無感動な少女と魔眼使いの少年(リメイク版)   作:しぃ君

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 ももこ「前回までの『無少魔少』。やちよさんとの特訓で、結翔が多様性に富んでいて、万能な能力を持っていることが分かったり、大切にしているものが分かったな」

 結翔「未だに、能力は明かされないんだな」

 まさら「チート能力だからでしょ?」

 こころ「強過ぎて明かせないってやつですか?」

 しぃ「…その通りだ」

 ももこ「誰もツッコミしてくれないって…悲しいんだな」

 結翔「大切にされてるももこちゃんって言って欲しかったのか?」

 まさら「…可愛いわね」

 こころ「可愛いですね」

 ももこ「うがぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!もう、さっさと三十一話をどうぞ!!」


三十一話「彼がヒーローたる所以」

 ──みふゆ──

 

 結翔君が家に来てから、早二週間。

 彼はすっかりみかづき荘の生活に慣れ、ワタシややっちゃん、かなえさんと話す態度も柔らかいものになっていた。

 

 

 そんな、秋真っ只中のある日。

 何時もなら稽古? 鍛錬? に出かけている筈の結翔君が、みかづき荘のリビングで、教科書を広げて勉強をしていた。

 しかも、「うーん、う──ん」と教科書と睨めっこして唸っている所を見るに、行き詰まっているようだ。

 

 

 …やっぱり、こう言う時は、年長者としてお姉さんとして、勉強を教えて上げるものでしょう。

 距離をもっと縮められるチャンスでもあるし、一石二鳥と言うやつです。

 これ幸い、そんな感じで、ワタシは勉強中の彼に声を掛けた。

 

 

「結翔君? お勉強ですか?」

 

「ん? …あ、はい。仕事の都合上、何時授業に出れなくなるか分からないんで、先を見越して予習しとこうかと…」

 

「…そうですか。でも、行き詰まってるように見えましたよ? 大丈夫ですか?」

 

「実は…そうなんですよ。ぶっちゃけ、行き詰まってて。もし良ければ、教えてもらっていいですか?」

 

 

 苦笑混じりの申し訳なさそうな表情で、彼はワタシにそう言った。

 仲間なんだから遠慮する必要なんてないのに……

 ワタシは二つ返事で了承し、結翔君から教科書を借り問題に目を通した。

 

 

『CはADの中点で, ∠BAC=∠EDCのとき、△BAC≡△EDCとなることを証明せよ』

 

 

 ……どうやら、ワタシはとんでもないミスをしたらしい。

 問題に目を通した瞬間、ワタシはそう覚った。

 何を隠そう、ワタシは数学が大の苦手教科なのだ。

 苦手教科だから忌避してるなんて訳じゃない、しっかり授業は受けてるし、テストもそこそこの点数は取れるよう頑張ってるが……

 

 

 どうにも六十点の壁を超えられず、基礎問題がギリギリ、応用問題なんて以ての外だ。

 加えて、ワタシが一番苦手なのは証明問題。

 …やっちゃんの手助けがあってようやく一問解けるか解けないか、そんなレベルなのだ。

 

 

 チラッと、結翔君の様子を見やる。

 ……キラキラとした希望の眼差しを向けられていた。

 ワタシが丁寧に教えてくれるのを信じて疑わない目だ。

 ど、どうしよう、彼の純粋な好意が、今のワタシには重い。

 

 

 アワアワと、教科書に書かれた問題と睨めっこしていると、結翔君もワタシの異変に気付いたらしく、居た堪れない表情になっていた。

 …あぁ、ワタシはなんてダメなお姉さんなんでしょう。

 純粋な少年に、こんな表情をさせてしまうなんて……

 

 

「あ、あの? みふゆさん? だ、大丈夫ですか…?」

 

「結翔君…ごめんなさい。ダメなお姉さんで…ごめんなさい」

 

 

 ガラステーブルに突っ伏し、ネガティブに自己嫌悪するワタシを、彼はあの手この手で起き上がらせる。

 数分後、なんとか起き上がったワタシが教科書を見直すと、名前の欄に『七海やちよ』と書かれており、しかもこれが二年生の物だと分かった。

 

 

「…結翔君? これって、二年生のものですよね? どうして…?」

 

「さっきも言いまたしけど、仕事の都合ですよ。早め早めに予習してるんです。中学一年のは残り少なかったんですぐ終わって、今は二年のやってるんですよ」

 

「そうだったんですか…道理で…」

 

「…え、英語! 英語教えてもらっていいですか!? いやー、俺、英語も苦手なんですよ。こっちも詰まってるんでお願いします!」

 

 

 気遣われてる。

 四歳下の異性に、気遣われてる。

 なんだろう、恥ずかしいと思うべきなのだが…これはこれで、なんとも言えない感情が────

 

 

 二時間後、ガラステーブルの対面に座りながら、ワタシたちは勉強を進めていた。

 結翔君は飲み込みが早く、ワタシが少し教えると、スラスラと問題を解いて行った。

 ワタシの教えが良いからだと、彼は言ったがそうではない。

 

 

 人並みの教え方だった筈だ。

 だから、彼の地頭の良さが出ただけだろう。

 

 

「──っと、そろそろ休憩しましょうか」

 

「…ですねぇ。少し疲れちゃいました」

 

「今日は少し暑いですからね…冷たい麦茶でも持ってきます」

 

 

 そう言って、ワタシは立ち上がり、棚から二人分のコップと冷蔵庫から麦茶の入った冷水筒を持って行く。

 …今更だが、彼は暑くないのだろうか? 

