墨影二郎丸は好意に対して鈍感である。その理由は幼少から大変可愛がられてきたからだ。だがそんな環境だからか、相手に対して好意を持って接し、行動することが二郎丸にとって当たり前となり、それ故にお人好しと言われる様になった。
だが逆に悪意に対しては非常に敏感である、それも自分以外に向けられているもの理解できる程にだ。因に、二郎丸の差す悪意は、害を望む感情だけではなく、怒り、悲しみ、絶望、欲望等の、いわゆる“負の感情”と呼ばれるものも含まれており、それらの違いも理解することが出来る。
そんな二郎丸だからこそ、兄である一朗太が自分に対してどのような感情を持っているか、それを誰よりも良く理解していた。
「…どうしたものか。」
零郎は悩んでいた、それは一朗太と二郎丸の中である。表立って喧嘩することは一切無いのだが、お互いに関わらない、と言うよりは一朗太が二郎丸を一方的に避けているのだ。
そもそも、一朗太はあまり誰かと関わろうとはしない性格ではあるが、そうだとしても二郎丸への態度は異質なもであり、それも二郎丸が生まれた時から関わろうとはしていなかった。二郎丸は兄と仲良くしたいと何度か関わろうとしていたのだが、その度に避けられており、最近は二郎丸も避ける様になっていた。
何度か仲良くするように二人の息子に持ちかけてはいるのだが、零郎はあまり強く言えずにいた。
その理由は大きく分けて二つ有る。
一つ目は自分自身の立場だ。
零郎には十勝丸と百瀬と言う年子の弟達がいるのだが、零郎自信、兄弟だけではなく親とも非常に仲が悪く、十三才の時に家出してからと言うものの、帰る処か連絡すらも一切行っておらず、結婚したこと子供が生まれたことさえも伝えていなかった、
果たしてそんな自分が兄弟仲をとやかく言えるのだろうか?
零郎の答えは否だった。だがそうだとしても、親の立場として何とか仲良くするように持ちかけていた。
二つ目の理由は息子達の言葉であった。
仲良くするように言う零郎を鬱陶しく思ってか、一朗太はある時にこう言ったのだ。
「父上、あんまりしつこいと嫌いになりますよ。」
父の事を良く理解した長男である。
この言葉は零郎に対して効果的面だった。零郎にとって息子に嫌われることは死活問題であり、それが例えや言葉のあやであったとしても、これ以上何も言う事ができなかった。
因みに、一朗太を避ける様になった二郎丸にも仲良くするように言った時に。
「どの兄弟も仲が良く出来る訳ではありません、ですが兄弟として生まれた以上一緒に生活することになります。であれば、お互いに不快な気分にならないように過ごすしかないんです。」
そう言ったのだ。兄を思い遣るできた次男坊である。
零郎は当時の自分を思い出して泣いてしまった、それを見た二郎丸は戸惑い、そして日向には呆れられてしまったのだった。
そのようなことがあったのだが、零郎はまだ諦めたわけではなかった、そして、それをなし得るであろうものが一つだけあった。
零郎は屋敷のとある一室に訪れていた、そこには妻である日向がおり、布団の上に座り込んでいた。
「大事ないか?日向。」
「大丈夫ですよ、お気遣いありがとうございます。」
「当然だ、それに、お前に何かあればお腹の子に障るからな。」
そう、日向が子を妊娠しているのだ。そしてこれこそが、二人の息子の仲を取り持つ鍵となるのではない
かなり歳が離れており、まだ弟か妹か分からない状態であるが、一朗太も二郎丸も手放しに喜んでくれており、楽しみだといってくれた。それならばこれから産まれてくる子の兄として、二人の仲が改善することが出来るかもしれない、零郎はそう考えていた。
当然、そうでなくても零郎は産まれてくることを非常に楽しみにしているのだが。
それ以上に淡く大きな期待があるのだった。
「楽しみですね。」
「あぁ。」
膨れた腹を愛おしげに擦る日向の手に零郎が自分のてを重ねる。
二人は、これから産まれてくるこの子が、いつか二人の兄の手を繋いでくれることを願っていた。
まぁ、そのようなことはなかったのだが。
※この話での二郎丸の年齢は九才です。
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隊士訓練で二郎丸が不在時の炎と恋の話
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スケベ隊服について
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炎蛇影の合同任務
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どうせなら全部書いて