無感動な少女と魔眼使いの少年(リメイク版)   作:しぃ君

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 みふゆ「前回までの『無少魔少』。フェリシアさんの寝返りいろはさんが止めたり。マギウスの翼と言う、ウワサの影で暗躍していた組織が分かったりしましたね」

 結翔「いや、出てきていいのかよ?」

 みふゆ「知らないですよ、台本渡されてはいやってって感じでしたから」

 まさら「チィにやらせたあの回よりマシでしょ?」

 こころ「いや、それはそうだけどさぁ……違うんじゃないかな?」

 結翔「まぁ、色々と疑問に思うことはあるけど、楽しんで二十五話をどうぞ!」


二十五話「未だ見えぬ罪の過去」

 ──こころ──

 

 結翔さんたちに黒羽根たちの対処を任せ、ウワサに巻き込まれている私といろはちゃん、フェリシアちゃんに佐倉さんは、大元のウワサが居るであろう奥へと進んでいた。

 だが、奥へ奥へと進んでも、ウワサの気配は感じない。

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

「本当にこの奥に居んのかよー?」

 

「それは私にも分からないよ。だけど、居ると思う…。あの人たち、マギウスの翼はうわさを守るって言ってたから…」

 

「これで、いなかったらサイッアクだな」

 

「怖いこと言わないでよ、フェリシアちゃん…」

 

「それは、考えたくないな…」

 

「……………………」

 

 

 私たちが走りながらそう話していると、佐倉さんはどこか不機嫌そうに眉を八の字にしていた。

 何かあったのかな? 

 話し掛けようと思っても、良い言葉は浮かばず、どうするか迷っていた時。

 

 

 辺りの風景が一瞬にして切り替わる。

 一度見た事のある場所であり、魔女の結界とは明らかに違う空間。

 ……奥に大元のウワサが居ると言うのは本当だったらしい。

 

 

 運良く辿り着いたようだ、ウワサの結界に。

 

 

「な、なんだこれ! …どうも、魔女の結界とは違うみたいだな…」

 

「よかった、合ってたよ。フェリシアちゃん、こころちゃん、佐倉さん」

 

「そうか、これがウワサってヤツの結界か」

 

「はい」

 

「久しぶりに見たけど、やっぱり魔女の結界とは雰囲気が違う」

 

「きっとミザリーウォーターのうわさを守るために出てきます」

 

 

 いろはちゃんがそう言った直後、紙がヒラヒラと落ちてくる。

 書いてある時間は『0:30』、残り時間は三十分と言うことだ。

 決して多くはない、ウワサの強さが分からない以上、余裕は余りないと見るべきかもしれない。

 

 

「ちっ、ようやく辿り着いたけど。時間は待っちゃくれないみたいだね。どうしたもんかな…」

 

「急ぐっきゃねーだろ!? 早く行こうぜ!?」

 

「うん、フェリシアちゃん! それじゃ行き、わっ!」

 

「い、いろはちゃんだいじょ、きゃ!」

 

「何、二人して何もないところでこけてんだっ、あっ」

 

「あっはは、さんにんともどんくさいなっ。いって! なんで!? 石落ちてきた!」

 

 

 最初にいろはちゃんが転び、次に駆け寄ろとうとした私が転び、その次に私といろはちゃんに文句を言おうとした佐倉が転び、最後に私たち三人を笑っていたフェリシアちゃんの頭の上に拳大の石が落ちてきた。

 正直言って有り得ないほどの不運──いや不幸だ。

 いろはちゃんや私が転んだだけなら偶然で済ませられるが、三人が転び一人には石が落ちてきた。

 

 

 常識的に有り得ない──なら、非常識的な力が働いているのではないか? 

