結翔「未来の話つっても、一章とか現在進行形の話だけどな」
まさら「あらすじでネタバレを堂々とするのはどうかと思うわ」
こころ「そうですよ、この話から見た人も居るかもしれないじゃないですか!」
みたま「そうよぉ。配慮は大切よぉ〜」
みふゆ「…あらすじ紹介なので、仕方ないのでは?」
鶴乃「みふゆ。多分、みたまやまさらちゃんたちは、出れないことの恨みで……」
メル「ボクが活躍しない!!四十二話を楽しんでどうぞ!」
──ももこ──
夏祭り、それは夏の風物詩。
お小遣いの入った巾着袋片手に、屋台を歩き回り豪遊し、最後には打ち上がる花火を見て感動する。
一年に一度しかない夏の祭典。
今日、その日がやって来た。
例年と変わらず、アタシは母さんに着付けを手伝ってもらい浴衣に着替える。
母のお古である浴衣は、アタシには似合わないほどに可愛らしい。
全体的にピンク色で、彩り豊かな花で埋め尽くされている。
「なぁ、母さん? アタシがこんなの着て…」
「大丈夫よ。私の目を信じなさい。…それに、ゆうとくんだったらきっと大丈夫よ」
「…一言も、結翔の事は言ってない」
「あらぁ? 違ったかしら? ゆうとくんに褒められたいんじゃないの?」
「……違う」
「嘘おっしゃい。耳まで真っ赤よ?」
「〜〜っ!?」
急いで耳を手で覆い、後ろに居る母さんを睨みつける。
四十後半とは思えない若々しい母さんは、口元を手で押さえてクスクスと笑っていた。
……クソっ!
だから、母さんに着付けを手伝ってもらうのは嫌なんだ。
揶揄われなかった試しがない……
はぁ、とため息を吐き、用意していた巾着袋を持って玄関に向かう。
巾着袋にはスマホと財布、何かあった時のための痛み止めの薬などが入っている。
…あのバカヒーローは年中無休で厄介事に巻き込まれる体質だから、少しくらい準備はあった方がいい。
幾ら、魔眼のお陰で治りが早いとは言え、痛いものは痛いのだから。
「…行ってきます」
「行ってらしゃーい。楽しんできなさい!」
「…はーい」
テキトーな返事をし、鼻緒を履いて外に出る。
…何分前から待っていたのだろうか、暑そうに手で顔を仰ぐ結翔がそこに居た。
浴衣は黒く、薄らと白い縦縞が入っているのが分かる。
巾着袋と鼻緒も黒な所を見ると、全身黒で揃えたのだろう。
ファッションセンスがあるんだがないんだか…相変わらず分からない奴だ。
「お待たせ。悪かったな、結構待っただろ?」
「良いよ別に。男は待つのが仕事、女は待たせるのが仕事ってどっかの偉い人が言ってたし」
「ははっ、なんだよそれ。…取り敢えず、行くか」
「おう」
モヤモヤと胸の中に渦巻く気持ちを無視して、アタシは夏祭りが行われる水名神社に向かう。
水名区までの道のりは遠くない、歩いてもそう時間は掛からないだろう。
今は午後四時過ぎ、五時前にあっちに着ければ十分遊べる。
それまでは、結翔と駄べりながら歩くだけだ。
「そう言えば。他の奴らは?」
「結翔、お前聞いてなかったのかよ…。メルは宿題サボってたからやちよさんとみふゆさんの監視の中、現在進行形で宿題をやってる。鶴乃は万々歳の出張屋台を手伝うから一緒に回るのは無理だって」
「…なるほど。だから、いつも通り、俺とお前の二人で回ることになったのか…。まっ、偶には良いだろ、騒がしくないのも」
「……かもな」
少しだけ顔を伏せながら、アタシはそう返した。
何故だろうか、『いつも通り』と言う言葉が嬉しい。
いや、言葉が嬉しいんじゃない……『いつも通り』の中で、アタシは結翔の隣にずっと居られるのが嬉しいんだ。
ニヤけそうな顔を必死に隠すため、少し顔を伏せたまま、会話を続けた。
そうして、数分歩いていると、突然、結翔がこう言った。
「浴衣、新しいのにしたのか?」
「…へっ? …あ、あぁ、そうなんだよ。母さんのお下がり…と言うかお古。アタシには似合わないぐらい可愛いだろ?」
「別に? 普通に似合ってるぞ? なんでそんなこと言うんだよ…。お前は昔から、可愛い服は自分には似合わないって思ってるだろうけど、それは違う。お前は可愛いし、可愛い服も似合う。自信持てって、かれこれ十年幼馴染やってきや奴の言葉だぞ?」
「なんで…なんで、お前はそうスラスラと……」
「? なんか言ったか?」
「何でもねぇよ! このバカヒーロー!」
「痛ってぇ、俺なんもしてねぇだろ!? 暴力に訴えんな!」
隣であーだこーだ言ってくる結翔を無視し、限界まで心を落ち着かせる。
早鐘を打つように鳴る鼓動が煩い。
夏だから、そんな理由で表せないほどに顔が熱い。
顔面偏差値東大生が!!
