結翔「……キャスティングミスだろ」
いろは「ええと、翻訳すると。前回までの『無少魔少』。かえでちゃんとレナちゃんが、敵に洗脳されちゃいました。そして、それを取り戻すためにやちよさんと結翔さん、こころちゃんにまさらちゃんが助けに来てくれました」
まさら「モキュ語……解明できる人って居るのかしら?」
こころ「さ、さぁ…。で、でも、案外居るんじゃない?」
結翔「モキュ語の解読法は分からないけど、取り敢えず十七話をどうぞ!」
──結翔──
目の前に居る巨大なウワサに、俺の攻撃はノーダメージだった。
剣で切っても防御力故に弾かれて、グロックによる銃撃も同様。
頼みの綱である直死の魔眼が使えない為、二つある内の一つのマギアは打てない。
一か八か、もう一つのマギア、『
右足を一歩分後に下げ、左足を半歩分前に出す。
その後は、ゆっくりと腰を下ろし、右足に各属性の魔力を溜めていく。
各属性の魔力量は全て1:1にして、少しづつ混ぜる。
いつもの動きで、無駄なく、遠慮なく、全てを注ぐ。
賭けはしたくないが仕方がない。
これで決めなければ、殆どの攻撃が通じない事になる。
「これで……終われぇぇぇえ!!!」
助走をつけてから高く空に飛び、聖なる光を彷彿とさせる、白い魔力を纏った右足をウワサに向かって突き出し、落下する力も合わせたキックを放つ。
しっかりとマギアはは命中したし、ダメージを与えた感覚もあった。
ウワサは流れ込んだ魔力の奔流に耐え切れなくなり爆発し、爆風が視界を奪ったが──聴覚までは奪えない。
だからこそ、それは聞こえた。
「|ラ↑ン↓ラ↑ンラ/‼|」
「嘘だろ……あれが効かないのかよ」
「……! 結翔さん! やちよさん! ももこさん! 四人で連携して攻撃しましょう」
「…なるほどね。絶交の性質とは逆をやってみようってわけね」
「はい! そうです、それです!」
…そう言う事か。
いろはちゃんの発想が間違いないのなら、俺の攻撃が効かなかったのも頷ける。
「繋がり…信頼…友情…絆…なんて言うかそういう感じかしら?」
意識して攻撃しなきゃ、意味が無いってことか…
いつも無意識下でしている事を、しっかりと意識する事が倒す為のキー。
意識しなきゃ出来ない絶交に、無意識下の信頼や友情は意味が無い。
同じく、意識しているからこそ、効果を発揮出来る。
「何となくだけど、勝機が見えてきたな」
「だけど、ただ繋がりはあっても、アタシとやちよさんの絆って…」
「私はももこのこと普通よ?」
「それなら、アタシだってやちよさんの事は…普通だよ」
お互いに普通と言い張る二人。
いや、言い張ってはないな。
…………お互い不器用と言うか、なんと言うか。
ほら、いろはちゃんがたじろいじゃってるじゃん。
「普通なんですね…。あぁ…えっと…」
「それじゃ、好き嫌いじゃなくて共通点ならどう?」
「そ、そうですよ! かえでちゃんとレナちゃんを助けたい気持ちは同じですよね? それって今の私たちにとって一番強い繋がりじゃないですか?」
「…そうね。私たちを結び付ける一番強い繋がりかもしれないわね」
「うん…確かに。それじゃあ、かえでとレナを助けたい気持ちを…一発、いや四発ほど、乗せていきますか!」
「はい! それでいきましょう!」
意見が纏まってきた時、ウワサが怒りの声にも近い、音を吐き出した。
衝撃波を出す程のものでは無いが、そろそろ相手も決めに着たいのだろう。
……それなら、こっちだって同じだ。
「|ラ↑ン↓ラ↑ンラ/‼|」
「ちょうど、相手もお怒りだし良いタイミングだわ。あなたのせいで、どれだけの子が消えたのかしら償えとは言わない。……ただ、消えなさい!」
「何度、本音を出してぶつかっても繋がっていられる。そういう友だちってすごく大切だと思う。だから私は、その絆を切ろうとしたことを許せない!」
「最後こそ、ちゃんと守り切らないとな…。だからさ魔女さん…アンタは地獄で贖罪し続けろ! コノヤロオオオオオオオオオ!!」
「俺の仲間に手を出したのが運の尽きだったな……ウワサ。勝利の法則は決まった!!」
やちよさんの槍の一撃が、いろはちゃんの限界まで溜めた一射が、ももこの憤怒の一振が、俺の勝利への一打が重なり、ウワサを跡形もなく消し飛ばした。
消滅したと同時に、不思議な結界は解けるがウワサの居た場所にグリーフシードはない。
(やっぱり、魔女とは完全に別物なんだな……)
「よし、結界は解けた…。あとは、かえでとレナを…」
「きっと近くにいるはずよ探しましょう」
「二人とも無事でいて……!」
……っ!?
