輪廻変生 作:猗窩座ァ!
食らい、食らい、食らう。人を食えば食う程に己の力が増すのが分かる。鬼と化しておおよそ十年、穢は自身の身体についての理解を深めていた。
血を与えることによる眷属の作成、その血に刻み込む“呪い”、害となりうる藤の花、多くの人間を食らう事で発現する異能“血鬼術”。致命的な弱点こそあれど、その力は極めて多様で強力だ。
今の穢は、至上命題である太陽の克服を成す為の方策をある程度固めていた。医師の持っていた資料によれば、穢に投与された薬は未完成であったという。欠けていた原材料は“青い彼岸花”。その名称以外は一切が不明の謎の原材料を探すと共に、血を与えた眷属を増やしながら太陽を克服した突然変異体が生まれることを待っていた。正直に言って、穢はあまりに情報の少なすぎる青い彼岸花が見つかるとは思っていない。特異個体の発生と確保、その吸収を画策した方がまだ可能性がある。
今は鬼を増やし、
呪いの一部として施した位置把握の能力によって、鬼達が満遍なく分布している事を確認できた。未だ範囲は狭いが、ここから穢の行動範囲の拡大と共に鬼そのものの勢力範囲も広がっていくことだろう。なにせ、人が鬼を殺す術は極めて限られる。頚を斬ろうとも八つ裂きにしようとも死なない鬼は、日の出の時間と藤の花にだけ気をつけておけばいい。逆に人間は、数倍の膂力を誇る鬼の一撃をまともに受けるだけで命の危機に陥る。その優位は大きい。事実、穢が鬼となってから作り出した眷属達は未だ一体も欠けていない。
ただ、不安要素が一つ。産屋敷────あの忌々しい一族が、穢やその眷属である鬼を追っているという情報が割と早期から耳に入っていた。今はただ鬼に突撃してはほぼ全員食われ続けているようだが、情報が集まればいずれ対抗策を考え出してくるだろう。藤の花を用いた毒か、夜明けまでの拘束か、或いは他の何かか。眷属を通して見た鬼気迫る様子からして、まず諦めまい。
「いやはや、しかし本当にうざったい」
戯れに、足下に転がる男の腹を虫を摘まみ上げるが如き繊細さを以って踏みつける。それなりに気を遣った力加減のお陰で男は死なず、代わりに激しく血痰混じりに咳き込みながら気絶から回復した。
最近、今しがた踏みつけた男のような者が増えている。彼らは穢が増やした鬼や穢自身が食らった者の血縁者や友人だ。全くもってご苦労な話である。穢からすれば食事が自分から雁首揃えてやってきてくれるのだから、特段文句はない。
「鬼舞辻め、父の仇め、人の世を乱す悪鬼め、その悪業の────」
「煩い」
ぱん、と男の頭が弾け飛んだ。それを見て穢は顔を歪めた。産屋敷の事を一通り喋ってもらってから殺そうと思っていたのだが、喧しくてつい殺してしまった。
「こういう短気な所は直さねばな。いつか足を掬われそうだ」
人であった頃に十二分に抑圧されたから我慢などしたくないのだが、流石にそういう訳にもいかない。反省反省、と内心で
産屋敷。
ほんの十年程前までは宮中の中心近くに居た一族の名である。彼らが闇に潜む鬼を追うようになったのは、ある一人の人物に端を発する因縁がきっかけだった。
鬼の始祖、鬼舞辻穢。かの悪鬼は産屋敷の傍流の血筋を汲む一人。己が一族に連なる血より穢のような怪物を生み出してしまったが故に産屋敷一族は呪われ、生まれてくる子供は
────血筋から出た鬼を倒すため、心血を注ぎなさい
産屋敷にとって、その言葉は天啓にも等しかった。その言葉を拠り所とし、産屋敷一族は鬼の首魁にして始祖たる鬼舞辻穢を追い、そして殺す事を悲願とする組織────のちの鬼殺隊となる組織の原型を作り上げた。惜しげも無く私財を投じ、時には己が命すらも自ら
現状、鬼の生態はそのほとんどが謎に包まれている。分かっているのは人を食う事、頚を斬ろうと四肢が千切れようと死なず再生する事、何故か夜にしか活動しない事である。血族より原初の鬼が現れてから十年が経ち、今なお手元にある情報は少ない。鬼に殺された人々の遺族が組織の新たな人員として参入する為に組織の崩壊には至っていないが、死者が多すぎて人手不足は常に深刻だ。首魁の鬼舞辻穢どころか末端の鬼すら未だに殺せていない。産屋敷一族は呪いを和らげる為に神職の一族より女性を娶り、しかしそれで漸く次へと繋ぎうるという有様。不死身の配下を実質無尽蔵に増やせる鬼舞辻とは雲泥の差がある。
それでも産屋敷は、組織の構成員は、遺族達は繋いでいくのだ。例え何年、何十年、何百年掛かろうとも。いずれ鬼舞辻の命に報復の刃を届かせる、その瞬間まで。