無感動な少女と魔眼使いの少年(リメイク版)   作:しぃ君

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 ももこ「前回までの『無少魔少』。調整屋で調整を受けたな、あとはいろはちゃんの無くなった願いの記憶が、小さいキュウべぇに繋がってるかもって事が分かった話だな」

 結翔「夢の話にも小さいキュウべぇは繋がってるかもだし、色々謎が多いんだよな、小さいキュウべぇ」

 まさらを&こころ『今回も出番がない(の・んですか)?』

 結翔&ももこ『…………うん……まぁ……ね…?』

 まさら&こころ『酷い(です)!!』

 結翔「…作者に直談判してくれ」

 まさら「取り敢えず、マギア打ってくるわ」

 こころ「待ってよ、まさらー!私も行くー!」

 結翔「……作者の安否は気にせず、十三話をどうぞ!」


十三話「似ている二人」

 ──結翔──

 

 いろはちゃんが飛び出してすぐ、俺も後を追う為に飛び出そうとするが──みたま先輩に引き留められる。

 

 

「ゆーうーとーくーん? お代、払ってから行ってねぇ」

 

「……すいません。忘れるところでした」

 

「結翔、急がないと!」

 

「わーってるよ。ちょっと待ってろって」

 

 

 急かすように言うももこに当たる気はないが、少し口調が荒くなってしまう。

 何せ、自分が守ると言った少女が、敵が居るであろう場所に突っ込もうとしてるのだから、焦るに決まっている。

 ……敵と言っても、魔女じゃない。

 魔女だったらどれだけ良かった事か。

 

 

「…みたま先輩、これお代です。今後もよろしくお願いします!」

 

「はぁーい。毎度ありがとうございました〜」

 

「飛ばすぞっ!」

 

「場所分かんのかよ? …俺が先に行くから着いてきてくれ」

 

「ーっ!? 分かったよ…頼む」

 

 

 正論で、気持ちが先を急ぎ過ぎているももこを落ち着かせてから、調整屋を出る。

 千里眼を発動し、周囲を見渡す。

 あまり…遠くには行ってない筈だが……

 

 

(……見当たらない)

 

 

 よくよく考えれば、魔法少女は変身してなくても身体能力が高い。

 だからこそ、中学生そこらの女の子でも、先程までの数分の内に、簡単に千里眼の範囲から出られる。

 一応、範囲自体はもう少し広げられるが、それでは路地裏等の薄暗い道は見通すことが出来ない……

 

 

「……ももこ、ちょっと面倒臭くなったかもだ」

 

「……………………」

 

「俺が悪かったから、そんな睨まないでくれよ……」

 

 

 ジト目で睨みつけてくるももこをよそに、俺はある人物に電話をかける。

 辺りも暗くなってきており、本来なら退勤時間を過ぎているだろうが、あの人だったら今日も今日とて残業だろう。

 ……これ以上仕事を増やすのは申し訳ないが、緊急事態だ。

 頼らざるを得ない。

 

 

 三コールほど待つと、ガチャリと音がなり、スピーカーから聞き慣れた声が聞こえてきた。

 だいぶ疲れが溜まっている声だが、この際気にしないでおこう。

 

 

『もしもーし、萌坂でーす』

 

『藍川です。今いいですか?』

 

『……もしかして、事件起こっちゃった感じ? ごめんね、仕事溜まりすぎてて、そっちに気を回せてなかったかも…』

 

『いえ。まだ、何とか間に合うレベルです。俺の居る場所の近くで、二人で争っている魔法少女を探して下さい』

 

『争っている時点で間に合ってない気がするけど……うん、考えるのは止めとく。分かったら、地図で場所送るから』

 

『ありがとうございます。頼みます』

 

 

 そう言って電話を終えると、ももこはまだ俺の事を睨んでいた。

 ……どんだけ怒ってるんだよ。

 取り敢えず、コイツの機嫌を直しつつ、いろはちゃんを探すしかないか……

 

 

 今後の動きを何となく頭の中でまとめ、俺とももこは捜索に一歩踏み出した。

 

 

 ──やちよ──

 

 調整屋から出てきた桃色の髪の少女の前に、私は立ち塞がっている。

 さっきまでは、結翔達がずっと傍に居たから追い出すことは出来なかったけど今なら……

 

 

「邪魔が入ったお陰で遅くなったけど、今なら心置きなく、あなたを街から追い出せる」

 

「街から…追い出す…?」

 

「そう、あなたは私の前で証明してしまったから…。この街で生き抜く実力がないということをね」

 

「──っ!?」

 

「さ、自分の街に帰りなさい」

 

