まさら「そうね、センスを感じないわ」
結翔「作った作者が悪い、作者に聞いてくれ。取り敢えず、あらすじ!あらすじ!」
こころ「あっ!はい!前回は私たちの調整屋での出会いを語ったものです。結翔さんは良い感じにまさらの質問を躱していましたね」
まさら「あの時、結翔も私たちもただ、調整してもらう予定で行ったのに八雲みたまさんは居ないし、結翔が居たわ」
結翔「…いや、俺をそんな下のように扱うの止めてくれよ」
みたま「今後ともぉ、調整屋をご贔屓に〜。と言う事で、三話すたぁーとぉー!」
結翔&こころ「えっ?それみたま(先輩・さん)が言うの!?」
──────────────────────
少し文字数が多くなってしまいましたが、お許しを。
──結翔──
まさらちゃんやこころちゃんに出会ってから一日。
昨日は疲れもあってか、夕食を食べずに寝た為か空腹で目が覚める。
外はもう明るく、太陽が元気に顔を出していた。
時計を見れば時間は八時……八時!?
「やべぇ!? 遅刻する!!」
ついさっきまで、朝の七時頃だと勝手に思っていたので、制服を持って急いで自室を出る。
家は駐車場付きの二階建てで、俺の部屋は二階の奥にある。
その所為もあり、リビングまでが地味に遠い。
ドタドタと音を立てながら階段を下りると、何故か開いているリビングのドアから、美味しそうな匂いが漏れ出ていた。
「……まさかな」
こんな時間だ、アイツが来てる筈ない。
……でも、ドアを開けっぱなしで出ていくとも考えられない。
疑問が足を止めるが、そんなことしてる場合ではないと思い出し、また動き出す。
リビングのドアをくぐり中に入ると、そこには幼馴染であり親友でもある
明るさの塊とも言える容姿の彼女、緋色の瞳とサラサラとした長い黄色の髪。
髪は長さの為、後ろでポニーテールに纏めている。
男兄弟に囲まれた所為か、姉貴肌が強いが「可愛い物好き」等のギャップもある。
リビングとダイニングとキッチンが混合された、LDKの一室のキッチン部分で料理をしている。
どうしてか、制服ではなく見慣れた私服の上にエプロンを羽織っていた。
なんか…あれだな。
スタイルがモデル顔負けで大人っぽいから、私服にエプロンだと新妻感がある。
現に、ももこは追っかけをしているアイドルの歌を鼻歌しながら、笑顔で料理している。
幼馴染として、親友として思う。
ももこほどの優良物件はそうそう居ないと。
「おはよう、ももこ」
「おう、おはよう。もうちょっとで出来るから少し待っててくれ」
「あっ、ああ」
自然に返してくるから、何で制服を着ていないのか聞くタイミングを見失ってしまった。
(…ももこが間違える訳ないし、今日は学校がない祝日か?)
祝日の線を考えてカレンダーを見る……が。
描かれているのは今日の日付と曜日だけで、祝日だとかは描かれていない。
通常通り学校があるバリバリの平日だ。
なのに、ももこは落ち着いて朝食を作っている。
「…スマホ見るか」
最後の頼みの綱であるスマホ。
学校側から休校の連絡が入っている可能性がある。
メールを開き、新着のものを漁っていくと……
「あった。……学校内で事件が発生したため休校。事件の内容は…」
「意識不明の状態で、他校の生徒が校内に倒れていたんだってさ。それを宿直担当の先生が見つけたらしい」
「…なるほど。意識不明ってのは?」
「呼吸も脈もあるらしいんだけど、一向に目を覚まさない…とか」
「管轄外…か。異能力や魔女が関わってたら、連絡が来る筈だし」
もし、異能力や魔女が関わっていたのなら、上司である
上司である咲良さんは魔術師と呼ばれていて、異能力を使える人間とは違う。
