無感動な少女と魔眼使いの少年(リメイク版)   作:しぃ君

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 メル「前回までの『無少魔少』。やちよさんと結翔くん、いろはちゃんの三人でスタンプラリーに行って修羅場っぽくなったです」

 結翔「ざっくりし過ぎだし、お前出てくるの早いし」

 まさら「良いわよね、鶴乃は今話も次話も出れて」

 こころ「私とまさらなんて、チョイ役でしか出てないよ?」

 鶴乃「ま、まぁ、まぁ。きっと、次のウワサの話は出れるから」

 まさら「あとで、どこかの失踪系投稿者を脅しておこうかしら?」

 こころ「トンファー貸そうか?」

 結翔「……色々と物騒な話で盛り上がってるが、二十話をどうぞ!」


二十話「最強の助っ人と、謝りたい人」

 ──結翔──

 

 昨日の修羅場事件から一日。

 今日はやちよさんと別行動で、ウワサの調査をすることになっていた。

 

 

「……って、言っても。調査する事は殆どやり尽くした感があるんだよなぁ」

 

「口寄せ神社のウワサ、だったかしら?」

 

 

 ソファで、膝に乗っけたノートパソコンを覗き込む俺の隣に、まさらが話しかけながら腰掛ける。

 隣に座ったまさらに、俺は苦笑いしながら愚痴を零す。

 

 

「ああ。これ以上被害者を増やさない為にも、早く解決まで持ってきたいんだけど、肝心の神社の場所が分からないんじゃ話にならねぇよ」

 

「…私も、暇潰しがてら、色々調査したけど駄目ね。ウワサのウの字すら出て来なかったわ」

 

「被害者の共通項も洗ったし、怪しそうなものは全部調査した。最後に、絶対関係ないだろうって言うスタンプラリーも回った。……あと、何すりゃいんだよ」

 

「スタンプラリー回ったの? 暇なの?」

 

「ちげーよ。水名区の昔話と言うか伝承でだな──」

 

 

 俺は、まさらに水名区の伝承を話した。

 すると、まさらは呆気らかんとこう返した。

 

 

「その話が元になってるなら、神社に行く時間が鍵なんじゃない?」

 

 

 神社に行く時間? 

 一瞬、意味が分からなかった俺は、すぐに答えを聞こうとしたが、ふと思い出した。

 女が最後に出会えた男は、既に死んで幽霊だった事を。

 まさらの言葉から察するに……行く時間は──

 

 

「なるほど! 夜か! 夜に行ってお参りすれば…!」

 

「案外、簡単な話でしょ? どうして、気付かなかったの? いつもの貴方なら、もっと早くに気付けただろうに」

 

「…………少し、焦ってたのかも」

 

「でしょうね。最近の貴方は、どこか落ち着きがなかったから」

 

 

 まさらに勘づかれてるって事は、こころちゃんにもバレてるな。

 全く以て、察しが良すぎるのも大概にして欲しい。

 二人とも、何を気遣ってるのか、一線は超えないが……超えようと思う日はそう遠くないだろう。

 

 

 それまでに、心の準備を済ませておかなければ。

 臆病な俺の、心の準備を。

 

 

 ──いろは──

 

 本当なら、今日は鶴乃ちゃんと二人で片っ端から神社を回るつもりだった。

 だけど、昨日帰りに電車で見た、ビルの上にある神社がどうしても気になり、私は鶴乃ちゃんと別行動でそこに行くことにした。

 

 

 建物の名前は水名ホテル参番館。

 人気もないし、あまり長居しても良い事はなさそうだと思った矢先、魔女の気配を感じ、魔力を探ると……魔女はそこに居た。

 

 

 強敵の予感がしたが、放っておく訳にもいかず一人で結界に入るも苦戦を強いられ、途中で来てくれたやちよさんに助けられた。

 二人で魔女の結界の最深層に踏み込むも、使い魔同様魔女も強く、更に既に巻き込まれた人が居て、人命を優先しその場を離れた。

 

 

 これが、さっきまでの一連の流れ。

 私たちは今、取り逃した魔女を追っている。

 調査も大事だが、魔女を放っておく訳にはいかない。

 幸い、魔力を出来る限り込めた矢を魔女に撃ち込んだので、追跡は難しくない。

 

 

 結界内でも言われたが、やちよさんはもう私の行動に、どうこう言うつもりはないとの事。

 ……少しだけ、認められたようで嬉しかったのは秘密だ。

 私が魔力反応を追って、魔女に辿り着いた場所は──ショッピングモール。

 

 

「ありました、魔女の結界…」

 

「魔女の魔力パターンも同じ間違いないわね。それにしても、どうしてショッピングモールなんて…」

 

 

 やちよさんの言葉に、私は素直に納得した。

 だって、他に逃げ場所なら幾らでもある。

 人気がない場所の方が、魔法少女に見つかる心配もないだろうに。

 どうして──ショッピングモールに? 

