無感動な少女と魔眼使いの少年(リメイク版)   作:しぃ君

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 いろは「前回までの『無少魔少』。結翔さんと私が会った話ですね。……あらすじで呼び方変えていいんですかね?」

 結翔「良いんじゃない?どうせ変わるんだし。何時変わるか期待して待っててもらえれば」

 まさら「そうやって、私たちで期待値上げるからしぃが投稿し辛くなるんじゃないかしら?」

 こころ「その説、若干説得力がありますね……」

 結翔「取り敢えず、今回もヒロインズのこころちゃんとまさらは登場しないので悪しからず」

 しぃ「……多分、序章の最後の方まで出番はあるか分からないです。……申し訳ない。……取り敢えず、出会った二人はどうなるのか?十二話をどうぞ!」

 結翔&まさら&こころ&いろは『えっ?なんでしぃ(さん)がそれ言う(の・んですか)?』


十二話「夢を追う少女と、それを守る少年」

 ──いろは──

 

「…一応、挨拶も済んだし。これからどうしよっか?」

 

「私っ! まだ小さいキュウべえを探したくて……」

 

「分かった…。でも、あの人に魔女に負けたのを見られたのは、ちょっと──いや、かなり悪いね。調整屋に行くしかないかぁ…」

 

「ちょ、調整屋?」

 

 

 藍川さんの口から出てきた調整屋、と言う言葉に私は首を傾げる。

 聞いた事がない……それどころか、どんな事をしている場所なのか、想像つかない。

 そんな私を見て察してくれたのか、藍川さんは私に調整屋の説明をし始める。

 

 

「調整屋はね、俺たちのソウルジェムに触れて、他の魔力を注ぎ込んだり、潜在能力を引き出したりしてくれる場所だよ。……まぁ、口で言っても伝わらないし、実際に行こうか」

 

「は、はい……」

 

「心配しないで、君が目的を果たすまで俺が守るから。色々と事情も聞きたいしね」

 

 

 カラカラと笑いながら、私の事を守ると言ってくれる藍川さんは、本当に善い人そうだ。

 起き上がったばかりの私を支えてくれたり、歩く際もこちらに歩幅を合わせてくれる。

 滲み出る優しさが眩しい、そう思える人だ。

 

 

 そうして、公園から出て調整屋に行こうとした時、前方から誰かが走ってきた。

 

 

「おーい! 結翔ー!」

 

「微妙なタイミングだな…。まぁ、俺たちが公園から完全に出た後じゃないだけマシか……」

 

「ひでぇ言い様だな。いきなり電話で呼び出したくせに」

 

「悪かったよ…今度なにか奢るからそれでチャラにしてくれ」

 

「嘘だよ。奢らなくても良いから…話は電話で聞いたけど、その子が?」

 

 

 緋色の瞳と明るい黄色の長い髪をポニーテールにまとめた女の人は、私の方を見ながらそう言った。

 同じ女性として、羨ましさが溢れる容姿をしている。

 大人の女性一歩手前、そんな所だろうか。

 だけど、この人も私や藍川さんと同じ魔法少女なんだろう。

 

 

「そっ。同性のお前が居た方がリラックスできるかな〜って思ってさ」

 

「はぁ。…なら、別にアタシじゃなくても良くないか? こころちゃんにまさらちゃんも居ただろうに」

 

「実力的にまさらは問題ないけど性格的な問題があるし、こころちゃんだと少しだけ実力に問題がある。と言っても、ほんの少しだけどな」

 

「で、アタシが呼ばれたと? 何だよ、消去法じゃないか」

 

 

 目の前で繰り広げられる言い合いに、私は参加する事など出来ず、ただただぼーっとそれを眺める。

 悠長にしている時間は無いのに、何故か二人の言い合いは少し心地が良く感じたからだ。

 既視感(デジャブ)のある光景だった。

 ……いや、もしかしたら私は──

 

 

「いろはちゃん? 悪いけど、手短にももこの事を紹介するね。こいつの名前は十咎ももこ。俺の幼馴染みであり魔法少女」

 

「よ、よろしくお願いします」

 

「ももこ。こっちが街の外から来た魔法少女の環いろはちゃん」

 

「よろしくね、いろはちゃん。小さいキュウべえを探してるんだよね? アタシも付き合うよ!」

 

「…はいっ! ありがとうございます!」

 

 

 付き合うよ、その一言が嬉しくて、私の口からは自然と感謝の言葉が飛び出した。

 きっと、藍川さんと同じく強い魔法少女だと言う事は確かだ。

 そんな人が手伝ってくれるなんて頼もしい事この上ない。

 

 

