Over the aurora《完結》   作:田島

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幕間(1)

『Clock Over』

 無機質な機械音声が響き渡り、その場に展開していた異形が五体、突如として青い炎をあげ、燃え尽きて灰となり、崩れ落ちた。

 それから刹那を置いて、太陽の神――仮面ライダーカブトが、まるで蜃気楼のように前触れなく、その向こうに姿を現した。

 彼は、かつて人間であり、異形となってしまった者の成れの果てである、白い灰が風にまかれていく様を見つめていた。

「いやぁ、お見事、お見事」

 拍手が響いた。カブトが音のした方を見ると、彼の連れが、変身もせず、さも感心したような顔で拍手を送っていた。

「拍手はいらんから、あんたも働け」

「だって、替えの服がないんだもん」

「だもん、じゃない。いい歳をして忘れ物をした小学生みたいな物言いをしないでくれないか」

「どうせオジサンですよ。だから若い者に任せます」

 彼の連れは、まるで小学生のように唇を尖らせて、拗ねたようにそっぽを向いた。

 カブトは相手にしきれないとでも言わんばかりに、無言で、腰のゼクターのレバーを戻した。

 変身が解除され、カブトゼクターは何処かへと飛び去っていった。

「あんたが働かないから、実質、俺が一人で戦っているようなものだ」

「そう言うなよ。あっちの二人も頑張ってるよ。ほら、もうすぐ終わりそうだ」

 天道総司は、彼の連れ――ヒビキが指差した方に視線を向けた。

「や、やあーっ」

「とりゃー」

 そこでは彼の仲間二人が、やはり異形三体を向こうに回し、戦っている。

 赤い騎士――龍騎はまだいい。まだ許せる。

 荒削りすぎるが、大型の個体が多いミラーモンスターを相手に戦い続けただけはある。大振りだが、狙いも正確だしスピードもある。

 更に、意外にトリッキーな動きが得意で、予測できない動きに敵も翻弄されている。

 だが、とにかくもう一人が話にならない。

「何であいつはあんなに屁っ放り腰なんだ……?」

「まあまあ、そう言うなって。あれだ、酔拳みたいなもんなんだろ、多分」

「そんな馬鹿な話があるか! あいつはどう見ても、腕力が足りなさすぎて屁っ放り腰になっているようにしか見えん!」

「昔はもっとヨロヨロしてたんだってよ。あっほら、攻撃当たってる当たってる」

 確かに当たったが、腰の入っていない横薙ぎは、相手にさほどのダメージも与えていないように見えた。

「大体にして、あの剣が重すぎるんじゃないのか! 何でもっと体に合った武器を使わないんだ!」

「ああ、あれ、持たせてもらったけど、すっごく重たいよ。何であんな重いもん振り回してんだろうね、ははは」

「ははは、じゃない、はははじゃ!」

 調子が狂うのか、いつになく天道の語気は荒い。

 ヒビキはそれを軽く笑って流したが、ふと不思議そうな顔をした。

「そんなに気になるんなら、変身解除しないで助けに行けばいいのに」

「そこまで甘やかしてやる謂われはない」

 ふん、と鼻から息を吐いて、天道はそう言い切った。

「はいはい。なんだかんだで優しいんだなぁ、君は」

「何故そうなる……」

「だって、自分がやれば簡単なのに、二人のプライド傷つけないようにしてるんでしょ?」

「……どこをどうすればそういう解釈になるんだ」

 天道がヒビキとの会話の噛み合わなさに苦しんでいる間に、眼前の戦いには決着が着こうとしていた。

「いくよ、みんなっ! 電車斬り~っ」

「とりゃー」

 電王のオーラを乗せた渾身の斬撃が直線上にいた二体を一気に薙ぎ払い、残り一体は龍騎が腕に装備した龍を模した武器のようなものから吐き出された炎の塊に飲み込まれた。

「ほらほら、あの電車斬り! かっこいい!! あれ、あの剣がないと出せないんだって!!」

 我が子が運動会で走る姿をビデオカメラのファインダー越しに見守る父親か、あんたは。

 まるで福引きでハワイ旅行でも当てたようにはしゃいで天道に電王の活躍を報告するヒビキを見て、天道は深い疲れを覚えて、息を吐いた。

「おい、色々言ってたみたいだけど、元々あんたが乾と喧嘩しなきゃ、こんな苦労してないんだぞ、そこんとこどう思ってるわけ?」

 変身を解除した龍騎――城戸真司がつかつかと歩み寄ってきて、天道に掴み掛からんばかりに詰め寄る。

「お前の事は何も言ってないだろう」

 天道は微動だにしないまま、適当に真司の言葉を横に流した。

 後ろから電王――良太郎も追い付いてくるが、緊迫した雰囲気におろおろとしている。

「二人とも、喧嘩は止めて下さい。僕達、協力しなくっちゃ」

「うんうん、良太郎の言う通りだ。二人ともいがみ合っても仕方ないし、この際仲直りしちゃえよ」

 良太郎とヒビキが代わる代わる二人を諫めるが、天道はともかく真司は収まりがつかないようだった。

「いいや、今日という今日は言うぞ。俺も乾と同じ気持ちだ。破壊者だか何だか知らないけど、一人に八人がかりなんてありえない。それを頭ごなしに、なら出ていけ、とか言ったら、乾じゃなくても出てくだろ」

