失踪クソ野郎のしぃです。
リメイク版としての投稿となります。
前作を読んでない人も、今作から入る人も、暖かい目で見て貰えると幸いです。
人を勘違いさせるレベルの誤植があったので、一部変更しました(十一月十四日)
一話「魔眼使いの少年はヒーローになりたかった」
新興都市神浜市。
そこは、他の地域とは一線を引く魔法少女や魔女が集って
居た…この言葉を使うには理由がある。
この街には──いや、この世界には魔法少女も魔女も存在しない。
ある一人の少年が、想像を絶する戦いの果てに書き換えてしまった。
魔女と言う災厄が居なくなった世界は、上っ面の平和が流れている。
魔法少女だった少女たちもその平和を享受し、居なくなったかもしれない友人たちと青春を謳歌していた。
そんな美しい日常を、
「これで、良かったんだよな…」
複雑に感情が入り交じった声は震えていて、悲しいような嬉しいような…あやふやなものだ。
世界の裏側に平和なんてないが、精神に幾分かガタが来た少年にとって、この街さえ笑っていればそれでいい。
それでいい筈なのに……
「はぁ…………」
もやもやとした正体不明な感情が胸の中で燻っている。
苦しいとも違くて、悲しいとも違う、この感情の正体は……
「バカみたいだな…俺。分かってた筈なのに、今更寂しいなんて」
寂しさだった。
──────────
誰しも、子供の頃はヒーローに憧れるものだ。
女の子だったらプリキュア然り、男の子だったら特撮系然り。
特に男子は、日曜朝の特撮系が好物の中の好物だ。
戦隊やライダーは子供心をがっしり掴む。
加えて、ウルトラマンも忘れてはいけない。
先程の話に例外はなく俺──
子供の頃からヒーローに憧れて、警察官だった父に勧められ、柔道や空手、合気道や剣道、出来るものは全てやった。
辛い時もあったが、ヒーローになる為の相応の努力だと我慢した。
でも、現実は小学生のテストのように簡単なものではなかった。
俺が小六に上がる頃、父が事件の捜査の途中で殉職。
忙しさ故にあまり家に居らず、交流が多い訳ではなかったが俺は父を尊敬していたし、父こそヒーローだとも思っていた。
ヒーローは無敵、ヒーローは絶対に負けない。
そんな幻想は呆気なく砕かれた。
父の殉職の所為で、優しかった母は精神を深く病んでしまい家を出た。
…当時、十一歳だった俺を置いて。
「お金は毎月口座に入れる」、その一言を残して去って行った。
尊敬していた父の死がありながらも、俺はまだヒーローの存在を信じていた。
いや、縋っていたのだ。
居なくなってしまった母を連れ戻してくれる、都合の良い
その存在に縋り続けて一年、中学に上がって間もない時期にある事件が起きた。
この事件をきっかけに、俺は父が所属していたある警察の裏組織を知る。
公安Q科と呼ばれている、特殊も特殊で異能力が使われた事件を追う組織だ。
最初は耳を疑ったが、父の友人を名乗る人が語っていた事から、嘘や冗談の類でないことを信じた。
それ以前に、自分自身も異能力……普通では無い力を持っている事が分かっていたからでもある。
その後は、父の友人のツテを使い、神浜にある組織に入った。
名前は神浜市魔女特別対策班……のにち神浜市ウワサ魔女特別対策班に変わるが…今の所は関係ないので割愛しよう。
魔女の存在なんて知らなかった俺は、魔法(異能力)を使える女性を追う部署なのかと思ったが違った。
最初の方は、ヤのつく組織の動向を観察したり潜入したり、はたまた普通にボランティア活動したりと割と普通だった……今思えば、上司の優しさだったのかもしれない。
仕事をやっていくうちに、世界の裏側の汚さが見えた。
政治家が起こした表には出ない凄惨な事件や大企業の汚職、更には人間関係の歪みで起こる陰湿な虐め。
小さい事から大きい事まで、綺麗な表の世界しか知らなかった幼い俺は父がどんな世界で生きていたか知った。
それと同時に、父が自分の仕事を俺に見せてくれなかった理由も何となく察せた。
世の中にヒーローなんて居ない。
人々はそれぞれ違う正義を持っていて、それを支持してくれる正義の味方を欲している。
誰も万人を助けられるヒーローは求めておらず、求められても万人を助けられる存在など居なかった。
だがしかし、俺はそこでも…
「居ないなら自分がなれば良い」、と得意げに言って見せた。
地獄が始まるとも知らずに……
組織に入って半年が経ち、ようやく魔女と遭遇した。
全くの偶然だったが、魔女の結界内には魔法少女が居て、その魔法少女は俺が良く知る人物だった。
家族ぐるみの付き合いがあり、母が居なくなった事とある事件から一層距離が縮まった少女。
姉貴気質な所があるが可愛い物好きと言う一面を持っている、至って普通の女の子…の筈だった。
話を聞くに、キュウべえと呼ばれる真っ白なネズミや狐にも似たメルヘンな生き物? ぬいぐるみ? に「ボクと契約して魔法少女になってよ」と言われたらしい。
契約の内容は至ってシンプル、何でも願いを叶える代わりに魔法少女として魔女と戦ってもらう。
勿論、命懸けの戦いになる為、願いに上限はない。
最初はももこを怒鳴り散らした。
彼女の願いを馬鹿にしたくなかったが、それ以上に彼女が大切だったから怒った。
そして、怒鳴り散らしている時にキュウべえが来た。
契約と言っているなら破棄ができるのではないか?
