無感動な少女と魔眼使いの少年(リメイク版)   作:しぃ君

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 結翔「前回までの『無少魔少』。ようやくいろはちゃんと出会ったり、まさらが完全なる特撮オタクになったりしたな」

 こころ「……後半部分は要らないのでは?」

 まさら「いくらこころでも、特撮を要らない呼ばわりは聞き捨てならないわ!」

 結翔&こころ(…うわぁ、面倒臭い人オタクにしちゃったなぁ)

 まさら「特撮は要らなくないわ!全人類にとって、三大欲求の次に必要と言っても過言ではない!」

 結翔「いや、過言だろ。……取り敢えず、こうやって暑くなっているまさらや面倒臭がっているこころちゃんが出てこない十一話をどうぞ!」

 いろは(……何も喋れなかった)

 まさら&こころ「えっ?私たちメインなのに出番無い(の・んですか)!?」
 


十一話「知り合った二人」

 ──結翔──

 

 よその魔法少女()の悲鳴が響き渡って数秒後。

 やっと落ち着いたその子の前で、証明のために魔法少女に変身する。

 眩しいほどの黄色い光の粒子が舞い、俺の体は瞬く間に別物に変わっていく。

 

 

 程よく肉付きのある体、パースの整った顔立ち。

 腰まで伸びた黒髪は特に纏められておらず、体を揺らせば左右に髪がまう。

 男のお前がどうしてそうなるんだと言う程の美少女的容姿。

 

 

「……ほ、本当に、魔法少女だったんですね」

 

「そっ。悪いけど話は後で。飛び道具か…支援に回ってもらっていい? 俺、近距離タイプだからさ」

 

「は、はいっ!」

 

 

 緊張しているのか、やけに高い声で返事をする彼女に笑を零しながら、俺は魔女の結界に足を踏み入れた。

 異世界……そう言っても過言ではない程に摩訶不思議な空間。

 千里眼を発動し、辺りを見渡す。

 

 

「魔力反応は……近いみたいです」

 

「うん。…そこまでは分かるんだけど、正確な場所となるとねぇー」

 

 

 手探りな状態で、魔力反応から目的の魔法少女を探していると。

 聞き覚えのある声が響いてきた。

 

 

「ひゃああ!!」

 

 

 ……魔力反応の時点で薄々察していたが、かえでか……

 

「──!? あっちだ!」

 

「みたいだね。……突っ込む、無茶振りもいいとこだけど、フォローお願い」

 

 

 そう言い終えると、俺は両手に愛用してきた武器を魔力で編む。

 グロックと片手剣。

 剣の刃の長さはいつもより長く、一メートル程にして、グロックに込める弾も単純な魔力で作った物ではなく、炎属性の弾を込める。

 各属性の弾を込めたい所だが、悠長にしている時間はないのだ。

 

 

 使い魔であろうアリにも似た敵は、目視できるだけでも十匹。

 かえでは悲鳴を上げながらそれに追われている。

 早く助けないと……! 

 走り回っているのに破壊の魔眼で狙いを付けるのは難しいし、未来視と掛け合わせるのも負担が大きいから連発できない。

 

 

 なら、グロックで追いつかれそうな奴から始末する。

 左手に握っていたグロックを構えて、次々と発砲していく。

 放たれた弾丸は寸分の狂いもなく、使い魔の頭部らしき部分に当たり、追いつきそうだった個体の全てが燃えていく。

 ローブを羽織った後ろの魔法少女の子も、何とか足止め程度の攻撃は出来ている。

 

 

 ……だが、感じ取っただろう。

 使い魔であるにも関わらず、自分の地域との位が違う強さを。

 まぁ、目は諦めるなんて微塵もなさそうな感じだけど……

 

 

 兎に角、今はかえでの救出が先だ。

 追っていた使い魔達は倒したが、ここま結界内、何時何処から襲って来るかなんて分かりやしない。

 未来視にも限度があるので、俺は全速力でかえでの下に向かう。

 

 

「おい! 大丈夫か?」

 

「ふぇっ!? …ゆ、ユート君? …それに……」

 

「大丈夫!?」

 

「え…その……うん」

 

 

 若干知らない魔法少女()が居ることに戸惑っているが、長居するのは危険だ。

 魔女自体は強くないが、数で来られると厄介極まりない。

 逃げるが吉、だろう。

 

 

「色々言いたい事はあるが、話は後だ…。すぐに結界から出るぞ!」

 

「う、うん!」

 

「はいっ!」

 

 

 結界から出る途中、何度か使い魔に遭遇したが、俺がグロックで瞬殺していたので、あまり時間をかけずに外に出る事に成功した。

 