魔術と言う、魔力を使って人ができる術を簡略化したものを使える。
区別ではないが、魔法と魔術は違うのだ。
魔法は、魔力を使って法則外の奇跡を起こすことを言う……らしい。
これは、咲良さんからの受け売りだから、俺自身はあまりよく分かってない。
「ほら、冷める前に食べちゃえよ。折角作ったんだから」
「そうだな。いただきます!」
「召し上がれ」
良い具合に焼かれた食パン、バターの風味がするスクランブルエッグ、カリカリのベーコンとパリッと良い音がするソーセージ、最後に添えられたサラダ。
飲み物は、俺の大好きな甘いミルクティー。
朝から豪華な食事だ。
料理が好きな俺でも、朝からここまではしない。
朝は軽めに、ご飯、納豆、豆腐とワカメだけの味噌汁、お新香。
これぐらいで済ませてしまう。
低血圧と言う訳ではないが、昔から朝が弱いのだ。
だが、知っている。
目の前でニコニコとしているももこも、朝からこんな料理は作らない。
何か……裏がある。
「食べる前だから言うけど、朝から豪華だな?」
「そうか? ファミレスとかのモーニングもこんなんだろ?」
「…何が目的だ?」
「いやー、今日唐突に休みになったからさぁ。友達と遊びに行こうにも、今から予定立てるのは面倒だし。だったら、身近に居る人と出かけようかなーと」
「荷物持ちか?」
「そんなとこだ。悪いけど付き合ってくれ…頼むよ!」
長年連れ添った幼馴染のお願いを断る程、俺は屑じゃない。
口から了承の言葉を出そうとした瞬間。
インターホンのやり取りも無しに玄関が突然開かれて、誰かが侵入してきた。
誰かと言っても、こんな登場をする奴は一人しかいないのだが……
「結翔ー!! 大変だよ大変、変態だよ変態!」
「後半はよく分からなかったが、取り敢えず言いたい事がある。普通に、家に入って来いっ!!」
不法侵入も良い所な登場をしたのは、俺とももこが通う学校──
服装は学校が休みだと分かっているのに、何故か制服だ。
ももこと鶴乃は魔法少女であり、元チームメイトでもある。
なので昔から交流があったのだが、鶴乃はいつもこうだ。
どこからそんな力が出てくるのか分からないエネルギッシュで、ももこ以上にニコニコとした笑顔を絶やさない。
『自称・最強の魔法少女』にして、『自称・俺の姉』。
自称の二段コンボである。
ここまで聞くとアホの子にしか聞こえないが、これでも学年一位の優等生。
サイドテールに纏めた明るい茶色の髪と、情熱の炎を幻視させる赤橙色の瞳。
自称・最強の魔法少女だけあって日々の鍛錬は欠かしておらず、シュッとし細い体付きで、生身の身体能力もずば抜けて高い。
(…姉って言うのは、あながち間違ってないから何も言えないんだよな)
常に『最強』であり続ける鶴乃は、俺以上に作り笑顔を貼り続けている。
生来の優しく明るい性格故、その作り笑顔は簡単には見抜けない。
「…で、何が大変なんだ?」
「それがね! 学校で事件がね!!」
「もう知ってる。連絡は来てないから、魔女関連じゃないよ」
「違うんだよ! テレビ見てテレビ!」
「はぁ。ももこ」
「あいよ」
鶴乃の言われるがまま、俺はももこにテレビをつけるように促しパンを齧る。
おかずをつまみながら、テレビがつくのを待っていると……
『神浜市立大附属学校の高等部敷地内で起きた事件の続報が届きました。意識不明の状態で病院に運ばれた他校の生徒たちが、徐々に衰弱しているとのことです。事件現場の様子を、これから中継致します。────』
…意識不明の状態で病院に運ばれた他校の生徒たちが、徐々に衰弱してる?
