今。俺は幸せだ。世界で一番幸せである。
何故なら、温泉に入っているからである。
温泉とは冷気に包まれて冷え切った俺の体を芯までを暖め体中の疲れを吹き飛ばしてくれるオアシスである。もしかしたら天国かもしれない。いや、もしかしなくても天国以上。人生最大の快楽を与えてくれる場所だ。
世の中この快楽を知らない人間が多すぎる。…いや知る人間は少なくていい。出来れば俺1人で独り占めしたい。
他の
だから俺以外温泉に入ってくるな。
「湯加減どうですかね?」
声のする方を見ると女の従業員がこちらを見てニコニコと微笑みを見せてくる。
思春期ほどではないにしろ俺にだって羞恥心というものがある。異性に裸を見られるのは正直、羞恥心を越え嫌悪感を感じる。
俺から見ればこの女は温泉というヘッブンに現れたテロリスト。いや悪魔である。
「ちょうどいいですよ」
だから早く出てけ。と口に出したかったが理性がそれを引き留めた。
俺は女がいないものとして温泉のエクスタシーを堪能することに決め、空を見上げた。星が夜空をまばらに散らばっている。別に星の名前も知らない。特別に天体観測がすきという訳ではない。心地よい温泉と湯気に包まれる露天風呂から見る夜空が乙なのだ。
「んー確かに…いい感じですね」
唐突に声が聞こえた。そういえばデビルがここにはいたのだったか。ただその声は俺の目線を夜空から女の方に向かせた。
温泉宿の従業員の服は浴衣で、屈むとたまに胸等が見えてしまうらしい。
彼女は屈み、手を温泉につっこんでいた。湯加減を調べたいのだろうから当たり前といえばそうなのだが、今の俺にはそんなことはどうでもよく、詰まるところ…見えそうなんだ。
直ではない。下着が見えそうだ。だがそれでいい。
湯気!邪魔!そういう少年誌みたいな対応いらねーから!!
まじ使えねーな。俺に
「お客さん見てると気持ちよさそうですもんね~私も入りたいなー」
入る!?一緒に入るのか!??大歓迎だ。むしろ
「…お客さん?」
「え?あ、はい何でしょう。」
「大丈夫ですか?なんかぼーっとしてますよ」
「大丈夫です。続けてください。」
彼女は不思議そうな顔をしてこちらを見ていた。いや、続けて貰ってはだめだろ。早く出てって貰わないと。
俺が
「いえ、あんまり喋ってると怒られるのでそろそろ失礼します。9時には閉まりますけど…それまでごゆっくりどうぞ~」
「…え?」
彼女はあっさりと露天風呂から出て行った。ふーっと大きい一息をつき空を見上げる。
さっきは気付かなかったが大きな満月がこちらを見ていた。
「……大きいなあ」
独り言は唐突に吹いた風にかき消される。風に冷やされ頭がすっきりとしていく。朝気持ちよく目覚めたときのようにのぼせた頭が澄んでいく。ちょうど股間も朝のようになっていた。
だから俺は多分寝ていたのだろう。夢だったのだ全部。何故なら俺が現実で温泉の快楽ではなく性欲に頭を支配されることなんてあり得ないのだ。
だけどまた、湯気で見えにくいが胸とそれを覆っている下着が脳裏にチラリとよぎる。
「大きかったなあ」
意味もなくまた独り言を繰り返した。設置されてる時計を見ると9時を指していた。俺は屈みながら露天風呂を後にした。
書きかけ放置してた奴の供養。
露天風呂だとたまに従業員の人が湯加減調べにくるよね。たぶん。そうだと思う。俺の主観では。だいたいがおばさんだけど。