 

 

「…? なんかいつもより人が多いですよね…?」

 

「人が多い…? はっ………………!! そういうこと…」

 

「やちよさん…?」

 

「環さん、私、気付いてしまったわ…」

 

「気付いたって、そんな深刻な状況なんですか…?」

 

 

 声を震わせてそう言ったやちよさんからは、真剣な雰囲気を感じる。

 一体、やちよさんは何に気付いたのだろう? 

 次の一言を聞き逃さない為に、私は耳を澄ませた。

 だが、出てきた言葉は、予想の斜め上を行くものだった。

 

 

「えぇ、そうよ…。今日はね…」

 

「今日は…」

 

「ポイント10倍デーの日なのよ」

 

「ポッ…ポイント10倍デー?」

 

 

 いきなり言われた言葉に戸惑う。

 ポイント10倍デー、単語自体は知っているが、それと今の状況に何が関係してるのか分からない。

 だが、私の反応が悪かったのか、何故かやちよさんはポイント10倍デーの素晴らしさを語り始めてしまった。

 力説するやちよさんに乗せられてしまった、私も私なのだが…

 

 

「ピンときてない…。その辺はまだお子ちゃまね。今日はね、買い物をすればなんでもポイント10倍。土日のお客様感謝祭を超える大祭典よ」

 

「それって、本も文房具もですか!?」

 

「そう、本も文房具もよ…」

 

「お菓子も…」

 

「もちろん、お菓子も。ここにあるもの全てがポイント10倍よ! …ってそうじゃないのよ。ポイント10倍の素晴らしさを説明したい訳じゃないわ。魔女の狙いが分かったの」

 

「へ? 魔女の狙い…?」

 

「魔女もポイント10倍を狙ってきたのよ…」

 

 

 魔女の狙い。

 ポイント10倍が魔女の狙い? 

 ……いや、違う。

 辺りを見渡して、もう一度考え直す。

 普段より多く見える人、恐らくポイント10倍デーに合わせて買い込みに来たのだろう。

 

 

 だったら、魔女の狙いは──

 

 

「…あ。みんなが集まるから…!」

 

「えぇ。人が集まっているのを感じてここに来たのかもしれないわ…。このままじゃ、みんなが危ない。呪いを撒き散らす前に倒しましょう!」

 

 

 そう言うと、やちよさんは魔法少女に変身して結界の中に入って行く。

 私も続くように変身して結界の中に入ろうとしたが、後ろから誰かに肩を掴まれた。

 既視感──とは違うが、覚えのある感覚だった。

 

 

 彼は──結翔さんは、私をいつも驚かせる現れ方をする。

 前も、その前もそうだった。

 

 

「最初にあった時と少し似てますね」

 

「……はぁ……はぁ。声は、掛けてなかったけどね」

 

「……大丈夫ですか?」

 

「大丈夫。急いでたから息が上がってるだけ。すぐ治る」

 

 

 額から伝う汗は、どれだけ急いで来たかの証拠だ。

 荒い呼吸も、加わる事で結翔さんがどれだけ急いで来たのか、想像に難しくない。

 少しだけ、クスリと笑った。

 本当に、どこまでも誰かの為に一生懸命になれる人だと思ったからだ。

 

 

 でも、忘れてはいけない。

 ねむちゃんと灯花ちゃんが、珍しく口を揃えて言っていた事を。

 

 

『優し過ぎる人程、早死する』、と。

 

 

 灯花ちゃんが得意とした分野の中にある、統計学的な意味でも。

 ねむちゃんが好きな物語の中でも。

 優しい人程頼られて、それを断れずに背負い込んで最期は──言うまでもない。

 

 

 唯一、ういだけが、そう言う人は最期に報われるものだと言っていた。

 最期に幸せになれる人だと言っていた。

 

 

 私はどちらの意見にも納得して、どちらの意見にも賛同した。

 そうあって欲しいと思ったから、そうなるだろうと思ったから。

 

 

 だから、私は結翔さんに頼り過ぎたくない。

 いつかは、背中を安心して預けられるような存在になりたい。

 

 

「……ごめん。もう行ける。──変身!!」

 

 