普通ならありえない…普通なら…ね。
美味しく食べていた朝食が、急激に不味くなっていく。
嫌な予感がする…物凄く嫌な予感がする。
今すぐにスマホを投げ捨てたい気分になるが、街を守る為にも投げ捨てる訳にはいかない。
万が一、億が一、兆が一にでも俺の身勝手な行動の所為で死者が出たら、俺はまた後悔する事になる。
「…ももこ、出かける予定はキャンセルだ。仕事が入る予感がする」
「アタシも、なーんか嫌な予感がする。これが魔女の仕業なら、早く片付けないと不味くなりそうだ」
「でしょ? そうでしょ? 早く学校に行こうよ! ふんふん!」
鼻息荒く言う鶴乃が急かし、俺自身ももしもを感じてぱぱっと残りの朝食を食べ尽くす。
食べ終わった食器を重ねようとしたその時、スマホから軽快な音楽が流れ始める。
「やっぱり、咲良さんからだ」
電話帳登録されてる名前は「キュアブロッサム」。
冗談で登録したが、咲良さんが気に入ってしまい戻せなくなった。
友人に電話帳を見られて誤解されたのは言うまでもない。
『もしもし、藍川です』
『結翔君、今大丈夫? お仕事頼みたいんだけど…』
『今、丁度暇になったところです。…うちの学校の事件ですよね?』
『情報が早いね。うん、その件なんだ。多分だけど、魔女が関わってるかもしれないから、行ってくれるかな? 先に着いてる警察官の人たちには伝えておくから』
『…二人連れて行きたいんですけど、良いですか?』
『…………誰の事?』
魔女から魔法少女を守る立場にある組織なので、あまり関係ない子を危険には巻き込まないようにしたいと思ってるのだろう。
咲良さんは間を空けて、連れて行く人物を聞いてきた。
『ももこと鶴乃です。戦力的にも問題は無いし、危険だと思ったら撤退させるんで…』
『なんだ、ももこちゃんと鶴乃ちゃんか! 全然イイよ、二人なら安心だし』
『それじゃ、お願いします』
『分かったよ。そっちも気を付けてね?』
『了解です』
出来るだけ言葉短く返事をし、電話を切った。
事件に魔女が関わっている可能性が、今の電話で高くなった。
すぐにでも、現場である学校に向かうべきだ。
「二人とも、すぐ出るぞ」
「りょーかいっ!!」
「任せな!!」
そして、俺たちは学校に向けて動き出した。
──ももこ──
結翔の家を出てから十五分、学校に到着した。
パトカーが何台も並んでおり、既に捜査を開始していることが伺える。
そんな中を、結翔はなんの躊躇もなく入っていき、ある一人の警察官と話し始めた。
ちょこちょこと話している内容は聞こえてくるが、あまり上手くは聞き取れない。
私が聞き耳を立てているのを分かっているのか、結翔はチラリとこちらを見やりテレパシーを送ってきた。
(聞き耳立てるな。変に疑われるだろ?)
(しょうがないだろ。私たちが聞けない内容だったら、後から聞くの面倒だし)
(それは、そうだけど…。取り敢えず、もうすぐ終わるからそれまで待っててくれ)
そう言って、結翔は一方的にテレパシーを切った。
全く……。
気を使ってくれるのは嬉しいけど、今はそんな場合じゃないだろ。
普段は善意って言葉が服着て歩いてるくらい善い奴なのに、何で時々狡賢いんだか。
二面性とは言えないけど、アイツは裏と表の境界線が曖昧過ぎる。
素なんだろうけど、偶に危うく見えてしまう。
『自称・ヒーロー』だったあの時よりはマシだけど、今でもその危うさは消えてない。
全てを背負おうとする癖に、大切なものをポロポロ落としてはその所為で傷つく。
鶴乃と同じで、頭も良いし、柔軟に物事を考えられるのに……
『街を守る』ことが関係してくると、途端に頑固になってしまう。
……街と言うより、街に住む人を守ると言った方が正しいと思うが、本人曰く「俺は街を守ってる」とのこと。
「はぁ〜」
「どしたのももこ?」
「いや、変わんないなぁって」
「あー、なるほど! 分かるよ、分かる。ももこより付き合いが短いわたしでも分かる」
「最近は、背負い込んでないって思ってたんだけどね」
「…しょうがないんじゃないかな? あれは、結翔の後悔の現れなんだし」
その後も少し、鶴乃と喋っていると、ようやく結翔が戻って来た。
少しだけ雰囲気が暗いと感じるのは、多分勘違いではない…筈だ。
「何かあったのか?」
「被害にあった生徒の一人が魔法少女だった。…現場に急ぐ。もしかしたら、戦闘の残り香があるかもしれない」
「おっけー!」
他校の生徒たちが倒れていたのは、校舎に入る手前にある花壇の近くだ。