「ディケイドは倒す。それ以外の選択肢はない。手段を選べるような生半可な相手でもない。お前は不満があるなら何故残っている?」

 天道の言葉に真司は答えず、ただ真っすぐ天道を睨み付けた。言葉に詰まったわけではない様子で、焦りは見受けられなかった。

「俺は、大ショッカーだかなんだかっていう奴等と戦う為にここにいるんだよ。間違っても人間と戦う為じゃない」

「それならそれでいいが、せめて、俺がディケイドを倒す邪魔はするなよ」

 掴みかからんばかりの勢いで真司は天道に詰め寄るが、天道は眉一つ動かさず、無表情のまま言い放った。

「はぁ? あんたホントムカつく! こんなにムカついたのは、小学校を休んだらその日に限って給食にプリンが出てた時以来だよ!」

「随分安いな……俺への怒りを表現する言葉として安すぎる。何かもっと高級且つ重要そうな例え方ができないのか?」

「給食のプリンの重要さが分からないところがまたムカつく!」

 真司は真司で、ヒビキとは別のベクトルで天道と噛み合わないようだった。

「真司さん、プリンなら僕のをあげますから喧嘩しないで下さい……」

「いや良太郎、そういう問題でもないと思うよ……」

 苦笑いをして、ヒビキは天道と真司、二人の間に割って入った。

「お腹空いてるからイライラしちゃうのかもよ。今日はシンちゃん、餃子作ってくれるんでしょ? さっ、帰って餃子餃子」

 ヒビキに言われて、真司は已むなく頷いた。

 この温和な年長者に噛み付くほど、真司は見境がないわけではない。

「餃子か……果たしてこの俺を満足させる事が出来るかな」

「俺の餃子ははっきり言って美味いけど、お前には食わせてやんないよ」

 再度言い争いに発展しそうな空気が流れるが、ヒビキは天道と真司の間に割って入る。

「まあまあシンちゃん、抑えて。ディケイドと戦うべきか戦わないべきか、判断するには情報が足りなさすぎるよ。ただ、災厄ってのは、大抵は自分が災厄だとは思ってないもんだ」

 やけに神妙な顔のヒビキに見つめられ、真司はまたも黙らざるを得なかった。

 

 優衣が消えてしまう――。

 もう二度と聞く筈もなかった、忘れ去っていたその声が、真司が失っていた記憶を全て思い出させた。

 神崎士郎の声は消え入りそうで、耳鳴りもどこか遠い。

 声はやがて細くなって消えて、手元には懐かしい、カードデッキが残されていた。

 ミラーワールドにはもうアクセス出来ないようだったが、真司は繰り返しの記憶と共に失っていた龍騎のデッキを、再び手にしていた。

 彼の世界は、何処でもそうであるように人同士の諍いはあるものの、モンスターなど影もなく平和そのもので、ライダーバトルなどなかった事になっていた。

 蓮はただの、優衣のいない花鶏の常連となっていた。柄が悪いのも金に細かいのも変わらない。あのころの蓮のままだ。

 真司は、自分だけが全てを思い出してしまった事が、たまらなく悲しかった。

 そこに、迎えが来た。

 優衣はもういない。だけれども、何処かにいるというのならば、その存在が消えてしまうなんて、許せるはずがない。

 真司は何も考えずに付いてきて、今ここにいる。

 何が正解なのかなんて分かりはしない。だけれども、彼はあの、ライダーバトルの頃から何も変わっていない。人間とは戦えない。

 彼がライダーになったのは、怪物から人を守る為なのだから。

 こんな事なら付いてこなければ良かった、というのは思った。

 だが、ここにいて自分が出来る事もあるのかもしれない。そう思い直し、ここに残っている。

 きっと人間同士の戦いを止める為に、何か出来る事はある。そう今も信じている。

 

「きっと、乾さんと津上さんも、別のところで大ショッカーと戦ってますよ。僕、そんな気がします」

 後ろから追いついてきた良太郎が、小声でそう、真司にだけ言った。

 そうだよな、と小声で答えて、真司はやっと笑った。

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