無感動な少女と魔眼使いの少年(リメイク版)   作:しぃ君

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 最近、出番が少ないあの子が今回の幕間ヒロインです。
 ヒントは、調整!


幕間「在り方は変わらない」

 ──みたま──

 

 一体、どこからが間違いだったのだろうか? 

 魔法少女になる願いか? 

 それとも、戦う力がないのに魔女との戦闘経験を積みたいと十七夜(かなぎ)に頼んだ事か? 

 

 

 ……まぁ、そんなの今となっては後の祭りだ。

 何せ、数秒後にはわたしは死体となって転がっているのだから。

 迫り来る魔女の攻撃。

 毛が真っ赤に染った羊に、キャタピラの足と刀のような角が足された魔女。

 キャタピラの足のお陰か、羊の見た目からは想像も出来ないほどの俊敏な動きで突っ込んでくる。

 

 

「……死ぬんだぁ、わたし」

 

 

 呟く声は、きっと誰にも聞かれない。

 だから、言ってしまった。

 誰もがピンチの時に言う言葉を──誰もが危機に瀕した時に言う言葉を。

 その言葉は──

 

 

「助けて…」

 

 

 救いの懇願だった。

 手を差し伸べてくれるヒーローが来る事を、わたしは祈ってしまった。

 そんなの居る筈ないのに。

 

 

 居ていい筈がないのに。

 誰かの為に命を懸けられる人間なんて──ヒーローなんて居ていい筈ないのに。

 わたしは、彼女の──彼の在り方、ヒーローと言う在り方を欲してしまった。

 

 

 後から考えると、これが一番の間違いだったのかもしれない。

 だって、ヒーローは来てしまったから。

 

 

「じゃあ、助けます」

 

 

 そう言って、ヒラヒラとした昔の踊り子のような、黄色の衣装に身を包んだ魔法少女は、わたしの前に立ち振り向いた。

()()()()()()()()()()()()()()()()に作られた笑顔が、彼女の顔に貼り付けられている。

 目の前まで来ている魔女には目もくれず、安心させるためにわたしの方だけを見ていた。

 

 

「ま、前……」

 

「あぁ、大丈夫ですよ。そいつなら──もう倒しましたから」

 

 

 ──は? 

 何を言っているのか分からない。

 彼女が現れたのはついさっきだ。

 しかも、わたしの方に振り返っているし、わたし自身殆ど彼女から目を離してない。

 

 

 魔女だって、視界の端に入っていた。

 それを、倒した? 

 有り得ない、有り得る筈がない。

 わたしが疑いの視線を向けていると、次の瞬間、結界が解かれ元の世界に戻っていた。

 

 

「……え? ……えぇ?」

 

「えーっと……大東学院の八雲みたまさんですよね? 俺の名前は藍川結翔です」

 

「ちょ、ちょっと待って。今、どうやって……魔女を?」

 

「あー、それは、その、……気合い?」

 

 

 おどけて笑う彼女は、そう言うと魔法少女の変身を解いた。

 すると、藍川結翔は彼女ではなく、彼だということが判明した。

 短く切り揃えられた黒髪と、落ち着いた雰囲気のある赤褐色の瞳。

 整った顔立ちは変身前からのものだったのか、綺麗だと素直に思った。

 

 

 だけど、わたしはそれが見たいのではない。

 わたしが聞きたいのは、どうやって魔女を倒したのか、何故わたしを助けたのか…だ。

 

 

「……男の子だったのねぇ、あなた」

 

「驚かないんですね? これ見せたら、初めては大半の人に驚かれるんですけど」

 

「魔法少女って言う存在が居るだけで、十分ファンタジーだと思うわぁ」

 

「ですよね……。取り敢えず、どうやって倒したのかでしたっけ? 種は簡単ですよ、ただ死の線になぞって切っただけです」

 

「──意味は分からないけど、あなたが特別だって事は分かったわ。あなたが、十七夜が言っていたヒーローの魔法少女ね?」

 

 

 確か、十七夜が言っていた。

 この街で、最強格の魔法少女にしてヒーローの話。

 その魔法少女には様々なものが視えるらしい。

 未来や死が視える他にも、時を止められたり、対象を破壊するとかなんとか。

 

 

 冗談のように思ったが、今、わたしは確信した。

 ……十七夜の話は本当だ、何せ今、わたしの目の前でそれが起こったのだから。

 

 

「あの人、俺の事そんな紹介したのか……」

 

「むっ。他の紹介の方が良かったか? 藍川」

 

「十七夜!?」

 

「…悪かった、八雲。途中ではぐれてしまってな。藍川が来てくれなかったら、どうなっていた事か…」

 

 

 まさかはないと思っていたが、十七夜も無事そうで何よりだ。

 ショートカットの白髪に銀色の瞳、それを噛み合せるようなクールな顔付き。

 魔法少女の変身を解いた、昔からの知り合いである和泉(いずみ)十七夜が面目なさそうな表情でわたしに謝っていた。

 

 

 真面目だけどどこか変な彼女は、わたしにとって最初の味方であり、最古の親友とも言っていい。

 

 

「別にいいわよぉ。彼が助けてくれたんだし」

 

「そうですよ十七夜さん。終わった事は気にしない方がいい。みたま先輩もそう言ってるんですし」

 

「……結果論だが、そうだな、分かった。二人がそう言うなら、自分もそうするべきだろう。さて、この後はどうする?」

 

「それなんだけど、わたし、一つ聞きたいことがるの? 良いかしら?」

 

「…えぇ、どうぞ」

 

「何で、わたしを助けたの?」

 

 

 彼は、わたしの質問にキョトンとしている。

 まるで、質問の意味が分からないとでも言わんばかりだ。

 何か、わたしが可笑しな事を言ったかしらぁ? 

