無感動な少女と魔眼使いの少年(リメイク版)   作:しぃ君

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 結翔「前回までの『無少魔少』。いよいよの過去編に突入し、やちよさんとの初対面を済ませたよ」

 まさら「結翔にも、あんな初々しい時期があったのね」

 こころ「結構驚きだよね」

 鶴乃「私も!全然知らなかったよ!」

 みたま「その頃の結翔くんに会ってみたいわねぇ」

 みゆふ「この頃の結翔君は……すっごく可愛かったんですよね」

 ももこ「アタシに確認取られても…。過去編二話であり三十話をどうぞ!」


三十話「どうして、そこまで強くなりたいの?」

 ──やちよ──

 

 結翔が家に来てから一週間。

 最初の頃は少しおずおずとした様子だったが、次第に慣れてきて、今では普通に話すこともできるようになった。

 

 

 そして、今日から本格的に彼への指導を開始した。

 真っ先に結論を求めるなら、私はこう言うだろう。

 私に師事する必要はない、と。

 

 

 魔法少女としての素のスペックだけでも、私と大差ないどころか私より上。

 固有の能力も、多様性に富んでいて、万能と言っても差し支えないレベルだ。

 

 

 彼自身が指導の前に私に言った通り、足りてないのは経験だけ。

 多様性に富んでいるからこそ、万能に近いからこそ、使いこなすのは経験を積むしかない。

 使う武器も様々、剣や体術に問題は無いが、それ以外は経験が必要。

 

 

 要するに、経験以外は全て問題ないのだ。

 経験だけが問題なのだ。

 だったら、私に師事する必要なんてない。

 …今更、追い返すなんて事はしないが、一応相談するべきだろう。

 

 

「今日はここまでよ」

 

「わ…分かりました」

 

 

 少し息の上がっている結翔に指導終了の声を掛ける。

 滴のように汗を垂らしながら俯く彼は、酷く疲労しているように見えた。

 当然だ。

 あれだけの力を使って、デメリットがない訳ない。

 

 

 魔眼を使ってる分、体だけでなく脳にも相当な負担が掛かっているのだから。

 結翔に、指導場所である建設放棄地に来る前に買っていた、スポーツドリンクを投げ渡す。

 

 

「疲れてるみたいね。キツかった?」

 

「いえ…大丈夫です」

 

「そう。…取り敢えず、呼吸が落ち着いてから話しましょう」

 

 

 そう言って、私は魔法少女の変身を解き、彼の息が整うのを待った。

 数分の時間を要したが、彼の呼吸は段々と落ち着きを取り戻し、元の呼吸に戻る。

 私はそれを見計らうように、もう一度声を掛けた。

 

 

「今回の指導を通して、分かったことを言うわ」

 

「…はい」

 

「私が思うに、あなたはどっちかって言うとパワーで押し潰す戦い方だけど、固有の能力は多様性に富んでる。余裕が有るなら、戦い方を変えるのがいいわ」

 

「戦い方を…変える?」

 

「そう、マルチタイプのあなたは、スペック的にみてもどれも上の上。だからこそ、パワーで来るタイプの奴にはスピードで、スピードで来るタイプの奴にはパワーで、あなたと同じタイプの敵にはそのまま押し切りなさい。それが出来るのがあなたよ──結翔」

 

「なるほど…」

 

「あとは、やっぱり経験ね。能力や力に振り回されないように、経験を積まないことには出来ることも出来ないわ。次の指導からは、そこを重点的にやりましょう。一つ一つの能力を最低限使えるようにする。地道な作業だけど、大丈夫?」

 

 

 私がそう聞くと、彼は魔法少女の変身を解き、輝く笑顔で「はい!」と頷いた。

 純粋な子だと、改めて思った。

 信じて疑わない目を向けられると、少しだけ意地悪をしてみたくなるのは、私だけではない筈だ。

 

 

 釣られて少し笑った後、私は目的の事を話した。

 

 

「結翔…あのね。さっきも言った通り、あなたに必要なのは経験よ。言い方は悪いけど、私に師事する意味はハッキリ言ってないわ。魔法自体も、上手く使えてるんだしね」

 

「…そうですか」

 

「…どうして、そこまで強くなりたいの?」

 

「初めて会った日も話したと思うんですけど、弟子入りしに来た理由は色々あるんですけど、一番大きいのは…幼馴染にあるんです。少し長くなるんですけど、良いですか?」

 

「えぇ、構わないわ」

 

 

「よかった」と、苦笑気味に呟いた結翔はそのまま話し始めた。

 強くなりたい、その理由を。

 

 

「ももこって言う奴なんですけど、昔っから男勝りな奴で、死ぬ程馬があって今まで一緒にやってきてたんです。でも、中学に入って少しした頃に、ももこが誘拐されて……」

 

「誘拐!? だ、大丈夫だったの?」

 

「なんとか、アイツは怪我なく済んだんですけど…。済んだ理由は、俺が誘拐犯の攻撃からアイツを守ったからで…背中に大きな傷が出来たんですよ」

 

