無感動な少女と魔眼使いの少年(リメイク版)   作:しぃ君

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 かなえ「前回までの『無少魔少』。結翔が自分の特異体質を話したり、みふゆが自分の命を粗末にする結翔を怒った話……かな」

 結翔「特異体質って面倒臭いけど、カッコイイよなぁ」

 まさら「そうね……分からなくはないわ」

 こころ「……えぇ、普通の方がいいんじゃないかなぁ?まぁ、魔法少女の時点で普通じゃないけどさ」

 結翔「そう言えばそうか…」

 かなえ「思う所はあるけど……楽しんで三十二話をどうぞ」



三十二話「立てた約束は守ってもらわないと」

 ──かなえ──

 

 あたし、雪野(ゆきの)かなえは、あまり愛想良くはないし口数も多くない。

 生まれながらの三白眼と金髪の所為で、他人からは良い印象を持たれ難い。

 

 

 初対面の人には、大抵一歩引かれるのに彼は──結翔は違った。

 空いてる時間にあたしと会えば、飽きることなく話し掛けてくる。

 話題のストックがどれだけあるのか気になる程話は続くが、あたしは短い相槌を返すだけ。

 

 

 普通は楽しくなんかないだろうに、彼はあたしに話し掛けてくる。

 満面の笑みで、あたしに話し掛けてくる。

 純粋な──無垢な笑みをこちらに向ける結翔に、あたしは知らぬ内に心を許し、偶に彼の前でも笑えるようになっていた。

 

 

 出会ってから三週間の節目のある日。

 初めて、あたしから話題を振った。

 もっとも、身勝手な願いを聞いて欲しいが為に……だが。

 

 

「…結翔は…さ。ピアノ…弾けるんだよね?」

 

「へ?…あぁ、弾けますよ。母さんがピアニストでしたし、今でもそれで食ってるくらいですから。物心ついた頃からよく弾いてました。……まあ、最近は、指を訛らせないために、偶に弾くくらしいしませんけど」

 

「……そっか。キーボードも……弾けたりする?」

 

「えぇ。家にピアノ置けるほど裕福でもなかったですし、ピアノ教室に行って弾く以外は、家に置けるキーボードで代用してましたから。…それがどうかしたんですか?かなえさんから話題振るなんて珍しいです」

 

「実は──」

 

 

 その言葉に続くように、あたしは願いを──頼み事を話した。

 軽音部に入っていて、バンドをやっている事。

 そのバンドで近々ライブがあり、その練習にギターだけだと味気ないし、合わせの練習も出来ないので、キーボードを弾いて手伝って欲しい事。

 

 

 諸々の事を話終えると、結翔は目を輝かせながらこう言った。

 

 

「かなえさん、バンドやってたんですか!?凄いです!カッコイイじゃないですか!!勿論、手伝います!」

 

「あ…ありがとう。……取り敢えず、キーボードを──」

 

「持ってきます!!」

 

 

 ……物凄いスピードで、結翔はみかづき荘のリビングを飛び出し、そのままキーボードを持ってくる為に家に帰った。

 先に言えば良かった、もうあたしの部屋にキーボード持ってきてあるって。

 まぁ……自分の奴の方が、調整もし易いし……良いのかな?

 

 

 待つ時間が勿体ないと思ったあたしは、自室からギターを持ってきてチューニングを始める。

 チューナーにギターを繋ぎ、弦を鳴らしながら逐一チューナーを見てペグで高さを合わせる。

 慣れたもので、最初は十分以上かかっていたが、最近は五から六分程で出来るようになった。

 

 

 チューニングが終われば、ギターアンプをスピーカーに繋ぎ、暇潰しに一曲弾いてみる。

 今日はやちよもみふゆも居ないから、迷惑は掛からないし、みかづき荘の近くの民家は少し遠いので、騒音被害になる事もない。

 

 

 暗譜は済ませてあるので、特に楽譜を見ることも無く、スムーズに曲を進めていく。

 途中から、歌詞を口ずさみ始めると、あたしは止まることをしならい子供のように弾き続け。

 気が付いたら、一曲だけと思っていたのに、結翔が帰ってくるまでに三曲は弾いていた。

 

 

「良い音でしたね。…優しい感じがして、俺は結構好きです」

 

「そう…。早速だけど……一回弾いてみて」

 

「了解です!」

 

 

 結翔はあたしがそう言うと、パッパと調整を始め、二分ほどでオーケーのサインを出してくる。

 単純に実力が見たかったあたしは、クリアファイルに入れっぱなしにしていた、適当な楽譜を取り出して渡した。

 それを受け取った結芽は、ふむふむと流し見をしながら頷き、キーボードに備え付けられている楽譜立てに楽譜を置き、手慣れた指運びで演奏を開始する。

 

 

