無感動な少女と魔眼使いの少年(リメイク版)   作:しぃ君

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 幕間の為、あらすじは次回に持ち越しです。


幕間「夢の誓いと小さな決意」

 ──結翔──

 

 雨はわりと好きだ。

 外の雑音をかき消してくれる。

 お陰で、室内でゲームをしたり、読書をする絶好の天気。

 …だけど、今の俺はそんな気分じゃなかった。

 何も悪くない雨に怒りすら覚えるほど、酷く不安定だったのだ。

 

 

 チームから離れて一週間弱。

 魔法少女として二段階ものパワーダウンをした俺は、魔眼無しでは魔女に勝てないほど弱くなっていた。

 その所為で、本当なら帰れる筈だった時間に間に合わず、土砂降りの雨に打たれながら歩いている。

 

 

 生憎な事に、財布は家に忘れ、スマホは充電切れ。

 助けを呼ぼうにも呼べず、一人冷たい雨に身を濡らす。

 まぁ、呼べたとしても、呼ぶ気などサラサラないが。

 

 

 歩いて、歩いて、歩いて。

 沈む心に呼応するように、雨は激しさを増す。

 段々と寒いと言う感覚も薄れてきて、人にぶつかってもそれが分からなくなっていた。

 

 

 家を目指している筈なのに、足が何処か違う場所に向かわせる。

 初めて、慣れ親しんだ、大切な思い出が詰まった神浜(この街)から逃げたくなった。

 ……いや、それ以上に、こう言う時に限って俺を見つけ出すアイツから──逃げたかったのだ。

 

 

 こんな状態でアイツの優しさに触れたら、きっと溺れてしまう。

 優しい、本当に優しい幼馴染(ももこ)に、俺は溺れてしまう。

 今は、鶴乃がくれる家族としての優しさより、親友として──幼馴染としてのももこの優しさの方が、俺は怖かった。

 

 

 溺れたら、脱げ出すことは出来ない。

 ヒーローを目指す事を、きっと放棄してしまう筈だ。

 それだけは嫌だ。

 例え、叶わぬ夢だとしても、もう自分から名乗りを上げることはないとしても……それでも──

 

 

「…諦められるわけ…ねぇだろ」

 

 

 死んだ仲間に誓ったから。

 助けられなかった仲間に……誓ったから。

 はたから見たら、自慰行為にしか見えない『ヒーローごっこ』を俺は続ける。

 この街を、街に住んでいる人を守り続ける。

 

 

 ──この身を懸けてでも。

 

 

「どこ、行く気だよ?」

 

「…………」

 

 

 覚悟を決め直した瞬間に現れるとか、本当にタイミングが悪い。

 …多分、アイツからすれば最高なのかもしれないが。

 

 

「もう一回聞くぞ。どこに行く気だ?」

 

「別に、どこでも良いだろ?」

 

「コッチは、折角作った料理が冷めないうちに食べて欲しいんだよ。お前だって、アタシの気持ち分かるだろ?」

 

「…分かる──けど、今はほっといてくれ」

 

「嫌だ」

 

 

 キッパリと言い張るももこの顔は悲しそうで、今にも泣き出しそうな酷いものだ。

 心配してくれてるのだろう。

 彼女をこれ以上悲しませない選択肢は簡単に取れる。

 そっと抱き締めてやれば、きっとももこは安心してくれる。

 

 

 泣きそうな酷い顔は、何事も無かったかのような何時もの笑顔に戻る筈だ。

 だが、抱き締めてやれるほど、寄り添ってやれるほど、俺は強さを取り戻せていなかった。

 

 

 大切なものを持つのが怖い。

 落とさない為に近くに居れば良いのに、それすらも怖く感じている。

 ももこに優しくするのも、優しくされるのも、俺は怖かったのだ。

 

 