 

「ふゆぅ………………」

 

「はぁ…何とか逃げられましたね」

 

「……そうみたいだね。怪我もしてないみたいだし、良かったよ」

 

「う、うん、ごめんね。助けれくれてありがとう…」

 

「ううん。気にしないで」

 

「そうだぞ、あんまり気にすんな。これも仕事の内だ」

 

 

 俺がそう言い終えると、入れ替わるようにローブの魔法少女の子が、眉を八の字にしてこう言った。

 

 

「ただ、使い魔が強くてちょっと驚いちゃった」

 

「強くて…? あの、もしかして、神浜の外から来たの?」

 

「え? …うん、そうだよ?」

 

 

 かえでの言葉に、その子は首を傾げながら返した。

 聞かれた言葉の意味がよく分かってらしい。

 かえでの言葉を補足するように、俺が言葉を継ぎ足す。

 それは試す言葉で、それは生かす言葉だ。

 

 

「……もし、生半可な気持ちで居るなら帰った方が君のためだよ。ここの魔女、他の町のより強いからさ。さっきの魔女も、この街の奴らなら一人でも倒せるよ」

 

「え…うそ…?」

 

「ユート君の言ってる事、嘘じゃないよ…」

 

「…心配してくれてありがとうございます。でも、私まだ帰れないんです」

 

 

 一生懸命な瞳だった。

 おい縋っているようで、純粋に追い求めているようで。

 どこか矛盾しているような、真剣な瞳だった。

 

 

「え、でも本当に…」

 

「あ、えっと、二人の話を疑ってる訳じゃないの! ただね、ちょっとここに来たのは理由があって…。」

 

「理由…?」

 

「それは、何の事?」

 

「あ、そうだ…。この街で見た事ないですか…?」

 

「な、何を?」

 

小さいキュウべえなんだけど…。キュウべえの子供みたいな…」

 

 

 小さいキュウべえ……か。

 丁度、調査対象になってた奴だよな。

 神浜に起きてる異常事態の一つ、通常の個体が居なくなり、特殊個体とも言える小さいキュウべえしか居ない事。

 他にも、噂……もといウワサの件だったり、魔女の増加の件だったり。

 

 

「小さい…キュウべえ…?」

 

「ご、ごめんね、知らないよね」

 

「いや、俺は知ってるし…かえでも──」

 

「う、うん。見た事あるよ」

 

「…………ホント!?」

 

「ああ。最近、この街にはあのキュウべえしか居ないからな」

 

 

 俺とかえでの言葉を聞いたローブの子は自然と顔が綻び、笑顔が漏れ出した。

 それほど大切な目的が有るらしい。

 小さいキュウべえが見つかった事を、心底喜んでいるようだ。

 

 

「私、その子を探しに来たの!」

 

「ふぇええ!?」

 

「へ〜」

 

「前に一度見てるんだけど、どこにいるか分からなくて…」

 

「あっ! それなら、急いだ方が良いよ!」

 

「い、急いだ方が良い…?」

 

「うんうん! さっきの結界に居たと思う。…見間違いじゃなければ…だけど…」

 

「えぇ!?」

 

 

 今度は喜びの表情から一転し、驚愕したらしくキョロキョロと辺り見渡す。

 魔女を探しているのだろうが──如何せん俺が派手にやり過ぎた。

 既にどこかに逃げた後だ。

 

 

 ……少し、悪い事をしてしまったかもしれない。

 

 

「教えてくれてありがとう! 私、さっきの魔女を追ってみる!」

 

「でも、慎重にね。あの、小さいキュウべえ。警戒心が強くて逃げちゃうから…」

 

「うん、分かった! ありがとう!」

 

 

 ……やっべ。

 色々と事情聴取する筈だったのに行かせちゃった。

 よその所の魔法少女のデータは、うちにないからなぁ。

 すぐに追い掛けたいけど…その前にやるべき事をやらねば。

 

 

「……なぁ、かえで?」

 

「ひぃい!? な、何かな、ユート君?」

 

「俺が前に言った事、覚えてるか?」

 

「……一人で魔女狩りはしない。どんなに弱くても、二人以上でやる事」

 

「勿論、理由も覚えているよな?」

 

「一人だったらミスしたらその時点で終わりだけど、二人ならフォローし合えるから……?」

 

「そうだ」

 

 

 覚えている事自体は嬉しいが、守れないようじゃ意味がない。

 撫でるような手つきのまま、頭に手を下ろすと、指先で頭にあるツボを押すように力を入れる。

 痛いけど、泣かない程度の強さで。

 

 

