結翔「こう言う説明って、言葉だけだと伝わりませんよねぇ…」
まさら「あらすじなんてやるぐらいなら、前回を見ろって言えばいいんじゃないかしら」
こころ「ま、まあまあ、あらすじは少し振り返るって意味であって、全部余すことなくやれって訳じゃないし」
ももこ「………まぁ、駄べりすぎるのもあれなので、二十七話をどうぞ!」
──結翔──
家を出てすぐに、やちよさんに連絡を取った。
電話に出たやちよさんに、遅れながらも今回のうわさの件に立ち会うことを伝え、どこへ行けばいいか聞く。
『遅れちゃいましたけど、今から向かいます。今どこですか?』
『…随分遅かったわね。まぁ、良いわ。神浜セントラルタワーのヘリポートで待ってる。早く来なさい』
そう言うと、やちよさんは一方的に電話を切った。
……やばいな、俺が嘘ついたのバレてるし、確実に怒ってる。
行きたくねぇ…一瞬で、勇気が燃え尽きそうだ。
だから、俺は気合いを入れる意味でも、魔法少女に変身する。
「変…身!!」
刹那、体全体を眩い光が包み込み、俺の体を作り替える。
魔法少女として相応しい姿に、作り替える。
俺にとって『変身』と言う言葉は、俺がヒーローに──強い自分になる言葉。
燃え尽きかけた勇気を継ぎ足してくれる魔法の言葉だ。
昔の踊り子のようなヒラヒラとした衣装とは裏腹に、体に秘められている力は強大である。
片手ダンプもなのんその、やろうと思えばキックや拳一つで高層ビルだって壊すことが可能だ。
まさらやこころちゃんが変身し終えたのを尻目に確認し、神浜セントラルタワーのヘリポートを急ぐ。
幸い、時刻は夜だ。
闇夜に紛れれば、一般の人達に見つかる事は無い。
もし、見つかったとしても、写真を撮られる前に逃げされればこちらの勝ちだ。
ピョンピョンと屋根伝いに移動し、目的地を目指す。
数分の時間を要したが、目的地である神浜セントラルタワーのヘリポートに到着する。
「遅れました」
「よかったぁ、結翔が来てくれたなら百人力だねー! ふんふん!」
「だな! 結翔のにーちゃん強えーし」
無言でこちらを見つめてくるやちよさんから目をそっと逸らし、辺りを見渡す。
一人や二人……なんてもんじゃないな。
……うじゃうじゃ居るな。
少なくとも二から三十人単位で黒羽が居るし、それに厄介な笛姉妹こと月夜と月咲まで居る。
千里眼を発動し、辺りを見渡していると、夜空に目立つエメラルドグリーの伸ばされた髪に、狂気を孕んだ翡翠色の瞳を持つ少女を捉えた。
黒い軍服にカラフルなスカート、アクセサリーがついた帽子をかぶった憲兵のような服装。
俺は知っている、彼女の事を知っている。
一番、俺が関わりたくない魔法少女にして──マギウスの翼を束ねるマギウスの一人。
…俺が、何故それを知ってるかと言うと、本人が言ってきたのだ。
『アナタも──ユウトもこっちに来ない? 最高にエキサイトな夢が見れるワケ』
誘い文句からして可笑しかったので、俺が彼女に乗ることは無かったが。
アイツは昔から、俺の体に興味津々と言った感じだった。
男でありながら女の体を持ち、しかも、彼女の絵の題材──テーマでもある『生と死』を司る魔眼を持っているのだから当然と言えば当然だ。
そして──唐突に戦いは始まる。
アリナを視界に捉えた数瞬後には、俺に向かって緑色の小さいキューブが飛んできた。
一つ一つは小石程度の大きさしかないが、あれも列記とした魔法少女の攻撃手段であり武器、一度当たればタダでは済まない。
当たるギリギリのタイミングで、飛び前転をし回避する。
…千里眼で後ろを確認すると、小さなクレーターが出来ていた。
「随分なご挨拶じゃないかよ、アリナ」
「アリナ的にはパーフェクトな挨拶のつもりなんですケド? 文句あるワケ?」
「有りまくりだ馬鹿野郎。俺の体が肉片になってもいいのかよ」
「どうせ、ユウトはダイしないし、勝手にリバースするでしょ?」
仰る通りだ。
死にやしない、死ぬほど痛いけどな。
彼女が現れたのをトリガーに、ゾロゾロと黒羽根が現れ、それを纏める存在でもある白羽根の天音姉妹も現れる。
