無感動な少女と魔眼使いの少年(リメイク版)   作:しぃ君

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 結翔「前回までの『無少魔少』。ネタバレを所々しながら、本編のことを端折って語ったな」

 ももこ「一応、アタシも出てきたけどな。チョイ役みたいに」

 結翔「いや、俺が主人公なんだし、しょうがないじゃん」

 ももこ「でもさでもさ〜、アタシだって喋りたかったぁ!」

 結翔「はいはい。愚痴はここまでね。俺やまさらとこころちゃんの出会いを語る二話をどうぞ!」


 ※これからのお話はマギレコのシナリオが始まる三ヶ月前のものです。


二話「運命は動き出す」

 ──結翔──

 

 学校帰りのある日、Q科の仕事が何もなかった事もあり、調整屋に足を運んでいた。

 廃墟の中を進み奥にある扉をくぐると、そこが調整屋だ。

 部屋の中に廃墟らしさはなく生活感が溢れている。

 

 

 柔らかそうなソファや小綺麗なテーブルや寝心地良さそうな寝台。

 どこから電気を取っているのか分からないが、蛍光灯はしっかりと光を発しているし、キッチンまで置かれている。

 

 

 だが、何時もなら居るであろう調整屋の主──八雲(やくも)みたまは居なかった。

 何時もなら、俺が扉をくぐった辺りで「いらっしゃ~い」と、間延びした声が聞こえてくる筈だ。

 銀色の綺麗な髪と女性としての証と言って過言ではない、胸のブツを揺らしながら寄ってくる。

 

 

 蒼色の瞳は全てを見透かしたようで、時々恐ろしく感じてしまったりする。

 体付きも良く顔立ちも整っているので、美人の部類に入るのだが……あの緩すぎる喋り方と雰囲気が全てを壊してしまうのだ。

 

 

「…そういや、最近は偶に学校行ってるんだっけ。今日に来たの、失敗だったか?」

 

 

 自問自答をしながらソファに座り、みたま先輩の帰りを待つ。

 スマホを弄っていれば時間はすぐかもしれないが、どうにも弄る気になれず、ぼーっと天井を眺めていた。

 十分程経っだろうか。

 育ち盛りな男子高校生である俺は、小腹が空いたことを知らせる腹の音を聞いてしまった。

 

 

 意識してしまったら逸らすのは難しく、「仕方ない」とため息を吐いてソファから腰をあげる。

「キッチンにある冷蔵庫から少し拝借してしまおう」、そんな悪い考えを持ってキッチンの中に入ると、鼻が曲がるような酷い匂いがした。

 納豆などの発酵食品とは全く別物の汚臭。

 

 

「臭っ!? みたま先輩、何で廃棄処理くらいしないんだよ!!」

 

 

 恐らく食べかけの品なのだろうか、色鮮やかだったであろう食品(汚物)たちが三角コーナーから溢れて、流しを侵食している。

 見て見ぬ振りをして、冷蔵庫から何か拝借すれば良いのだが、ここで俺お得意のお人好しが発動。

 鼻を曲げるような汚臭とバトルを展開。

 

 

 苦戦を強いられること数分、何とか汚物をゴミ袋にシュートし、袋を三枚ほど重ねる事で汚臭を遮断することに成功。

 一人やりきった顔で冷蔵庫に手を掛けた瞬間、ふと誰かと目が合った。

 

 

 みたま先輩に似た綺麗な銀色の髪、感情の色を全く感じさせない透き通り過ぎた蒼色の瞳。

 顔立ちは幼さを残しながらも、大人としての品格を持ち合わせたもので落ち着きを感じさせる。

 けれど、「表情筋が死んでいるのでは?」と疑うほど顔色が変わらない。

 

 

 俺なんて、今の自分の状況がヤバイ奴にしか見えなくて、どうやって誤魔化そうか必死に考えて、表情筋が痙攣を起こして変な顔になっていると言うのに。

 

 

「あ、えっと…その…。勘違いをしているかもだから一つ言いたいんだけど……俺は断じて強盗とかじゃないから!! 本当だから!!」

 

「そう。八雲みたまさんが何処にいるか知ってるかしら?」

 

「…………は??」

 

「…?? 何故、貴方が可笑しそうな顔をするの? 私は何も変なことを言ってないでしょ。八雲みたまさんが居ないから、場所を聞いただけ」

 

 

 会話のキャッチボールが全く以て成立しない。

 Q科の仕事上、多くの魔法少女と友達以上親友未満程度には交流を築いてきた俺だが、この時ばかりは言葉を失った。

 

 