 

 

「いろはちゃん、これって」

 

「…なぁ、まさかとは思うけどさ」

 

「佐倉さんとこころちゃんも思いました?」

 

「アンタらはどう思う」

 

「…ここの水を私たちが飲んだとしたら…。この結界の中は…」

 

「な、なんだよ。結界の中だから何なんだよ!」

 

「不幸で満ちてるかもってこと…だよね」

 

 

 私がいろはちゃんの言葉に続くように言葉を重ねた。

 言い終えた後に目配せすると、いろはちゃんと佐倉さんは無言で頷いていた。

 どうやら、見解は全員同じらしい。

 ……まぁ、それが分かったとしても、これからどうすれば良いのかなんて、そう簡単に思い付きはしないのだが……

 

 

「オレに落ちてきたのも不幸だってことか!?」

 

 

 フェリシアちゃんが驚いたように叫んだと同時に、うわさをを守るためのウワサが現れた。

 小物だろうが、油断は出来ない。

 見た目は、カラフルなフクロウが腰あたりに、液体の入った桶を装着している感じだ。

 フクロウ印の給水屋を意識してるのだろう。

 

 

「|hoot-オッ∂hoot-オッ∈|」

 

「なっ、使い魔か!?」

 

「違うよこれがうわさを守るウワサだよ」

 

 

 数十匹とはいかないが、十数匹の小物のウワサが現れ、私たちを取り囲む。

 一匹一匹は強くないが、私たちがまともに動けない。

 動けば動くだけ不幸に見舞われる。

 コウモリが顔に当たるは、何かグチャりとした物を踏むは、石が落ちてくるは。

 

 

 攻撃をするのも一苦労。

 私は、両腕の可変型トンファーを近接モードから射撃モードに変形させ、電撃を放つ事でウワサを撃ち落とすが、撃っている途中も不幸が続く。

 銃口部分にコウモリがピンポイントで入ってきて暴発しかけたり、私が撃った電撃の着弾地点に狙ったように石が落ちてきたり、挙句の果てには私の周りにだけ大量にバナナの皮が置かれて足場を失ったりした。

 

 

 正直、今まで戦ってる中で一番辛い戦闘だった。

 全力を出せないのがこれ程までに辛いとは思わなかったし、最悪な事に無駄に時間を使い過ぎた。

 

 

「|hoot-オッ∂√!?!?|」

 

「なんとか、倒せましたね…。フェリシアちゃんのハンマーが落ちてきた時はさすがに焦りましたけど…」

 

「オレのせーじゃねーもん」

 

「…そんな事があったんだ。集中してたから気付けなかったよ、ごめんねフォロー出来なくて」

 

「大丈夫。ウワサの結界のせいだから仕方ないよね…」

 

「どっかで出し抜いてウワサを倒そうと思ったけど。マジで4人で協力しないと共倒れになりそうだな…」

 

「えっ、出し抜くって…。そんな事考えてたんですか!?」

 

「ウワサは魔女とは違うんだろ? 魔女を倒したときみてーにみんな無事とは限らないじゃん」

 

 

 驚くいろはちゃんを他所に、佐倉さんは淡々と理由を言った。

 ウワサに囚われた人たちは、今まで全員無事に解放されてきたけど……

 それが今回も通じるとは限らない。

 一理ある、私は佐倉さんの理由にそう思った……が。

 

 

 今の状況から鑑みるに、出し抜けるなんて甘い現実ではないと分かったらしい。

 

 

「確かにそうかもな!」

 

「だろ? だけど今は、ンなこと考えてたらすぐにタイムリミットさ」

 

「じゃあ…」

 

「あぁ、こうなりゃ誰が助かろうが恨みっこなしだ! 変なこと言っちまって悪かったな」

 

「いえ、急に出し抜くなんて言うからビックリしちゃいました」

 

「でも、佐倉さんの理由は一理あると思いますし、しょうがないですよ」

 

「…それじゃ、4人で倒しましょう!」

 

「制限時間も迫ってるからな」

 

「ドカンとズカンとやっちまおーぜ!」

 

「頑張りましょう!!」

 

 

 四人の結束が固まったのは良い事だ。

 だけど、奥へ行けば行くほど、不幸は濃くなっていく。

 出てくる小物のウワサの妨害もあり、時間は刻々と失われる。

 

 

 緊張感が漂う雰囲気の中、希望はしっかりとそこにあった。

 

 

「おい、あれ見てみろよ! 先にまた、広い場所があるぞ!」

 

「──っ!?」

 

「あの杯…ウワサ…?」

 

 

