Over the aurora《完結》   作:田島

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幕間(3)

 圧倒的に不利な状況の中に、彼等は置かれていた。

 ゼクトルーパーは小隊単位で当たれば二匹三匹のワームの蛹には対応できる装備と火力を備えている。そして敵は脱皮したワームのように対処しきれない速さを持っているわけでもない。

 ただ、敵の数があまりに多すぎて、対処しきれないのだ。

 下手を打って突出すればすぐ敵に囲まれる。

 とにかく陣形を崩さない事。これが、最優先事項として天道がZECT隊員一同に下した厳命だった。

 だが、元々人間側は、数の上で圧倒的に不利だ。陣は押され、後退し続けている。

 人間側の主戦力――加賀美ではないアラタのガタックと、剣立カズマの仲間というレンゲルは奮闘していたが、二人でどうにかなるような数ではない。

 剣立カズマのもう一人の仲間――ギャレンが、剣立を呼びに行っているが、一人二人増えたところで状況に変わりはないだろうし、いつまでものんびりと待ってもいられない。

 俺が出なければならないか。

 天道はそう考え、ゼクターを呼ぼうとする。

 彼がZECTを指揮しているのは、小隊毎でバラバラに敵に当たり指揮らしい指揮が為されていなかったZECTに業を煮やしたからだ。指揮に徹する為に自身は、ソウジと名乗るリ・イマジネーションのカブトをZECT本部に送り届けてから変身していない。

