「…見つけた。」
頭巾を目元が隠れるほど深く被った男──二郎丸が呟く。彼はお館様直々の命によりこの森に来ていた。
二郎丸が見据えたその先には動く何かがいた。四つん這いで移動していたため一瞬熊かと思ったが、直ぐに鬼であると理解した。鬼を見つけた二郎丸は木に登りその鬼を観察するにした。
赤黒い肌をしており、肥大化した上半身にそこから伸びる木の幹の様に太い腕。獣のような後ろ足にトカゲのような太く長い尾が生えている。だがそれ以上に気になったのはその巨体、立ち上がれば三メートルは優に越えているだろう。
これを見て二郎丸は成る程と思った、この鬼に立ち向かった一般隊士は直ぐに駆逐されてしまっただろう、そして直ぐにでも討伐しなければ更に被害は大きくなるのは確実だった。
木から降りた二郎丸は腰に携えた深い緑に刃が染まった二本の脇差を抜く、そして大きく吸い込み吐き出した息は、唸るような腹に重く沈みこむ低い音がした。
ここで、二郎丸の使用する“影の呼吸”について説明する。
影の呼吸は風の呼吸から派生した呼吸であり、型の数は七つある。適正がある者は日輪刀が濃い緑色になり、適正が強ければ強いほどより深く濃い色となる。
数少ない二刀流を基とした呼吸であり、全ての型が攻撃力、攻撃回数を重視しているため、名前に反して非常に攻撃的な呼吸である。
ただ、無理に使用すればすぐに疲労がたまってしまい、さらに型と型を上手く繋げなければ隙が生まれてしまうため、かなりの技術を必要とする扱いが非常に難しい呼吸である。
二郎丸が呼吸をする度に黒い霧が辺りに立ち込めどんどん深く濃くなっていく。当の本人は右足を大きく引き腕と脇坂で円を作る様な構えをとる、そして鬼を見据えて宣言する。
「全集中 影の呼吸 肆ノ型 『
時間差で振り上げた二本の刃は辺りの黒い霧を巻き込み、乱気流を発生させて大きく畝りながら鬼へと向かって行った。
鬼がそれに気付き慌てて飛び退くが、不規則に動くそれの起動を読みきれず、その畝りに腕を抉られていた。
「グォォォオオオ!?」
腕の痛みに絶叫する鬼だが、直ぐに腕は再生していき既に元に戻っていた。
しかし、二郎丸もそれを只見ているわけもなかった。肆ノ型を放ったと同時に自信も鬼に向かって走っていた、そして、鬼が気付いた時には、既に目の前にいた。
「影の呼吸 陸ノ型 『
鬼の頚の前で地面にヒビが入るほど大きく踏み込み、逆の足を後ろに振り上げると同時に二本の脇差しを振り下ろす。だが頚に届く前に後ろに飛び退かれたため、鬼の顔を削ぎ取る程度に留まった。
「…速いな。」
二郎丸はそう呟いた、陸ノ型は威力が高い分、予備動作が大きい、だとしてもあの状態で避けられるとは思わなかった。しかも一飛びであの巨体の倍以上の距離を飛んでいる、見かけによらず身軽でもあるようだ。さらに先ほど削ぎ落とした筈の顔も既に再生している。何処を見てもそこらの野良鬼とは一線を愕す、恐らく下弦の鬼程度の戦闘能力はあるだろう。
「グルルルルゥ…、」
「ん?」
不意に鬼が立ち上がる、何かと思い身構えていると
「グオオオオオオオ!!!」
「のわ!?」
辺りを震わせる咆哮をしてきた、不味いと思い飛び退けば、もといた地面は穴が掘られたのかと思うほど凹んでいた。
「グオオオ!」
「はぁ!?」
鬼が間髪入れずにこちらに向かって来る、動きが速いためあっという間に距離を詰め腕を振り下ろしてきた。
「くっ、影の呼吸 惨ノ型 『
脇差しを前後で構え、高速で回転する事により、その流れに乗せて腕を剃らすことに成功する、そして鬼の動きが止まった隙に距離をとった。
因にだか、本来惨ノ型は体を横に捻りながら前進する、移動、攻撃、そして申し訳程度の防御を兼ねた型であり、先ほどの様にその場に立ち止まり残像が見えるほど回転するものではない。
「ふぅ。」