 少し先にある、先程と同じく開けた場所に、ウワサは居た。

 角杯と言った方が正しいのだろう。

 黄金で作られたであろうそれは、所々色褪せており、よく分からない目玉擬きや、布切れが付けられている。

 中に入っている液体は限界ギリギリと言った状態で、チャプチャプと溢れてきている。

 

 

「…あのウワサから、水が溢れてませんか?」

 

「あぁ…あたしらが飲んだ水だとすると…。どうやら大元のウワサってヤツにたどり着いたみたいだな」

 

「あれをぶっこわしゃいいんだよな!? おっし、オレが一撃でガツンとやってくる!」

 

「フェリシアちゃん! ひとりで行かないで!」

 

「んだよ、あとは壊すだけだろ? …んあ?」

 

「アブねえ!」

「危ない!」

 

 

 フェリシアちゃんの口から間の抜けた声が漏れた刹那、彼女の真上から人一人覆い隠せるほどの石──ではなく岩が落ちてきた。

 間一髪の所で佐倉さんの攻撃が間に合い岩を砕き、私が両腕の可変型トンファーを近接モードにして散らばった岩を弾けたから良いものの……

 気付かなかったらペシャンコになってお陀仏……なんて事も有り得ただろう。

 

 

 ……これ以上、近付かせないと言う意思表示と言った所だろうか? 

 全く持って、迷惑この上ない。

 でも、もしこれが続くなら──どうすればいいんだろう…? 

 

 

「にゃっは! な、なんだよ。今度は岩まで落ちてくんのかよ!」

 

「はぁ…佐倉さんが壊してくれなかったら、フェリシアちゃんぺちゃんこになってた…。こころちゃんもありがとう」

 

「ううん、どうってこと…」

 

「ぐぬぬ、よくもやったな! わっ、わっ!」

 

 

 私が言葉を返そうとした時、怒りに任せたフェリシアが飛び出そうとするが、またしても岩が落ちてきた。

 今度はなんとか自分で壊せたから良かったものの……そう何度もやられたらジリ貧になってしまう。

 

 

「無闇やたらに近づこうとすんな! けど、参ったなこりゃ…」

 

「そうですね…近付こうとすると、岩が落ちてくるみたいです…」

 

「アンタらならなんとかならないか?」

 

「そうですね、あの距離なら十分届きます」

 

「私も、最大まで溜められればなんとか…」

 

「こころちゃん、二人で──」

 

「うん!」

 

 

 溜めて…狙って…撃つ。

 しっかりと手順を確認し、実行に移す。

 近接モードから射撃モードに変形させ、まずは溜める。

 本来なら近接モードでも使わないレベルで、魔力を電気に変換しトンファーにチャージする。

 

 

 限界まで溜めきると、耳障りな警報音が鳴り出す。

 これが合図だ。

 照準なんてないので、着弾地点を慎重に見極める。

 両腕を平行に、腰を落として、敵を見据える。

 

 

 …準備は、整った。

 

 

「いろはちゃん!」

 

「分かった!」

 

『いっけぇ!!』

 

 

 私の電撃と、いろはちゃんの矢は同時に放たれ、確実にウワサに命中した……が、かすり傷の一つすらついていないし、微塵もダメージを与えられたと思えない。

 

 

「う、嘘…」

 

「ぜ、全然効いてない!?」

 

「ありゃあ相当かてぇぞ…。ったくどうしたもんかな…」

 

 

 頭を抱えながら佐倉さんがそう言うと、紙がヒラヒラと落ちてくる。

 書かれている時間は『0:10』、残り時間は十分を切ったらしい。

 不味い……近付こうとしても近付けないし、遠距離からの攻撃も全く効かない。

 こんな時、結翔さんなら──

 

 

 私が必死に打開策を模索していると、紙を見たフェリシアちゃんも焦り始める。

 

 

「わっわっ、どうすんだよ! あと10分もねーぞ!?」

 

「…あたしの槍も伸ばしたら向こうに届くかもしれねえ。今はいろいろ試してみるっきゃないな」

 

「でも、もう時間ねーぞ!?」

 

「文句を垂れたところでどうしようもないだろ? 騒ぐ暇があんならなんか考えな」

 

「ウガー!」

 

 

 フェリシアちゃんも破れかぶれに、持ちうる限りの攻撃を試すが、その大半が届かないし、届いてもビクともしない。

 打開策を模索しながら攻撃を試すが、一向に良い方法は浮かばないし、攻撃は通らない。

 

 

 段々と焦燥感と絶望感が体を支配していく。

 ……どうしたら、良いのかな? 