 しかしこの状況では、そんな事を言っていられないようだった。

 せめてザビーとドレイク、サソードの資格者がリ・イマジネーションの世界にも存在していれば。そうは思うが、無い物ねだりに過ぎない。

 その時。後方から飛来した物が、敵――ミラーモンスター達の群れ――のただ中に着弾し、炸裂した。

 ロケット弾だ。天道は後方を見た。

 片側三車線の車道を一杯に使い、何台かの戦車が進んでくる。その傍らには、武装した警察官と思しき者達。そして、青いパワードスーツに身を包んだ何人かの者達。

「撃てーっ!」

 号令がかかり、戦車の砲身が火を吹いた。弾頭はZECT隊員やライダーの頭上を飛び越え、敵の群れの中に叩き込まれる。

 怪人達にピストルやライフルなどの通常の火器はあまり用をなさないが、戦車クラスの重火器ならば話は別だ。

 男が一人、後方の部隊から飛び出し、天道の元へと駆け寄ってくる。

「おいあんた、何してるんだ! ここは危険だ、早く逃げろ!」

 慌てた様子の男は、年の頃は三十を過ぎた位だろうか。通常の警察官のそれよりもかっちりとした、桜の御紋のエンブレムが仰々しい制服を身につけている。

「心配は無用だ。俺は指揮官としてここを離れるわけにはいかん」

「じゃあ……あんたが、あの蟻っぽいのと、ライダーみたいな奴らを指揮してるのか?」

 男は驚いたように天道を見た。天道も、男の言葉にやや驚いて男を見つめ返した。

「お前、ライダーを知っているのか」

「俺も、一応、ライダーらしいからな。あんたもしかして、紅渡の仲間か」

「奴とは協力関係にある」

「そういうの仲間って言うだろ……まあいい」

 男は呆れたように天道を見つめ、息を吐いた。

 対照的に、天道の顔は自然とほころんだ。

 紅渡を知っているなら話が早い。目の前の男は、喉から手が出るほど欲していた、貴重な戦力だ。それが重火器という土産付きで現れてくれたのだ。何という僥幸。

「見たところあんた警察官のようだが、あの戦車はどうした」

「借りた。怪人どもに警察官の装備で立ち向かうのは無謀だからな。自衛隊は動きが遅すぎる」

 恐らく、『借りた』ではなく『かっぱらった』なのだろうが、何にせよ百人力だ。

「これで態勢も立て直せそうだ。あんたもすぐ変身して戦うんだ」

「……何か引っ掛かるが、元々その積もりだったしまあいいか……」

「何をぶつぶつ言ってる、さっさとしろ」

 天道の上から目線に男が引っ掛かっているのは明らかだったが、そんな事に気を回す天道ではない。

 何を言っても無駄と悟ったのか、男が両拳を脇腹の傍に構えると、呼応してオルタリングがその腰に現れた。

「ほう、アギトか」

 天道が感心したように声をあげた。男は駆け出しながら、低く通る声で叫んだ。

「変身!」

 掛け声と共に男が両脇のスイッチを押すと、彼の中に既に覚醒しているアギトの力が、彼の肉体を変化させていった。

「各隊に告ぐ。後ろの戦車は警察、今突入した金色の生き物は仮面ライダーアギト、どちらも味方だ。決して間違えて攻撃するなよ。協力して各自、敵に当たれ」

 耳に引っ掛けたインカムのマイクを手元のスイッチでオンにし、天道がZECT隊員に告げる。

 天道の横を、肩にG5と刻み込まれた青いパワードスーツを纏った四五人が駆けていき、ミラーモンスターと戦い始める。

「よっ、天道。なーんかえらい事になってるなぁ」

 後ろから聞き慣れた、天道のペースを狂わせるあっけらかんとした声がした。

 振り向けば、そこにいるのは、他ならぬ装甲響鬼。

「何を他人事の様に……挨拶はいいからあんたもとっとと行ってこい」

「あれぇ、言われた通りにすっごい援軍連れてきてあげたのに、そういう事言う?」

 ヒビキの言葉が終わるか終わらないか。空を裂いて、高らかに警笛が鳴り響いた。

 現われたのは、ご存知デンライナーともう一台。天道は初めて見る。黒と緑のSLを思わせるフォルムを持った、もう一つの時の列車――ゼロライナーだった。

 デンライナーとゼロライナーはそれぞれモンスターの群れの上空すれすれを走り、過ぎ去った後に四人の人影を残していった。

「カウントはなしだ、どんどん片付けるぞテディ!」

「了解だ」

 電王の割れた桃を模したと思われる目をさらに尖らせた青い電王は、奇妙な形の青い剣を上段に構える。

「最初に言っておーく。皆さん初めまして、侑斗をよろしく!」

「それはもういいんだよ、いいからお前は黙ってろ!」

 黒と緑のプロテクターに長いマント、長剣を手にした戦士。胸には烏のようなレリーフのようなものがあり、口とは別にそこから声が出ている。

 傍から見ると、声まで完璧に使い分けた一人ボケツッコミにしか見えない。

「よーし野郎共、最初からクライマックスで、バンっバン行くぞ!」

「バカモモは引っ込んでてよ。僕があいつらやっつけるんだから」

「だぁっ! 小僧、勝手に動くんじゃねぇ!」

「変わるけどいいよね、答えは聞いてないけど!」

「はいはい、先輩もリュウタも喧嘩しない、順番順番」

「順番言うたかて、誰が一番最初なんや?」

「俺に決まってんだろ!」

 もう一人、一人漫才。やはり電王のようだが、体の各部の色がちぐはぐで、統一感の欠片もないオーラアーマーがその体を覆っている。

 何かお面のような物がレールの上に敷かれているように見えるのは目のせいか。

「よしみんな、行くよ!」

 そして良太郎のライナーフォーム。

「おい……俺は今迄の人生の中で、未だ嘗て、こんなにも強い不安を感じた事はなかったぞ……」

「あー、大丈夫大丈夫。みんなああ見えて、結構鍛えてるみたいだよ?」

 ははは、とヒビキに軽く笑われ、天道は頭を抱えた。駄目だ、己までがこんな漫才をしている場合ではない。

「もういい……あんたは早く、野上をフォローしてやってくれ」

「あ、天道君やっさしー! 俺は信じてたよ、君のその優しさ!」

「無駄口叩いてないでさっさと行かんか!」

「はいはい。おっ、援軍第二陣、来たよ!」

 ヒビキはそう言い残すと、良太郎の元へと駆けていった。

 戦車の向こうから、砂塵を巻き上げ走り来たるのは二台のバイク、ブルースペイダーとレッドランバス。

 そして、その後ろに続くのは、十数人と思しき鬼の群れだった。

 これだけの戦力をヒビキが引き連れてくるとは、流石の天道も予想だにしていなかった。人徳というべきなのか何なのか、何にせよ頭が下がる。

「遅くなった、悪い!」

 バイクを降りたブレイドが、律儀に天道にそう声をかけて、ギャレンと共に駆けていき、鬼達もめいめい敵の群れへ突っ込んでいく。

「各隊へ告げる。見た目が少々紛らわしいが、今後方から現れた一団は怪人ではなく鬼、我々の味方だ。各小隊は陣を下げ、フォーメーションF、鬼達の後方支援に切り替えろ。なおガタックはそのまま、各ライダーと連携しつつ敵を殲滅しろ」