 光が彼を包み、魔法少女の姿に変える。

 腰まで伸びた黒い髪、やちよさんと同じくモデルのように整った顔。

 露出の多い昔の踊り子のような衣装は、色っぽいが大変良く似合っている。

 やちよさんのスラッとした青を基調とした衣装は落ち着きを表しているが、結翔さんのヒラヒラとした黄を基調とした衣装は彼の明るさを表していた。

 

 

「やちよさん一人じゃ流石に不味い。悪いけど、急ぐよ!」

 

「っ!? はい!」

 

 

 私はクロスボウを、結翔さんはフィクションの世界で見るような西洋剣と拳銃を手に、結界の中に入って行った。

 

 

 ──結翔──

 

 結界に入ると、すぐに使い魔が襲ってきた。

 常人が見たら気が狂うような意味不明な空間である結界内に、これまた常人が見たら気が狂うような意味不明な使い魔。

 キラキラとした紙やら鉄格子のようなもので作られている使い魔は、体の一部である紙を飛ばして攻撃してくる。

 

 

 見てくれは当たっても痛くなさそうだが、実際に当たったら余裕で切り傷が出来るし、下手すれば五体満足では居られないだろう。

 まぁ、未来視の魔眼を発動して未来を視ている限り、俺たちに紙が当たる事は無い。

 何故なら、俺が全ての紙をグロックで撃ち落とすからだ。

 

 

「……………ふぅ」

 

「落ち着いてる場合じゃないわよ。すぐに使い魔を片付ける、環さん」

 

「はいっ!」

 

 

 いろはちゃんがクロスボウで射抜き、使い魔が固まった瞬間にやちよさんが槍のひと薙ぎで切り裂く。

 数度も連携した事などないだろうに、相変わらず上手い人だ。

 

 

「……急ぐわよ。話は後で聞くわ」

 

「了解です」

 

「…あの、お二人って知り合いなんですよね?」

 

 

 最深層へ向かう為に走りながらも、いろはちゃんが話し掛けてくる。

 一瞬、やちよさんの顔を見た。

 縦にも横にも、首を振ることはなく、ため息を吐いた。

 喋っていいと言うことだろう。

 

 

「俺が魔法少女になったのは約三年前。その時から、魔女を倒すのにそこまで苦労はしてなかったけど、いっつも怪我して帰ってくる俺を見てももこに泣きつかれちゃってさ。上司に相談して、師匠に良さそうな人を教えてもらったんだ」

 

「それが、やちよさん?」

 

「…酷かったわよ、あの時の結翔は。いきなり家に来て、弟子にして下さい! って頼み込んで来たんだから」

 

 

 呆れ顔で俺を見ながら、使い魔の攻撃を受け流すやちよさん。

 それを見た俺は苦笑しながら、即座にグロックの引き金を引き使い魔に特製の魔力弾をぶち込む。

 すると、弾が当たった使い魔は内側から出た炎を包まれて燃え尽きる。

 

 

 こんな話をしながら連携が出来るのは、経験のお陰かそれとも──

 

 

「まぁ、色々あって。今に至るんだよ。今でも、それなりな関係だよ」

 

「そうなんですね。…気になった事があるんですけど、良いですか?」

 

「面倒な話じゃなければね」

 

「昔の結翔さんってどれくらい強かったんですか?」

 

 

 あー、それか。

 聞かれると、困る質問じゃないけどなぁ。

 なんと言うか、言い辛い。

 規格外(チート)だった、そう言うのは簡単だが、どれくらい強かったと聞かれると……

 

 

 そう、俺が言い悩んでいると、やちよさんが俺の代わりに答え始めた。

 

 

「昔の結翔は今と変わらないくらい──いや、今より強かったわ。素のスペックから固有の能力まで全部が規格外(チート)だった」

 

「え、今より強いって…?」

 

「言ってなかったけど、今の俺って二段階くらいパワーダウンしてるんだよね。お陰で、素のスペックは落ちたし、固有の能力は使えなくなったんだよ〜」

 

「ぱ、パワーダウン?! そんなの起きるんですか!?」

 

「結翔は色々と特別なのよ。調子が一番良かった時は、キック一発で並の魔女なら倒せてたわよ」

 

 

 次々と語られる真実は、いろはちゃんにとって情報量が多過ぎたらしく、軽く目を回している。

 俺は、それを尻目に、後方から横槍を入れてくる使い魔にグロックで牽制し、剣を投げ付けておく。

 使い魔は剣を軽々と避けるが、どうせ避けられると思っていた俺は即座に剣をブーメランに変えて、無理矢理、投げた所に戻ってくるブーメランの性質を利用し使い魔を倒す。

 

 

 ……ヤバイ、頭痛くなってきた。

 魔眼の使い過ぎか…? 

