておきながら何言ってんだ私らの時ですらあんなことしなかったぞこのバカップル!! 何が参考までにだ! 参考書破り捨てるレベルで愛し合ってんじゃねーよこらー!」

 

「……もう少し恋愛に上手な人の意見を参考にしてみるね。それじゃあね、お母さん」

 

「断言する! アンタら以上に特殊な事情を抱えてるカップルなんていない! てっきりあたしらは1日に2、3回はしてるもんだと思ってたのに初めてはまだってなんだよその変に奥ゆかしい爛れた関係! 早よ突き合え!」

 

「ちょっと何言ってるかわかんない」

 

『彼の妹の場合』

 

「あ、小町ちゃん」

 

「どうも、小夜子お姉ちゃん」

 

「……あれ? この前までは確か『小夜子先輩』って呼んでくれてなかった?」

 

「…………あー」

 

「何かあったっけ」

 

「……いえ、お兄ちゃんと小夜子お姉ちゃんの仲が良過ぎてこれはもう確定かなぁって小町思い始めたんで、そのケジメといいますか。大した意味はないです」

 

「それで、ちょっと相談なんだけど」

 

「小町受験で忙しいんですが……」

 

「ちょっとだけだから。……あのね、今年は比企谷先輩にチョコを渡したいんだけど」

 

「体にチョコを塗ってくれる人を探していると? 悪いですけど小町さっきも言ったように受験勉強で忙しいんで、お兄ちゃんの風呂上がりか入浴中にバケツに入れたチョコを頭から被ってお兄ちゃんに綺麗にして貰えば良いんじゃないですかね」

 

「…………」

 

 アンケート終了。

 

 結果——

 

『何の成果も得られませんでした!』

 

 自室に戻った小夜子は、テーブルに伏して頭を抱える。

 

「……なん、で、わたしの周囲にはまともな人間がいないの……?」

 

 なんというか、バカなのか。

 

 ……だが、まぁ。

 

 最初は、人に頼るべきではないのかもしれない。

 

 ちゃんと相手が喜んでくれるようなものを、わたしが考えよう。

 

 失敗したら、その時はその時だ。

 

 ネット通販で購入してみた手作りチョコレートキットがあるから、今年はそれを作ってみよう。何も工夫ができなくて申し訳ない気もするけど、それでも小夜子の気持ちが少しは伝わる気がする。

 

「すみません三浦先輩。急にキッチンをお借りしたりして」

 

 善は急げというが、この場合周囲のライバルに勘付かれるわけにはいかないので、疑われない為のアリバイ作りも兼ねて知り合いの先輩がいる葉山隊室を、なんと小夜子一人で訪れていた。

 

 普段の小夜子ならありえないと断言されるほどの大胆な行動だが、これには訳がある。今日は那須隊が非番であり、任務もデスクワークもない。しかし、小夜子と八幡が暮らしているアパートでは邪魔が入る可能性が高く、こうして小夜子以外あまり接点の無いA級部隊の隊室にお邪魔しているのだった。

 

「別に良いけど……え? あんたヒキオにチョコあげたことないの?」

 

 三浦が「意外だ」と言わんばかりの表情で小夜子を振り返る。しかし、その手元は止まってはいない。軽快に、かつしっかりとチョコを溶かしていく。

 

「毎年比企谷先輩にチョコを貰っていたので、恥ずかしながらバレンタインの名前を知ったのもつい最近です」

 

 小夜子は、クッキングシートを天板の上に敷き、その上に型を並べていく。その後、三浦がやったように湯煎でチョコを溶かしていく。

 

「……あー、確かにヒキオとあんたの関係じゃそうなりそうね」

 

「それで今年はわたしが先輩に渡したいと思ったんですが、それを那須先輩とか熊谷先輩とかに知られたくなかったんです」

 

「……那須隊が未だに解散してない理由があーしにはわかんないわ」

 

「解散しませんよ。解散なんてしたらあの人たちの動向が一気にわからなくなるんで」

 

「……あー、そういう……那須隊の闇が見えた気がしたし」

 

「はい? 何か言いました?」

 

「なにも。ほら、湯煎する手が止まってる。固まるときに油分が分離して白くなったりするから、中身は均一に行き渡るようにするし」

 

「あ、はい」

 

 ……ここに来た小夜子の目的は場所を借りることの他に、三浦と菓子作りをすることでもあった。

 

 最近は彼氏の為に料理の腕を上げているという三浦に頼むことで、小夜子自身の料理スキル不足も補えると考えた。

 

「そういえば、三浦先輩に聞きたい事が」

 

「何?」

 

「三浦先輩は彼氏さんともうキスは済ませたんですか?」

 

 小夜子にとっては恐る恐る、三浦にとっては随分と唐突に。しかし、その質問で三浦は眉をひそめた。

 

「……はぁ? あーしに彼氏なんていないし」

 

「え?」

 

「どこ情報? 相模? 折本?」

 

 不機嫌な表情で小夜子に詰め寄る三浦。どうやら本当らしい。

 

「……え、私は熊谷先輩から聞いたんです……でも、三浦先輩がお料理上手になったのって彼氏ができたからじゃ……?」

 

「あーし? あーしは——あ、そっか」

 

「?」

 

 何かを弁明しようとして、一人気付く三浦。はてなマークを頭上に浮かべる小夜子だが、そんな彼女に三浦が、

 

「大丈夫、あーしもヒキオも、そんなつもりはないから。料理教わったのだって一人暮らしするためだから」

 

「…………え?」

 

 その言葉に、小夜子の世界が凍りついたきがした。

 

 あーしもヒキオも。つまり、三浦も八幡も。

 

 ——彼氏がいるというのはデマで、三浦は何の因果か、八幡から料理を習っていた?