十分距離を取ったところで一息着き二郎丸は思考を巡らせる。
あのふざけた威力の咆哮は恐らく血気術、確かに強力ではあるが、連続的に、括何度も使用できるものでは無いのだろう、現に距離を置いたこの状況はその血気術を使用する絶好の機会の筈だが一向に使用してこないのだ。
ただ、それよりも気を付けなければいけないのは鬼自身の身体能力、特に足の速さが脅威だった。
現に足の速さは鬼の方が速く、自分が逃げれば確実に追い付かれ、鬼が逃げに徹すればこちらが追い付くことはまず不可能。それに逃げられでもすれば、また被害が大きくなることは確実だ。
「…よし!」
何かを決心したのか、二郎丸は声を上げて気合いを入れ、鬼に向かって走り出す。当の鬼は二郎丸返り討ちにしようと、どっしりと待ち構えていた。
それは二郎丸にとっては好都合だった。
「全集中 影の呼吸 壱ノ型 『黒霧』。」
息を大きく吸い込み勢い良く吐き出すと、濃く深い黒い霧が二郎丸の足元から吹き出す、その範囲はどんどん広くなり、鬼を巻き込んでも直範囲を広げていた。
「グオ!?グアアア!!」
鬼は立ち上がり腕を奮って霧を晴らそうとするが一向に晴れる気配はない。それもその筈、この霧は呼吸により生まれた幻影であり、目視できても実態はない。
「ギャッ!?」
不意に足に痛みが走り、体が崩れ落ちる。足を切られた、鬼がそう気付いたのはそれから少ししてからだった。
「グゥゥゥ…、」
体を起こし急いで足を再生させようとするが、今度は腕を切り落とされまたも崩れ落ちる。
「ガアアア!!」
鬼は混乱していた、戦っている筈の人の姿は見えず、逆に一方的に攻撃される始末、体を再生させて逃げようにも、片っ端から体を切り刻まれていくため、それすらままならない。どうするべきか、どうすればこの状況を切り抜けられるのか、必死に考えるが
獣に成り下がったこの鬼にはその術を考えることは不可能だった。
「影の呼吸 弐ノ型 『
そしてその言葉を最後に鬼は頚を切り落とされた。
黒い霧が晴れた時、そこには 地面に倒れ崩れていく鬼の巨体、その近くには二郎丸が佇んでいた。鬼の巨体が崩れきったのを見届けた後、二郎丸は木にもたれ掛かり、ずるずると崩れおちた。
「…ふぅ、」
頭巾を脱いだ二郎丸の顔にはぎっとりと脂汗が張り付いていた。
今回は怪我一つなく鬼を討伐できたが、一撃でも受けていれば怪我どころでは済まなかっただろう。それに鬼が逃げに徹しなかったのは運が良かった、そうされれば討伐するのは極めて難しかっただろう。
とにかく、今夜討伐できて良かった。
「よし、休憩完了!帰ろ。」
暫くして、二郎丸は立ち上がり帰路に着く。
月明かりに照らされた白い髪が月に負けない程、綺麗に輝いていた。
獣鬼
二郎丸が今回討伐した鬼、身体的特徴は本文の通り、食いはしないが他の獣を良く殺す。
百人以上の人食い強い力を手に入れたが逆に理性を失い獣の様になってしまった。
もとの人間は狩人であり、狩りの帰りに鬼にされてしまった。
血気術『名称無し』
クレーターを生み出す程の威力を誇る咆哮を放つ。
威力は高いが連発できるものではない。
名前が無いのは獣に成り下がった知性で考え思い付くことが不可能だったからである。
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隊士訓練で二郎丸が不在時の炎と恋の話
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スケベ隊服について
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炎蛇影の合同任務
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どうせなら全部書いて