「…ねぇ、アナタたちも手伝ってよ。アナタたちが作った罠がさ逆に利用されてしまったワケ。その分の始末はさちゃんとつけて欲しいんだヨネ」
「お任せ下さい…」
「分かりました…」
俺以外の奴らを取り囲むように、黒羽根と天音姉妹が輪を作る。
「結翔さん!」
「…大丈夫。心配しないで」
「…こころ、構えて。すぐにでも来る」
心配しているこころちゃんを、まさらが宥め前を向かせる。
そうだ、しっかりと敵を見据えろ。
余裕があるのは良いが、余裕をぶっこいてどうこうなる相手じゃない。
数も多いし、天音姉妹の笛も厄介だ。
…まぁ、余裕ぶっこけないのは俺も同じか。
負ける気はしないが、勝てるビジョンが容易に浮かぶ相手でもない。
「そのボディの全て、アリナが貰ってアゲル!!」
「やれるもんならやってみな、
手の平サイズのキューブが9×3の等分に別れて、弾丸のような速度で飛んでくる。
しかも、直線的な軌道ではなく、弧を描いたり、ジグザグに飛んでくる所為で、魔眼なしじゃ予測し辛い。
舌打ちをしながら未来視の魔眼を発動し、キューブの着弾地点を探る。
すると、ピンポイントに俺の手や手先を狙っている事が分かった。
流石、
舐めるのも大概にしろよ、そんなんでやられるか。
フェイクのキューブを無視し、着弾するキューブに向けて、魔力で編んだグロックの魔弾*1をぶつける。
放たれたのは六発の赤い魔弾。
アリナに一番適している属性は風や草、それにとって火は相性が良い──風を主に使われたら少しだけ違うが……
でも、アリナは突風や竜巻を起こすほどの力はない。
自分の攻撃手段であり武器でもあるキューブを使う時だけは、ある程度気流を操作してるかもしれないが、その程度だ。
だったら、属性的有利に立つ俺の魔弾の方が威力は強い。
現に、着弾する筈だったキューブは魔弾に燃やされている。
…まぁ、一瞬で再生して、アリナの手元に残っている大元のキューブに戻るのだが……
「どうした? 俺のボディを奪うんだろ?」
「ユウトォォォォ!!!」
劈くような叫び声が響くと、アリナは自身の固有の能力である結界生成で捕獲&育成していた魔女を呼び出す。
あっち側では、アリナが魔女を出した事に驚きの声が上がっている。
そりゃ、当たり前だ。
魔法少女の救済を謳ってる連中が、人に危害を及ぼすうわさや、果てに魔女まで育てているなんて。
誰が見ても驚く光景だろう。
だけど、それだけじゃない。
……アイツ、計算してやがった、自分のソウルジェムが
いろはちゃんとは違うが、アリナの体からモヤと歯車のようなナニカで埋め尽くされた、魔女擬きが出てくる。
「さっ、レッツパーティー!」
「……お前も使えんのかよ」
「あぁ、愛おしいアリナのドッペル…。魔法少女が解放される証…魔法少女に与えられた新たな力…アッハハッ!」
ドッペル、ドッペルゲンガーってやつか……
もう一人の自分、もしくは……別側面の自分や──成れの果て。
不味いな……、相性があったとはいえ、苦戦を強いられた口寄せ神社のウワサを、一方的に倒したのがいろはちゃんのドッペルだ。
個人差があるとは言え、強いのに変わりない。
加えて、魔女は三体も居る。
……俺も、出すしかないのか。
生と死の魔眼を意図的に発動させないようにして、その後は無理矢理に穢れを負の感情で溜める。
後悔による自責の念は腐るほどある、無理矢理溜めるのは難しくない筈だ。
養殖の魔女は、全て同じ姿をしている。
食虫植物をもっと非現実的な姿に描き換えたような見た目はグロいが、一体一体は強くない。
基本的には、アリナのドッペルが放つ絵の具を気にした方がいい。
俺の脳が警鐘を鳴らしている、あれはヤバいと。
当たったら、キューブで体に風穴が開くより、酷い結末が待っているだろう。
「アハハッ! アッハハハ!! そのアイだけ置いて、真っ赤な絵の具にしてアゲル!! 死んだら感謝してヨネ!」
「誰が! 感謝! する…か!!」
溜まっていく穢れ。
そろそろ……穢れが満ちる。
恐怖で体が震えるが、迷ってる暇はない。
貰った勇気を燃やして、俺は一歩踏み出すんだ!!