しまった、考えるのは後だ。
俺はすぐさま千里眼を発動し、辺りを見渡す。
すると、思ったより早く二人は見つかった。
こころちゃんとまさらも一緒だ。
だけど……かえでが起きてない。
「見つけた! 急ぐぞ」
考え事をしていた俺が言える事ではないが、見つけたからには先導する。
一分もしない内に目的の場所まで着くと、涙目のレナと眠ったままのかえで、静かに俯くこころちゃんに僅かに唇を噛むまさら。
……場の雰囲気は、とてもウワサから解放されて喜んでいるとは思えないものだ。
「………………」
「なんでレナだけ目が覚めるのよ。かえで、アンタだって大丈夫でしょ? 目、開けなさいよ…」
「レナ!」
「ねぇ、ももこ助けて! かえでが起きない! レナとかえでのこと守るって言ったでしょ!?」
「っ…!」
レナの悲痛な叫びに、ももこは答えることが出来ず、小さく舌打ちをする。
重苦しい雰囲気の中、レナは言葉を続けた。
「お願い! ゲーセンとかおごれなんて言わないから! なんとかしてよ!」
「やっぱり、長く操られていた方が消耗が激しいみたいね…!」
「すいません、ももこさん。私とまさらがもっと早く……」
「私の治癒能力で…。あと、ももこさん。さっきの魔女のグリーフシードは」
「あの魔女は、グリーフシードを落とさなかった…。急いで魔女を探してくるよ」
ももこが飛び出そうとした瞬間、俺は小さな巾着袋から一つのグリーフシードを取り出す。
ストック自体はそこそこある。
…最初から、俺がこれをまさらかこころちゃんに渡していれば話は早かったのだが、使われたくないやつも入っていたので渡さなかった。
因みに、巾着袋の中には、色を失った透明なソウルジェムが一つと、グリーフシードが出したやつを含めず五つ。
その内一つはソウルジェムとセットで、ビニールで個包装してある。
「世話焼きね、あなたも」
「お互い様でしょう?」
かえでのソウルジェムにグリーフシードを当てて穢れを浄化し、序に生と死の魔眼で怪我を治す。
「レナ、言う事があるんだろ?」
「…うん。かえで…かえで…目を覚まして! 仲直りの印にって、かえでが好きなもの買ってあるから! ずっと謝りたくても謝れなくて、渡したくて渡せなくて…! ずっと鞄の中に入れてあるの! いつでも渡せるから、渡したいから、だから起きて! お願い…」
心からの言葉だろう。
ウワサの事を真剣に考えていたレナは、謝りたくても謝れない状況に後悔して、好きなものを買っても渡せない事に苦悩して。
ぐちゃぐちゃになりながらも吐き出した、心の底からの言葉だだった。
「レナちゃん…」
「かえで?」
「うん…」
「──っ!? よかった、よかったぁ!」
「はぅぅっ、揺らさないでよぉ。…私、ちゃんと聞こえてたよレナちゃんが謝ってるの…。謝ってくれてありがとう…」
「うん、うん…ぐすっ…」
「家庭菜園から果物取ってたのレナちゃんだったんだね…」
「うん…」
「私のペットのこと、そんなに気持ち悪いって思ってたんだね」
「うん…」
「あとで、ちゃんと謝ってね…」
「やだ、二度は謝らない…ぐすっ」
「ふふっ、分かった」
「はぁ…ほんと…良かった…」
泣き笑いながら抱きつくレナと、困ったように笑い抱きつかれるかえで。
そして、それを見て安堵したような笑みを浮かべるももこ。
(……守れた。良かった)
俺も、自然と笑みが零れた。
今、目の前にある、三人揃った当たり前の光景を守れたのが嬉しくて、昔のように無邪気に笑った。
久しぶりの、本当の笑顔だったのかもしれない。
──いろは──
温かい雰囲気が場を包む中、やちよさんは一人、その場を去ろうとしていた。
そして、私はやちよさんに聞きたかった事を聞く。
疑問に思っている事を、聞く。
「待ってください、やちよさん」
「何? もう終わったでしょ?」
「はい、そうなんですけど…。ひとつの教えて欲しくって…」
「何かしら?」
「さっき倒したのって本当に魔女なんですか…?」
「それは、どういうこと?」
「やちよさんも、結翔さんも、ずっと魔女って言わなかったから…」
…さっきまでの戦いの中、ウワサを調べてまであろうやちよさんと結翔さんは、一言もアレを魔女だと言わなかった。
私も、グリーフシードを落とさない事や、いつもと違う結界だった事もあり、魔女ではないのかも……と疑いが生まれた。
「…………鋭いわね。そうね…私は違うと思っているわ。多分だけど、結翔もね」
「じゃあ、今のはいったい…」
「私はウワサと呼んでいるわ」
「ウワサ…?」
「そう、魔女でも使い魔でもない。ウワサはうわさのために現れる。うわさを現実にする存在として、うわさを守る存在として…」
うわさを守る存在がウワサ?