アタシじゃない、そこらの女子だったらコロッと落ちるような口説き文句を言うんじゃねぇよ!
…いや、アタシだからこそ効く言葉だったのか?
…ああ、もう!!
この際どうでもいい、そんなのどうでもいいんだ。
頼むから、頼むからさ…今はまだ幼馴染のままで居させてくれよ。
壊したくないんだ、今のアタシたちの関係を。
怖いんだ、拗れて…捻じ曲がって、会えなくなる可能性が。
進めと後押しする心を、縛り付けるように抑える。
数度の深呼吸で鼓動をいつも通りのものに戻し、結翔の方を見る。
…まだ、ブツブツと文句を言っていた。
その横顔は、何故かとてもキラキラとして見えた。
本当に…何をしてても絵になる奴だ。
バカでアホで鈍感で…でも、優しくて温かくて隣に居るだけで安心出来る存在。
昔から、隣に居るのが当たり前だった半身のような存在なんだ。
離れるなんて、そんなの考えられない。
だから、想いを伝えるのが怖い…怖くて堪らない。
アタシは、
辿り着いた時には、大分心は落ち着いていて、久しぶりに見る屋台にアタシと結翔は目を輝かせた。
「チョコバナナにわたあめにリンゴ飴、たこ焼きに焼きそば」
「かき氷に射的、金魚すくいにヨーヨーすくい。型抜きもあるぞ!」
「よし、どれから行く?」
「…そんなの勿論!」
『わたあめ!!』
二人して揃った声に笑いながら、わたあめの屋台に急ぐ。
結翔は見知った顔だったのか、店主のオヤジさんと気軽そうに話していた。
「おお! 藍川の坊主じゃねえか、見ねぇ間にでかくなったなぁ…。隣は…彼女か!? 偉く可愛い子じゃねえか! 良くやったな!」
「オジサン…ももこは幼馴染だよ。彼女じゃねえ」
「まぁ、良いさ。わたあめだろ、まけといてやるよ、二人で百円だ」
オヤジさんは専用の機械でわたあめを作り出すと、そこらの屋台とは一線を画す巨大なわたあめをアタシと結翔に差し出した。
…その後、どんな屋台に行ってもこんな事が続いた。
値段をまけてくれたり、オマケでチャレンジの回数を増やしてくれたり、単純にそのまま量を増やしてくれたり。
「…結翔、お前知り合い多過ぎじゃないか?」
「…父さんに連れられて、昔からボランティアやってたし。組織に入ってからも、定期的に地域の人と交流するために、ボランティアに行ってるからな。その所為だろ」
「…ふーん」
「なんだよ、面白くなさそうな顔しやがって」
「別に〜」
アタシが知らない結翔が居て、ムシャクシャして、彼の少し前を行くように一歩前へ出る。
花火までまだ時間はあるが、場所取りの為か人混みが多くなってきた。
…そんな中で、アタシは結翔の一歩前に出てしまった。
だからこそ──ハグれるのは必然だった。
ムシャクシャが収まらなかったアタシが、文句の一つでも言ってやろうと振り返ると、そこに結翔の姿はなくて…焦るように辺りを見渡す。
人…人…人…人。
代わり映えのしない光景、その中に結翔の姿は見えない。
戻ろうにも、多くなってきた人混みの中を切り分けて走るのは難しい。
魔法少女になって高くなった身体能力も、人の密集地帯じゃ使うのは愚策だ。
何せ常人より強いのだから、下手を打てば人に怪我をさせてしまう。
意味は少し違うかもしれないが、宝の持ち腐れ…と言うやつだ。
使えないなら意味が無い。
頭を回して、打開策を見つけだす。
辺りを見渡したり、走り回るのは、いい策じゃない。
ただでさえ人が多いのだから却下だ却下。
…あとは…そうだ!!