 聞いても、答えてくれる人なんていやしない。

 けど、結翔さんならこう言う筈だ。

 

 

『最後の一分一秒まで諦めるな。希望は絶望の先にちゃんとある』

 

 

 …きっと、今の絶望的な状況の先に、希望はある。

 だったら、諦められない。

 最後まで足掻き続けなければ…! 

 

 

「そう言えば…あのウワサ何もしてくる気配がありませんね」

 

「こっちがくたばらなくても壊せなきゃ向こうの勝ちだからな。どうしたもんかな。あたしももう、打つ手がねぇ…」

 

「どうすればたどり着けるかな…?」

 

モッキュー!(岩が落ちるより早く行くんだ)

 

「走ってもこけちゃいそう…。パッと向こうにたどり着けたらいいんだけど…」

 

「んな、都合が良い方法なんてないだろ…」

 

「わ、私、思いつきました!」

 

「オレも!」

 

 

 岩が落ちるよりも早く行く。

 チィの考えを参考にするなら、落ちてくる岩を利用すればいいんだ。

 要は、落ちてくる岩を蹴って次の岩に、そしてまた蹴って次の岩に。

 普通なら出来ないって思うけど、私はやれそうな人を知っているし、魔法少女の力があれば出来なくはないと思う。

 

 

「なに、どうするつもり!?」

 

「へへっ、岩が落ちてきてもそれより早く行きゃいいんだよ!」

 

「それは私も思ったけど、そんなことできるの?」

 

「魔法少女の力があれば、落ちてくる岩を蹴って向こうに飛べるかもしれない」

 

「オレ、パワーだけは自信あるからな!」

 

「…できるのかな…?」

 

「いーんじゃね? やらないよりやってみろだ!」

 

「そーだそーだ、やらないよりやってみろ、だぞ!」

 

 

 心配そうにこちらを見やるいろはちゃん。

 博打に近い案だが、これ以上の案は出てこないし、時間も余り余裕はない。

 一か八かの賭けに出るしかないのだ。

 

 

「いろはとこころに赤いねーちゃん! ちゃんと岩、抑えたか!?」

 

「うん! こっちは準備できたよ!」

 

「おう、ちゃんと抑えとけよ!? オレが全力で蹴ったら、ドーンって吹っ飛ばされるかもしんねーぞ?」

 

「三人がかりだし、流石にそうはならないよ。私の固有の能力もあるし」

 

「…だそうだ。これで吹っ飛ばされてたまるかよ」

 

「おっし、それじゃーいくぞ! いっち、にーのぉ…さん! だっ!」

 

「フェリシアちゃん!」

 

 

 先程までの勝気な笑みは消え、痛みに顔を悶えさせている。

 飛ぶのが上手くいかず、顔から行った所為で鼻血さえ出ている。

 やはり無謀も良い所な作戦だったのだろうか? 

 

 

 いいや、悩んでいる暇はない。

 これが成功しなければ、全員揃ってウワサにやられる。

 

 

「顔打った…」

 

「大丈夫!? 鼻血出でるよ…?」

 

「いてぇ…」

 

「…これさ、成功したところで天井とか地面に直撃して、自滅するのがオチなんじゃねーか…?」

 

「……………………うん、そうかも。ひぁ! あぁ、あと5分だよ…!?」

 

 

 ……落ちてきた紙に書かれている時間は『0:05』。

 本気で、時間がなくなってきた。

 

 

「まだ、向こうまで辿り着けてないのに……」

 

「こうなりゃ再チャレンジするしかねえ!」

 

「おう! ほら、もっかいやるぞ!」

 

「もう鼻血、止まったの…?」

 

「ん、首トントンすんのそしたら止まるだろ?」

 

 

