いろは「結翔さんは最初から分かってたんですよね……教えてもらいたかったです」
結翔「だって、言っても信じてもらえるか半々で、分かんなかったから」
やちよ「私はちゃんと忠告したわよ」
いろは「…はぁ。取り敢えず、鶴乃ちゃんが本格参戦する十八話をどうぞ…!」
チィ(しぃ代理)「もっきゅ、もきゅ!(悪いけど鶴乃の出番は、早くても次話からだよ!)」
アラもう聞いた? 誰から聞いた?
口寄せ神社のそのウワサ
家族? 恋人? 赤の他人?
心の底からアイタイのなら
こちらの神様にお任せを!
絵馬にその人の名前を書いて
行儀良くちゃーんとお参りすれば
アイタイ人に逢わせてくれる
だけどだけどもゴヨージン!
幸せすぎて帰れられないって
水名区の人の間ではもっぱらのウワサ
キャーコワイ!
──────────────────────
──こころ──
今日も、結翔さんは噂の調査に行くらしい。
先週から、ここ一週間ずっとそうだ。
「今回調べてる噂は、口寄せ神社の噂って言うんですね」
「うん。何でも、心の底から会いたい人に会えるんだとか。まっ、幸せ過ぎて帰れなくなっちゃうらしいけど」
「会いたい人…………帰れなくなる……」
結翔さんが、口寄せ神社のウワサを調べてるのはなんでなんだろう?
勿論、仕事だからって言われたら納得するしかないけど──何か違う気がする。
本当に、結翔さんに会いたい人が居るって思ってしまう。
真面目な人でもあるから、私情を仕事に持ち込む人じゃないと思うけど……
そう、思ってしまったら、疑ってしまったら止まらない。
私は失礼だなと思いながらも、疑問を結翔さんに問い掛けた。
「……結翔さんって会いたい人、居るんですか?」
「あぁ……そう言う事。居るよ…居る。寧ろ、数年間も魔法少女やってれば、会いたい人の一人か二人は居ると思うよ」
「す、すいません、失礼な事聞いて…!」
地雷……だったのかもしれない。
苦笑気味に言う結翔さんを見て、私はどうしようもない嫌悪感に襲われる。
聞かない方が良い事だってある。
多分、私の質問は聞かない方が良いものだったのだろう。
どうにかこうにか話題を変える為に、私はさっきまでの話でもう一つ気になった事を聞いた。
「幸せ過ぎて帰れないって。それならそれで、良いんじゃないでしょうか?」
「……こころちゃんならそう言うよね。でも、俺はヒーロー目指してるから。ヒーローは守るだけの存在に在らず、救う存在でも在る。だから、ウワサによるまやかしの幸せ──偽物の幸せを、俺は本物の幸せだとは思いたくないし、思って欲しくない」
「それで、まやかしの幸せから救う……ですか?」
「そっ。本物の幸せを、自分の手で掴んでもらうためにね」
先程とは一転、真剣な顔付きで語る結翔さんは、本当にヒーローのようだ。
勝手な憶測でしかないけど、結翔さんの理想のヒーロー像は、皆が思う理想のヒーロー像とは少しズレている。
単純に、悪者を倒す、困っている人を助ける人を、結翔さんはヒーローだとは思っている──けどそれだけでは彼の理想に届いていない。
きっと、結翔さんの理想のヒーロー像は色々なものが混ざっている。
それは悪を倒す者で、困っている人を助ける者で、大切を守る者で、手に届く全てを救う者で、平和を愛す者だ。
グチャグチャだけど、纏まっている。
方向性の全てが、善であり──
「……っと、そろそろ行かないと。家の事、よろしくねー!」
「は、はーい!」
時計を見て慌てだした結翔さんは、私にそう言って家を飛び出して行った。
リビングには、いつもと違う静かな雰囲気が満ちている。
……最近は、結翔さんとまさらが、一緒に特撮系の番組を見ながら色々と喋っていたから、そう感じてしまうのかもしれない。
まさらも、今日はフラフラとどこかに出掛けて行ったから、家は私一人。
静かな雰囲気に寂しさを感じながらも、テキパキと家事を済ませていく──筈だったのだが。