「来い! 俺のドッペル!」
叫んだ次の瞬間、体の右半身を覆うように黒い靄が掛かり、魔法少女に変身した時同様、靄が晴れた途端に右半身ごと変質しドッペルが生まれた。
魔眼のある右半身は黒い影で塗り潰され感覚が全くないが、頭上の右側におどろおどろしい雰囲気の悪魔が居た。
黒い片翼に人形のような変化のない単眼の顔。
手と足の全てが武具で構成されており、右手が剣、左手が銃、右足が槍で左足が大鎌。
アンバランスな俺のドッペルは、単眼の顔で少しだけ辺りを見渡し、魔女を見つけた瞬間には勝手に飛び出して、四肢の武器でバラバラに斬り裂き風穴を開ける。
俺の体の半分は乗っ取られている形なので、俺を引きずるように飛び回り、魔女を駆逐していく。
十秒も掛からずに三体の魔女を倒し終えると、アリナのドッペルに単眼の標準が定まる。
「…アリナ、気を付けろよ。上手く、制御出来…ない」
「あぁ、今のユウト、最高にクレイジーでエキサイトな感じなんですケド! やっぱり、アリナの作品にして上げる!」
アリナのドッペルが吐き出す絵の具を、俺のドッペルは意にも介さずツッコミ、アリナのドッペルと正面からぶつかり合う。
流石の彼女も顔を歪めるが、俺のドッペルの間近で見れた興奮で痛みを吹き飛ばし、逆に大量の絵の具を撒き散らす。
「まずっ…!」
避けようとしても、俺のドッペルは言う事なんて聞かず、絵の具を浴びるが一瞬にしてそれが消え去る。
…破壊の魔眼の力で、絵の具その物を破壊した?
……有り得ない、少なくともフェーズ1の俺の魔眼じゃ出来やしない。
ドッペルの使う魔眼はもしかして──
俺が真実に辿り着く直前、酷い倦怠感と共にドッペルが消える。
同時に、アリナのドッペルも消えて、完全なドローの状態になった。
「……はぁ…はぁ…はぁ。たくっ、どこが解放の証だ、たまったもんじゃない」
「はぁぁあ、本っ当にユウトはアリナをエクスタシーさせてくれる」
「そりゃ、どうも」
俺が苦笑混じりにそう返すと、どこからともなく、さなにいろはちゃん、それと見知らぬ魔法少女二人が現れる。
……うっわぁ、気不味い。
今、俺ちょっとボロボロだし、目の前にアリナ居るし……非常に気不味い。
だけど、さなにはそんなの関係ないようで、俺を見つけるなり飛び付いて来た。
「結翔さんっ!!」
「ちょっ! …っとと。危ないなぁ、鶴乃よりマシだけど。加減してくれよ、さな」
「す、すいません」
俺とさなのやり取りを見て、場の雰囲気が凍り付いた。
………………なんで?
なんで、味方であるやちよさんやこころちゃんたちまで固まってるの?
俺、またなんかしちゃいましたか?