「いや、です……。私、目的があってこの街に来たんです…だから!」

 

 

 ……諦めが悪いのかなんなのか、彼女は譲る気は無いらしい。

 意思の籠った瞳がその証拠だ。

 だけど、そんな意思一つでやっていける程この街は甘くない。

 もし、甘かったらどれほど良かった事か──

 

 

 だから言うのだ、言わなければならないのだ。

 どれだけ誰かに嫌われようと、この街から去れと。

 

 

「だからどうしたの? 目的も果たせずに死にたいの?」

 

「でも私、調整屋さんにソウルジェムを弄ってもらって…。だからもう、大丈夫です」

 

「また、結翔とももこのお節介ね…。…はぁ、わかったわ」

 

「通してくれるんですか!?」

 

 

 私にそう聞く少女に対し、こう返す。

 

 

「えぇ、あなたが自分の強さを証明できればね」

 

「──っ!?」

 

 

 そう言い終えると、私は魔法少女に変身する。

 体の周りを光が包むと、一瞬の内に先ほどまで着ていた服が着慣れた魔法少女の装いに変わる。

 ルーティーンのように続けてきた普段通りの動作で、魔力で槍を編んで手に取った。

 

 

「かかってらっしゃい。あなたがこの街で生き抜けるがどうかは、私の目と腕で判断するわ」

 

 

 少女の瞳に迷いはない……が。

 恩人とは戦いたくない、そんな顔をしている。

 少しだけ、昔の結翔に似ている。

 優しさと純粋さで満ち溢れていた、あの頃の結翔に……

 誰かの希望()であろうとしていた、ヒーローであろうとしていたあの頃の結翔に。

 

 

 そんな考えをしている内に、彼女は魔法少女への変身を終えていた。

 クロスボウを構える少女の顔は未だに、戦いたくないと言っている。

 でも、私にも色々と目的があるのだ。

 

 

 ……話を聞くに小さいキュウべぇを誘き出すには、悪いけど彼女を利用するのが一番だ。

 みたまの調整のお陰か、先程結界内でやられたようなヘマはもうしないだろう。

 長年の勘は良く当たる。

 

 

「覚悟は出来たかしら…? 退くなら今の内よ」

 

「………………」

 

「やっぱり。あなた、気が弱そうに見えて、結構頑固なのね……」

 

 

 戦いたくないと言う想いと、諦められないと言う想いがぶつかりあった曖昧な表情で、彼女は私との距離を詰める。

 最初の一射が放たれた時、戦いの火蓋は切って落とされた。

 

 

 ──結翔──

 

 闇雲に捜索にすること数分。

 拉致があかないと思い始めた頃に、咲良さんから情報が送られてきた。

 今、捜索している所からそう遠くない場所だったが、路地裏だった事から見逃していたらしい。

 

 

 焦っていた所為で起きた痛恨のミスだが、悔やんでいる暇はない。

 急いで行かなければ、いろはちゃんがどうなるか分かったもんじゃない。

 やちよさんの事だから、最悪の事態にはならないだろうが、守ると決めたのだから、出来る最善を尽くす。

 

 

「ももこ!」

 

「あいよ!」

 

 

 会話を交わさなくても、ある程度ならももこは分かってくれる。

 こう言う時、コイツの存在は本当に有難い。

 説明をする手間を極限まで省き、俺とももこは咲良さんから送られてきた情報を頼りに動き出す。

 

 

 魔法少女の身体能力をフルに活かして、ピョンピョンとビルの屋上や住宅の屋根を飛び渡る。

 全力で動いたお陰か、一分も経たずに目的の場所に到着した。

 ……だが、戦いは既に始まっており、予想通りいろはちゃんが劣勢だ。

 

 

「……だけど! まだ間に合う!!」

 

 

 やちよさんの振るう槍が、いろはちゃんに追い打ちをかけようとしたギリギリのタイミングで、俺の剣が間に合った。

 作り慣れた両刃の西洋剣と、ハルバードにも似た槍が火花を散らしながら競り合う。

 

 

「さっきぶりですね…?」

 

「……お節介も程々にしたらどう?」

 

「嫌です」

 

 

 力任せに槍をかち上げて何とか距離をとる。

 ももこも大剣を持ちながら威嚇してることも相まって、やちよさんは攻めてこない。

 その内に、生と死の魔眼を発動していろはちゃんの怪我を治し、もう一度向かい直す。

 

 

「取り敢えず、間に合って良かったよ。……遅れてごめんね」

 

「追ってきて正解だったな」

 

「も、ももこさんに、藍川さん!? どうしてここに…?」

 