ふと、戸棚の上に置かれているアルバムに目が行き、興味本位でそれを手に取って見てしまう。
入っている写真は、多くが中学生時代のものだ。
他にも二つある事から、小学生時代やそれより古い物は他の二つに入っている……と言った所だろうか。
ペラペラとページを捲っていくと、見知った顔である七海さんやももこさん以外にも人が出てくる。
特徴を挙げていくなら、一人が金髪ロングので少し目付きが鋭い──悪い人。
もう一人は、白髪ショートカットでおっとりとした優しそうな人。
最後の一人は、緑青色の髪を赤いリボンで纏めた快活そうな人。
「……この中の誰かだったりすのかな?」
いや、余計な詮索はよそう。
幾ら距離が縮まったからと言っても、これは踏み入ってはいけない一線を超えている気がする。
待とう、いつか喋ってくれる日まで。
──結翔──
水名区には古くからの伝説──もとい伝承がある。
むかしむかし、身分違いの恋に落ちた男女がいました。
二人は愛し合いましたが関係が女の家族に知れ、男は殺されてしまいました。
悲しみにくれた女はある日、男の字で書かれた紙を見つけます。
その紙にはある場所が記されていました。
女がその場所に訪れると、なんとそこには死んだはずの男が現れ……二人は再会できたのでした。
……とまぁ、ざっくりと話すのならこんな感じだ。
だが、この話にはオチがある。
女が再会を果たした男は、実は幽霊だった──と言うものだ。
良い話と言えば良い話で、悲しい話だと言えば悲しい話。
見る人によって、全く違うものに見えてくる。
因みに、俺は悲しい話だと思った。
何故かって?
そんなの簡単だ、何故なら既に大切な人は──愛した人は死んでいるのだから。
「で? 今日は水名区のスタンプラリーを回って調査……と」
「ええ、そうよ。出遅れてる分、隅々まで調査しないといけないわ」
「取りこぼし=被害者の──行方不明者の増加ですからね」
「報告は回りながらでいいわ。絶交ルールの件も含めて話してちょうだい」
やちよさんはそう言うと、スタンプラリーの紙を取ってサッサと歩いて行く。
……何と言うか、本当に……
ため息が出るのを我慢し、俺もスタンプラリーの紙を取って彼女を追いかける。
追い付いたら、報告を始めていく。
絶交ルールの報告は一つだけ。
ウワサを倒した後に、被害者であろう行方不明者が続々と発見された事。
俺の仕事にミスがなければ、被害者は一人残らず発見されている。
続いて口寄せ神社のウワサについて。
調査の結果から推測するに、口寄せ神社のウワサは信憑性が高い。
何故なら──
「行方不明者のほぼ全員が、ここ数年の内に家族──身内や恋人、親友や幼馴染み、親しい人を亡くすか、行方不明でなくしています」
「つまり、心の底から会いたい人が居る人が、被害者になりうるし、既に被害者になっていると」
「はい。それが、一番分かりやすい共通項です。他にも色々ありますが、それが一番多いです」
俺の報告が終わると、やちよさんも調べた結果を細かく報告してくれる。
やちよさんも片っ端から調べているらしいが、このスタンプラリーに行き着いているあたりを見ると、結構手詰まり気味らしい。
その後も、スタンプラリーを回って行った。
男の家から始まり、逢瀬を重ねた路地裏、追い詰められた南門、切り捨てられた旧邸宅、最後に男の手紙にあった水名大橋。
「結構歩きましたね」
「疲れてはないでしょ?」
「そりゃあ、ヤワな鍛え方してませんからね」
報告を終えた後は、少しの会話で間を保ち水名大橋まで来たが、そこで見覚えのある人影を見つけた。
チィが居なくなっている事と、妹さん探しをももこが手伝っているのは聞いてたから、神浜に来ているだろうとは思っていたけど、まさかここで会うとはね……いろはちゃん。
次回もお楽しみに!
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