 時期的にはまだ更衣は夏服でも構わない筈なのに、長袖のワイシャツにブレザーを羽織っている。

 

 

 休憩合間の雑談ついでに、ワタシはそれを聞くことにした。

 

 

「一つ聞きたいんですけど、結翔君は暑くないんですか? 今日は夏日で、まだそっちの学校では、更衣は夏服でもいい期間なのに冬服ですけど」

 

「俺…夏服──と言うより、半袖の服とかハーフパンツとか着れないんですよ。体中にできた傷が酷くて」

 

 

 カラカラと誤魔化すように笑い、彼はブレザーとワイシャツを脱ぎ、シャツ一枚になった。

 そのお陰か、体中にある夥しいほどの傷の一部が空気に晒される。

 浅いものもあれば深いものもあり、細い傷跡があれば太い傷跡もある。

 

 

 修羅の道を歩んで来たのかと疑う程に、彼の体は傷だらけだった。

 とても、十二歳の少年にある傷の量ではない。

 

 

「…これは、魔法少女になる前に出来た傷ですか?」

 

「大半はそうですね、一部は魔法少女になってから出来た傷ですが」

 

「…ちょ、ちょっと待って下さい!? 魔法少女になってからも、傷が増えてるんですか?!」

 

「えっ?? いや、そうですけど…」

 

 

 有り得ない、本来有り得る筈がない。

 魔法少女とは、魔女と言う呪いを振り撒く怪物と戦う宿命にある。

 だからこそ、体もそれ相応に変化し、ちょっとやそっとの事じゃ傷なんて出来やしない。

 

 

 もし、怪我をしたとしても、治癒魔法は初期の初期に習う必須科目だ。

 習わない訳がないし、幼馴染さんが先に魔法少女になってるんだったら、教えてもらってる筈だ。

 …なら、何故? 

 

 

「結翔君、一つ教えておきます。本来なら、魔法少女になった人間は、ちょっとやそっとの事じゃ怪我をしませんし、傷にもなりません。しかも、傷を負っても、治癒魔法で治すことが出来る筈です。…治癒魔法は──」

 

「習いましたよ、幼馴染に。…でも、なんでなのか、俺の治癒魔法は他人にしか使えないんですよ。それに加えて、他の魔法少女の治癒魔法も、俺には効き辛いみたいで…」

 

「……そんな事が」

 

「元々、特異体質の集合体みたいなもんですからね。医者が言うには、今まで普通に生活できていたのが奇跡らしいです。常人より発達した脳、生まれつき脆い体、薬の効き目の薄さ、自然治癒能力の異常な高さ。良さと悪さのバランスが取れてないって。まぁ、体が脆い言っても、病気にかかりやすい訳じゃなくて、ただただ、骨や筋肉や皮膚が傷つきやすいってだけなんですけどね」

 

 

 いきなり言われた物凄い情報量に困惑気味のワタシは、彼の言葉にまともに返せず、押し黙ってしまった。

 …彼の言葉が本当なら、彼はそんな危険な状態で人助けをしてると言う事だ。

 正直に言って、正気の沙汰じゃない。

 

 

 ただでさえ傷つきやすくて──脆い体で、誰かを庇って傷跡を増やす。

 一歩間違えば命を落とす事だってあるのに、彼は全く持ってそんなの気にしてない。

 

 

「…幼馴染さんが泣きついた理由が分かりますね」

 

「……? どうしてですか?」

 

「だって、結翔君は全然、自分の命を大切にしてないじゃないですか!?」

 

「別に大切にしてますよ。俺は目の前の命を助けるのに必死なだけで、自分の命だって大切に思ってます。…だって、この命が無かったら、救えない人が大勢居るから」

 

 

 きっと、今の答えが、彼がヒーローたる所以なのだろう。

 誰かの命を助ける為に、自分の命を使う。

 自分の命が無いと誰も助けられないから、大切にする。

 

 

 ワタシはその日、純粋な光である──希望である彼からは、到底考えられないほどの理想の歪さを見た。

 

 

 ──結翔──

 

 自室のベットにて、俺は天井を見上げながら、今日の事を考え込んでいた。

 みふゆさんに言われた『自分の命を大切にしてない』の一言。

 俺なりの答えを返したつもりだが、その後にも勉強を教えてくれた彼女はどこか暗かった。

 

 

「…なに、ミスったのかなぁ」

 

「…明日も早いんだぞ、早く寝ろよ」

 

 

 モゾモゾと俺の隣で身動ぎをするももこにそう言われ、渋々俺は目を瞑る。

 約一か月前の誘拐の件から、彼女は時たまこうやって俺と一緒に寝るようになった。

 

 

 …まぁ、あんな事があればPTSDになっても可笑しくない。

 逆にならない方がどうかしている。

 ももこの場合は、暗闇がどうにもダメらしい。

 俺と一緒じゃない時は、母親か弟に力を借りてるとか。

 

 

 頻度としては俺が一番多いらしいが、理由ははぐらかされた。

 ただ一言、「お前の隣が一番安心する」とだけ言って。

 

 

 嬉しいような、悲しいような。

 そんな気持ちが、俺の中に渦巻いた。

 

 

 血の繋がった家族より、俺を居場所として求めてくれることが嬉しくて。

 血の繋がった家族より、俺を居場所として求めていることが悲しかった。

 同じ理由で、二つの感情が湧く。

 

 

 そっと、その感情に見ない振りをして、少しだけ震えるももこを抱き締めた。

 壊さないように、優しく抱きしめた──贖罪の念に駆られながら。

 

 

 思えば、この時から、俺は歪み始めていたのかもしれない。




 次回もお楽しみに!

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 ※結翔君は特異体質のオンパレードだけど、分かっている読者さんなら分かる。
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