 こんな状況でも、フェリシアちゃんは笑っている。

 ……ダメだな、私。

 絶対成功させなきゃって、勝手に思い込んでフェリシアちゃんのこと考えてなかった。

 

 

 落ち着こう。

 落ち着いて、今度はフェリシアちゃんのことも考えて、上手く支えないと。

 

 

「フェリシアちゃんなら出来るよ。頑張って!!」

 

「…おう!」

 

 

 その後、二回…三回…四回とチャレンジし、とうとうチャレンジは十回目に達した。

 いろはちゃんの治癒魔法で傷を治してはチャレンジするのも限界、時間は紙によれば『0:03』で更に限界。

 

 

 だけど、諦めるわけにはいかない! 

 

 

「おっし、これで決めなきゃの10回目!」

 

「いち」

 

「にーの!」

 

「さん!!」

 

「りゃああああ!」

 

「くぅっ!」

 

「ぐぐっ…! 確かにスゲーパワーだな…!」

 

「でも、やりました! 成功しました!!」

 

 

 時間的に最後のチャレンジでもある十回目。

 ようやく成功し、フェリシアちゃん飛んでいく。

 確実に、落ちてくる岩より早く飛べている。

 

 

「おっし、落ちてくるよりこれならはえーぞ! ──っ!?」

 

「…やべぇ、速度が落ちてきた」

 

「簡単には、行かせてくれないよね…フェリシアちゃん!」

 

「危ない! フェリシアちゃん!」

 

 

 あと、私たちに出来るのはサポートだけ。

 スピードが落ちて、追い打ちのように落ちてくる岩に当たる直前、フェリシアちゃんは思い付いたようにニカッと笑い、二段ジャンプの要領で岩を蹴って更に飛んだ。

 

 

「二段ロケットだーーー!」

 

「あいつ、落ちてきた岩を蹴って…」

 

「これなら行けるよ佐倉さん、こころちゃん!」

 

「…あれ? でも、フェリシアちゃんが蹴った岩が……」

 

「こっちに飛んで来やがる!」

 

 

 足場として蹴った岩が、暴走したトラックもビックリの速度で迫ってくる。

 いろはちゃんの矢じゃ、溜めて撃つのは間に合わない。

 私は即座に近接モードにしていた可変型トンファーを構えて、思いきり岩を殴った。

 密着させることで衝撃波と電気を流し、岩を破壊する。

 

 

 奥では、フェリシアちゃんがウワサと戦っていた。

 ハンマーの攻撃は着実にダメージを与えているが……倒せる気配は見えない。

 何度も、何度も、ハンマーを振り下ろして攻撃を繰り返すが、ただへこむだけ。

 

 

 一向に倒せるビジョンが見えない。

 マギアで決めようにも、フェリシアちゃんの魔力は残り少ないし、私たちもギリギリだ。

 

 

 フェリシアちゃんのサポートとして、落ちてくる岩を射撃モードに変形させた可変型トンファーで砕く。

 佐倉さんも槍の棒部分を多節棍のように使い、網を作って岩を受け止めてサポートする。

 

 

 だけど、倒す兆しは見えない。

 

 

「あたしたちはそっちに行けねーんだ! お前がなんとかするしかねーんだよ!」

 

「なんとかって…オレ…オレ! ああ、もう! ズガーン!!」

 

 

 ヤケクソ気味にフェリシアちゃんがハンマー振り回すと、それが当たったウワサが、こちらの方に先程の岩より早いスピードで飛んでくる。

 

 

「さ、杯が飛んでくる!!」

 

「いろは、こころ、そいつを貫け」

 

「もう時間がねえ、一発勝負だ!」

 

 

 迫り来るウワサ。

 私といろはちゃんは残った魔力をありったけ込めて、攻撃を放つ。

 光の矢と電撃が混ざり合い、過去最高の威力となった私といろはちゃん一撃は、飛んでくるウワサを貫き、完璧に破壊した。

 

 

 そして、ウワサが消滅すると結界が解かれ、通った筈の参京院教育学園の校庭端に移動している。

 終わった事に安堵していると、気味の悪い色のくす玉が現れた。

 一瞬、何がなんだか分からなかったが、すぐにくす玉が割れて中から『おめでとう』と書かれた紙が落ちてくる。

 