 未来視の魔眼の発動を止めて、右眼を元の視界に戻す。

 

 

 はぁ、やっぱりスッキリするな。

 未来視の魔眼は使い易いし便利だが、如何せん(現在)(未来)の情報を同時に処理しなければいけないので疲れる。

 

 

 そうして、俺が魔眼の事でため息を吐きそうにしていると、軽く目を回していたいろはちゃんが復活しており、俺の目を見つめていた。

 ……いや、そんな見られても、良い物なんてないよ? 

 

 

「結翔さんのその眼って確か……」

 

「あー。いろはちゃんは前に俺に会ってるんだっけ? だったら手短に話すけど、魔眼(これ)は超能力とか異能力とかそんなものだよ。ご先祖さまが悪魔と契約してたりすると、手に入る」

 

「ザックリした説明ね」

 

「いえ、前に教えてもらった時も同じ感じでしたので……」

 

 

 話は続けても良かったが、流石に結界の最深層の入ったので止めておく。

 …ゆっくりと辺りを見渡すと、のそのそと魔女が現れた。

 ピンク色の兎のぬいぐるみをそのまま巨大化させたような魔女だ。

 使い魔が強かったから、もっと気持ち悪い感じのが出てくるかと思ったら意外と可愛い──

 

 

 俺がそう思った途端、頭が中心から裂けてナニカが出てきた。

 体の色も、いつの間にか体調が悪そうな水色に変わっている。

 

 

「……え? 何あれ? さっきまで可愛げある感じだったのに、急に体調悪い感じになるじゃん。急に気持ち悪くなるじゃん! 詐欺でしょ!」

 

「はぁ、環さん。バカに付き合ってないで、早く倒すわよ」

 

「え…? あっ、はいっ!」

 

 

 少しボケただけなのに、バカって言われて挙句置いてかれたんだが。

 酷くない? 

 ちょっとはボケたって良いじゃん。

 最近、色々あってあんまり精神的によろしくないんだから。

 ……まぁ、全部自分の所為か。

 

 

 結局、俺はため息を吐いて、二人に合わせた。

 やちよさんといろはちゃんは前に交戦しているのか、弱点らしき裂け目から出てきたナニカに集中して攻撃しているので、俺自身もグロックから吐き出される銃弾を片っ端から撃ち込んだ。

 

 

 しばらくすると、魔女も弱ってきたのか耳に出来た口のような部分使った攻撃を止めて、自爆特攻のように突っ込んで来た。

 

 

「結翔! 決めなさい」

 

「トドメはお願いします!」

 

「任せてっ!」

 

 

 やちよさんの叩き付けるような槍の一撃で一瞬動きが止まり、その間にいろはちゃんが大量の矢を撃ち込む……が、魔女はまだ止まらない。

 そこに、俺がトドメの一撃と言わんばかりにダメ押しの振り下ろしで、裂け目を広げて、完全に真っ二つにする。

 

 

 すると、次の瞬間には結界が解けて元のショッピングモールに戻った。

 

 

「はぁ…はぁ…倒せたぁ…」

 

 

 魔女が強かった分、真剣な命のやり取りだったこともあり、いろはちゃんの息は絶え絶えだった。

 まぁ、原因はそれだけじゃないと思うけど。

 

 

 チラッといろはちゃんのソウルジェムを見る。

 濁りきってはないが、穢れが溜まっていた。

 緊急事態、とは言えないが、そろそろ限界だろう。

 俺は落ちているグリーフシードを拾って、いろはちゃんに手渡す。

 

 

「お疲れ様。今回の戦利品は、いろはちゃんに上げる」

 

「グリーフシード…。え、あの、いいんですか?」

 

「自分のソウルジェムを見てみなさい?」

 

「あっ……」

 

 

 いろはちゃんは自分のソウルジェムを見て、ハッとしたようにこちらを見つめる。

 妹ちゃん──ういちゃんの事になると、結構自分の事が疎かになってしまうのか? 

 それとも、単にソウルジェムを確認してなかっただけか? 