 特にそんな事は言ったつもりがなかったのだけど……

 

 

 そう、わたしが思っていると、彼は曖昧な表情でこう言った。

 

 

「だって、助けてって言ったじゃないですか?」

 

 

 だから助けたんだ。

 そう言いたいのか、彼は──結翔くんは「俺は何か変な事言ってるか?」と言った感じで頭を抱えていた。

 彼にとって、わたしの質問は少し意地が悪かったのかもしれない。

 だけど、聞きたかったのだ、何で……何故助けたのか。

 

 

 自分の命を懸けてまで、他人を助けるなんてどうかしている。

 自己犠牲の精神なんてものじゃない。

 それはただの自我欲(エゴ)じゃないか。

 

 

「八雲、藍川はそう言う奴だ。あまり気にするな。気にしても意味が無いぞ」

 

「……みたいね。この調子だと」

 

「……………………」

 

 

 黙りこくってわたしの質問を真剣に考えている彼は、本当に誰かを助ける事に自分の命は二の次らしい。

 間違っていると言ってあげたいが、わたしは言えない。

 言ってはいけない。

 だって、一度彼の在り方を欲してしまったから。

 

 

 今日、初めてわたしは知った。

『助けて』の一言で助けてくれるヒーローの存在を。

 

 今日、初めてわたしは知った。

『ヒーロー』である為に自分の命を懸ける、自我欲(エゴ)を持った藍川結翔と言う存在を。

 

 未来で──最後の決戦の日、わたしは彼が変わらない事を知った。

 

 

 ──結翔──

 

 口寄せ神社のウワサの一件の翌日。

 休日だったこともあり俺は、調整屋に顔を出していた。

 

 

 午前は十時を過ぎた頃、朝日が少し眩しい時間帯だ。

 木枯らしのような少し冷たい風に吹かれながらも、一人虚しく調整屋まで歩いた。

 どうせだったらまさらでも連れてくれば良かったが、生憎、彼女は部活で朝から居なかった。

 

 

 こころちゃんも、学校の友達と遊びに行くとのことで、連れて行く訳にも行かず。

 こうして、一人虚しく来たわけだ。

 

 

「みたま先輩ー?」

 

「は〜い? どうしたのかしらぁ?」

 

 

 俺が呼んだら、彼女は眠気眼を擦りながら出てきた。

 ソファで眠っていたのだろう、変な寝癖がついている。

 体を痛めるから、あれだけ止めろと言っているのに……

 はぁ、とため息を吐いてから、こちらに来ていた彼女の肩を掴み、寝ていたであろうソファに無理矢理座らせる。

 

 

「ゴーインねぇ」

 

「寝癖バリバリついてますよ」

 

「あら、そうだったの? も〜、それなら早く言ってちょうだいよぉ。身嗜みも、商売ではしっかりしなきゃいけないのよ?」

 

「面倒臭くても、家に帰って寝ればこうはならないんですよ。ソファで眠るから変な寝癖がつくんです。…あと、体を痛めますから止めてください。次やってるのが分かったら、飯作りませんよ?」

 

「え〜!? それは困るわぁ。サービスするから、見逃してよぉ!」

 

 

 可愛く言ってもダメなものはダメだ。

 こうでもしないと、本気で止める気配がなさそうだし。

 俺が無言で髪を梳かしていると、後ろから足音が聞こえた。

 他の客だろうか? 

 俺の話は急ぎでもない、今日中に聞ければ十分なので、順番を譲ろう。

 

 

 そう考えた俺は、髪を梳かし終えると同時に後ろに振り返りこう言った。

 

 

「順番譲りますよ、十七夜さん」

 

「そうか? 藍川が良いなら良いが。…助かる。おはようだな、八雲。朝から悪いが、早速調整を頼む」

 

「分かったわぁ」

 

 

 二人はそう言って仕切りの向こうに行く。

 ……そう言えば、初めて会った時もこの三人で居たんだっけ? 

 少し懐かしい。

 確か、最近は弱い使い魔程度なら相手を出来るようになってきた、とも言っていたし、みたま先輩が本格的に戦うのも遠くないのかもしれない。

 

 

 まぁ、勿論の事、彼女を戦わせるなんてしないが。

 非戦闘員を戦わせるなんてする訳にはいかない。

 

 

 いつか、戦う時が来たとしても──

 

 

「俺が……守ればいいか」

 

 

 自分が守ればなんとかなる、自分が頑張ればなとかなる。

 俺はいつだって、そう思っている。

 ……だけど、それも少しづつ変わり始めた。

 昔と同じままじゃ、何も出来ない。

 

 

 大切を──大切な人を守るためには、自分の考えを見つめ直す必要があるのかもしれない。

 もっとも、根本の在り方が変わる気はしないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 次回もお楽しみに!

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