スマホ、スマホが有った!
流石に電話ぐらいは通じる筈。
巾着袋からスマホを取り出し、電話をしようとした途端……画面が真っ暗に暗転した。
嘘だろ……
「ふざけんな!! なんで、なんでこんな時に限って!!」
アタシが頭を抱えながら叫ぶと、周りから視線が集まってくる。
…結局、アタシは視線から逃げるように、屋台が並べられてない外苑に走った。
外苑は基本的に、花火を鑑賞するために解放されている場所。
当然、多くの人が、友達と、家族と、恋人と、仲間と固まっている。
一人なのは…アタシだけだ。
なんだか、それが凄く虚しくて、哀しくて涙が零れた。
アイツは悪くない、アタシの不注意なのに、グチャグチャになった感情を吐き捨てるように、ここに居ない結翔にぶつける。
「アホ…バカ…アッパラパー…鈍感…ボケ…オタンコナス…女誑し…イケメン陽キャ…ヒーローバカ」
折角の夏祭りなのに。
アタシたちが自由でいられる限られた時間なのに。
なんで…なんで…オマエは居ないんだよ。
汚れるのも気にせず、アタシは体育座りで蹲る。
偶に心配してくれた人が声を掛けてくれたが、無視してしまった。
申し訳ないけど…返せる程の余裕は無くて、アタシは泣き続けた。
弱い、アタシは弱い。
アイツの隣に居たいのに──居る筈なのに、何故か後ろを追っている気がする。
泣いて、泣いて、泣いて。
泣くのも苦しくなって帰ろうとしたその時──聞き慣れた声が届いた。
「…はぁ…はぁ…探したぞ…ももこ」
「…結翔。…ゆうとぉ!!」
大粒の汗を額から流し、鼻緒も履いていない結翔がやって来た。
抑えられなくなって、アタシは結翔を抱き締める。
結翔も、しっかりと抱き締め返してくれた。
少しだけ汗臭くて、でも、それだけアタシの事を心配してくれたんだと思うと、それも愛おしくなって──心の底から嬉しかった。
ずっと抱き締めていたいけど、外だった事を思い出してサッと離れる。
「…どうして、鼻緒履いてないんだよ」
「どっかの誰かさんを探す為に邪魔だったんだよ、走り辛くてな」
「…そっか」
「なんで笑ってんだよ……。まっ、無事ならいっか」
そう言うと、結翔は無理矢理巾着袋に入れていた鼻緒を取り出して吐き直す。
その後、アタシたちは昔からの隠しスポットで、二人揃って夏の夜空に咲く火の花を見る為に歩き出した。
離れないように、強く手を握って。
──結翔──
ももことハグれた後、俺は──迷子の少女を保護していた。
一応警察官でもあるので、迷子の子供を放っておく訳にはいかない。
幸運にも、すぐに親を見つける事は出来たが、ももこを完全に見失ってしまった。
千里眼を使えば簡単に見つけられるが、こんな大勢人が居る場所で魔眼を使えばすぐにバレる。
足での捜索を余儀なくされた俺は、辺り一帯を探し回った。
屋台の知り合いに見てないか聞き、外苑に行ったと聞いた俺は走って外苑を目指した。
何もないとは思うが、心配なものは心配だ。
魔法少女はそう簡単に死なない…が、これ以上アイツの心に傷を残したくない。
その一心で走り続け、ももこを見つけた。
抱き締められたのは驚いたが…俺も俺で心配していた気持ちが溢れて抱き締め返した。
その後は、ゆっくりと二人だけの秘密の隠しスポットで花火が上がるのを待った。
互いに無言で、特に何かを言うことは無くて、それでも手は離さない。
離れ離れにならないように……
やがて、花火が上がり始めた。
一つ一つが、空に輝く星のように綺麗で、見惚れるように空を仰いだ。
「…大好き」
一瞬、隣からそう聞こえた気がして、ももこの方を見た。
彼女も、俺と同じく花火を見つめていた。
気の所為…か?
浮いては沈む感情を心の片隅に追いやり、二人で空を見上げる。
俺は終ぞ気付くことはなかった、ももこの真っ赤に染まった耳に。
次回もお楽しみに!
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