「やちよさんがいろはちゃんを狙うのは分かってたからね。…守るって言ったからさ」

 

「相変わらず、趣味の悪い女だよ…」

 

「この街に無駄な死体を増やしたくない…それだけよ…」

 

「それは俺も同意見ですよ。…でも、このやり方はダメでしょ」

 

 

 無駄な死体は増やしたくない…その考えは分かる。

 誰だって、自分の周りの人が死んで欲しいなんて願わない。

 俺がこの街を守る限り無駄な死体なんて作らせないが……限界は絶対にある。

 日々、限界を超えるために鍛錬しても、限界を超えたその先にまた限界は現れる。

 

 

 鍛えている人なら分かると思うし、何かスポーツをやっている人がいれば分かるはずだ。

 成長に終わりはない、それ以上に限界に果てはない。

 人間に限界地点なんて存在しやしないのだ。

 勝手にその人が決めてるだけで、もっと先に行ける可能性はある。

 

 

 だが、そう簡単にはいかない。

 ……だから、俺は日々鍛錬や魔女狩りをしているのだ。

 また、取りこぼさないように。

 

 

 やちよさんだって本当は──

 

 

「はっ、よく言うよ。大方、魔女の数が減るからだろ? 街に魔法少女が増えりゃ個人の取り分も減るからな。だから、調整屋も紹介しないで力技で追い出そうとしてる」

 

「………………。いい加減、誤解されるのも気分の良いものじゃないわね。………………そうね。ねぇ、あなた…。小さいキュウべぇを見かけたってどこで見かけたのかしら?」

 

「えっ、あの、砂場の魔女の結界です…」

 

「そう、それじゃあこうしましょう。砂場の魔女を先に倒したら実力は認めるわ。ハンデとして私は一人、そっちはタッグで構わないわ。これでどうかしら」

 

 

 ……多分、俺の勘が外れてなければ、やちよさんはいろはちゃんの実力を既に認めてる。

 目的は……さっき聞いた小さいキュウべぇ…か。

 危険因子であるイレギュラーは排除するって事か、昔、散々言われた。

 いろはちゃんだけが、今の所あの小さいキュウべぇに近付ける、だからそれを利用するつもりだろう。

 

 

 やっぱり、頭の切れる人だ。

 腹の底を読むのは結構面倒臭い。

 これなら、まさらを相手にする方がマシだ。

 

 

 このゲームはいろはちゃんの勝利で終わる──いや、やちよさんがいろはちゃんに勝利を譲り終わる。

 いつもの数秒から数十秒先を見通す未来視ではなく、もっと先を見通す未来視によれば……ゲーム終了後にやちよさんは、ももこが預かっていた小さいキュウべぇを奪う。

 

 

 いつもの未来視ではないので、断片的にしか見えないが、結界内のどこかで出会って流れで連れて来たか……はたまた連れてこられたか。

 

 

 よし、ゲームに乗ろう! 

 

 

「え、そんな勝手に…! 私は小さいキュウべぇさえ見つかれば別に…」

 

『乗ったー!』

 

「えぇ!? ちょっと、ももこさんに藍川さん!? あの、私は別にそこまで認めてもらわなくても…」

 

「これでこの堅物が認めてくれるなら安いもんさ」

 

「…それに、いろはちゃんはもしかしたら今後も、この街に来るかもしれない。俺だっていつでも君を守れる訳じゃからね。ここで認めてもらえれば後々楽だと思うよ?」

 

「あ…うぅ…」

 

「やるぞ、いろはちゃん!」

 

「はい、分かりました…」

 

「よし、それじゃあ決まりだ!」

 

「決まりね」

 

 ……ごめんね、いろはちゃん。

 色々と流した感じにしちゃって……

 でも、ここからが本番だ。

 さっきの未来視通りにはなる筈だが、念には念を……

 

 

「…いろはちゃん、タッグはももこと組んでくれ。俺が入ったら意味が無い。……俺は裏方に回るよ」

 

「……分かりました」

 

「魔女の結界を追うわよ」

 

「それだったら私が!」

 

 

 そう言うと、いろはちゃんが前に出て砂場の魔女の結界まで案内していく。

 廃墟の奥、随分と人気のない所に結界は有った。

 ……魔女に感情がない訳では無い、殺されたくないと思うのは必然だろう。

 

 

「…ありました。ここです」

 

「随分と奥に隠れてたな」

 

「さすがに複数の魔法少女に狙われたら逃げたくもなるわよ。さっきは小物一匹だったから気が大きくなってたんじゃない?」

 

「小物……」

 

 