宿直担当の先生が最後に見回りしたのが午前三時。
その時には、生徒の姿はなかった。
だから、事件が起きたのは発見された午前六時までの三時間。
今は午前八時半、もし三時の見回り後すぐに魔女に襲われたのなら、魔法少女が応戦したとして約五時間が経っている。
残り香があるかは、実際の所分からない。
無い可能性の方が高い……が。
アイツならきっとこう言う。
「可能性は0%じゃない。だったらやる価値はある」
その言葉は、諦めないと言う誓の言葉でもある。
現場に着いて数秒もしない内に、第六感が異様に敏感な鶴乃が魔力の残り香を感じ取った。
「結翔!」
「でかした鶴乃! そのまま追えるか?」
「だいじょーぶ! この最強の由比鶴乃に任せてよ!」
鶴乃の先導のもと、私たちは魔女の元へと動き出した。
──まさら──
学校に行く途中、偶然見つけた魔女を倒すためこころと一緒に結界に入ったが……どうやら私は選択を間違えたらしい。
手酷く傷を負ったこころは地面に座り込んでおり、意識が朦朧としているのか動くことが出来ないので、それを庇いながら戦う私も服の所々が切り裂かれ、血が垂れていた。
魔女の容姿は、何時もながら不思議なものだ。
四肢の腕に当たる部分の先端にある手は輪っかのようになっており、風を輪っかに送り込むことで泡を生み出し、泡に当たった者の心──魂を泡の中に取り込む。
それ以外の四肢である脚に当たる部分と背中には、風を生み出す為のプロペラが付いており、泡が当たらないと分かると、プロペラを使って風の斬撃を撃ってきた。
頭部には球状になっていて、泡に取り込んだ魂を保管し
幾ら魔女を傷つけても回復したので、良く観察したらその事実が分かった。
傷を与えると、取り込んだ魂から養分を吸い取り回復する。
これが起こるサインは、頭部の発光。
一秒にも満たない一瞬の発光が回復のサイン。
回復に時間は必要無いし、回復の所為で行動に遅れが生じることも殆ど無い。
はっきり言って、油断していた。
自分たちは常に命を危険に晒していると言う事実を忘れていた。
この、防戦一方の状況が何時まで続くか……
姿を消して攻撃を叩き込みたいが、背後で動けなくなっているこころを襲われたら元も子もない。
「………………」
風の斬撃をギリギリの所で受け流す。
使い魔を出して来ないのは、出すのも惜しいほど養分の余裕が無いのか……
それか、使い魔を出さなくても勝てるほどの余裕なのか……
思考する余裕があるだけマシなのか、受け流すことは出来るので限界まで受け流す。
こころが少しでも回復すれば、一旦引く事も出来る。
今は耐えなくては……
「………………っ!?」
目の前の魔女に集中しすぎていたのだろうか、包囲するかのように使い魔が姿を現した。
……さっきまで気配なんて一切なかった。
どこから?
いや、そんな事を気にしている場合ではない。
使い魔の容姿は、胴体以外の全てがプロペラ。
私たちをジワジワと弱らせてから、養分として取り込む気らしい。
ジリ貧……そんな言葉が思い浮かんだ。
それと同時に、走馬燈と言うのを見た。
あまりにも一瞬だったが、多くのものを見た。
希薄だと思っていた私の人生は、案外多くのことが記憶に残る程濃いものだった。
(…驚いた。…私は今、死にたくないって思ってる)
こころともっと一緒に居て、多くの事を学びたいし、色々な事を知りたい。
……そして、昨日会った彼の──藍川結翔の事をもっと多く知りたい。
私を変えてくれるかもしれない、二人の存在が…私を生にしがみつかせる。
「悪いけど……諦められない理由が出来てしまったわ。これが、怒り…なのかしらね?」
死んでたまるかと言う思いと、こころを傷付けるなと言う思いが、怒りの感情から来るものだとようやく分かった。
また一つ、何かを理解出来た。
やっぱり、こころは私に必要だ。
友人としても、仲間としても。
短剣を構え直し、周りを見やる。
十……二十……三十……三十七体ね。
無謀、そう言われても可笑しくないが、諦める気は毛頭ない。
一定の間隔で間合いを詰めてくる使い魔たち。
だが、それにズレがあることを、私は見抜いた。
第一陣として仕掛けてくるのは四体。
先行を取られるのは不味い、だから私は先に短剣を振ろうと一歩踏み出したが……
第一陣として来ていた使い魔四体と、第二陣として来ようとしていた六体
が、何故か内側から爆発したようにグロテスクな中身が飛び出した。
内側から爆発……いや破壊されたのか?