 

 

 どちらにしろ、ソウルジェムに穢れが溜まり濁っていくのは不味い事だ。

 溜まりきってなかったのは幸いだろう。

 

 

「ソウルジェムに穢れが溜まりきると大変なことになるわ。今のうちにグリーフシードで浄化した方がいいわよ」

 

「でも…」

 

「あなたが機転を利かせたから魔女を見つけることができたの。貰えるだけの権利も理由も十分あるわ。ほら、遠慮しないで」

 

「やちよさんもこう言ってるんだし。甘えていいんじゃない?」

 

「…それじゃあ、お言葉に甘えて。ありがとうございます」

 

「気を付ける事ね。ウワサはグリーフシードを落とさないんだから。噂ばかり調べていると、あとで痛い目を見るわよ」

 

「……………………」

 

 

 手のひらにあるグリーフシードとソウルジェムを交互に見つめるいろはちゃん。

 まだ、余裕はあるかもしれないから、とっておくつもりなのか? 

 止めておくべきだと、注意するべきなのだろうか……

 

 

 言い淀んでいると、俺より先にやちよさんが聞いた。

 

 

「使わないの?」

 

「まだ少し大丈夫そうなので、とっておきます。今、使っちゃうのはもったいない気がして」

 

「そう…」

 

「油断はダメだよ?」

 

「分かってます。ダメだと思ったらすぐ使いますから」

 

 

 念を押す俺に、いろはちゃんは笑顔で頷いた。

 ……無理している、訳じゃない。

 そこまでは分かるが、それ以上は分からない。

 笑顔が本物かどうかぐらいは見分けられるが、それ以上は俺には出来ないらしい。

 

 

 少しだけ、悔しさを感じながら、いろはちゃんの話の続きを聞く。

 

 

「それじゃあ私、戻ります。さっきの神社まだ調べてませんから」

 

「えぇ、遅くなる前に行くと良いわ」

 

「はい!」

 

 

 そう言って、いろはちゃんが走り出そうとした瞬間、アナウンスがショッピングモールに鳴り響く。

 あっ、そう言えば、やちよさんに口寄せ神社の事を言うの忘れてた……

 

 

 急いで来たかのに、それを言えなければ意味が無い。

 いろはちゃんにも教えて上げたいし、呼び止めないと! 

 

 

「いろはちゃ──」

 

『ただいまから30分間の、タイムセールを行います』

 

「──っ!? 待って環さん!」

 

「へっ!?」

 

 

 やっちゃった。

 こうなったやちよさんを止めるのは至難の業だ。

 歳について言及する気は無いが、家計を任される身になれば分かる。

 タイムセールとポイント10倍デーのコンボは、主婦層やそれに並ぶ者たちにとって逃してはならない獲物だ。

 

 

「手伝って頂戴!」

 

「てて、手伝う? って、何をですか?」

 

「今日はお惣菜が安いのよ! ここのコロッケとても人気だから環さんも……お願い…」

 

「え、え、え、えぇ!?」

 

「それに、ポイント10倍デーとタイムセール。このチャンスは…! …ん? ………………」

 

「あれ、やちよさん? どうしたんですか? 行かなくていいんですか? コロッケ…」

 

「ウッソだろ……まさか、やちよさん」

 

 

 いや、有り得ないでしょ……

 絶対に有り得ないでしょ……

 まさか、そこから? 

 そこから口寄せ神社のウワサのトリックに……? 

 

 

「タイムセール…限定された時間…。はっ…!」

 

「………………?」

 

「マジかぁ。俺、来なくても良かったかもなぁ」

 

「そうだわ! 口寄せ神社…!」

 

「口寄せ神社…? って、やちよさん…!」

 

「…あっ」

 

「やっぱり、調べてたんですね…」

 

「……………………」

 

 

 やちよさんは少し考えると、俺の方を見て頷いた。

 まさかとは思うが、俺に全投げする気か? 

 嘘……じゃないか。

 俺が気付いているのも分かってるっぽいし。

 

 

「…いろはちゃん、口寄せ神社についてなんだけど──」

 

 

 その言葉に続けて、俺は話した。

 推測ではあるが、伝承や民話の話から察するに場所は水名神社であり、参拝する時間が夜ではないといけない事。

 水名神社は夜に参拝できないことから、それを見逃していた事。

 

 

 それを話すと、いろはちゃんは納得したように頷いて、俺にこう言った。

 

 

「付いて行っても、良いんですか?」

 

「…えぇ、今回の件であなたの強さは分かったし、人数は多いほうが良いわ。行くのは……明日にしましょう。心の準備はあって困らないと思うから」

 

「そう…ですね」

 

「私は夕方まで講義があるから、駅前に十八時半くらいに集合。良いかしら?」

 

「俺は全然」

 

「私も………あっ! 一人、連れて来たい人が居るんです! 最強の魔法少女なんです! ……自称ですけど」

 

「……分かったわ」

 

 

 やちよさんの一言で、今日はお開きとなった。

 ……ウワサとの戦いは明日に持ち越しだ。

 

 

 それが、少し嬉しいやら……苦しいやら……不安定に心が揺れた。

 先走りし過ぎているのだろうか? 

