無感動な少女と魔眼使いの少年(リメイク版)   作:しぃ君

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 まさら「前回までの『無少魔少』。結翔がドッペルを出したり、みたまさんの家に結翔が押し掛けた話」

 結翔「言い方で誤解が生まれるんだが…」

 こころ「誤解でもなんでもないですよ。実際、行ったんですから」

 みたま「実際来られたはねぇ…。お風呂入る前で良かったわぁ」

 結翔「ややこしいんで、こっちに出ないで貰えますかねぇ!?」

 やちよ「……諸々の確信に迫る二十八話、楽しんでどうぞ」




二十八話「後悔するのは俺じゃない」

 ──みふゆ──

 

 やっちゃんの家に行ってから数十分。

 歩いて結翔君の家に向かった。

 約三年間で歩き慣れた道を歩き、見慣れた景色を見て、目的の場所へ。

 

 

 着いてからは、落ち着くために何度か深呼吸してから、インターホンを鳴らす。

 すると、数秒の内に家のドアが開かれ、やっちゃんの家に行った時と同じく、同居人であり──家族でもある粟根こころさんが出てきた。

 

 

「結翔さん? 今日は遅かった──」

 

「すいません、結翔君じゃないんです」

 

「梓…みふゆさん? …こんな時間にどうしたんですか?」

 

「少しお話したいことがありまして。お時間、大丈夫ですか?」

 

「……入ってください」

 

 

 こころさんにそう言われると、ワタシは昔と変わらないドアをくぐり、中に入る。

 玄関先に並べられた靴を見るに、本当に彼は帰っていないらしい。

 …ワタシの考えが間違ってなければ、やっちゃんは一人にすれば無力化できる。

 

 

 だけど、結翔君はそうもいかない。

 彼はどんなにボロボロになっても立ち上がり、身一つになっても魔女を狩り続けるだろう。

 この街を──この街に居る人たちを守る為に、大切な人たちを守る為に。

 

 

 藍川結翔はそう言う人間なのだ。

 なら、戦力を少しでも減らすために、仲間を引く抜くのは常套手段。

 

 

 リビングまでの数瞬の中、ワタシは自分の心を殺すように作戦を振り返る。

 そして──

 

 

「……誰かと思えば、梓みふゆね。何の用?」

 

「こころさんにも言われましたよ。…ただ、少しお話したいだけです」

 

「話って? 一体何かしら?」

 

「…今日、ワタシはマギウスの翼が抱える魔法少女の解放についての講義のお誘いに来ました。これは、いろはさん達もお誘いしたものです」

 

 

 出来るだけ平常心で、真意を悟られないポーカーフェイスで、会話を進める。

 加賀見まさら…恐らく、結翔君が今一番信頼している魔法少女。

 ももこさんでも、みかづき荘のみんなでも、調整屋のみたまさんでも、こころさんでもない。

 

 

 唯一、自分の後釜を任せてもいいと思ってる人間。

 人格形成に多少問題はあれど、結翔君の意志を継ぐことに抵抗は一切しない筈だ。

 彼女自身は気付いていないだろうが、それほどに加賀見さんは彼を気に入っている。

 

 

 ……そこにこそ、弱点はある。

 

 

「態々、ウワサや魔女を大切にしている連中の講義を受ける必要性を感じないわ」

 

「…私も、行きたいとは思えません。罠の可能性が1%でもある限り」

 

「それはそうですよね。話を急ぎ過ぎました。…なら、これならどうですか? 結翔君の過去も、知れるとしたら」

 

 

 ピクリ、と二人が一瞬だけ反応する。

 まだ、話してはいないようだ。

 しょうがない、と言うべきなのか。

 元々、彼の過去はまともな精神状態では話す事が出来ない。

 入ってはいけないトラウマの巣窟であり、パンドラの箱のように開けてはならない。

 

 

 そんな自分の過去を、彼は簡単に話そうとしない。

 …嫌われる事を恐るから。

 自分の罪の過去を、後悔の過去を教えて、嫌われると本気で思っているから。

 

 

 馬鹿な話だ、そんな訳ないのに。

 きっとみんな同情して悲しんでくれるだろうに。

 彼は──結翔君はそうは思わない。

 

 

「それを、今ここで話す事は──」

 

「出来ません。ワタシが言っても、信じてもらえない可能性がありますから。…だから、この招待状に書かれている記憶ミュージアムにてお待ちしております。勿論、黒羽根も白羽根も呼びません。呼ぶのは良くて数人です」

 

「分かった。……明後日、土曜日の正午にそこに行けばいいのね?」

 

「はい、そうです」

 

「……この事は、結翔さんに伝えても?」

 

「ええ、構いませんよ」

 

