無感動な少女と魔眼使いの少年(リメイク版)   作:しぃ君

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 まさら「前回までの『無少魔少』。ラプラスの悪魔と遭遇したり、結翔の職場のブラックな一面を見たわね」

 結翔「俺にとってはつい最近まで日常風景だったけどな」

 こころ「あれが日常風景だったのは労働基準法的に不味いんじゃ…」

 結翔「…………………………大丈夫だよ」

 こころ「凄く間が長かったんですけどっ!?」

 まさら「色々な意味で危ない組織ね」

 結翔「気を取り直して!アプリ的にやっと本編!それでは、十話をどうぞ!」


十話「加速する運命」

 ──結翔──

 

 前略、なんやかんやで同居生活が三ヶ月をすぎた。

 …まぁ、なんやかんやで済ませるのもアレなので、端折って説明しよう。

 あった事の一つとして、まさらを特撮好きに洗の──じゃなくて、特撮好きになるように布教した。

 

 

 発端は些細なものだった……

 日曜の朝、ソファで寛ぎながら今か今かと仮面ライダーゼロワンが始まるのを待っていると、まさらが不意にこう言ったのだ。

 

 

「子供が見るものを見て、楽しいの?」

 

 

 大人気ないと思うが、俺はこの一言にカチンとキタ。

 祝日の朝と言う落ち着きのある時間帯に、俺の怒涛の洗脳──もとい布教活動が始まり、その日からまさらは特撮漬けの日々を送った。

 ローカルなモノからメジャーなモノまで、俺が知っている限り全ての特撮番組を見させ……結果。

 

 

 知識に富んだ特撮オタクが出来上がることに……

 当初、俺はそこそこレベルで好きになってくれたら御の字だと思っていたが、彼女は化けた。

 映像から入り、その後武器や変身道具、技や身体能力など、様々な知識をスポンジのように吸収して覚えたのだ。

 

 

 …取り敢えず、これが一つ目。

 二つ目は、小さい事だが、三人での連携が実践でも活躍できるまでに向上した。

 ほぼ、俺の仕事に付き合わされた所為なのだが…気にしない方が良いだろう。

 

 

 三つ目は……いや、特になかったな。

 ぶっちゃけ、それ以外は普通だった。

 ちょっと銀行強盗に巻き込まれたり、ちょっとヤクザに因縁ふっかけられてドンパチしたが──まぁ、特に何もなかったに近い。

 

 

 一ヶ月を振り返る事数分、ベットの上に居るのも不味い時間なので急いで起き上がる。

 こころちゃんの事なので、食事に問題はないだろうが、やらせっぱなしでは気が引ける。

 当番制にしてるとは言え、任せきりにするのは自分自身で許せなかった。

 

 

 パジャマをベットに脱ぎ捨て、学校に行くために制服に身を包む。

 学ランを着なくて済むのは良い。

 襟がどうにも鬱陶しいのだ。

 その点、ブレザーは良い。

 着やすいし、脱ぐのも簡単だ。

 

 

 殆ど羽織っているだけでも、先生に怒られることはない。

 ネクタイが有るのは──将来の練習だと思えば良いだろう。

 そうやって、自分に意味不明な言い聞かせをしつつ、着替えを終わらせて部屋を出る。

 バックはいつも下のリビングに置いているので問題はない。

 

 

 バタバタと忙しなく音を立てながら階段を下りて、リビングに辿り着く。

 すると、テーブルの上には普段通りの朝食が乗っていた。

 ハムエッグサンドとサラダ、飲み物に牛乳と言うシンプルな朝食。

 

 

 シンプルイズベストの言葉通り、俺はこの朝食が大好きだ。

 鼻歌交じりに席に着くと、対面に座りテレビを見ていたまさらが、相も変わらず無表情で俺を見つめる。

 

 

「おはよう。事件は?」

 

「おはようのあとの言葉がそれ? 貴方…、まぁ良いわ。特にそれっぽいのはないわね。私や貴方に関係するものは」

 

「そっか。……俺の方もメールは来てないし。今日はオフかもな」

 

 

 まさらの返しに、メールを確認するため一拍置いてから言葉を続けた。

 続けた言葉は希望形で、オフかも…としか出てこない。

 何処で、何時、何が起こるかなんて誰にも分からない…筈だ。

 事件を起こす犯人や、未来の全てを知っているヤツでもない限り……な。

 

 

「だったら、今日も集まりますか?」

 

 

 料理の片付けを終えたこころちゃんが、エプロンを着たままイスに座る。

 お弁当の準備がまだ残っているのだろう。

 手伝う考えをしながら、まさらと対照的な明るく朗らかな笑顔に癒され、頬が緩む。

 こう言う笑顔を守る為に、自分は頑張っているんだと再確認出来る。

 

 