絶体絶命と言っても良いピンチに──結翔は現れた。
「昨日ぶりだね、まさらちゃん」
「ええ、昨日ぶりね」
「…こころちゃんの傷、治しておいた。君のも治すから、ちょっと待ってね」
そう言うと、彼の右の瞳が水色に輝いた。
次の瞬間、私が負っていた筈の傷は綺麗さっぱり無くなっていた。
まるで、最初から傷など付いていなかったかのように。
私に背中を向けて魔女を睨む彼の姿は、ヒーローそのものだった。
きっと、結翔は否定するだろうけれど、私は…そう思ったのだ。
──結翔──
鶴乃のお陰で魔女の結界を見つけた俺たちは、結界の近くに来てようやく中に他の魔法少女が居ることに気付いた。
人数は二人、どちらも魔力が弱々しいことから、消耗していることが分かる。
「結翔! 中の子たち、結構ヤバいぞ!?」
「だな…。鶴乃、ここからは俺が先行する。代わってくれ」
「ん。任せるね」
魔法少女に変身して結界の中に入った瞬間、千里眼を使い魔女が何処にいるか探す。
魔力のお陰で、だいだいの方角がわかるので、あとは絞って探るだけだ。
右眼が水色に光り始めて十数秒、何とか魔女と戦っている魔法少女たちを発見。
「こころちゃんにまさらちゃん!? どうしてここに…。いいや、それより急がなくちゃ!」
「面倒な話は後回しだな」
「だね、ゴチャゴチャ考えるより、そっちの方がやり易いし!」
魔法少女の身体能力をフルで活用し、最速でまさらちゃんやこころちゃんの元に向かう。
使い魔の数は……三十七体か。
破壊の魔眼で倒せるのは十体ぐらいが限界…だな。
だったら……
「ももこ! 鶴乃! 使い魔を二人とも九体づつ倒してくれ!」
「そこそこ多いな…。まぁ、なんとかなるだろ!」
「最っ強な魔法少女、由比鶴乃にお任せあれー!」
(……破壊!)
俺がそう強く念じると、ジリジリと彼女たちに迫っていた十体の使い魔を、内側から破壊した。
グロテスクな中身が出てるが……今更だろう。
もっとグロいのなんて腐るほど見てきた。
ももこと鶴乃にも目視できる距離になってきたのだろう、それぞれ武器を構える。
ももこが持っているのは巨大な剣…と言うか巨大な鉈だ。
鶴乃が持っているのは先端に刃が仕込まれた二本の扇子。
ももこの攻撃方法はシンプルで、巨大な鉈を振り回すこと。
鶴乃は少し工夫があり、接近戦もするが、扇子に炎を纏わせてブーメランのように投げたりもする。
ももこの魔法少女衣装は黄色と黄緑で構成されており、大胆な露出特徴。
まぁ、元々魔法少女衣装は露出が凄いが……
鶴乃の魔法少女衣装は中国の僧侶を思わせるものだ。
因みに、遠目から見える二人の魔法少女衣装は、ももこに似て相当際どい。
武器はまさらちゃんが短剣、こころちゃんが……あれはトンファー、いやパイルバンカーって呼ばれるやつか。
初めて見るけど……なんか、男心をくすぐる武器だな。
ちょっと欲しい──じゃなくて!
今は、魔女退治に集中!
まずは……こころちゃんの怪我を治す。
着地する前に、生と死の魔眼でこころちゃんの怪我を治し。
着地した瞬間にグリーフシードをソウルジェムに当てて、穢れを浄化する。
その後は素早く、まさらちゃんの前に立つ。
「昨日ぶりだね、まさらちゃん」
「ええ、昨日ぶりね」
「…こころちゃんの傷、治しておいた。君のも治すから、ちょっと待ってね」
また、生と死の魔眼を発動し、一瞬の内に怪我を治していく。
治したら、魔女の方を向いて睨みつける。
「この街を──この街に住んでる人たちを泣かせるのは俺が許さない!」
魔力でシンプルな西洋剣を編み、柄部分を右手で握る。
もう片方の手には魔力で編んだ拳銃が握られている。
魔法少女ではない時から愛用していた銃…グロック17。
装弾数は複列弾倉による17+1発であり、使用銃弾は9x19mmパラベラム弾。
普通の魔法少女なら、銃なんて複雑な物魔力で編むことは出来ないが、組織で色々と教えて貰った俺は、銃の構造を十二分に理解している。
だから、作ることが出来る。
魔力で編むため、弾数は切れたら生成すればいい為、実質無限。
チートにも程があるが、俺が編むことの出来る銃はこれ一丁のみ。
他のは無理だった。
流石に、ライフルやマシンガンたちの構造を理解するのは無理だ。
代わりに、剣の方は自由自在に変えられる。
槍や鎌にする事だって出来る。