 

「……でも、最近手とか肩とか触れる事故(・・)が多くなってるし、もしかしたら、振り向き様のキスもあるかもね?」

 

 言って、にっ、と笑う三浦。その時ほど彼女の笑みを可愛らしく感じた事は無いと小夜子はのちに思うことになるらしいが、その時ほどその笑顔が憎たらしいと感じたこともなかったらしい。

 

 

 

 

 

 

「というわけで先輩。謝罪としていつもよりおいしいチョコケーキをお願いします」

 

 家に帰った小夜子は、既に配膳がされていた食卓につくなり開口一番にそう言った。

 

「……なんでそうなるの? 三浦は別に何かやましい事があった訳じゃないぞ。ただ単に将来の為とか知識としてあって損はないからとか頼まれたからであってな、そんな気持ちは微塵もない」

 

「一色さんと全く同じ犯行手口ですねありがとうございます」

 

 箸を置き、ぺこりと頭を下げる小夜子。

 

「あぁ……確かに一色も、お前の提案で生徒会長になるまでは同じように料理は教えてたが。やましい事は誓ってない。というかお前の面倒見なきゃいけないし、そんな事してる暇がないだろ」

 

「……えへへ」

 

 しかし、小夜子を急襲したその言葉の嬉しさに耐えきれず、小夜子は自分の頬をこねくり回す。

 

「……何急に笑い出してんの、キモい」

 

「……可愛い女の子が可愛らしい笑みを浮かべているというのにそれをキモいと言いますか普通」

 

「いや、だって俺が同じようなことしたらキモいだろ」

 

「キモいですね」

 

 頬をこねるのをやめ、小夜子は八幡を見る。

 

「そうだろ。いやそうじゃなくて、このままだとマジでお前、自立して生きてけなくなるぞ」

 

「……人という字は支え合って出来てるんですよ。ちなみにわたしが上の棒で比企谷先輩が下の棒です。……あっ、なんか下の棒ってやらし——むーっ」

 

「口を噤め。それと俺をお前の人生計算に組み込むな。俺は美人で高収入な人と結婚して主夫になるんだよ」

 

 言葉と行動を一致させ、掌で小夜子の口元を覆い隠す。数秒後、八幡は小夜子が大人しくなってから手を離した。すると小夜子は、

 

「先輩。ここに先輩の条件に適合するぴったりな人材がいます。しかも年下。主夫も今の仕事とほとんど変わりませんし、オペレーターの仕事って結構儲かってるんで」

 

 と、自身を指しながら言ってのけた。

 

 しかし八幡は相手にせずに自分の食事に箸を伸ばしつつ、

 

「結婚できる年齢になって、それでも今の関係が続いてたらな」

 

「続きますよ。なんならわたしが命を賭して続かせます」

 

「続かせんな。独り立ちをしろ」

 

 と、小夜子がさり気なく遠ざけていたピーマンの炒め物の器を小夜子の前に置いた。

 

「ふぎゃ。……じゃあ、今の時点で未来を確定させましょうか。結婚年齢が十八でも二十になってもいいように」

 

「ん?」

 

「比企谷先輩」

 

 箸を置き、姿勢を正す小夜子。その眼差しはいつもとはまるで違った真剣な眼差しで、八幡に初めて戸惑いを与えた。

 

「……なんだよ、かしこまって」

 

「一緒のお墓に入りましょう——あいや違います。……結婚、してくれませんか」

 

 盛大に言い間違え、ある種かなり重い告白をしてしまった小夜子だが、それに対する八幡の答えは——

 

「……その時になったらな」

 

 と、どこかハッキリとしない応答。

 

 だが。

 

 その返事の意味は——

 

「え……それは……つまり……?」

 

「ん……まぁ、これからも末長くよろしく頼む。よく考えても、俺もお前以外に思いつかんし」

 

「〜〜〜〜っ!!」

 

「のあっ!?」

 

 嬉しさのあまり、小夜子は八幡に抱きついた。

 

「……すき。すき、すき、すきです……!」

 

 八幡も、彼女を無言で抱き返す。

 

 これから、恋人としての彼らの新しい生活が始まる。

 

 しかし、明日から始まる彼らの新しい生活は、昨日までとなんら変わる事は無い。

 

 何故なら、彼と彼女はとっくの昔に相思相愛になっていたのだから。

 






次回。


礼、襲来
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