(…コミュ力には、自信あったんだけどなぁ)

 

 

 加賀見(かがみ)まさらとの初めての出会い(ファーストコンタクト)は、ある意味最悪のものだった。

 

 

 ──まさら──

 

 私の目の前には、赤褐色の瞳を困惑の色に染めた黒髪の人が居た。

 …可笑しな事を言ったつもりはない。

 彼の事などどうでもよかったから聞き流して、私の聞きたい事を聞いただけだ。

 なのに何故、彼はここまで驚いて──いや戸惑っているのだろう。

 

 

 分からない。

 こころのお陰で、少しは分かるようになっていたつもりだが、全く持って分からない。

 

 

「まさらー? みたまさん、そっちに居た?」

 

「いえ、居なかったわ。代わりに、他の人が居たけれど」

 

「えっ?! 他の人って魔法少女なの?」

 

「…違うわ。もし、そうだったとしても魔法少年じゃないかしら?」

 

「…………へっ?」

 

 

 私の言葉に反応したのか、こころが走ってキッチンに近付いてきている。

 オシャレと言うものに疎い私には分からない、不思議な結び方で纏めた茶色の髪を揺らしながら、彼女──粟根(あわね)こころがキッチンに到着した。

 ガラス玉のような翡翠色の瞳は、目の前に立つ彼に向けられている。

 

 

 彼を見る瞳が、睨みつけるように鋭いものなのは何故なのか? 

 理解が出来ない私を他所に、二人は話し始めた。

 

 

「失礼かもしれませんけど、あなた…誰ですか?」

 

「…藍川結翔。不思議な眼を持つ魔法少女って言えば分かるかな?」

 

「不思議な…眼…」

 

「こころ、知ってるの?」

 

「う、うん。あいみから少しだけ。何でも、その不思議な眼を持つ魔法少女には未来が視える…とか」

 

 

 未来が視える…。

 魔法少女の固有能力の事だろうか。

 でも、こころの言い方からして、彼は不思議な眼を()()()()()()()()()()()()()()()…と言う事だ。

 私たちの存在があるこの世界では、未来を視る眼が有っても不思議ではない。

 

 

「未来視の魔眼のことかな…。まぁ、他にも色々有るよ。対象の時間を止めたり、対象を内側から破壊したり…色々とね」

 

「…魔法少女に変身して、その方が証明しやすいわ」

 

「な、なるほど!!」

 

 

 段々と、彼に興味を引かれる。

『魔眼』、それは一体どう言うものなのか? 

 性別が違うにも関わらず、魔法少女にどうしてなれたのか? 

 最後に──結翔は何故作り笑顔などしているのか? 

 

 

 

 三つの疑問が浮かぶ中、私は的確な意見で彼が魔法少女だと証明する方法を言った。

 納得故の大声を上げたこころを華麗にスルーし、私は彼を──藍川結翔を見つめる。

 首にかけていたネックレス型の黄色いソウルジェムを取り出すと、結翔は静かに「変身」と言った。

 

 

 すると、眩いほどの黄色い光がキッチンの中を包んだ。

 目を開けると、露出の多い昔の踊り子のような黄色い服に身を包んだ魔法少女が、悠然と立っていた。

 髪の色や瞳の色は同じだが、それ以外の外見が完全に別物になっている。

 黒い髪は腰まで伸びており、体付きも男性が望む理想の女性像そのもの。

 

 

「ほ、本当に、魔法少女だったんですね…」

 

「色々あってね。偶然に偶然が重なって結果だよ」

 

 

 同性の姿になった事で落ち着いたのか、こころは結翔と普通に喋れている。

 けれど、私は普通の話がしたいのではない。

 三つも疑問を聞きたいのだ。

 もし、心が動かされる答えが聞けたのなら、何か私にも掴めるかもしれない。

 

 

 好きなものも嫌いなものも、趣味すらもない私でも…彼と一緒に居れば何か変われるかもしれない。

 確率は低いだろうが、こころと一緒に居たことで少しは変わることが出来た。

 なら、0%なんて事は絶対にない筈。

 

 

 だから、私は彼に問いかけた。

 

 

「『魔眼』について、教えて貰っていい?」

 

「…何でかな、加賀見まさらちゃん?」

 

「っ!? …どこで、私の名前を? 私は名乗ってないはずだけど」

 

「悪いね。仕事の都合上、この街の魔法少女の名前は一応頭に入ってるんだ。初めて会ったから、写真と名前が一致しなくてさっきまで名前が出てこなかったけど。…こころちゃんのお陰で分かったよ」

 

 

 …仕事、一体なんの事なのかしら? 