 

「フェリシアちゃん、こころちゃん、佐倉さん!」

 

「あぁ、あたしのところにも落ちてきたよ。涙なんて描いちゃってよっぽど悔しかったのかもな」

 

「はぁ〜よかったぁ…。不幸にならないで済むってことだよね…」

 

「みたいだね。良かったよぉ…」

 

 

 この紙を見て、私の体から本気で力が抜けていく。

 命のやり取りは、何時になってもなれるものでは無いと、また実感させられた。

 その後は、結翔さんたちと合流出来たけど……何故かまさらと結翔さんを除いた、四人の顔は余り良いものではなかった。

 

 

 天音月夜さんと天音月咲さんの表情が悪いのは分かるけど、何でやちよさんと鶴乃さんの表情が悪かったんだろうか? 

 …私が、その意味を知るのに、余り時間は掛からなかった。

 

 

 何故なら、結翔さんの両耳からは、血とそれ以外のナニカが流れていたからだ。

 

 

 ──結翔──

 

「悪かったな二人とも、今回のうわさも消させてもらった」

 

「マギウスの意向に添えなかった…なんたる失態でございましょう」

 

「こうなったらせめて…」

 

「不穏分子の命だけでもなんとか頂戴しなくては…」

 

「ねぇー…………」

 

「止めとけよ。勝てない試合はするもんじゃないぞ」

 

 

 俺がそう言って、彼女たちを諌めると。

 それに続く形で、聞き慣れた声が耳に響いた。

 ……出来るなら、こんな形で聞きたくない声だったのに。

 

 

「そうよ、今回はおとなしく退きましょう」

 

「──っ!?」

 

「この声…」

 

「久しぶりね、やっちゃん、結翔君」

 

「みふゆ…?」

「みふゆさん…」

 

 

 同じ人の名前を、違う声の俺とやちよさんが同時に呼んだ。

 何となく分かっている。

 この場所に、この時間に現れたこの人がどう言う立場に今居るのか。

 聞きたいことが山ほどあった。

 

 

 今までどこに居たのか? 

 今まで何をしていたのか? 

 何故連絡の一つもくれなかったのか? 

 

 

 だけど、俺が何かを言う前に、鶴乃が嬉しさの爆発により飛び付いた。

 

 

「み、みふゆだーーーー! どこ行ってたの!? やちよとすごく探したんだよ!? だーー!」

 

「わっぷ…! 鶴乃さん、飛び付かないでください…」

 

「今日はみふゆの帰還記念祝賀パーティーだね」

 

「帰還…ですか…」

 

「そう! おかえりだよ! 万々歳でお祝いしようよ!」

 

「残念ですがそれはできません」

 

「ほ? 何で?」

 

 

 顔をきょとんとさせている鶴乃。

 …頭が回るアイツなら、どれだけ嬉しくても今の言葉で気づく筈だ。

 いや、最初から薄々気付いているんじゃないか? 

 信じたくなくて、信じられなくて、惚けているんじゃないか? 

 

 

 そう思ってしまう。

 みふゆさんは、物悲しそうな表情で、鶴乃に告げる。

 

 

「ワタシはね、鶴乃さんたちのところに、もう戻れないんです…」

 

「そんな冗談やめなよー」

 

「鶴乃さんなら気づいてるんでしょ? このタイミングで現れたんだから」

 

「…でも、違うよね」

 

 

 縋るような声だった。

 否定して欲しいと、必死にみふゆさんに抱きついている。

 幼い子供のように見えた。

 今だけは、鶴乃の笑顔の仮面は剥がれかけている。

 

 

 悲痛そうに顔を歪めながら、抱きつかれているみふゆさんは、静かに真実を話す。

 

 

「いえ、想像の通りです。ワタシはマギウスの翼です」

 

「えあ、お…敵なの…?」

 

「あなたたちがうわさを消すなら…ワタシは鶴乃さんの敵です」

 

「ウ、ウソだぁ…。やちよぉー…結翔ぉー…」

 

「……………………」

 

「…私だって、ウソだと思いたいわよ…。あなた、本物のみふゆなの…?」

 

 

 俺は、何も言わずに、ただみふゆさんを見つめた。

 居なくなったあの頃から、あまり変わっていない姿をただ見つめていた。

 涙目の鶴乃とやちよさんは、まだ信じ切れてないらしい。

 

 

 いや、それが普通か…。

 俺が淡白すぎるのかな? 