 

 話しながら招待状を手渡し、その招待状を見たまさらさんの質問と、こころさんの質問に答える。

 その後は、悩む二人を他所に、座っていたイスから立ち上がり、リビングの中を見て回った。

 

 

 一瞬、視界の端に映ったタロットカードとギター。

 それを見て、彼が変わらない事を悟った。

 誰よりも一途に仲間を思っている事を、誰よりも思っていたが故に永遠に後悔し続ける事を、ワタシは悟った。

 

 

 二人が小声で話をし続けている中、ワタシは手慣れた手つきでキッチンに行き、戸棚の奥の方に仕舞われていたマグカップを手に取る。

 料理途中だったのだろう、丁寧に下処理が行われ切り分けられた食材が転がっている。

 

 

 ワタシはそれを傍目に、インスタントのココア作りイスに戻った。

 そうして、ワタシが一服し終えると、答えが出たのかまさらさんが立ち上がってワタシを見据えながら言う。

 

 

「結翔の意見も聞くけど、一応参加希望よ」

 

「私も同じくです」

 

「分かりました、こちらの方もお二人が来る前提で話を進めておきますね」

 

 

 手に持っていたマグカップを置き、その場を立とうとした時。

 玄関のドアが開かれ、聞き慣れた声が響いた。

 

 

「ただい…ま…」

 

 

 途切れながら響く声、ワタシの靴に気付いたのだろう、ドタドタと足音を立てながら廊下を歩き、勢い良くリビングのドアが開かれた。

 制服姿の彼は、懐に入れておいたであろう拳銃をワタシに向けて、こう言った。

 

 

「マギウスの翼として俺の前に現れたら、敵だって言いましたよね?」

 

「お帰りなさい、結翔君。少しお話に来たんです。もう、お暇する所ですよ」

 

「嘘だ。あなたは腐ってもマギウスの翼の幹部、ただ話に来るなら顔が割れてる天音姉妹で十分だ。そうでしょう?」

 

「流石は結翔君、良く回る頭ですね。…新しい家族の皆さんとも仲が良さそうで何よりです」

 

 

 どこか嫌味を言うように、ワタシは話を続ける。

 決めたのだ、救う為に最低な女になると。

 彼に嫌われようと構わないと。

 ……ワタシは決めたのだ。

 

 

「…答えになってないです」

 

「まだ、話してないそうですね。色々と、昔の話を」

 

「……………………」

 

「それの事も話す体で彼女たち二人を、マギウスの翼が抱える魔法少女の解放についての講義にお誘いしました」

 

 

 無言で、ワタシの瞳を見る彼は、酷く悲しそうな顔をしていた。

 何故、そんな顔を向けるのか分からない。

 ポーカーフェイスは完璧な筈だ。

 …バレてる訳が無い、ワタシの嘘がバレてる訳ないのに。

 

 

 そう思ってしまう。

 …だから、ワタシはトドメを刺すように。

 彼の横を通り過ぎる寸前、耳元で呟くように言った。

 

 

「また、大切を作って、失うことになっても知りませんよ。あの時みたいに」

 

「──っ!! …分かってますよ、そんなの」

 

 

 無防備に、通り過ぎるワタシを見ない彼に少しだけ苛ついて、痕を付ける意味で耳を甘噛みした。

 ……反応してくれても良いのに。

 無反応な彼を置いて、ワタシはリビングを出てそのままの流れで家を出た。

 

 

「……大好きなんですよ。だからこそ、救いたいんです」

 

 

 ワタシは傲慢で強欲だから、大切な全てを救いたいし救われたい。

 ……そう言う意味では、あなたとワタシは似ているのかもしれませんね、結翔君。

 

 

 ──まさら──

 

 梓みふゆが出ていった後、結翔は何を思ったのか壁を殴った。

 その顔は、見た事のない顔だった。

 初めて見る、後悔の顔だったのかもしれない。

 

 

「クソっ!」

 

「あ、あの…結翔…さん? 顔色悪いですよ? 休んだ方が……」

 

「…大丈夫。で? どこに誘われたの?」

 

「記憶ミュージアムよ。何処にあるか知ってるの?」

 

「…………一応な」

 

 

 そう言うと、結翔は学校に持って行ってるバックから、クリアファイルを取り、私に渡した。

 ファイルの中には、記憶ミュージアムについて、と書かれている書類が数枚入っている。

 

 

「…最近出来たばかりのウワサなのね」

 

「丁度今日、ある程度調べ終わった所でな。運が良かったよ…いや、悪かったか」

 

「私とこころは行こうと思ってる。貴方はどう思う?」

 

「…行きたいなら行けばいい。俺は行けないけどな」

 