「ふゅぅうう!! 痛い、痛いよぉ、ユート君!」

 

「俺を心配させた罰だ。大人しく喰らっとけ」

 

 

 ウルトラマンの活動時間と同じくらいツボ押しを続けると、かえでは涙目になっていたのでそこでストップする。

 これで、次は約束を破ろうとはしないだろう。

 …………どんなに強い魔法少女でも、死ぬときゃ一瞬だ。

 一回のミスが、一瞬の遅れが、取り返しのつかない悲劇を産む。

 

 

 魔法少女の世界とはそう言うものだ。

 ……まさらには、もう少しそこら辺を考えて欲しいと、トリオを始めて感じている。

 

 

「…ほら、早く帰れ。門限だー! とは言わないけど、もういい時間だ。あんまり夜遅くに出歩くな、補導対象になるぞ」

 

「……はーい。ユート君も、気を付けてね。あの子、追うんでしょ?」

 

「一応ね。事情を聞かないといけないから」

 

「じゃあね、また明日」

 

「はいはい。また明日」

 

 

 そう言ってかえでを送り出すと、俺はもう一度千里眼を発動しあのローブの子の場所を探る。

 今回の件は、何時もより骨が折れそうだと、直感が囁いているような気がした。

 だが、ここで足を止める訳にはいかない。

 

 

 この街に入った時点で、あの子は守る対象だから。

 神浜に悪さしに来た訳じゃ無いだろうし、悪い子じゃなさそうだ。

 ならば、守らなければならない。

 何故なら、それが俺の役目だから。

 

 

 ──いろは──

 

 二人と別れて走り去ったあと、私は魔力反応を頼りに魔女の居場所を特定しようと奔走していた。

 そして────

 

 

(見つけた…! これ、さっきの魔女と同じ魔力パターンだ…。これなら追って行けるけど…何だか変な感じ…)

 

 

 さっきまで人が多い所に居たのに……今は人気が少ない路地裏に居る。

 理由が分からない以上、警戒心は解かないが…………

 やっぱり何か変だ。

 まるで、誘き出されてるみたい。

 

 

(まさか…!? 魔力反応は……近い! …違う! 向こうから来てる!)

 

 

 結界内に取り込まれた事から、私は一気に警戒レベルを上げて、辺りを見やる。

 しかし──

 

 

「…………あれ…?」

 

(…使い魔は…居ない?)

 

「──っ!?」

 

「キュ?」

 

 

 居た! 

 小さいキュウべえだ。

 明らかに他の個体とは違う容姿が、その証拠だろう。

 

 

「いたぁ!」

 

(あ…ゆっくり近付かないと、逃げられるかもしれないし…)

 

 

 ゆっくりと私が歩み寄ろうとしたその時、小さいキュウべえはあちらから近付いてきた。

 

 

「モキュー!!」

 

 

 警戒心が強いはずじゃ……、そう疑っていると、使い魔の耳に響く声が聞こえてきた。

 

 

「☆▲▽ポッポ──!!」

 

「こんなときに…! ──っ!?」

 

「▽シュッ■◆☆ポツ◇!!」

 

「何この数!? ……まさか、この使い魔、私が追いかけてるって」

 

 

 最初から気付いていて誘き出した? 

 態々路地裏にみたいな人気のない場所を選んだのも、他の魔法少女に見つからない為? 

 だったら不味い。

 さっきの戦いで分かったが、正攻法じゃ勝てないし、無理をしてもこの数を捌ききれる気がしない。

 

 

(どうしよう……どうしよう……。)

 

 

 思考が止まりかけるが、ここで終わる訳にはいかない。

 まだ知りたい事がある、知らなければならない事がある……気がする。

 なら死んでなんてやるもんか! 

 

 

 使い魔の攻撃を喰らいながらも、反撃で少しづつ数を減らしていく。

 私の武器はクロスボウ、連射力もあるが、魔力を溜めればパワーの篭った一撃だって入れられる。

 何とかそれを反撃として使い、減らせてはいるが……

 

 

「ポポッ▼△◎★!!」

 

「──っ!? そんな、こっちからも…!?」

 

 

 減らしても減らしても、増援が来て。

 減っては増えて減っては増えての状態。

 しかも、死角だった部分に来た使い魔の一撃を、私はノーガードで喰らってしまう。

 

 

「ふうぅぅう! はぁ…はぁ…はぁ…」

 

 

 意識が飛かける程のものじゃないが、どんどんと戦える余裕がなくなっていく。

 一度結界から出なければ……死ぬ。

 使い魔から喰らった攻撃の痛みが、それを私に教えてくれる。

 

 

(だめ…一回戻らないと…)