 だって、しょうがないだろ。

 割り切らなきゃいけない、割り切って戦わなきゃいけない。

 そうしないと守れないものがあるから、戦わないと守れないから。

 

 

 心の弁明は誰にも届かない、だから、みふゆさん口が動くのは必然だった。

 

 

「…口寄せ神社に行ったそうですね。わざわざ、ワタシを探しに…。そこで、偽物のワタシにあったんですよね。嬉しいです。それだけ真剣に探してくれて、親友としての冥利に尽きます。…結翔君も、ワタシが居なくなった当時、寝る間も惜しんで探してくれたんですよね。…人伝ですが、聞いてますよ」

 

「何が親友冥利に尽きるよ…。どうせあなたも…本当は偽物なんでしょう…?」

 

「………………」

 

「………………。ここはうわさの中じゃありません…。本物以外が現れるなんてことは決してありません…」

 

「…こんな形で。こんな形で再開したくなかった! でも、今からでも遅くないわ戻ってきなさい、みふゆ!」

 

 

 見たくないんだ。

 今すぐにでも、この場から逃げ出したい。

 臆病な俺は、この現実を耐えられない。

 

 

 現在の惨状の殆どは、俺の所為だ。

 俺が二人の幼馴染みの弱さに気付けなかったからこうなった。

 俺が笑顔の仮面を重ねた少女の強さだけを見て、仮面の下にある弱さに気付けなかったからこうなった。

 

 

 耳を塞ぎたいけど、塞げない。

 もう一度撃ち抜いてやろうかとも思ったが、こころちゃんが居る手前それも出来ない。

 生殺しにされている気分だ。

 

 

「無理です…。今のワタシにはマギウスの翼での役割があります。マギウスと彼女たちについてくる魔法少女を結ぶという役割が…」

 

「彼女たちが言ってることなんてまやかしかもしれないわよ…?」

 

「それでも縋りたいんです」

 

「解放に?」

 

「そう、解放に…」

 

「魔法少女としての覚悟は前から決めていた筈でしょ!」

 

「それは今となってはやっちゃんだけなんです!」

 

「──っ!?」

 

「これ以上、追求しないでください。ワタシは揺るぎません…なんと言われようと、決して…」

 

「あなたが人を傷つけてまで救われようとするだなんて…。1年前の…あの出来事のせい…?」

 

「それも()()ですね…。やっちゃんを変えてしまったように…」

 

 

 脳裏に焼き付いて離れない過去が、一瞬だけ見えた。

 切っても切れない、俺の罪が見つかった日で、人生最悪の日。

 二度目の絶望を味わった日。

 

 

「でも、私はあなたのようにはならなかった。結翔だってそうよ」

 

「それは、元の人間性の問題です。ワタシは何がなんでも救われたいと思ってしまった──救いたいと思ってしまった。そうなる素質があった。親友のあなたなら分かると思います」

 

「…目を覚まさせてあげるわ!」

 

 

 魔法少女に変身したままのやちよさんが槍を構えるけど、俺はそっとやちよさんの肩に手を置いてそれを止めた。

 意味がない。

 力づくでどうこうなる問題ではない。

 …俺は、それを知っている。

 

 

「みふゆさん、少しだけ言わなきゃいけない事があります。良いですよね?」

 

「…えぇ、どうぞ」

 

「今後、あなたが俺の前にマギウスの翼の一人として現れたら、あなたは俺の敵だ。これだけは憶えておいてください」

 

「そう…ですね」

 

 

 あぁ、もう。

 何で? 何でなんだ? 

 なんで、俺の時の方が悲しそうな顔をするんだ? 

