無感動な少女と魔眼使いの少年(リメイク版)   作:しぃ君

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 メル「前回までの『無少魔少』。結翔くんとももこさんのデート回でしたね。最後に告白したのは憎いですねぇ…?」

 結翔「俺に向かって言われても困るんだが…」

 ももこ「正面切って言われると、中々恥ずかしいな…」

 まさら&こころ『…何を見せられてるんだろう…私たちは』

 みふゆ&みたま『年上役なのに…最近出番が……』

 鶴乃「なんだか初々しくていいよね!」

 結翔「お前だけだよ、そう言ってくれんのは…」

 メル「最近コメディが控えめの四十三話をどうぞ!」



四十三話「ボクは全部初めてですよ」

 ──メル──

 

 夏休みも終わりを告げた、九月第一週の日曜日。

 ボクは結翔くんとライブに行く為の待ち合わせ場所に、約束の時間ギリギリに着いた。

 

 

「お…お待たせ…しましたです」

 

「ん? いや、そんなに待ってないから良いよ。ほら、時間も丁度いいし、息が整ったら出発するぞ」

 

 

 きっと、ボクが来るずっと前から待ってた筈なのに、そんなの気付かせないような口振りで彼はそう言った。

 …勿論、ボクだって好きで遅れた訳じゃない。

 彼にいつもと違う印象を与えたくて、髪を結ばずに伸ばして、服も少し感じを変えた。

 

 

 背伸びしてるかもしれないが、履きなれないヒールを履いて、丈が長めのモスグリーンのスカートと白と黒のボーダーシャツを着て、小物入れの為にショルダーバックを肩にかける。

 落ち着いた女性の雰囲気を出そうと頑張った。

 

 

 …だけど、彼は──結翔くんはうんともすんとも言ってくれない。

 せめて、髪型変えたの一言くらい…言ってくれても良い筈です。

 

 

 独り相撲感が否めない現状に、ボクは頬を膨らませ不機嫌感を漂わせながら、彼の隣を歩いた。

 流石は七海先輩が育てた紳士(笑)、一応はボクの不機嫌に気付いたらしい。

 

 

 次いでに、ボクの変化にも。

 それ故に何か言おうとしているのか、あーでもないこーでもないと頭を振っている。

 すぐに気付かなかった罰ですよ。

 

 

「えっと…その…似合ってるぞ。いつもと雰囲気が違うけど…可愛いよ」

 

「女の子の頑張りやオシャレには、すぐに気付くべきですよ。たとえ、ボクが親友でも!」

 

「わ、悪かったよ…今後気を付ける」

 

「そうして下さい」

 

 

 彼にそう言って、ボクは素面のまま目的地を見据える。

 目的地のライブハウスはもう目と鼻の先だ──だと言うのに。

 辿り着く前に、ボクの心臓が破裂しそうだ…。

 

 

 うぅぅぅ、もう! 

 たかが一言、たかが一言褒めて貰えただけなのに、さっきまで剥くれてて不機嫌だった筈なのに……

 そんなのどうでも良くなるくらい、心が踊るような嬉しさが溢れてくる。

 素面を保つのも…限界がある。

 

 

 ニヤけそうな顔を抑え、赤面しそうな顔を冷ます。

 自分の精神を統一するように、ボクが集中していると、既にライブハウスに着いてたようで結翔くんはチケットの交換済ませてきた。

 

 

「はい、お前の分のチケット。それと…コーラな」

 

「ありがとうございます。…あっ、お金──」

 

「大丈夫。海の時の臨時収入が思ったより多かったからな、まだ余ってるんだよ」

 

「…なら、良かったです」

 

 

 彼から飲み物であるコーラを受け取り、ステージのある奥に入って行く。

 他のお客さんも既に殆ど揃っているのか、ライブが始まる前なのに盛り上がっている。

 自然と先程までの想いはなりを潜め、ライブに向けての違う熱が込み上げてきた。

 

 

 結翔も同じなのだろう、嬉しそうに破顔させて笑っている。

 その後は、流れるような時間だった。

 楽しい時間があっと言う間に過ぎるように、ライブは順調に進んで行った……が、激し過ぎる盛り上がりの所為か人の波が激しくなり、少しづつボクと結翔くんの距離が離れていく。

 

 

 ダメ…! 