 心底、自分の事を屑だと思った。

 ヒーローを目指しておきながら、正反対に位置する行為をしている自分が嫌いで嫌いでしょうがなかった。

 無力さをこれほど呪った日は、後にも先にもこれが最後だと思わせるほどに。

 

 

「鬱陶しいんだよっ!! ほっといてくれって言ってるだろ!!」

 

「…なんだよ! 心配してんのに、その言い方はないだろ! それとも、アタシにボロボロになっていくお前を黙って見てろって言うのか?! ふざけんなっ!!」

 

 

 持っていた傘を放り投げ、ももこは俺の胸倉に掴みかかる。

 雨に濡れた彼女の顔は歪んでいて、滴る雫は涙か雨か判別できない。

 でも、本気で怒ってくれていることが分かって、少しだけ…嬉しかった。

 

 

 だからこそ、突き放さなければ。

 俺の為にも、ももこのためにも……今は──

 

 

「ももこ、いい加減に──」

 

「頼むから、アタシの前から、居なくならないで。お前まで居なくなったら……アタシは……」

 

 

 不安定な気持ち──即ち負の感情は、ソウルジェムを濁らせる。

 なんとなくだが、俺はこの時悟った。

 お人好しな性格は一生掛けても直りそうにないと…。

 

 

 ──ももこ──

 

 アタシの泣き脅しが聞いたのか、結翔は家に帰ってきた。

 それまでは良かったのだが、アタシ自身が安心しきってた所為か、気絶するようにソファで眠ってしまったのだ。

 

 

 夜の十時過ぎになってやっと目が覚めると、何時の間にか毛布が掛けられていて、結翔がソファの下に座って眠っていた。

 自分の部屋で寝てもよかったのに、アタシを起こして運んでくれても良かったのに。

 コイツはそうはしなかった。

 

 

 少しづつ戻ってくる優しさが嬉しくて、ニヤニヤと笑みが零れる。

 チームを離れてから一週間弱、結翔はアタシを避けていた──いや、アタシから逃げていた。

 きっと、今のコイツに取ってアタシの心配や優しさは、毒寄りの麻薬だったのかもしれない。

 

 

 求めてしまったら、受け止めてしまったら最後、ずっと離れられなくなる。

 苦しいのに、辛いのに、離れられなくなる。

 …夢を手放さなきゃいけなくなる。

 可能性だ、あくまで可能性。

 

 

 だけど、結翔にとってそれは何よりも恐れることなのかもしれない。

 

 

 それでもアタシは、結翔に寄りかかって欲しい。

 遠慮なく、寄りかかって欲しい。

 幼馴染として、親友として、誰よりも頼って欲しいんだ。

 

 

 寄りかかってばかりは嫌なんだ。

 助けられるばかりじゃ嫌なんだ。

 隣に立ちたい、胸を張って隣に立ちたい。

 

 

 負った傷が有るなら癒してやりたいし、作った思い出があるなら共有したい。

 結んだ縁が解けそうなら、勝手に固結びにでもしてやりたい。

 

 

 立ち上がろうと足掻いていたら、手を伸ばしてやりたいんだ。

 コイツが今までしてくれたように、今までしてきたように。

 軽くてもいい、少なくてもいい、頼むからアタシにその持ったものを分けてくれ。

 大切なものは渡さなくていいから、お願いだから分けて欲しい。

 

 

 だって──

 

 

「…大好きなんだから、これくらい願っても罰はないだろ?」

 

 

 想いが届くのは、あとどれほど先だろう? 

 何時でもいい、返事はして欲しいけど……別にしなくてもいい。

 ただ伝えたい、貯め込んだ想いの丈を。

 真正面から、大きい声で。

 

 

 あの時は出来なかったけど、今なら出来る……気がする。

 ちょっぴりだけど強くなった…アタシなら。

 寝息を立てる結翔の頭を優しく撫でながら、小さく決意した。

 

 

 ……翌日、二人揃って風邪を引いたが、仲を戻せたので良しとする。




 次回もお楽しみに!

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