 止めてくれよ。

 頼むから、悲しいって思わないでくれよ。

 

 

 今すぐにでも、助けたいって思ってしまうじゃないか。

 

 

「…あなたがそっちに行ったのは、俺の所為でもあるんですかね?」

 

「かも…しれませんね」

 

「…分かりました。じゃあ、これも序に憶えておいてください」

 

「…………なんです?」

 

「苦しくて、辛くて、怖くて、どうしようもなくなったら。絶対に『助けて』って言ってください。聞き逃しませんから、絶対に言ってくださいね? 一人で──死なないでくださいね? 言ってくれたら、あなたがどこにいても、助けに行ってみせますから」

 

「本当に…あなたと言う人は…いつも──」

 

 

 小さく呟く彼女の声は聞こえない──聞こえないふりをした。

 何となく、彼女が次に言う言葉分かっていたから。

 

 

「…結翔君、ワタシはあたなの在り方を認めません。自分がどれだけ傷付いても、誰かを助ける──誰かを救う、そんな在り方を認めません。認められません。ワタシは救われたい…だけじゃない。あなたを救いたいから、こちらに来たんです。その力がなければ、あなたは傷つかなくて済みますよね?」

 

「…………どうでしょう」

 

「ヒーローです、あなたの在り方は確かにヒーローです。ワタシも、あなたをヒーローだと思ってます。だけど、その在り方はきっと、今後あなたを苦しめる。誓いや約束はあなたを縛り、いずれ殺すでしょう。……そんなの、ワタシは見過ごせません。猛毒です、治療不可能な病です、あなたの在り方はそう言うものです。だから、ワタシが救います」

 

「救う──ですか。……俺は、一度たりとも救われたいなんて思った事ないですよ」

 

 

 魔法少女としての変身は既に解いている。

 振り返らずに、俺はその場を去った。

 きっと何も起こらない、きっと何も起こせない。

 奇跡なんて、起きやしない。

 

 

 俺は、それを誰よりも知っている。

 

 

 その後の話は、いろはちゃんに電話で聞いた事だが、何でもフェリシアといろはちゃんはやちよさんの家であり下宿屋でもあった、みかづき荘に住むことになったらしい。

 明日にでも、フェリシアに貸していたアパートの契約を、解除しなきゃいけないな。

 

 

 それと、いろはちゃんたちはうわさを消しながら、マギウスの翼との接触を図るらしい。

 俺も、ウワサは見過ごせないから手伝う事になりそうだ。

 

 

 ……まだまだ、俺の忙しい非日常は続く。

 

 

 ──まさら──

 

 家に帰っている途中の、結翔は明らかに変だった。

 カラカラと作り笑いをしているし、陽気な声で私とこころの言葉に返している。

 

 

 異常だ。

 無感動だと言われた事のある私でも、結翔の異常性は分かった。

 

 

「…ねぇ、結翔? 今のあなたは苦しいの? 辛いの? 怖いの? 私には分からないから、ちゃんと教えて」

 

「さぁな。そのどれかかもしれないし、全部かもしれないし、はたまた違うやつかもしれない。……本当に、どうなんだろうな?」

 

「質問を質問で返さないで。…おちゃらけてる余裕があるの? それとも、そんな風に仮面がないと喋れない程、苦痛なの?」

 

「……結翔さん、私も知りたいです。私たち…その…家族なんですから、色々な事を共有しないと」

 

 

 結翔は私とこころの両方を見て、諦めたように笑った。

 その笑みは作り物じゃないと、すぐに分かって。

 ますます意味が分からなくなった。

 

 

「どんなに苦しくても、どんなに辛くても、ヒーローは──」

 

「戦わなくちゃいけない…でしょ?」

 

「そうだ。だから、気にするな。理由になってないけど、気にしなくていい。これは、俺自身が解決しなきゃいけない問題だ。……もしも、本当に困った時は言うさ」

 

「…信じてますよ」

 

 

 どこか暗い雰囲気は、家に着く頃にはなくなり。

 いつも通りの、柔らかくて温かい空気が私を包み込んだ。

 

 

 初めて、今がずっと続けばいいと思った。




 次回もお楽しみに!

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 アンケートの短編は、仮面ライダー龍騎をリスペクトした作品になる予定です。(一応、ネタバレ含んだ前日譚みたいな感じでもある)
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