そうして、俺が困惑している内に、アリナがため息を吐きながら不機嫌そうに行った。
「…まさか、生きて出てくるなんて」
「アリナ…さん…」
「アリナの楽しみが無くなったんですケド…。それにあのウワサの結界…いい魔女の隠し場所だったのに…テンションさがるヨネ…」
「……それは良い事です。引きますよ、アリナ」
「…邪魔になるヤツは今の内にデリートするのが良いと思うんだケド?」
「このまま戦ったら、倒れるのはあなたです。マギウスには誰一人もして倒れて貰ったら困ります。…この場で争いが起きれば、ワタシの体が傷付けますよ? 結翔君だって、どうなるか分かりません」
突然現れたみふゆさんが、アリナを説得するように──宥めるように話しかける。
……出来るなら、この場で退いて欲しい。
育っている魔女を野放しには出来ないが、ドッペルの所為で疲弊してるし、これ以上戦っても無駄な血が流れるだけだ。
「──っ!? そ、それは、ノーグットなんですケド! みふゆ、アナタの体は最高の芸術のひとつなワケ! ユウトの目も体も、チェンジできない芸術の素材なワケ! それを傷付けるなんて、美への冒涜なんですケド!」
「それなら退きましょう」
「あとでデッサンのモデルになってくれるならいいケド…」
「無茶な要求でないならいいですよ」
「…分かった…退く」
みふゆさんはアリナの方だけを見ている。
やちよさんや鶴乃たちの方に、一切顔を向けようとしない。
……それが、覚悟だと言っているようだった。
マギウスの翼を潰すと決めたなら、頭であるアリナを今、倒すのは悪くない手だ。
だけど、さなが離れない状態でそれをやるのは不可能に近い。
「それでは、みなさん。退きますよ」
その一言で、黒羽根も天音姉妹も退いて行く。
やちよさんや鶴乃は何も言わない。
言っても変わらない事を知ってしまったから。
魔女の事で、新たに問い質したい気分だったのだろうが、みふゆさんの対応でそれが叶わないと知ったんだろう。
「さな、そろそろ離れて」
「あ…。す、すいません!」
「良いよ。それより……この後、どうするかなぁ」
まさらはジト目で、こころちゃんが輝くほどの笑顔で、こちらを見つめている。
……その日、一旦は別れて帰り、さなもみかづき荘で暮らす事になった。
勿論、俺は二人に問い詰められ、ドッペルのように単眼になる所だったのだが、それはまた別の話だ。
──みたま──
珍しく、結翔くんが話がしたいと言って、家に押しかけてきた。
突然の事に驚いたが、特段断る理由もないので家にあげて、お茶を出す。
しかし、彼はわたしの出したお茶に口を付けることはなく、わたしの目を真剣に見つめてこう言った。
「…みたま先輩は、全部知ってるんですか?」
「……さぁ、なんの事かしらぁ」
「俺も、ドッペルを出しました」
「──っ!? そ、そう…そうなのね」
「…あなたは中立を破らない、だからこそ言いたい。本当にもしもの時は、俺の──俺たちの方に着いてくれませんか?」
…わたしが、マギウスの翼の片棒を担いでいるかもしれないのに……
本当に優しい子だ。
だからだろうか、意地悪をしたくなってしまう。
「わたしがそっちに着いて、メリットがあるのぉ?」
「有りますよ。…俺があなたを守ります、命を懸けてでも。あなたに害を与える存在から」
「あらぁ、それは良いわねぇ。…考えておくは」
わたしの曖昧な返事に、彼は「そうですか」と頷いて、ようやくお茶を飲んだ。
彼の腕は信じている、彼自身の事も信じている。
だけど、わたしは──生きていて良い存在じゃない。
生きたいと思うけど、生きていて良い存在じゃない。
彼はそれを知っているのに、守ろうとしてくれてる。
願いの理由も、願いの内容も、全て知っているからこそ、わたしを守ってくれる。
もしもの時は……そう遠くないのかもしれない。
全ての真実を知った彼女たちがどうなるのか、それも今後に関わってくるだろうから。
叶うなら、彼の周りは笑顔で溢れていて欲しい。
あってはならないその在り方が、報われて欲しい
一つのウワサが消えた日の翌日、刻々と分岐路が迫っている事をわたしは知った。
『絶望のドッペル』……その姿は悪魔。
この感情の主は、このドッペルの事を毛嫌いしている。
理想の自分とは全く逆の方向へ行き、言う事を聞いてくれないドッペルを拒絶している。
だが、使わなければ勝てない事も分かっている為、躊躇うことは無い。
右半身から生まれ、感情の主の異能である魔眼さえ、主以上の威力で使える。
半身から生まれ、単眼の顔に黒い片翼から鑑みるに、もしかしたら魔眼の力を使えない、左半身から産まれるドッペルも居る可能性はあるが、真実は分からない。
このドッペルは主の絶望となる存在を消し去るが、使う度に自分の存在が主にとって絶望であることに気付き、自壊していく。
自壊した時が、主の最期だと知らずに。
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次回もお楽しみに!
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