 分からない、分からないけど……余計に引かれる。

 

 

「理由だったわよね。…貴方に興味があるから。これじゃ、ダメ?」

 

「…ふーん。まぁ、悪くないけど。でも、ダメだ」

 

「どうして?」

 

「『魔眼』は危険だ。生半可な気持ちで、知ろうと思わないでくれ」

 

 

 どうやら、あまり立ち入ってはいけないものらしい。

 …だけど、その程度で諦める程、私は諦めが良くない。

 この理由だけじゃダメなら…

 

 

「対価…私の体でどう?」

 

「ちょっと! まさら!」

 

「はぁ……。もう少し、自分の体を大事にした方がいい。君は君が思ってるより、誰かに想われている存在だ」

 

 

 そう言い残すと、彼は変身を解いて去って行く。

 追いかけようとしたが、先程の行動が祟ったのかこころが私の手を掴んで離さなかった。

 

 

 結翔が去って、八雲みたまさんが来るまでの二十分程。

 私は床に正座させられて、こころに説教をされた。

 二人が共通して言った言葉は一つ。

 それは、「自分を大切に」だった。

 

 

 ──みたま──

 

 学校から帰ると、床に正座させられているまさらちゃんと、彼女に対して説教をするこころちゃんが居た。

 一応、理由を聞いたが、納得できるものだった。

 

 

(まさらちゃんらしい…のかしらぁ)

 

「みたまさんは藍川さんのこと、何か知りませんか?」

 

「そうねぇ、お代を貰えればぁ口が滑っちゃうかもね~」

 

「グリーフシードが必要って事ね」

 

「もぉ、わたしが強要してるみたいじゃなぁい! 別に、私はそんな気がするって言っただけよぉ」

 

 

 おどけるように言うわたしに対して、まさらちゃんは顔色一つ変えずにグリーフシードを渡そうとしてきた。

 …それだけじゃ、面白くないのよねぇ。

 しょうがない、今回はサービスって事にしちゃおうかしら? 

 

 

「…今から言うのは、わたしの独り言よ。だから、誰かが聞いていてもしょうがないわ」

 

「…………」

 

「みたまさん…」

 

 

 相当、結翔くんに引かれてるみたいね。

 …でと、その理由で色々と語ってくれる程──彼は優しくないわ。

 いえ、『魔眼』の話題に対しては()()()()()()()って言った方が正しい。

 

 

「ある街に、最強のヒーローを自称する魔法少女が居ました。その子はとても強くて、心の優しい子でした。しかし、それと同時にとても精神が幼かったのです。だからこそ、天狗になりポロポロと大事なものを落としてしまいました」

 

「大事なものをポロポロ……と」

 

「そう。大事なものをポロポロと落とした果てに、その子は自分の事をヒーローと自称することを止めました。それでも、その魔法少女は今でも人助けを続けています。……本当に優しい子です」

 

 

 わたしの声に、慈しみの感情が入っていたからか、こころちゃんはうるうると目を潤わせている。

 対照的に、まさらちゃんは微塵も感情が外に出ていない。

 恐らく、内側に留めている、と言う訳でもないだろう。

 

 

「みたまさんは、その子の事を好きなんですね!」

 

「え? 大嫌いよ?」

 

「えぇ!? な、何でですか?! だって、今までの話の流れからして……」

 

 

 ああ、勘違いさせちゃったかしら。

 あくまで、言いたいように、聞いた事にわたしの勝手な考えを添えての独り言。

 好きとは、言っていない。

 最も、嫌いとも言っていないけれど。

 

 

「だって、ヒーローから勝手に押し付けられる善意なんて、気持ち悪いだけじゃない?」

 

「……」

 

「……」

 

「勿論、その子ことは大好きでもあるんだけどね〜。なんでかって言うとぉ、その子の優しさは温かいから……」

 

 

 ……ふふふ、少し困らせちゃったみたい。

 だけど、ここからはこの子たちが自分の意思で進むべきだ。

 

 

(介入はこれ以上避けるべきよねぇ)

 

 

 話の後、調整を済ませた彼女たちは程なくして、ここから出ていった。

 一人になると寂しさを感じるが、同時に落ち着きも感じる。

 

 

「結翔くん。わたし、そろそろあなたの作り笑顔は飽きちゃったわ。もっといっぱい本当の笑顔を見せてちょうだい?」

 

 

 今度の独り言は誰に聞かれることも無く、静寂の中で消えていった。

 届くことはない独り言だが、あの子たちならもしかしたら……なんてね? 

 




 次回もお楽しみに!

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