「行けない? 行きたくないの言い間違いでしょ?」

 

「ちょ、ちょっとまさら! 幾らなんでも…そんな言い方ないでしょ!?」

 

 

 事実そうなのだからしょうがない。

 私たちが、結翔と距離を詰めようと思っても、過去を知らないんじゃ本当の家族にはなれない。

 …私はそう思ってる。

 こころだってそうだ。

 

 

 結翔の事は嫌いじゃないし、結翔が私たちに言った唯一の願いくらいは叶えてもいいと思ってる。

 家族みたいになれたらいい、そんな他愛もない願いも彼にとっては本当なのかもしれないから。

 だから、過去を知らなくてはならない。

 

 

 私たちは知らなさ過ぎるから、知る為の手段は選んでられないのだ。

 結翔が喋りたがらないなら、他の誰かから聞けばいい。

 

 

「俺は臆病だ。人を傷付けるのが怖いし、人から嫌われるのが怖い。…だけど、お前らの邪魔をしようとは思わない。俺の過去が知りたいなら行けばいい。もっともな話、後悔するのは俺じゃなくてお前らだしな」

 

 

 突き放すように、吐き捨てるように、彼はそう口にしてリビングを出た。

 夕飯はいらないと、そう一言言って。

 

 

 チラッとこころの方を見やると、寂しそうにリビングのドアを見つめていた。

 私はそんなこころを見ているだけなのが嫌で、そっと視線を逸らし書類を目を通した。

 記憶ミュージアムのうわさ、その内容は──

 

 

 ──────────────────────

 

 アラもう聞いた? ダレから聞いた?

 記憶ミュージアムのそのウワサ

 

 変えたい記憶? 忘れたい記憶?

 それとも思い出したい、き・お・く?

 

 記憶の事でお悩みならば

 記憶ミュージアムにイラッシャイ!

 

 チリンとベルを鳴らしてみれば

 そこは、アラユル記憶を展示して

 研究を進める博物館!

 

 記憶を通して解明された

 色んな真実が見られちゃう!

 

 保管されてる記憶を見ると

 ソノ人の記憶に影響されちゃうって

 栄区の人の間ではもっぱらのウワサ

 

 アリャコリャナンダー?

 

 

 ──────────────────────

 

 うわさの内容はこんな所。

 …対象者の記憶に影響される…か。

 洗脳される可能性は否めない。

 

 

 でも、直接結翔の記憶を見ることになる、と言う事だ。

 一体、結翔の過去に何があったのか、興味は有る。

 まぁ、それ以上に、その過去を知ってもっと距離を詰めるのが今回の目的なのだが…

 

 

 私は不思議な感覚に悩まされていた。

 見てはいけないものを見ようと、開けてはならないものを開けようとしている、そんな気がしたのだ。

 

 

 だけど、勘違い、私はそう決め付けて結翔に渡された書類を見やった。

 御丁寧に、ちゃんとウワサが潜む場所も書かれている。

 

 

 こころが環いろはとも連絡を取り、一緒に行く事を決めた。

 …触れてはならない部分に、手を掛けてるとは知らずに。

 

 

 ──結翔──

 

 約束の日の正午過ぎ。

 今頃、みんなは真実を知っている事だろう。

 魔法少女の命そのものであるソウルジェム。

 

 

 魔力を使うことは命を削る事。

 だから、俺は自分のソウルジェムを浄化できる。

 

 

 他にもある。

 魔法少女の真実。

 魔女との関係性だ。

 

 

 穢れを溜める魔法少女と、呪いを振りまく魔女。

 対を成す存在であり、魔女の落とすグリーフシードで浄化できるソウルジェムの穢れ。

 

 

 同一線上に存在する者同士でなければ、生物が交配できないように。

 ソウルジェムとグリーフシードが同一線上になければ穢れを浄化なんてできない。

 

 

 魔法少女の成れの果てが魔女であり、願いを叶えて魔法少女になったその日から何時か魔女になる運命を背負う。

 

 

 恐らく、ただ話すだけの講義はこれでお終い、体験学習に突入するのも時間の問題だ。

 記憶ミュージアムのうわさ、内容が本当なら見せるのは俺の記憶。

 

 

 みふゆさんではなく、俺の記憶。

 誰よりも絶望して、誰よりも希望を見出した俺の記憶。

 

 

 生温い記憶では意味が無い。

 ある部分で見せる記憶を切れば、問題なく洗脳できる事だろう。

 

 

 ……本当に良いのか? 