 悦に浸る俺の脛を、まさらがスリッパの先で小突く。

 小突くのレベルがサッカーでボールを蹴る時の勢いと変わらない事に悶絶してる隙に、いただきますの声が聞こえ急いで俺も挨拶をする。

 

 

 同世代女子と同居してるのにも関わらず、この空間は何処にでもある極々平凡な家族のように見えた。

 縮まった距離感に、またしても頬が緩む。

 最近は良い事が多くて、心に癒される。

 悪い事も多いので、プラスマイナス的にはゼロだが……そこは気にしないでおこう。

 

 

 今日、俺の運命と言う名のレコードは、盤面を削りきる勢いで加速する。

 ……ある一人の少女との出会いが切っ掛けとなって。

 

 

 ──いろは──

 

 ──最近、私は同じ夢を見る。

 知らない女の子と病室の夢。

 その子が、ベットで本を読んだり、食事をするのをただ眺める夢。

 

 

「──────、────。────!」

 

 

 その子は、時々私に笑いかけて何かを言う。

 だけど私には、その声が聞こえない。

 

 

「────」

 

 

 静かで平穏な風景……

 なのに、胸が苦しくなるのはどうして? 

 ねえ、あなたは、私の──

 

 

 何か言おうとして、そこでプツンと映像が途切れて、夢の世界から叩き出される。

 私と同じ桃色の髪と朱色の瞳を持つ少女。

 

 

 神浜市に行ってから、何回も…何回も繰り返し見た夢に出てくる少女。

 そして、もう一つ。

 小さいキュウべえ……。

 会えれば、きっと何か分かる。

 

 

 確かめなくては行けない。

 夢を見てから、しきりにうごめく、押し込められた何かを探る為に。

 

 

 その日、私は学校帰りに神浜市に訪れた。

 夕暮れ時、新西区のある駅で降りた私は、魔女の気配を探りながら街を探索する。

 使い慣れてないスマホはあまり役に立ってくれない。

 …私自身が機械オンチなのか、地図アプリすらまともに扱えないのだからしょうがない。

 

 

 探る事数十分、幾ら探そうとも魔女や使い魔の数が多すぎて上手く魔力を追えない。

 

 

(魔女を追っていれば見つかると思ったけど…。ううん、諦めちゃダメだ。多分、この近くに魔女は居る。もう一度、探ってみよう…)

 

「──っ!? 違う! すぐそこに居る……!」

 

 

 掴んだ反応を逃がさない為にも、遅く帰ってお母さんに心配をかけない為にも、急いで確認しないと。

 使命感と私情に突き動かされるままに、私は魔女の結界を見つけ当てた。

 

 

「あった。魔女の結界を…」

 

 

 だけど…何故だろう。

 違う魔力も感じる。

 …違和感の正体は、すぐに分かった。

 

 

「中に居るんだ…。しかも、苦戦してるっ!」

 

 

 急いで助ける為に、魔法少女へと変身して中に入る──

 

 

「ちょっと待って!」

 

(…不味い…見られちゃった…)

 

 

 明らかに男の人の声。

 魔法少女の存在がバレるのは不味い。

 中に入って助けたい自分は居るが、助けたあとの言い訳を必死に考える自分も居る。

 

 

 今の内に考えないといけない。

 命懸けの状況では考える余裕すらないのだから。

 

 

「あの…ええと…こ、これは…その!」

 

「魔法少女の事は別に聞かないから安心して。でも、あんまり他所のテリトリー()に入るのは感心しないな」

 

 

 優しい声だった。

 色々と疑問が浮かぶ中、振り向くと──その人は居た。

 黒い髪に赤褐色の瞳と言うアンバランスにも見える二つが特徴的な人。

 整った顔立ちは、テレビに出ているアイドルよりもカッコ良く見える。

 

 

 ぼーっと見つめていると、男の人に肩を叩かれた。

 

 

「君と同じで、俺もこの魔女の結界に用があってね。…どうしてもって何かがあるなら、一緒に来る?」

 

 

 魔法少女でもない人が、魔女の存在を知っている。

 それ以上に、「一緒に来る?」と言う一言が私の頭を疑問符で埋めつくした。

 

 

「あ、あの、一緒に来るって言うのは…?」

 

「…色々と深い理由(わけ)はあるんだけど、俺も魔法少女なんだよね」

 

「へっ?」

 

 

 間の抜けた声が、私の口から漏れ出す。

 漏れ出したら、私の口は塞がらず、驚きのあまり言葉にならない絶叫が飛び出した。

 

 

────────!!! 

 

 

 これが、私と──藍川結翔さんの出会い。

 出会いは、私と結翔さんの運命を歯車が壊れる勢いで加速させた。

 そう、始まりはいつも唐突だった。

 

 

 

 

 

 

 




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