 私は浮き足立つ感情を何とか抑えて、調整屋までの道程を歩いた。

 

 

 ──結翔──

 

 

 神浜ミレナ座、そこが調整屋の拠点だ。

 廃墟になった映画館を利用して、みたま先輩は調整の仕事を請け負っている。

 基本的なお代はグリーフシードだが、調整屋の付近にいる魔女や使い魔退治でも免除される時がある。

 ……商魂逞しい人なので、偶にぼったくりなお代を請求するが無視して構わない。

 

 

「…ここが、調整屋さん……ですか?」

 

「まぁね。調整屋は魔女や使い魔の類とは戦えないから。こう言う人気がない所の方がやっていき易いんだよ。俺やももこは偶に、ここの近くに出た魔女や使い魔退治で、お代をチャラにして貰ったりしてるよ」

 

「へぇ…。お二人は良く来るんですか?」

 

「そうだね。チーム内のグリーフシードに余裕があったら、出来るだけ来るようにしてるよ」

 

「アタシも、チームでやってるから来る時は他の奴らも一緒にって感じかな」

 

「藍川さんも、ももこさんもチームでやってるんですね」

 

 

 話しながら調整屋の奥へと進んで行くと、段々と見慣れ景色が広がってくる。

 見慣れたにも関わらず、どこか幻想的にも見える空間には、生活感の漂う家具が置かれており、しっかりとキッチンまで設置されている。

 何日かぶりの来店だったが、俺は普段通りの口調でみたま先輩を呼ぶ。

 

 

「みたま先輩〜」

 

「おっす、調整屋〜」

 

「あらぁ、久しぶりね結翔くんにももこ。最近来ないから寂しかったわ」

 

「そうですか? 結構頻繁に来てるつもりですけど」

 

「結翔、調整屋のノリに乗らなくていいから……。どうせ、最近じゃ客も多くて思い出す余裕もないくせに」

 

「そんなことないわよぉ? あら、そちらの子、見ない顔ねぇ」

 

 

 相も変わらず、燕尾服のような魔法少女の衣装と、ゆったりとした口調。

 銀髪の綺麗な髪を少し左右に揺らしながら、蒼色の瞳でいろはちゃんに目を付ける。

 新規のお客様が来たのが嬉しいのかニコニコとした顔で、早く紹介してよと言わんばかりに俺の方も見てくる。

 

 

「えーっと、今日は俺ら二人の用じゃなくて。新しいお客さんの紹介なんですよ」

 

「あの、この人が、調整屋さん、ですか…?」

 

「どうもー、調整屋さんです」

 

 

 みたま先輩のキャラに、若干困惑しているいろはちゃん。

 反対に、若干困惑しているいろはちゃんに、いつもと変わらない雰囲気で話しかけるみたま先輩。

 相性が良くない訳じゃないんだろうけど……

 ……そうして、俺が考えに耽っていると、いつの間にか自己紹介が始まっていた。

 

 

「八雲みたまって言うのよ? 以後、ご贔屓にしてちょうだいね」

 

「えっ、あ、はい。私は環いろはっていいます。よろしくお願いします!」

 

「……自己紹介はもういい? だったら、みたま先輩。」

 

「なぁに?」

 

「いろはちゃんのソウルジェム、ちょっと弄って欲しいんですよ」

 

「あら、軽々しく言うけど、お代はもちろん、あるのよね?」

 

「勿論。俺が持ちますよ。まさらやこころちゃんにあげても、まだ余ってますから」

 

「ええ!?」

 

 

 お代の話をした時から、自分で払うつもりだったのだろう。

 だが、いろはちゃんのグリーフシードに余裕があるかは分からない。

 ここ最近、付近の街の魔女がここに集まっている事で、不作が続いているらしい。

 他所の街から来たいろはちゃんにとって、グリーフシードの価値がどれ程のものか俺は知らないのだ。

 

 

 だからこそ、払わせる訳にはいかない。

 魔法少女にとってグリーフシードは生命線そのものだ。

 

 

「そんな! 助けて貰った上に……支払いまで……」

 

「いろはちゃん、そんなにグリーフシードの余裕ある? 無いんだったら頼っときなよ、こう言う時はお互い様でしょ?」

 

「うぅ…」

 

「まぁまぁ、いろはちゃん。結翔がこう言った時はどうしようもないよ、頑固だし。…だから、喜んどきな」

 

「はい、ありがとうございます! …で、あの、それで…ソウルジェムを弄るって…」

 

 

 やっぱり、やってる人(みたま先輩)に聞いた方が実感が湧くのかな? 

 …あれ? 

 それとも、俺の説明下手だった? 