 

 

 そう、誰かが問い掛けてきたような気がした。

 

 

「…良くないに決まってんだろ!」

 

 

 一も二もなく飛び出した、場所は分かってる。

 バイクのエンジン音を鳴らし、俺は風を切るように記憶ミュージアムへと急いだ。

 ……そして、途中でやちよさんにも会った。

 

 

 やはり、と言うべきか、彼女も見過ごせなかったらしい。

 一時期の彼女に戻り掛けているが、今は構っている場合ではない。

 後ろにやちよさんを乗せて、目的の場所へと急いだ。

 法定速度はオーバーしていたが関係ない、今は一分一秒を争う事態なのだ。

 

 

 ようやく着いた目的の場所、一見ただの廃墟にしか見えない建物だが、臆することなく先に進む。

 初めに出会ったのは、白い襟で濃い緑色のブラウスと同じく濃い緑色でタータンチェックのスカートを着ており、頭にはブラウンのベレー帽を被った幼い少女。

 

 

 お嬢様のような長く伸ばされた茶色の髪に、知的探究心に満ちたダークブラウンの瞳。

 …間違いない、いろはちゃんが探して子の一人。

 里見灯花だ。

 

 

「あれ、あなたベテランさんにヒーローさん?」

 

「あなたは…」

 

「…里見灯花…だな?」

 

「ピンポンピンポーン! 大正解。改めて、初めまして七海やちよに藍川結翔。わたくしは里見灯花。マギウスのひとりだよ」

 

「里見灯花…環さんが探していた…!? いえ、その話は後よ環さんたちはどこに行ったの!? マギウスのひとりと言うならここで講義をしてたんでしょ!?」

 

 

 荒々しい声で聞くやちよさん。

 根本からは変われない、彼女の優しい一面は俺もよく知っている。

 優しいから、仲間を助けようと声を荒らげているのだ。

 どれだけ協力関係だと割り切ろうとしても、彼女は割り切れない。

 

 

 そう言う人間だから。

 

 

「それはもう終わったよー」

 

「じゃあどこに…」

 

「くふっ、記憶ミュージアムで体験学習中だよ」

 

「やっぱりそういうこと…私も行かせてもらうわよ」

 

「俺もだ、仲間が──家族が大変なんでな」

 

「邪魔をさせるわけにいかないよー。…いや、いっか」

 

「──っ!? どういうつもり?」

 

「体験学習の邪魔をしたかったら行ってきてもいいよってこと」

 

 

 掌を返すような反応を見るに、相当自信があるのだろう。

 今回の作戦に……

 けど、そんなの関係ない、考えなんて後回しでいい。

 今は、全力で助ける、ただそれだけで良いのだ。

 

 

「解せないわね…」

 

「この言葉には裏があるからね。それでも行く?」

 

「えぇ」

 

「勿論」

 

「わ、あっさり」

 

「裏だろうがなんだろうが構わないわ」

 

「その裏すら潰せばいい話だしな」

 

「………………。記憶ミュージアムを開くベルは扉の前に置いてあるよ」

 

 

 御丁寧に教えた里見灯花の横をぬけて先を行く。

 ベルを鳴らして中に入ると、そこは図書館のように本が整然と並べられている空間だった。

 魘されるように眠るまさらやここちゃん、みかづき荘のみんなを見て確信する。

 

 

 今すぐにでも止めなければ…と。

 

 

「どうぞ、真実をご覧になってください。ワタシが見て来た──いいえ、彼が見て来た魔法少女の真実を…。どうなって出てくるのか楽しみにしてます」

 

「やっぱりそういうことなのね」

 

「趣味が悪いですよ、みふゆさん」

 

「…やっちゃんに結翔君。あなたたちも懲りない人ですね、警告はしたはずですよ」

 

「私は善良な魔法少女を助けに来ただけよ」

 

「家族を──仲間を助けに来ました、それだけです」

 

「お互いに似てるんだか似てないんだか……。あなたたちも改めて見てきてください。あのときのことを…」

 

「その本は…」

 

「…まさか!?」

 

 

 刹那、みふゆさんが取り出した本が急に光り始め、俺たちを覆い尽くした。

 …次の瞬間、俺は意識を失って泡沫の夢を彷徨う事になった。

 切っても切り離せない、過去と言う名の泡沫の夢に──

 

 

 ──────────────────────

 

 これは少年が完璧なヒーローだったと…思い込んでいた時の物語。

 失って初めて気付く後悔の話だ。

 

 

 家族を作って──失って。

 初恋を知って──失って。

 

 

 屑に成り果てるまでの、ほんの少しのロスタイム。

 そこにいた誰もが忘れられない、想い出のロスタイム。

 

 

 奇跡を起こせなかった…変わらない過去の話。

 

 

 

 

 




 次回もお楽しみに!

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 次回から過去編である、二章「彼は誰かのヒーローだった」
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