 一々、嫌われる言い方をする人だ。

 変に悪者ぶるのは似合ってないから、出来るなら辞めて欲しいんだけどなぁ。

 約一名、気付けない奴がいるんだから……十咎ももこって奴が──

 

 

「取り敢えず、その分のハンデは付けたつもりよ。ももこと二人で頑張りなさい。強くなった実力とやらを精々発揮してね」

 

「…………」

 

「……一々ムカつく言い方だな。こっちはアンタの都合で提案を飲んでるってのにさ」

 

「別に合わせなくても結構よ。それならそれで私と戦って勝てばいい話だけど」

 

「ももこもやちよさんいい加減にしてくれ。…ゲームを始めるぞ」

 

 

 結界内に入った途端、使い魔が波のように押し寄せる。

 こっからは、俺は裏方に回ってやちよさんを妨害しにいく。

 ……まぁ、妨害なんて意味ないかもしれないけど。

 

 

 ──やちよ──

 

 行く道を邪魔する使い魔だけを的確に退けて、私は最短ルートで結界の最深部を目指す。

 恐らく、結翔も今頃、私の後を追う形か、他の方法を使って最深部に向かっているだろう。

 ……ももこ達は、もしかしたら小さいキュウべぇを探しているかもしれない。

 

 

 しかし、かもしれないを考える余裕はない。

 弱いとは言え、魔女の結界の中で考え事をするのは自殺行為だ。

 結翔達に散々言っていた私がやるべき事ではない。

 

 

 槍を最小限の力で動かし、そこに水の魔力を纏わせて、使い魔をスパスパと切り裂いていく。

 豆腐を切っているように呆気なく散っている所を見ると、攻撃力に特化している使い魔に見えるが……

 

 

「力の差……かしら」

 

 

 圧倒的な力の差。

 使い魔なんて邪魔にすらならない。

 サクサクと敵を捌きながら進み、私はものの数分で魔女プライベート空間である最深部に入った。

 

 

 そこには人型を残した魔女である、砂場の魔女と──結翔が居た。

 ……何故いるのか? 

 

 

「……あなた、どうやって私より先に来たの?」

 

「裏技ですよ、裏技」

 

「裏技…ねぇ。どうして、あの子の為にそこまでするの? 義理なんてないでしょ?」

 

「ないですよ。…でも、助けたいって思ったんです…守りたいって思ったんです。だからやります。人間、理由なんてそれだけで大抵なんとかなるもんですよ?」

 

 

 カラカラと笑う結翔は、どこか昔の雰囲気が戻っていて少しだけ嬉しくて、でも……何故か悲しい。

 

 

「砂場の魔女は?」

 

「気絶してますよ。暇だったんで、邪魔しちゃおうかなぁ…と」

 

 

 なるほど、私達が喋ってる間に何もしてこなかったのはその所為か……

 相変わらず、チートじみた強さだ。

 魔女を気絶させるなんて、余程力加減が上手くなければできない。

 

 

「良いわ。久し振りに稽古でも付けてあげる。…全力で来なさいっ!」

 

「言われなくても…!」

 

 

 使い慣れた剣ではなく、私と同じ槍を魔力で編み、突貫してくる。

 槍は基本的に薙ぐか突くものだ……一応切り裂く事も出来るが、慣れないと難しい。

 結翔がいつも使っている剣とは少しどころか、大分違う。

 切り裂く、と言う行為を取りずらい分、どうしてくるか──

 

 

「はぁっ!」

 

 

 最初の一撃は姿勢を低くして接近してからの切り上げ。

 来ないと思っていた……全く持って面倒な手だ。

 剣なら刃の部分が縦に長い分、刃同士でぶつけられるが、槍はそうもいかない。

 柄の部分で受け止めれば、込められた力によっては真っ二つに切られる。

 

 

 

 なので受け止めることは不可能に近い、受け流しも切り上げとなると少々リスキーな賭けだ。

 だからこそ、ここでの最善手はバックステップで下がる事。

 

 

「ふっ」

 

 

 下がったら、魔力で槍を複数作り、砲弾のように発射する。

 発射された槍は同時に結翔に辿り着くのではなく、少しズレて辿り着く。

 作った順からどんどん発射していくので、誤差が出るのは必然。

 複数同時に作って発射するのは可能だが、一気に躱されて距離を詰められるのは不味い。

 

 

 彼に懐に入られては数分と持たないだろう。

 だからこそ、私はこの手を選んだのだが──

 

 

「オラァ!!」

 

 