 嘘……結構ちゃんと説明したつもりだったんだけどなぁ……

 

 

 意味不明な決め付けで俺が傷ついている間に、話は進んでいった。

 

 

「ふふっ、それはね…。あなたのソウルジェムの中にわたしが触れるってこと。そして、他の魔力を注いだりぃ、潜在能力を引き出したりするの」

 

(藍川さんの言ってた通りだ……)

 

「ほんとにそんなことが…?」

 

「一度経験してみると。ビックリすると思うわよぉ。だからね、さっそく始めちゃいましょう」

 

「あっ、はい!」

 

 

 緊張しているのか、顔が強ばっているいろはちゃんに、みたま先輩は冗談のつもりでこう言った。

 

 

「それじゃあ、服は脱いで、そこの寝台に横になってねぇ」

 

「はい、わかりま──えっ、脱ぐ…!?」

 

「そう、そこのカゴの中に入れてねぇ」

 

「……………………」

 

 

 この言葉を、真顔で言ってるのだから本当にタチが悪い。

 笑うでもなく、申し訳なさそうにするでもなく、ただただ普段通りの真顔でそう言うのだ。

 女優顔負けの演技力だと、褒め言葉として言ってやりたい気分だ……

 だって、いろはちゃん俺の方をチラチラ見ながら考えちゃってるもん。

 

 

 頑張れいろはちゃん! 

 負けるな! 

 てか、どう考えても嘘だから! 

 

 

「みたま先輩……」

 

「…分かりました!!」

 

「分かるな! …ったく、調整屋。いじめてやるなよな」

 

「ふふっ、ウソでした〜」

 

「えぇぇ…」

 

 

 こんな、馬鹿みたいなやり取り経て、ようやく調整が始まった。

 仕切りカーテンで見えないようにした場所で、二人が調整をしており、俺とももこは近くのイスで終わるの待つ。

 因みに、ただの仕切りカーテンなので、会話はバリバリ聞こえている。

 

 

「はい、そうリラックスしてー。しんこきゅー」

 

「す────は────」

 

「ゆったりぃ、身を任せてぇ。大地に沈んでいく…しずかにー…しずかにー」

 

「はぁ…」

 

「それじゃあ、ソウルジェムに触れるわよぉ?」

 

 

 

 …仕事中みたいに、普段からこれだけ真面目ならどれだけ嬉しい事か……

 いや、あれがみたま先輩の売りみたいなもんだし、しょうがないか。

 彼女の過去を考えたら、こうやってやっていけてるだけマシ……なのか。

 

 

「くっ…」

 

「力を抜いてぇ…。もう少し…ふかーくっ…」

 

「あぁぁっ!!」

 

 

 調整が成功したのだろう。

 いろはちゃんの出した声がその証拠だ。

 最初は苦しさがあるが、段々と心地の良い感じがして、ああやって声が漏れる。

 人によっては恥ずかしいと思う人も居るが、俺は特に気にしていない。

 ……一々声に反応していたら、まさらやこころちゃんとの同居生活で疲弊してしまうからだ。

 

 

 取り敢えず、終わったなら様子を見に行かなければいけない。

 …どうしてか、俺はこの時から嫌な予感がしていた。

 

 

 ──いろは──

 

 私はまた、あの夢を見ていた。

 いつもの病室……だが、いつもの夢より鮮明に見える。

 

 

「また、あの子の病室…?」

 

(何でだろう…前より鮮明に見える…)

 

「やっぱりあなたの病室だ。さすがに私も覚えちゃったよ。…ねぇ、あなたさっき、私に何か言おうとしてなかった?」

 

 

 公園で眠っていた時も夢を見て、その時、目の前にいる桃色の髪と淡い緋色の瞳の少女は私に何か言おうとしていた。

 それを私は確かめたい。

 でも──

 

 

「────」

 

「え? あ、あの、ごめんね。もう一度言ってもらっていいかな…?」

 

「────」

 

「違うの、そんな悲しい顔しないで。ちゃんと聞こえないだけで…。…ねぇ、あなたは誰…?」

 

「────」

 

「…もしかして私、あなたと会ったこと…あるの?」

 

 

 その言葉を最後に、少女は消えていく。

 コロコロと私の前で表情を変えていた少女が消えていく。

 

 

「行かないで! 答えて!」

 

 

 だけど、私の言葉は届かなくて、少女の影は消えていく。

 そこに誰も居なかったかのように消えていく。

 

 

「ねぇ、あなたは私の…何…?」

 

 

 どうして、見る度にこんなに愛おしくて懐かしいの…。

 

 

 そこで、私の夢はまた、終わってしまった。

 

 

 ──結翔──

 

 俺とももこが様子を見に行くと、いろはちゃんがどこか物悲しそうな顔でイスに座っていた。

 そんな彼女に、みたま先輩が話しかける。

 

 

「どう? 体の調子は良い感じかしら?」

 

「えっと…。はい、さっきよりずっと良いです。なんだか、体がポカポカしてます」

 

「ふふっ、それなら成功ねぇ。最初は体がだるく感じたり、違和感があるかもしれないけど、しばらくすれば、少しづつ馴染みはじめるから」

 

「はい、ありがとうございます!」

 

 

 物悲しそうな表情は、話し始めてからは数瞬のうちに消えていった。

 …何があったのか? 