 渡した楽譜はJ-POPの曲で、どちらかと言うとノリや勢いのある曲調なのだが、結翔が弾くと落ち着いた温かさある曲調に変わった。

 まだまだ音楽の道を歩んで間もない若輩者だが、今のあたしにも分かる事がある。

 彼は──結翔は紛うことなき天賦の才を持っている。

 

 

 原曲の形を残したまま、オリジナルと言っていいほどに高い完成度で曲調を変化させ、与える印象を変化させたのだ。

 

 

 思わず、漏らすはずのなかった感嘆の声が漏れだした。

 

 

「……良い」

 

「ホントですか?!良かったぁ……結構不安だったんですよ」

 

 

 苦笑気味にそう言った結翔に、あたしは改めてお願いすることにした。

 

 

「結翔……あたしと一緒に……弾いてくれない?」

 

「喜んで!」

 

 

 やちよとみふゆが帰ってくるその時まで、あたしたちは音楽を奏で続けた。

 夢のように過ぎた、楽しすぎる時間。

 余韻に何時間も浸れるほど、痺れるものがあった。

 

 

 そんな感覚を味わせてくれたお礼に、結翔にライブのチケットを渡した。

 まだまだ未熟だが、結翔にあたしの──あたしたちの音を聞いて欲しかったから。

 ……本当に、良い一日だった。

 

 

 ──結翔──

 

 貰ったチケットで見に行ったライブ。

 体の芯から燃えるような熱さが、ライブの会場には詰まっていた。

 トリを飾ったのが、かなえさん──ううん、かなえたちのバンドだった。

 

 

 三曲やって、三曲とも違う曲調だった。

 一つは、激しくも落ち着きのある曲調のもので、もう一つは、優しく温かい曲調のもので、最後のは明るく力強い曲調のもの。

 そのどれもが、心に響き渡るような良い音だと思った。

 

 

 ライブが終わった直後、俺は関係者特権でかなえが居る控え室に飛び込んだ。

 他のバンドグループの人たちも、余韻に浸っているのか誰も動こうとしていない。

 

 

 キョロキョロと辺りを見渡して、数秒も経たない内にかなえたちを見つける。

 

 

「かなえ!!」

 

「……結翔……どうだった?」

 

「最っ高だったよ!!最高過ぎて、さっきから手の震えが止まんない!」

 

「…そっか…それは良かった。…もし、結翔が良ければ……」

 

 

 言おうとした言葉は途切れ、口篭るかなえ。

 何か迷っているのだろうか?

 別に迷うことなんてないのに、言いたい事は言った方がいいに決まってる。

 

 

 だが、俺はそれを口に出す事はなく、かなえの言葉を待った。

 彼女が自分の意思で言う言葉を待ったのだ。

 沈黙の中、数分の時が過ぎ、ようやく彼女の口が開かれる。

 出てきた言葉は──

 

 

「次のライブ…ゲストとして……出ない?」

 

「…良いの!?出る!出たい!!ふぉーう!テンション上がるー!」

 

 

 嬉しさの余り、その場でバク転するような勢いで飛び跳ねた。

 周りに居たバントメンバーには微笑ましく見守られ、かなえにな少し呆れられながらも、俺は喜びを顕にした。

 だって、しょうがないじゃないか。

 

 

 あんな音を奏でた人たちと一緒にやれるなんて、そう言う音楽の道を歩いてる人なら絶対喜ぶ。

 何故なら、俺が現に喜んでいるからだ!

 

 

 まぁ、その後は、はっちゃけ過ぎた俺を、かなえが抱いて外に出た。

 少ししたら下ろしてもらえて、喜びや嬉しさに浸りながら、かなえと帰り道を歩いた。

 ルンルン気分で鼻歌交じりに歩いていると、一瞬、視界にノイズが走り世界が切り替わる。

 

 

 未来視の魔眼を発動していない筈なのに、断片的な未来の情景が流れ込んでくる。

 視えたのは、強そうな魔女に砕けた紫色のソウルジェム、横たわるかなえ。

 ……未来視の魔眼で視えた事は絶対に起こる──が、俺なら変えられる。

 

 

 魔眼で未来を知った、特異点である俺なら。

 切り替わった世界が元に戻ると、かなえが心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。

 

 

「…大丈夫?」

 

「心配ない、気にしないで」

 

 

 俺はそれだけ言って、先を急ぐように早足で歩いた。

 約束したんだ…ライブを一緒にやると。

 それまでに、彼女に何かあっては困る。

 

 

 ……立てた約束は守ってもらわないと。

 だから、その為に。

 

 

 ──俺がかなえを守る。

 大切な仲間を、大切な友達を、大切な家族を、俺が……この手で。

 




 結翔くんは、結構恵まれている部分はあります。
 人間関係とか、才能とか。
 主立って、恵まれてない点を上げるなら心の強さ……ですかね。


 特別短編は、過去編が終わってから本編と同時進行でやります。
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