 インカムを通じての天道の司令が届き、ゼクトルーパー達は陣を後方に下げ、敵前には鬼達が入る。

 ヒビキ程の手練がいるかは分からないが、鬼一人の力はゼクトルーパー十人分にも二十人分にも匹敵する筈だった。

「後は残りの連中と……ディケイドか」

 滅びの現象はここだけで起きているわけではない。

 だが、戦力を結集しなければこの一ヶ所だけでも対処しきれない事も事実。

 元凶を叩かなければこの混乱は終結しない。ならば戦力を分散させるのは愚の骨頂、一点突破に賭けるべき。天道はそう考えた。

 個々の戦闘力が高いとはいえ、高々十人そこらが分散して戦ったところで、どうにかなるような混乱ではないのだ。

 そして、天道は自分の目の届かない場所ではなく、ここに、元凶をおびき寄せたい。

 奴の目的がライダーの殲滅である以上、多くのライダーが集まる場所に姿を現す筈だった。

 自身の力に圧倒的な自信を持っており、数などに恐れはなさないであろう事は、間近で奴の言動を見ていた小野寺ユウスケの話から推察できた。

 その為に、ZECTへの退却中に遭遇したヒビキ、ゼクトルーパー達を引き連れて戦い始めた時に遭遇した乾と津上、真司に、今天道がいる場所に戦力を集結させたい旨を説明した。

 奴が姿を現しさえすれば、負けない自信は天道にはある。

 今度こそは逃がさない。その為には、奴の逃げの手を封じなくてはならない。それには手数が必要だ。黄色いディケイドが対処し切れなくなる程の、圧倒的な手数が。

 奴が姿を現わすまでは何としても、この戦線を持ち堪えさせなければならない。

 もどかしさに天道は歯噛みする。だが、今は耐えなくてはならない。

 

***

 

 銀のオーロラを通り、大ショッカー戦闘員達が次々現れる。彼等は一様に、重そうな部品を持っていた。

 手間だ、とアポロガイストは思う。だが、自身が先の戦いのダメージで動けない間に、次元移動の場を作り出す装置が次々ディエンドによって破壊されてしまった。これでは、目的を達成出来ない。

「急げ、そんなに時間はないのだぞ!」

 部下達を叱咤する声にも、思わず怒りが混ざる。

 げに忌々しきは仮面ライダー。

 だがこの戦いが終われば、もう仮面ライダーなど生まれない。大ショッカーが、邪魔者などなく世界を掌握出来るようになる。

「そうだ、急げよアポロガイスト。気の短い俺が待ってやってるんだ、有り難く思え」

 ライダーと同じだけ気に喰わない声が後ろから響く。

 傀儡が、と心の中で毒付く。だがディケイドがいなければ、大ショッカーは目的を達成出来ない。

「目下、鋭意作業中であります。閣下の寛大なお心遣いに感謝いたします」

「おべんちゃらはいい、俺は結果が欲しい」

 にべもなく言われ、誇り高いアポロガイストは内心、忸怩たる思いを噛み締めていた。

 だがそれも耐えなくてはならない。

 少なくとも、大ショッカーがオリジナルの世界に渡り、全宇宙から仮面ライダーの存在を抹殺する時までは。

 このような中身のないお飾りの大首領など、と思う者はアポロガイストの他にも数多く居る。

「必ずや閣下のお心に沿うようにいたしますれば、今暫くのご猶予を。それよりも、邪魔をする仮面ライダー共を始末していただきたく存じます」

「面倒なのは後は天道総司くらいのもので、他は似たり寄ったりの雑魚だ。ディケイドに生み出された奴らは、どうせこの世界と一緒に消えるんだしな。少し遊ばせろ」

「しかし、兵達や幹部が続々倒され、我らの被った被害も少なくはありません」

「……ふん、まあいい。始末はしてやる。俺に使えないと思われないよう、精々励むんだな」

 面白くなさそうに吐き捨てて黄色いディケイドは、踵を返し歩き出していった。

 ライダーさえ消えれば用済み。今に見ていろと、また心の中でだけアポロガイストは呟いた。

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