 俺にはそんな事分からないので、取り敢えず少し様子を見守るしかない。

 

 

「………………」

 

「ん? どうしたんだよ調整屋。急に神妙な顔しちゃってさ」

 

「…えぇ、ちょっと……」

 

 

 どうしてだろうか、俺は彼女の神妙な顔を前にも見た事がある。

 そう、あれは、俺が初めて調整してもらった時の事だ。

 ……調整の途中で見たいろはちゃんの過去に何かあったのだろう。

 

 

「ねぇ、いろはちゃん…」

 

「はい?」

 

「わたしね、ソウルジェムに触れるとその人の過去が見えちゃうの…」

 

「過去…」

 

「そう…。だからね、いろはちゃんの過去も見えたわ」

 

「え…」

 

 

 普段の顔からは想像できないほど、申し訳なさそうにみたま先輩がそう言うと、いろはちゃん驚いたように首を傾げる。

 まだ、完全には意味が分かってないのか……それとも──

 

 

「勝手に見たのは謝るわ。決して誰にも言わないから…。それでもね、ひとつだけ聞かせて欲しいの」

 

「なん、ですか?」

 

「あなた、何を願ったの…?」

 

「…? 私がなにを願ったのか?」

 

「…わたしたち魔法少女が契約するときに叶えた願い事よ…。覚えてる?」

 

「はい、もちろんです。私は…。私は…………。あれ…願い事…。私の…………」

 

 

 みたま先輩の問に、いろはちゃんが詰まったその時。

 突然、彼女が頭を抑えて苦しみ出した。

 ……恐らくだが、無理に何かを思い出そうとして苦しんでいるのだろう。

 俺は急いでいろはちゃんに駆け寄った。

 

 

 フィクションなどでしか見る事は無いと思っていたが、まさか本当に記憶喪失の人間に会う事になるとは……

 

 

「あっ、はぅ…。また、どうしてっ!!」

 

「いろはちゃん!?」

 

「大丈夫か!? いろはちゃん!」

 

 

 俺が生と死の魔眼で、何とか痛みを抑えてから数分。

 ようやく落ち着いてきたのか、いろはちゃんが喋り始めた。

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ…。あの子は誰…? 私の願いと関係があるの…?」

 

「ごめんなさい。苦しめる気は無かったの…」

 

「あの小さいキュウべえ、やっぱり私と何かあるんだ…!」

 

「いろはちゃん! まだ外に出ちゃダメだ!」

 

 

 いや、落ち着いてない。

 完全に動揺している。

 まだ、調整で強化した体は完全には馴染んでいない。

 今の状態で外に出るのは、危険極まりない。

 何故なら……外にはやちよさんが居るかもしれないからだ……

 

 

「行かせて下さい! 私、見つけないいけないんです。あの、小さいキュウべえを!」

 

「いろはちゃん、ちょっと待って! 今から探しに行くのは無茶だ。幾ら強化したとは言え、まだ馴染んでない状態なんだよ!」

 

「でも、私、あの子を見てからおかしくなったんです。知らない女の子の夢を見て、その度に胸がざわついて…。今は何故か愛おしくなって、もう訳が分からないんです。だから、どうなるかなんて分からないけど。もう一度、小さいキュウべえに会ってこの夢がなんなのかハッキリさせたいんです!」

 

「待っ──」

 

 

 俺が声を掛けて止まらせようとした時にはもう、いろはちゃんは居なくなっていた。

 

 

 ──やちよ──

 

「やっぱり結翔とももこの所に居たのね。…あの二人を巻き込まなかったのは……信頼の差──それとも」

 

 

 私がそう考えていると、砂場の魔女を探してローブの魔法少女が走っていく。

 …私の予想が間違っていなければ、この後、結翔やももこは追ってくる。

 二人に加勢されたら、流石に勝ち目はないだろう。

 出来るなら、彼女には早々に自分の街に帰って欲しい。

 

 

 ……無駄な死体は無い方が良いんだから。

 




 次回もお楽しみに!

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