うわさを現実にする存在がウワサ?
……駄目だ、何となく理解はできても、完璧には飲み込めない。
自分で、経験したはずなのに……
「………………。あの、ごめんなさい。上手く飲み込めなくて」
「絶交ルールであなたも経験したはずよ。うわさ通りにするために、かえでたちをさらいにきて、うわさの内容から外れようとする私たちを、排除しようとした…。あれは本当にただ、うわさのために存在してるの。魔女や使い魔とは決定的に違う存在でしょ?」
「…ウワサ…本当にそんなのが…」
「信じたくなければ、信じなくていいわ。ただ、気を付けなさい。この神浜に通う以上は、避けられない存在でしょうから…」
そう言って、やちよさんは去っていった。
優しい人だと、思った。
……失礼かもしれないけど、どこか結翔さんと似ている。
あの人は、誰かの為に動ける人だ。
きっと、私の考えは外れてなんてないだろう。
──結翔──
『面会記録の方には、俺やいろはちゃんの名前はなかったよ』
『じゃ、じゃあ、入院記録は……』
『そっちも……。あっ! でも、さっき教えてくれた灯花ちゃんとねむちゃんって子は居たよ。確か、退院したのは──』
『…それ、ういが退院した時期の少し後です! …良かったぁ、灯花ちゃんもねむちゃんも、ちゃんと居たんだ』
嬉しさ故に、声のトーンが一つ上がるいろはちゃん。
記憶が偽物じゃない証明の足しにはなったらしい。
他にも、俺が調べた情報の開かせる部分全てを彼女に話した。
流石に、住所までは言えなかった。
(幾らなんでも、アウトな個人情報だし。それに──)
俺でさえ、それを
警察官、と言う後ろ盾があっても、彼女達の住所は詮索を禁止された。
里見メディカルセンター、何か裏があるのか……それとも──
『結翔さん、今日はありがとうございました!』
『ううん。どういたしまして』
電話を切ると、俺は自室を出てリビングに降りる。
リビングにはソファに座り、膝の上にチィを占拠されたまさらが、無表情──ではなく少しだけ微笑んでチィを撫でていた。
「……はぁ」
「人の顔を見てため息を吐くなんて、良い度胸してるわね」
「いや、いつも今みたいに柔らかい表情だったらなぁってさぁ」
「まぁ……良いわ。…そうそう、今日の晩御飯はシチューらしいわよ」
「マジか……楽しみだな」
「フランスパンがないってこころが言ってたわ。ダッシュで買ってきてちょうだい」
いつも通りの無表情で、家主の俺をパシらせるあたりは肝っ玉が座ってる。
……いや、色々なものがまだ無いから言えるだけなのか?
ふぅ……まさらの事はまだ分かんない事が多いな。
結局、パシらされた俺は、近くのスーパーに駆け込んだ。
すると、そこでやちよさんと偶然遭遇。
……何故だろうか、凄く見られてる気がする。
「あなた、入れ知恵したでしょ?」
「別に、してないですよ」
「……はぁ。悪いけど、あなたには『口寄せ神社』のこと調べるの、手伝ってもらうから」
「勘ですけど、いろはちゃんも調べますよ」
「その時はその時よ」
そう言うやちよさんはいろはちゃんが噂を調べる事を止める気なのだろうか?
それとも──
(為せば成る…。俺がどうにかすればいいか)
いつも通りだ。
やるべき事を、役目を果たす。
この街を──この街に居る人を守る。
……あっ、こころちゃんのシチューはとても美味しかったです。
次回もお楽しみに!
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