 色々と大事な事を考え過ぎているのだろうか? 

 

 

 全く、俺の臆病は治りそうにない。

 

 

 ──鶴乃──

 

 いろはちゃんと口寄せ神社のウワサを調査し始めてから三日。

 ようやく、口寄せ神社を見つけた。

 な、なんと、そこは水名神社だったんだよ! 

 

 

 結翔が言ってた事だし、間違いないよね! 

 ふんふん! 

 

 

 ……取り敢えず、テンションを上げるのはそこそこにしよう。

 十八時半に駅前に集合……その前に準備運動しないとね。

 いろはちゃんと調整屋から走って向かった後、わたしは暇な時間を使って鶴乃体操をしながら体を解し、駅前に戻ってきた。

 

 

 そこで、見覚えのある人を見つけた。

 三人いる中の二人は予想の内だったが、予想外の人が居た。

 やちよだ! 

 

 

「あーーーーーー! やっちよししょーーー!」

 

「思った通りね」

 

「相変わらず、元気ハツラツって感じだな」

 

「だーーー!」

 

 

 嬉しさのあまり、わたしは勢いのままに飛び付いた。

 だって、やちよがここに来るなんて思ってもいなかったから。

 てっきり、結翔とわたしといろはちゃんで行くと思っていたから。

 

 

 まさか、やちよが居るなんて! 

 

 

「あぐっ!ちょっと鶴乃、飛びつかないで! 暑苦しいし、周りの目を考えて!」

 

「もしかして、いろはちゃんが約束してたのって、結翔だけじゃなくてやちよとも!? まさかふたりが知り合いだなんて思わなかったよ。やったね、嬉しいね。また一緒に戦えるなんてねっ!! ふんふん!」

 

「私はそうでもないわ…」

 

「うぇぇ!? なーんでー!? 結翔は! 結翔はどう!?」

 

 

 やちよから腕を離して、今度は結翔に抱き着く。

 さっきのやちよと同じく短い悲鳴を上げていたが、特に気にしないでおこう。

 それより、私は結翔の答えが聞きたい! 

 

 

「……お、俺は嬉しいぞ。鶴乃は頼りになるしな」

 

「でしょでしょ!!」

 

「環さん…」

 

「すみません、鶴乃ちゃんと知り合いだなんて知らなくて」

 

「いえ、話を聞いたときから察しはついていたわ…」

 

「知り合いじゃないよ!? わたしたちは同じチームだから!」

 

「あ、そうなんですか? ……あれ? でも、結翔さんって……」

 

「過去よ、過去の話。はぁ…それじゃあ鶴乃も連れていきましょうか…」

 

「行こう行こう!」

 

 

 わたしが笑顔でそう言うと、抱き着いている結翔の顔がひくついていた。

 あれれ? 

 もしかして強く抱きつき過ぎたかな? 

 だったらどうしよう? 

 離す? 

 離さない? 

 

 

 ……うーん、このままでいっか! 

 

 

「この、ひっつき虫はね、一度ひっつくと離れないし…。それに今回は人数がいる方がいいから…。猪突猛進なところを除けば鶴乃の実力も確かだしね」

 

「さすが、自称最強ですね」

 

「えっへん!」

 

「……悪いけど、環さん。結翔から鶴乃を離すの、手伝ってちょうだい。そろそろ、結翔の体より……理性が限界よ」

 

「……はい」

 

 

 それから約十分ほどひっつき続けた──抱きつき続けたが、二人に剥がされてしまった。

 まぁ、その後は、あれよあれよと進んで行き、水名神社に到着した。

 

 

「この間と違って、夜に来るとちょっと怖いですね…」

 

「参拝時間が終わると照明も落ちるから。こうした静寂に包まれた神社も中々おつじゃない? …ただ、ああいうのが居ると台無しになっちゃうけど…」

 

「夜の神社って初めて! 暗い中で気に囲まれてるとなんだか都会じゃないみたい! あ、こういうところってお化けとかも出てくるのかな? この神社の話にあった男の人とか出てくるかも…!」

 

「もう、変なこと言わないで鶴乃ちゃん!」

 

「おい鶴乃、暗い中で動き回ると危ないぞ」

 

「大丈夫だよ、ただの砂利道だ──あぎゃん!」

 

 

 結翔の制止の声をしっかりと聞いていれば良かった。

 わたしは動き回っていた所為で全力でコケて転び、挙句服が汚れてしまった。

 痛いし、汚れたし、気分萎えそうになる。

 

 

「いたぁあい!」

 

「言われたそばから…」

 

「大丈夫!? 鶴乃ちゃん!」

 

「うん…泥ついた…」

 

「はぁ…後で洗うか…」

 

 

 少し涙目になりながらも先を見ると、内苑の門が閉まってるのが見えた。

 やっぱり! 