……やらないが。
グロックに魔力でコーティングした特殊な弾を装填し、慣れた手つきでセーフティを外す。
あとは、引き金を引くだけで勝手に弾が飛んでいくだろう。
「まずは、使い魔から! 鶴乃にももこ! 使い魔をこれ以上魔女の方に近付けさせないでくれ!」
「あいよ!」
「ちゃらぁー!」
ももこは言葉で、鶴乃は行動で任せろと言った。
だったら、背中は任せて正面の奴らだけを倒す。
未来視の魔眼を発動し、これから起こる未来を視る。
そして、視た情報を元に、的確に一発づつ使い魔に弾丸を撃ち込んでいく。
使い魔たちはそれを避けられず、呆気なく被弾する。
すると、一体づつ違う倒され方をしていく。
一体は内側から燃え尽き、また一体は膨れに脹れて破裂し中から水が出てくる。
違う一体は内側から木の枝が飛び出し、体中を縛り上げて潰した。
他にも、色々な倒され方をしていくが、見ている余裕はない。
すぐに片付ける為に、本気の一撃を叩き込む。
直死の魔眼、未来視の魔眼、千里眼を同時に使用する。
直死の魔眼と千里眼で死の線と呼ばれる、斬られたら確実に死ぬ線がどこにあるか探し、未来視の魔眼で次の行動を視て、一番斬りやすい線を絞り込む。
(胴体の真ん中から、右腕にある輪っかまでが一番良いな…)
距離を即座に詰めて、右手に持っている西洋剣を死の線に沿わせるように滑らせた。
最後は、駄目押しに胴体の真ん中に残った銃弾をフルオートで発射。
魔女はうめき声と言うなの断末魔を上げて消えていった。
「────────!!!」
「これで良し」
魔女が消えると、結界も消える。
使い魔たちも、ももこと鶴乃が倒していたのか残って居ない。
全員が変身を解くと、こころちゃんが俺の方に来た。
様子から察するとお礼だろう。
「あ、あの、ありがとうございました! 助けて貰った上にグリーフシードまで……」
「良いよ良いよ。残ったの、まさらちゃんにもあげて?」
「はいっ!」
うん、良い笑顔だ。
安心して、安心しきって、喜んでいる人の笑顔。
この笑顔が見たくて、まだ人助けを続けているのかもしれない。
…そうして、俺が微笑んでいると、小さな力でグイグイと上着の袖を引っ張られた。
まさらちゃんだ。
「…ありがとう。貴方たちのお陰で助かったわ」
「その感じで、魔眼のことも諦めてくれると嬉しいんだけどなぁ?」
「それとこれとは話が別。魔眼の他にも聞きたいことがあるから、今後も貴方とは会うつもりよ」
「…………しょうがない。じゃあ、条件付きで教えても良い」
「…本当かしら?」
「勿論」
俺の条件付き教えると言う言葉を聞いて、ももこと鶴乃がテレパシーを飛ばして来た。
結構な食い気味で…。
(おい、結翔! そんなに簡単に教えて良いのかよ!!)
(わたしも、お姉ちゃんとしてどうかと思うよ! ふんふん!)
(いや、歳頃の女の子だったら絶対出来ない事だらからさ。大丈夫大丈夫)
大丈夫、俺はそう思っていた。
こころちゃんと同じく、安心しきっていた。
…その安心を、簡単に打ち砕かれることになるとは、未来の俺以外知らなかっただろう。
「条件は……俺と一緒に暮らすこと。俺の家、広いんだけど一人暮らしでさ、結構寂しいんだ。だから、俺と一緒に暮らしていいって言うなら良いよ? 勿論、こころちゃんもね?」
「へっ? えっ、え〜〜〜〜!?」
「私は構わないわ」
片方は即答される事が分かっていたが、もう片方であるこころちゃんが驚き動揺することは分かりきっていた。
ふふふ、ふはははは!
よし、俺の勝ちだ。
汚い手ではあるが、誰にだって話したくない事がある。
……まぁ、もし話す事になっても、発現した背景を語る必要は無い。
語るとすれば、俺と彼女たちがもう少し親しくなってからだ。
「…残念。まさらちゃんは良くても、こころちゃんは無理みたいだね。悪いけど、魔眼の話はこれでお終い──」
「…分かりました。私も一緒に住みます! まさらと藍川さんを二人きりにするのは、色々と不味い気がするので!!」
「………………うっそぉん」
…滅茶苦茶情けない声が出たな。
こうして、俺と二人の唐突な同居生活が始まった。
次回もお楽しみに!
誤字脱字などがありましたらご報告お願いします!
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