 瞬時に武器を槍から双剣に変えて、撃ち込まれていく槍を叩き落としていく。

 着弾のズレを利用し、確実に一つずつ、丁寧に叩き落とす。

 右の瞳が水色に光ってない所を見ると、魔眼は使ってないのだろう。

 元々あった素質と努力と経験値のお陰で、この程度なら簡単に落とせるようになったらしい。

 

 

 …一番使い慣れてる剣に変えた時点で、槍にはそこまで自信がないのだろう。

 

 

「槍はまだ苦手?」

 

「そうですね、苦手ですよっ!」

 

 

 双剣で槍を叩き落としながら段々と近付いて来る結翔。

 あと少し、そうなった時、ももことローブの魔法少女が最深部に入って来た。

 ……一応、小さいキュウべぇも居るみたいだ。

 一緒にそれを見た結翔は、武器を消した。

 

 

「……おいおい、冗談キツイぞ。いくら何でも早すぎる」

 

「魔女が…気絶してる」

 

「思ったより早かったよ。やったねいろはちゃん」

 

「……はぁ、時間稼ぎされたわね。本当ならあなたたちの負けよ。結翔の横槍がなければね。……だから、もう一度チャンスを上げる。あなた一人で魔女を倒しなさい。そうすれば実力を認めてあげるわ」

 

「……一応、一撃で気絶させたから、そんなダメージは入ってないよ。ほぼ、フルパワーの状態だし」

 

 

 私と結翔の言葉をももこは良く思わなかったらしい。

 いや、全面的に私の所為か…………

 

 

「バカにするのも大概にしろよ! 人を弄んで!」

 

「せっかく譲歩したのに弄ぶなんて酷い言い草ね。それにこれは、あなたの問題じゃないわ。どうするかはこの子次第よ…」

 

「くっ……!」

 

「さぁ、どうするの?」

 

(藍川さんとももこさん、二人が言ってたみたいに、またこの街に来るかもしれない……)

 

「それなら、私は……今ここで魔女を倒してみせます!」

 

「そう、それなら見せてみなさい神浜の魔女を倒すところを」

 

「…頑張れよいろはちゃん」

 

「大丈夫。今のいろはちゃんなら勝てる筈だ」

 

 

 サムズアップで送り出す結翔と、応援の言葉で送りだすももこ。

 ……私と結翔もももこの方に移動し、戦いを見守る姿勢に入る。

 

 

「藍川さん。キュウべぇの事、お願いします」

 

「了解」

 

「プギュ!」

 

 

 そして、砂場の魔女との戦いが幕を開けた。

 

 

 ──いろは──

 

 目の前に居る魔女の存在感は大きい。

 今まで自分の街で相手にしてきた魔女が、粒のように小さく見える。

 まるで、氷山の一角だけを見て生きていたみたいだ。

 勝手に思い込んでいた魔女の強さを、砂場の魔女はあっさりと超えている。

 

 

 風を操る攻撃は当たったらひとたまりもないだろう。

 全ての攻撃をギリギリの所で避けているが、あと何回持つか……

 私の攻撃もみたまさんの調整のお陰で、ダメージ自体は入っているが、それが効いているかと言われると首を横に振らざるをえない。

 

 

 躱しては射って、躱しては射っての繰り返し。

 膠着状態がかれこれ十分程続いている。

 調整に体力が追い付いてない所為で、回避も難しくなってきた……

 

 

「これで……!」

 

 

 溜めに溜めた一撃を放つも、風を操って作った竜巻で相殺されてしまう。

 …………イチがバチか、マギアで決着を着けないと。

 折角のチャンスが無駄になっちゃう! 

 

 

 それだけは……それだけはダメだ!! 

 

 

 未来への希望の想いを、魔力と一緒にクロスボウに流し込み一つの矢を作る。

 それを上空に向かって打ちあげながら叫ぶ。

 

 

ストラーダ(strada)フトゥーロ(fturo)

 

 

 次の瞬間、風を幾ら大きな竜巻を作っても、相殺できないほどの大量の光の矢が降り注いだ。

 それは未来への道を晴らす矢で、未来を切り開く矢。

 私の…マギアだ。

 

 

「──────!!!」

 

 

 魔女は私のマギアを受けて、断末魔を叫びながら消滅していく。

 ……その日、私は思い出した、初めて魔女を倒した日の達成感を。

 結界が晴れて、グリーフシードを回収すると、私は藍川さんとももこさんの下に走る。

 

 

 達成感以外にも、思い出した事がある。

 覚えてないだけかもしれないが、私は初めて人助けではなく、自分の目的の為に自分の意思で魔女を倒した。

 

 

 それが、何故か無性に嬉しかったのだ。

 

 

 




 次回もお楽しみに!

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