 当たり前かもしれないが、本当に閉まってるんだ。

 

 

「あっ、内苑の門! ほんとに夜は閉まってるんだね!」

 

「えぇ、だから私も結翔も気付けなかったのよ…」

 

「そう言えば、お参りできませんね…」

 

「でも、お参りすりしかないでしょ?」

 

「へ? それってもしかして」

 

「察しが良くて助かるわ。これから内苑に侵入するのよ」

 

「こらそこ。警察官の前で、堂々と侵入とか言うの止めなさい。取り締まれない俺が居た堪れなくなるでしょ!」

 

 

 やちよは、結翔の言葉をガン無視して話を進める。

 うわぁ、いろはちゃんでさえ若干引いてる。

 なんだが、やちよって結翔のボケに結構厳しいよね。

 場を和ませたり、なんやりしようとしてるのを邪魔してるみたい。

 

 

 …いや、多分本人にそんな意思はないんだろう。

 ただただ、結翔のボケに反応したくないだけだ。

 可哀想な目で結翔を見つめていると、いろはちゃんたちは話を続けていた。

 

 

「そ、そんなことしたら怒られちゃいますよ…!」

 

「じゃあ、私と鶴乃で行ってくるわ。鶴乃は行くでしょ?」

 

「もっちろん!」

 

「環さんに結翔は? 妹さんのこと、本当にいいの…? ウワサを野放しにするの? せっかく誘ったのに残念だわ…」

 

「うぅぅぅ、行きます!」

 

「やだなぁ、ボケですよ。行くに決まってるでしょ。行かきゃ、被害者増えちゃいますし」

 

「決まりね」

 

 

 その言葉を区切りに、わたしたちは内苑の中に入って行く。

 中は静寂に支配されている、そんな言葉が似合う程に静かだった。

 時間が惜しい事から、やちよが手順の確認の為に、手短に説明をした。

 

 

「──という内容よ。だから会いたい人に会うにはね、神社の絵馬を使う必要があるわ」

 

「…そして、ういに会えたら、連れて戻ればいいんですね…。無理矢理、手を引いてでも…」

 

「そうね、それぐらいの気持ちで挑みましょう…! あなたも…私も…」

 

「はっ…! 私、絵馬を持ってないです…!」

 

「俺が用意してるから大丈夫。手ぶらじゃ来ても意味ないしね」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「それじゃあ、行きましょうか」

 

 

 結翔はいろはちゃんとやちよに絵馬を手渡し、貰ったあとはやちよを先頭に先に進んでいく。

 …ちょっと待ってよ! 

 わたしのは、わたしの分は!? 

 嘘だよね、嘘なんだよね!? 

 

 

 結翔の事だもん、わたしをびっくりさせる演技なんでしょ? 

 少し涙目になりながらも、結翔に訴え掛けた。

 

 

「え、あ、結翔ー?」

 

「ん、どうした? 何だよ、その手は…」

 

「え、う、わたしの絵馬は…?」

 

「無いぞ。元々、やちよさんといろはちゃんと俺の三人で入る筈だったし。用意できねぇよ」

 

「んー……んーんー!」

 

「………………いや、そんな顔しても無いものは無い。そもそも、本当に必要なのか?」

 

「はぇ? ………………はっっっ!」

 

「要らないだろ?」

 

 

 よーく思い出せば簡単な事だ。

 わたしとやちよと結翔の探している人は同じ。

 だったら、態々私が行く必要なはい。

 ……あれ? 

 でも、それなら結翔が行く必要も──

 

 

「別にわたしは行かなくていいけど。結翔はなんで?」

 

「ウワサの中に入った方が、見つけて叩きやすいからな」

 

「そっか。なら、この由比鶴乃がお祈りする三人の盾になるよ! 急に敵のウワサが出てきたら危ないもんね」

 

「まったく、すぐ突っ走るんだから…。頭の回転が早いのは結構だけど脇道にそれないようにしなさい」

 

「頭の回転が早い?」

 

「これでもわたし、学年の中では最強だから」

 

「最強…?」

 

「成績が一番いいってことよ」

 

「ぇええ!?」

 

 

 なんでだろう? 