そんな甘い期待があった俺は、キュウべえに問いかける。
「キュウべえって言うのはお前なんだよな? 単刀直入に言わせてもらう。
今すぐこいつの願いを取り消してくれ。契約? だったら破棄が出来るんじゃないか?」
「君はなかなか聡いね。だけどそれは不可能だ。ボクは最初に『その魂を対価にして願うのはなんだい?』、と言った。魂を対価にしてるんだ、破棄出来たとしても、彼女の魂は無くなることになるけどそれでいいかい?」
丁寧で論理的な口調とは裏腹に、全く感情の籠っていない声はどこか不気味で恐ろしさを感じた。
けど、それ以上にキュウべえから出た言葉に恐ろしさを感じる。
魂を対価に奇跡を起こしたならば、対価として支払った魂はどうなるのか?
ももこから聞いた話と自分の推測を合わせていくと、驚く程にスラスラと見えなかった答えが見えてくる。
チラリと、ももこを見やった。
魔法少女としての服装はどこか現実の世界に不似合いで、周囲の空間から浮いている。
まるで、そこだけ空間が違うかのように。
「……キュウべえ、契約ってのは誰でも出来るのか?」
「魔法少女になる事かい? …普通なら出来ない筈だけど、君は特別らしい。イレギュラーと言う奴だね。出来ないことは無いよ? どうする」
「決まってる。やるに決まってるだろ」
「じゃあ、その魂を対価に君は何を願う?」
隣に居るももこが何か言っているが、耳に入ってこない。
そしてその日、俺は──────を願った。
以降は、俺が魔法少女になった事で組織での本格的な仕事を始まった。
ほぼ毎日、魔女退治に明け暮れる日々。
父が命を懸けてまで守った街を守る為、理想のヒーローになる為。
しかし、如何せん魔法少女としての経験値が足りなかった俺はチームに入れてもらった。
三人組のチームだった。
ある人物を師匠として魔法少女としての戦い方を学び、実践で練習しながら過ごす。
異能力と魔法少女としての力を同時に使えていた俺は、完全に調子の乗っていた
チームで活動しつつ、ももことコンビで魔女を倒し、仕事でも個人で魔女を狩る。
オーバーワークが過ぎていた。
それでも戦うことを辞めなかったのは、自分の強さに酔っていたからだ。
街一つなんて、自分の腕に収まりきると勝手に思い込んでいた。
ヒーローなんだから、持ったものも落とさないと……思い込んでいたのだ。
だが、俺は大切なものをポロポロと落としてしまった。
一つ落とした、
また一つ落とした、
新しく物語が始まる約一年前に、俺はチームを去った。
屑に成り下がった自分を磨き直すために。
その時に出会ったのだ、驚く程無感動な少女に。
出会いは運命を変えて、最悪の戦いを勝ちに導いた。
これが今までの大まかな流れだ、大分端折ってしまったがこれから語っていけばいいだろう。
時間だけは幾らでもある。
書き換えた弊害として世界から存在を抹消されたのだ。
何をしてても咎められないし、誰も俺の存在を知らない。
寂しいが、仕方の無い事だ。
都合良く書き換えたのに、デメリット無しなんて強欲が過ぎるだろう。
仲間だった少女たちの笑顔を見ながら、自嘲するようにクスリと笑う。
想いを踏み躙ったのに、軌跡を思い出を書き消したのに、笑顔を向けて欲しいなんて……
「ホント、バカだなぁ…」
クスクスと笑いながら、過去を振り返る。
どこから語るべきだろうか?
やはり、彼女たちとの出会いだろうか?
「出だしはこうだな。ある日。最強のヒーローである藍川結翔は、無感動な少女と心優しい少女に調整屋で出会った。それが、自分自身の運命を突き動かさすとも知らずに──」
これは、俺の壮大な自分語りだ。
完璧なヒーローになりきれなかった俺の回想録。
そう…ただの自己満足と言うやつだ。
次回もお楽しみに!
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