いろは「はい!これからよろしくお願いします」
まさら「…今回の話は少し短いわね?」
しぃ「…バイトが……バイトが……」
結翔「俺より楽だろ」
まさら「…まぁ、色々あるけど、楽しんで十五話をどうぞ!」
十五話「ウワサの始まり」
──結翔──
いろはちゃんが神浜市に訪れるようになって数日も経たないある日。
俺はやちよさんに噂の件で喫茶店に呼び出されていた。
噂であり、うわさであり、ウワサ。
やちよさんは時によって、その言葉を使い分けている
因みに聞いたところによると、噂を現実のものとする存在がウワサらしい。
うわさは現実になるほど信憑性のある噂を示す言葉らしい。
…若干、この時点で着いていくのが億劫になるが、仕事上やめるわけにはいかない。
「遅くなってごめんなさい」
「問題ないですよ。やちよさんか忙しいのは知ってますから」
「それで……私が頼んでいた資料は持って来てくれた?」
「資料も持って来ましたし、事前の調査も済ませてます」
今回、俺とやちよさんが追っている噂である絶交ルールのウワサは、既に行方不明者も出している危険なウワサだ。
やって来て早々、やちよさんが俺に頼んでいた資料を求めてくるのも頷ける。
「これが最近の行方不明者のリストです。…一応、行方不明者の周辺環境も洗ってみましたけど、友人や家族から出てきた情報はどれも同じ。…親友である誰かと『絶交』して、後悔故に謝ろうとしていた」
「流石、手際がいいわね」
「いろはちゃんに頼まれていた事の片手間でやっても出来ますよ。これぐらい。……いや、どっちも本気で取り組みましたよ?」
「別に、疑ってなんてないわよ。あなたが真面目なのは知ってるわ」
そう言うと、やちよさんは行方不明者リストに目を通し、俺の事情聴取のメモにも目を通す。
あらかた見終えると、彼女は一つため息をついた。
それが、犠牲者が既に出ている事へのやるせなさからなのか、それとも自分の行動が後手に回ってる事への不満か……
俺には到底見分けがつかない。
ただ一つ分かるのは──今回の件を解決しようと真剣に動いている事だ。
「結翔」
「…? どうしました」
「もし、何かあったらすぐに伝えてちょうだい。これ以上、犠牲者を出す訳にはいかない」
「了解です。いろはちゃんの件もあるんで、少し忙しくなるかもですけど……まぁ、頑張ります」
いろはちゃんの妹探しの件は、病院の方は手掛かり無し。
面会記録の中に、俺やいろはちゃんの名前は無かった。
無論、環ういの名前も……
「……あの子にも、絶交ルールの件は話したわ。忠告だけど」
「……………………」
「何よ、その顔は?」
「いやぁ、人間って早々変わんないな〜って」
俺がニヤニヤとやちよさんを見つめていると、イラついたのか低い声でこう言った。
「決めた。今回は奢りなさい」
「? 別にいいですよ。俺、お金には困ってないんで」
まぁ、俺は呆気らかんと普通に返した訳だが。
何せ、俺の仕事は出来高制。
魔女を倒せば倒すほど、魔法少女を救えば救うほど俺の給料は増える。
最近は魔女が多い所為で、二日に一回は魔女を狩ってるし、一日一回は魔法少女のピンチを救ってる。
これで三人暮らしが出来ないわけが無い。
月にウン十万は軽く貰っているのだ。
……どれもこれも命懸けなのだが。
そして、俺の言葉を聞いて、やちよさんはまたため息をついて、運ばれてきたコーヒーを口につける。
「…噂の件、今後大きく動いていく筈よ。十分注意しなさい」
「いつも命懸けですからね、注意するもなにもないですよ」
あくまでいつも通りだと言う俺に対し、やちよさんは苦笑気味に笑った。
この時、気付いていれば良かった。
ウワサの突き抜けた面倒臭さに……
──ももこ──
先日、かえでとレナが何度目かの絶交をした。
いっつも些細な事で喧嘩をする。
大抵はレナが悪くて、かえでが待って、レナが悪いのに気付いて謝って、それで終わるのだが……
今回の絶交は過去で類を見ないほど長く続いている。
いろはちゃんも何かとコチラを気に掛けてくれている。
本当は、アタシがそっちを手伝うつもりだったのに……
『なぁ〜結翔〜、どうすればいいと思う?』
『…夜中に電話してきて、一方的に話して、区切りが着いたと思ったらそれか? 一発ぶん殴りたいんだが…?』
『悪かったって…。それに、いつもお前が授業抜け出したあと、フォローしてやってるだろ?』
『……はぁ。で? 二人は絶交だって、言っちまったのか?』
やっぱり、結翔も絶交ルールの噂を……
何でだろう、凄くイライラする。
アタシの話を真面目に聞いて、心配して言ってくれてるのに──凄くイライラする。
……また、噂なのか?
『結翔も噂の所為だって言うのか?』
『まぁな。現に行方不明者リストの人間は、恐らくだが絶交ルールを破っている奴等ばかりだからな』
『噂が……人を襲うのか?』
『分かんねぇよ、こっちも調査中だ。……やちよさんのことで引っかかってるのは分かるけど、自分の仲間の為に疑えるものは疑っとけ』
疑えるものは疑っとけ……か。
分かっている、分かっているんだ。
自分が意固地になってるだけだなんて……
そんなの分かっている……なのに……
『……サンキューな。アタシの方でも、色々やってみる。……もし、何かあったら──』
『安心しろ。俺が助けてやる……必ず』
『……安心した』
本当に何でだろう。
たった一言、アイツに助けてやるって言われただけで、さっきまでのイライラが吹き飛んで、ポカポカとした温かいモノが溢れてくる。
凄く、凄く安心する。
……やっぱりやろう。
明日、かえでとレナを無理矢理にでも引き合わせて仲直りさせる!
出たとこ勝負でやってやる!
だから──もしもの時は……助けに来てくれよ?
──まさら──
「……絶交ルールのウワサ?」
「ああ、聞いた事あるだろ? …ももこの所が不味い事になってる、悪いけどお前たちにも手伝ってもらいたい」
「私は構わないけど…こころは?」
「私も大丈夫です。…もしかして、レナちゃんとかえでちゃんが絶交って──」
「あぁ、言っちまったみたいだな」
目の前に座り、朝食を食べながらそう言う結翔は、とても眠そうだ。
昨日は夜に行かなかったが、何かあったのだろうか?
目の下の隈が酷い、はっきり見えるレベルだ。
私たちに頼るのも珍しい。
何故なのか?
「…私たちを頼るなんて珍しい」
「別に、そうでもないだろ? 頼る時は頼るさ。仲間で家族なんだから」
「そうですよねっ! ウワサがどんなのか分かりませんけど…三人でなら何とかなりますよ!」
こころは余裕がありそうだが……。
多分、今回の件は長くなる。
絶交ルールだけじゃない、ウワサ自体の件が長くなる。
そんな予感がする。
結翔もそれに気付いているのだろうか?
「結翔。今回の件…」
「ん? どうかしたか?」
「いえ…なんでもないわ」
「??」
疑問符を浮かべる結翔を他所に、私は考えに耽ける。
きっとこの瞬間には決まっていたのだ。
避けようのない結末が……
次回もお楽しみに!
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