 これを言うと、いっつもみんなに驚かれる。

 わたしからすれば、最強の魔法少女は、勉強でも最強じゃなきゃいけないんだよ。

 少しだけ、本当に少しだけ、いろはちゃんに驚かれた事がショックだった。

 

 

 ──結翔──

 

 書きたい人の名前を絵馬に書き、キチンとお参りをすればウワサの結界に入れる……筈だ。

 正直、ここからは何が起こるか分からない。

 俺自身、警戒を怠るつもりは無いが、対応できるかは運次第だ。

 

 

「結翔? 書き終わった?」

 

「一応」

 

「………………なるほどね」

 

「人のを勝手に見ないで下さいよ」

 

「別に減るものでもないでしょう?」

 

 

 そう言うと、やちよさんといろはちゃんは絵馬を書き終えてお参りを始めたので、俺も急いで参加する。

 

 

「よっし、ウワサめ! 来るならこい! もしも、ういちゃんたちを連れて帰るのを邪魔するなら! 最強のわたしがこてんぱんにするからね!」

 

「ちょっと、鶴乃! 刺激するようなこと言わないで!」

 

「──っ!? これ、絶交ルールの時と同じ…」

 

「不味いな、急がないとお参りが…!」

 

「│ ▽□◆△/\!!! │」

 

「余計なこと言うからウワサが出てきたじゃない!」

 

 

 うん、あれだな。

 鶴乃の擁護をしてやりたいけど、今回はアイツも悪いわ。

 挑発するような事をして、出てこない程じゃなかった訳だ。

 分かって嬉しい事でもあるが、同時にピンチが来てるのであまり嬉しさを感じない……いや、嬉しさよりも焦りの方が大きいな。

 

 

 あとは心配……だな。

 

 

「本当、いつもトラブルを引き起こすんだから…」

 

「わたしのせいかな…?」

 

「それ以外、考えられないわよ! ほら、最強の鶴乃ちゃん。盾になるなら、早速出番よ!」

 

「はい! 背中は私に任せて、会いに行ってきて!」

 

「カッコつけてるけど、あの子が撒いた種なのよね」

 

 

 苦笑気味なやちよさんと変身した鶴乃を見ながら苦笑する。

 なんと言うか、ベストマッチとはいかないが、案外悪くない噛み合い方をしている二人だ。

 俺が入る隙間がない程じゃないにしろ、二人の仲は一応健在らしい。

 

 

 いや、これも一重に鶴乃の努力のお陰か……

 褒めてやりたいんだが、当の本人があれじゃなぁ。

 

 

「│ ▽□◆△/\!!! │」

 

「やちよ、ウワサが多いよ! このままじゃそっちに行っちゃうかも!」

 

「ちょっと、盾になるんじゃないの? ほら、ちゃんとしないと自称最強の名前に傷が付くわよ!?」

 

「うえぇええん、頑張る!」

 

「さて、急ぐわよ二人とも。ウワサが来る前に全て終わらせましょう!」

 

「は、はい!」

 

「ですね」

 

 

 絵馬を持って、鈴を鳴らして、二礼二拍手一礼。

 そして、会いたい人の事を──謝りたい人の事を、想う。

 神に願うなんて、意味の無いことだどしても、願い想う。

 

 

 もう一度、会いたい……と。

 ウワサは噂を現実にする存在だ。

 だから、俺はもう一度、会いたい人に会うことが出来る。

 

 

 目を開けると、そこは水名神社ではない、どこか別の異空間だった。

 

 

「夕方。…ウワサの結界内だったら、景色なんて思うがままか」

 

 

 夕日さす神社のような異空間を歩く。

 結界にしてはどこか優しい雰囲気が漂っている。

 辺りには、幸せそうに眠る人々の姿が見えた。

 恐らくだが、あれが幸せ過ぎて帰れなくなった人達だろう。

 

 

「………………」

 

 

 今すぐにでも助けたいが、大元のウワサに会えない限り、意味は無いだろう。

 だからこそ、俺は歩く。

 神社ではないが、神社のような地面の道ではなく、無限に続く太鼓橋の上を歩き始める。

 

 

 いろはちゃんとも、やちよさんとも会えないが、きっと彼女とは会えるから。

 

 

「久しぶり…で、間違いないよな? ()()

 

「そうです。久しぶりです、結翔くん」

 

 

 死んだ筈の安名(あんな)メルと言う少女に。




 メルの喋り方、イマイチよく分かってないし、今日は本文長いしでごめんなさい。

 次回もお楽しみに!

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