 

「☆▲▽ポッポー!!」

 

「あっ…」

 

 

 またしても、死角から現れた使い魔に目がいった瞬間、間の抜けた声が口から漏れた。

 そして、使い魔から攻撃が放たれ反応できなかった私に直撃する。

 

 

「ゥアアァッ!!」

 

 

 この言葉を最後に、私の意識は深く落ちていく。

 だが、ゆっくりと落ちているのか、薄らと意識がある。

 

 

(あれ…私…どうなったの…? 力が…はい、らない…)

 

 

 浅い夢を見るような意識の中、小さいキュウべえが目の前に現れる。

 

 

(キュウべえ…)

 

 

 そして、それ以外にも二人、私の前に現れる。

 一人はさっき会った人で……もう一人は……青墨色の髪に、碧色の瞳の魔法少女。

 

 

「ここは、あなたが居ていい街じゃないわ」

 

 

 ……彼女の言葉が、ゆっくりと落ちていた私を押して、深く……深く……私は──

 

 

 ──結翔──

 

 ギリギリの所で間に合わなかったらしい、ローブの子は気絶しており、やちよさんが彼女を守っている状態だ。

 ……多分、彼女一人でもどうにかなっただろうが、そうやって見過ごす事は出来ない。

 やちよさんに加勢し、邪魔だった使い魔を魔力で編んだ大鎌を振り回すことで払っていく。

 

 

「……すいません。遅くなりました」

 

「…別に、大丈夫よ」

 

「あの子には色々と事情を聞かなきゃいけませんから、助けて下さって助かります」

 

「この街に無駄な死体を増やしたくないだけよ」

 

「…そう言う事にしときます」

 

 

 そこで、俺たちの会話は途切れ、使い魔を狩るのに集中していく。

 あらかた片付け終わった所で、やちよさんと一緒に結界を出る。

 勿論、ローブの子は背負っていく。

 寝ている女の子の体を触るのは、色々アウトな気がするが、警察の肩書き(国家権力)がある限り大丈夫だろう……大丈夫であって欲しい。

 

 

「…取り敢えず、俺はこの子を寝かせられる場所に。……やちよさんは?」

 

「あなたの行動次第で、またその子の前に現れるかもね」

 

「分かりました…。戦わない事を祈りますよ。魔法少女同士の争い程、不毛な事は無いですし」

 

 

 俺はそう言い残し、その場を去って、近くにあった公園を目指す。

 ……因みに、変身はちゃんと解除している。

 ローブの子も、変身は気を失った所為で強制解除されている。

 

 

 五分もしないで公園に着くと、俺はベンチに彼女を寝かせ、羽織っていたブレザーを体にかけておく。

 これで体は冷えずに済むだろう。

 ……まぁ、俺の体は冷えるので、ココアでも買いに行くのだが……

 

 

 太陽が沈み、月が仕事をし始めた頃、彼女は唐突に目を覚ました。

 自分にかけられているブレザーに首を傾げている所に、俺が声を掛ける。

 

 

「おはよう、調子はどう?」

 

「へっ? あ……あなたは……」

 

「そういや、まだ名前言ってなかったっけ? 俺の名前は藍川結翔。魔法少女で──一応警察官だよ」

 

 

 そう言って、俺はいつも携帯している警察手帳を、ズボンのポケットから取り出してみせる。

 階級は警部で、役職的には公安Q課の係長。

 本来なら諸々のキャリアがなければ、俺の歳でなる事など不可能だが、魔法少女として公安の警察官として、実績は山ほど積んだ為、昇格して今の役職に。

 

 

 目の前にいる少女も、目を丸くして驚いている。

 何せ、俺はまだ十五歳。

 警察官になんてなれる筈ない。

 …アルバイトだけど、咲良さんからはアルバイト扱いされてないし、実質正式な警察官に近いのだが……

 

 

「………………す、すいません! ぼーっとしてしまって。…ええと、藍川さん? で良いですか?」

 

「好きな方で呼んで、気にしないから。あっ、あと敬語もなしね。歳あんまり変わらないし」

 

「はい。ええっと、私の番ですよね? …私の名前は環いろはです。よ、よろしくお願いしますっ!」

 

 

 こうして、俺といろはちゃんは本当の意味で知り合った。

 未来を視れる俺でさえも、この後の展開は全く予想出来なかった。

 まさか、この子が神浜の運命を変える内の一人だったなんて。




 次回もお楽しみに!

 誤字脱字などがありましたらご報告お願いします!

 感想もお待ちしております!

 最後に、投稿が遅れまして申し訳ありません。
 それと、明けましておめでとうございます。

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