輪廻変生 作:猗窩座ァ!
都合、六百年。それが今まで穢が生きてきた時間であり、そして同時に産屋敷が穢を始めとした鬼に追い縋ってきた時間でもある。
いい加減しつこい。六百年もの間穢の追跡を逃れ、末端の鬼を地道に朝日で焼き殺してきた連中である。その努力と執念は穢も認める所だが、粘着される側としてはやってられないというのが本音だ。たちの悪いストーカーが徒党を組んでいるのだろうか。そう考えるとさしもの穢も些か気持ちが悪い。
それはそうと────
「日輪刀、ねぇ」
手の中にある刀をくるくると弄ぶ。日輪とは、また大きく出たものだ。穢には通用しなかったが、少なくとも眷属の鬼達には効果的らしい。この刀で頚を斬ると、鬼は死ぬ。穢はこの刀を見た時に藤の花や日光に感じたような、言葉にできない本能的な忌避感を覚えなかったので敢えて受けてみた。普通に再生出来たので、あくまで眷属にしか通用しないらしい。日輪刀の有効性を認識した時点で、一応今存在している全ての鬼に呪いを通して注意喚起を促した。知ってさえいれば問題はない。人の身では鬼の身体能力には太刀打ちできないのだから。
ただ、もしも。鬼に比肩しうる身体能力を持つ人間が現れたなら。あるいは、そのような身体能力を発揮する方法が現れたなら。
「……安全策は用意すべきか」
先ずはより多くの鬼を作らなければ。そしてそれらが血鬼術を発現させるのを待ち、その能力を確認すべきだ。もしその異能が安全の確保に有用ならば────他の
考えを纏めた穢は、踵を返した。びきびきと軋むような音を立てて穢の指に無数の血管が浮く。素体となるべき人間を求めて、始祖の鬼は夜闇へと姿を消した。
産屋敷は歓喜した。
これまで、鬼の弱点は非常に限られていた。すなわち、日光か藤の花である。このうち藤の花は人間にも毒性があって扱える人間に制限がある上、多くの人を食らった鬼は藤の毒を個体差こそあれど分解してしまえる。
残るは日光だが、そんな事は鬼も承知の上。捕まりそうになったり夜明けが迫れば躊躇なく逃走を選ぶし、捕まったとしても血鬼術なる異能によって脱出する鬼も決して珍しくない。
そんな中、鬼を殺せる第三の手段が見つかった。太陽に最も近いと言われ、一年中陽の射す山とも呼ばれる陽光山。そこで採掘される
鬼を殺す手段は得た。後はその手段を活かす為に必要なものを積み上げていくまで。ひたすらに鬼に狩られ続けた今までとは違う。これからは人が鬼を狩るのだ。そしていずれは先人達の悲願を────。
穢は歓喜した。
これまで、穢は一カ所に留まるということをしなかった。老いず、朽ちぬ不死の肉体。それは素晴らしいが、人に紛れるという点には適さない。姿を自在に変える事は容易いものの、いつまでも死なぬというのはおかしいし、日中に外に出てこないというのも周囲の不信を掻き立てるだろう。隠れ家を複数有してはいたものの、腰を据えるべき地がないというのは何かと不便だった。各地を回る移動時間も決して短くない。完全に無駄とは言わないが、それでもやはり大幅なロスではあった。
そんな中、ある一体の鬼が穢にとっての光明となった。鬼としては珍しく闘争を好まず、力を欲さず、しかしそれ故に賢しく隠れ潜んで人を食らい、着実に力を蓄えた女の鬼。発現した血鬼術は空間を操作するタイプのもので、異空間を管理するという一際異質かつ強大なものだった。襖を介する事による長距離の転移を自在に行い、和風建築の要素を無節操に継ぎ合わせたような異空間を意のままに組み替え操る。
その力は、まるで誂えたかのように穢が欲していた能力そのもので。その鬼を呼びよせ、手ずから『
穢が鳴女という有用極まりない配下を獲得した数年後。細胞にまで深く刻まれる程の強烈な恐怖とトラウマを与える男がこの世に生まれ落ちた。
始まりの呼吸の剣士、