 

 そう言うと、彼は上着を脱いで背中を見せた。

 …夥しいほどの傷の中で、特に存在感を持つ大きな切り傷が一つ。

 右の肩甲骨の辺りから、左脇腹に掛けての傷だ。

 恐ろしい程に綺麗な切り傷だった。

 

 

 ただの刃物で切っただけではそうならない、そう感じるような傷。

 

 

「これを付けたやつも、実は俺と同じ異能力者で、綺麗な切り傷になってるのもその所為ですね。確か、空気を刃にして飛ばす異能力だったかな…?」

 

「…随分落ち着いてるのね。私は、ちょっとパニック気味よ……」

 

「後で聞いて分かったんですけど……元々、ももこが攫われたのは俺に非があるんです。だって、その異能力者は俺の魔眼目当てで、ももこを誘拐して囮に使ったんですから。…父さんが生きてた頃は、父さんが守ってくれてたみたいで、そんな事、一回も起こらなくて。父さんが死んで一年ぽっちで、そんな事件が起こって、俺はそれを機に今の組織に入りました」

 

「……大変、だったのね」

 

 

 それくらいしか、言える事がなかった。

 彼の話によると、その後は幼馴染が魔法少女になってる事を知り、自分も後を追うように魔法少女になったらしい。

 

 

「俺が強くなりたい理由は幼馴染であるももこを泣かせたくないから…あと、父さんが命を懸けて守ったこの街を守る為、ですかね」

 

「大好きなのね、その幼馴染さんの事」

 

「はい、たった一人の家族みたいなもんですから。…だから、アイツが悲しそうな顔をするのが見てられなくて。だってアイツ、俺が背中を見せる度に悲しそうな顔するんですよ?! しかも、傷を増やして帰ったら泣いて怒るし。…ホント、溜まったもんじゃないですよ」

 

 

 優しそうな笑顔で、結翔はそう言った。

 歳不相応な慈しみを知る彼に、私は一抹の不安を覚えながらも、何かを言うことはなかった。

 ただ、静かに、大切を語る少年を見守る。

 

 

 街を守りたいのは本当で、でもそれ以上に幼馴染を大事にしているのも本当で。

 きっと、私には考えられないような苦しみがあったのだろう。

 

 

 若干十一歳にして、両親が居なくなる。

 世の中に目を向ければ、もっと辛い環境の人間もいるだろう…だけど。

 私の目の前に居て、その心を知ることが出来るのはたった一人──藍川結翔だけ。

 

 

「父さんがよく言ってました。女を泣かせる奴と、お礼を言えない奴は何時まで経っても半人前だって」

 

「良いお父さんね」

 

「…俺の憧れです」

 

 

 …叶うなら、彼が笑っていられる未来があったらいいな、そう思った。

 

 

 ──結翔──

 

 夜も八時を回った頃、薄暗い街灯の明かりに照らされながら、歩き慣れない帰り道を歩く。

 一人、と言うのは味気ないが仕方ない。

 アドバイスされたことを真剣に考えて、新しい戦法をブツブツと呟いていると、後ろから声を掛けられた。

 

 

「おーい! 結翔ー!」

 

「んぁ? ももこか、どした?」

 

「どした? じゃねぇよ。帰ってくる時間くらい連絡しろって、危うく冷めた料理振る舞うところだったぞ」

 

「あー、悪い。色々考えながら歩いてたから…つい」

 

「…心配するから、ちゃんと連絡してくれ」

 

 

 俯いてそう言うももこから、買い物袋をひったくり、空いた手で彼女の頭を撫でる。

 申し訳なくて、言葉で返しても安心なんてさせられないから、行動で返す。

 でも、簡単には許してくれなくて、「バカ…アホ…ポンコツヒーロー」と吐き捨てるように呟く。

 

 

 ……おい待て、最後のは聞き捨てならないぞ。

 誰がポンコツヒーローだ、誰が。

 

 

「おいももこ、ポンコツヒーローはないだろ」

 

「じゃあ、アッパラヒーロー」

 

「いや、それも──」

 

「バカヒーロー」

 

「…それでいいよ」

 

 

 結局、家に帰るまで、俺は彼女の頭を撫で続けた。

 途中から少しづつ、こちらに肩を寄せてきて、俺の存在を確認するように腕を組んだ。

 

 

 暑苦しいと、文句の一つでも言ってやっても良かったが、俺は終始無言を貫いた。

 今日で、改めて再確認させられる。

 

 

 彼女は──十咎ももこは、俺の大切な存在だと、大切な家族だと。

 やちよさんたちも、いずれ俺のそう言う存在になるのだろうか? 

 

 

 分からない…けど、彼女たちのそう言う存在になれたら嬉しいと、純粋に思った。

 俺の中では分からないけど、彼女のたちの中で大切な存在に、大切な家族になれたら、嬉しいな。

 

 

 夜道を二人で歩きながら、俺は未来に思いを馳せた。




 次回もお楽しみに!

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