ここ数日、比企谷先輩が生徒会に来ない。
会長に聞いたら、仕事が一段落したから、頼んでないとのこと。少し寂しい…。
距離が縮まったと思ってたのに。
校内でも見かけることが少なくなった。以前、比企谷先輩が言っていた得意の『ステルスヒッキー』なのだろうか。
今日も比企谷先輩に会えなかった…。そんなことを考えながら一日の授業を終えて机でため息をつくとクラスメイトに声をかけられた。
「沙和子どうしたの?」
「なんでもないよ」
「また、あの先輩に話しかけられたの?」
「え?」
「ほら、え~と、ヒキタニとかいう先輩。文化祭で実行委員長泣かせたって」
嫌な予感がする…。
「この前、言ってやったのよ。『沙和子が迷惑するから話しかけるな』って。あんな悪い噂がある…」
やっぱりだ…。それで先輩は…。
「なんでそんなこと言ったの?」
「え?沙和子?」
「比企谷先輩は、そんな人じゃない!」
自分でも驚くぐらいの大きな声が出ていた。
「比企谷先輩は、自分のことより周りを大事にして、不器用だけど優しくて…友達付き合いがヘタで…」
自然と涙が出てくるのがわかる。
「さ、沙和子…」
「私は、そんな比企谷先輩が大好きなの!なんで私の大好きな人にそんなこと言うの!」
気がついたら、走り出していた。後ろでクラスメイトの声がしたけど、どうでもよかった。
気がついたら、奉仕部の前に居た。中から話し声が聞こえる。
「比企谷君、生徒会の手伝いはいいのかしら?」
「ん?ああ、大丈夫だ」
「じゃあ、こっちに居られるね」
比企谷先輩、雪ノ下先輩、由比ヶ浜先輩だ。
「先輩、嘘ついちゃダメですよ」
会長の声もする。
「いいんだよ」
「良くないですよ。生徒会に来ないのは、書記ちゃんのクラスメイトに言われたからですよね」
「どういうことかしら?比企谷君」
「一色、余計なこと言うなよ」
「ヒッキー?」
「…藤沢のクラスメイトにだな、藤沢に近づくなって言われたんだよ」
「だから、生徒会にも来ないし、移動教室も気をつけてるんですよね?」
「比企谷君らしいやり方ね」
「ほっとけ。それに、俺と藤沢じゃ住む世界が違う」
そんなことない…。そんなことない…。
「そんなことないです!」
奉仕部の扉を開けて、大きな声を出していた。
「藤沢…。聞いてたのか…」
次の瞬間には比企谷先輩の胸に飛び込んでいた。
「私、悪い噂とかに負けません。だから、だから、私から離れないでください」
思い切り比企谷先輩の胸で泣いていた。
頭を撫でる優しい感触が…。
「悪かったな、藤沢。だからもう泣くな」
「先輩も悪い噂に負けないでください」
「わかったよ」
いつまでも、比企谷先輩に撫でていて欲しい…。
「比企谷君?」
「ヒッキー?」
「先輩?」
「いつまで、抱き合っているつもりなのかしら?」
「うわっ!すまん、藤沢」
「い、いえ。大丈夫…というか、嬉しかったというか…」
比企谷先輩の顔が真っ赤だ。私もだろうか…。
「二人はどういう関係なのかしら?」
「え?いや、と、友達?」
「ヒッキー!私とヒッキーって友達だよね?私も撫で撫でしてくれるの?」
「いや、時と場合によってだな…」
「比企谷君、貴方は私に友達になろうと言ったわよね?」
「断られたけどな」
「いいわ。なってあげるから、私も撫でなさい」
「なんで上から目線なの?」
「せんぱ~い、私も…」
「あざといから却下」
「扱いがヒドイです~」
「比企谷君…」
「ヒッキー…」
「先輩…」
「そうだ、藤沢。本屋行く約束してたな。行こう。今すぐ行こう」
「え?」
「じゃあな」
奉仕部の方々が色々言っているのが聞こえたが比企谷先輩が私の手を引いて、連れ出してくれた。
この手、離したくないな。