 急いで戻らないと! 

 そう思っても、波が凄くて上手く動けない。

 ……しかも、誰か分からないが──触られている。

 

 

 気持ち悪い……魔女を前にしていた方がまだマシだと思える程の、凄まじい嫌悪感。

 数秒前まで、ただの楽しいライブだった筈なのに──一秒でも早くここを出たいと思っている。

 

 

「やだ…助けてですよ…ゆうとくん…」

 

 

 助けを求めて出た声は小さくとても震えていた。

 でも…でも…ボクは信じていた、きっと彼なら気付いてくれると。

 ライブの盛り上がりで殆ど掻き消えたとしても、助けを求める声だったら彼は聞き逃さないと。

 

 

 そして、ボクの予想は当たった。

 もがいて伸ばしていた手を、結翔くんは掴んで──引き寄せた。

 

 

「出るぞ」

 

「でも──」

 

「出る」

 

 

 普段の彼からは考えられない真面目な顔付きで、男の子らしい力強さで、結翔くんはボクを引っ張って行った。

 ライブハウスから出て、ボクたちは近くのベンチに腰を下ろす。

 結翔くんは何も言わず、ただただ申し訳なさそうに顔を俯かせていた。

 

 

 …楽しい時間で、楽しい思い出て終わる筈だったのに。

 どうして、こんな事に──ああ、でも…少しだけ嬉しい。

 ボクの為に、彼は動いてくれだから。

 だから、ボクが文句を言う必要は──いや、意味はないですよ。

 言う権利も…ないです。

 

 

 どうやって励ませばいいのか分からなくて。

 彼が思ってくれた嬉しさだけが込み上げてきて。

 励ましたい心と、嬉しさで満たされていく心がぶつかり合って、ボクはとんでもない事を口にした。

 

 

「結翔くん…大好きです。ずっと…あなたの傍に、居ていいですか?」

 

「…………え?」

 

 

 なんの脈絡もない、突然の告白に彼は戸惑った。

 ……それ以上に、ボクの方が驚いている。

 確かに、彼を励ます言葉を──喜ぶ言葉を送りたいと思って、ボクの本音……『大好き』の言葉を口にして、嬉しさで満たされていく心が『ずっと…あなたの傍に、居ていいですか?』と口にした。

 

 

 やってしまった…。

 なんて言うタイミングで告白してるんだ!? 

 もっと、もっといいシチュエーションがあっただろ! 

 ボクのバカ! バカバカバカ!! 

 

 

 自己嫌悪に浸っているボクに、結翔くんは苦笑しながらこう言った。

 

 

「ありがとな、俺もメルの事は好きだよ」

 

 

 違和感にはすぐに気付いた。

 分かる、彼の──結翔くんの好きはボクの好きと違うことが。

 それが哀しくて、ボクは自分の気持ちを、想いを証明するように──不意打ち気味に唇を重ねた。

 

 

 少しだけ湿っぽくて、柔らかい感触。

 初めての…感触。

 体が──顔が熱くなっていくのを感じる。

 高鳴る鼓動をそのままに、ボクはもう一度伝え直す。

 

 

 胸に灯る、熱い想いを。

 

 

「好きです。大好きです。…ボクの好きは、こう言う好き…です」

 

「……………………」

 

 

 恥ずかしくて、結翔くんの顔を直視出来ないけど、伝わった筈だ。

 待った。

 ひたすらに待ち続けた。

 一分、二分、三分、四分、五分──時は過ぎる。

 

 

 静か過ぎる事に、また違和感を覚えて彼の顔を見上げた。

 その様子は──

 

 

「へっ?」

 

「……………………」

 

 

 嘘…有り得ないですよ。

 ボク以上に真っ赤に染まった顔と、完全に脳がショートしたのを表すかのように登っていく湯気。

 彼は、藍川結翔は、気絶していた。

 

 

 ──結翔──

 

 いつの間にか意識を失っていた俺は、後頭部に感じる柔らかい感触と、鼻をくすぐるような甘い匂いで目を覚ました。

 

 

 そうだ。

 確か、メルがライブハウスで人の波に揉まれてて、どさくさに紛れて痴漢する奴もいて、助けを呼ぶコイツを外に引っ張り出したんだ。

 その後は──申し訳なさで落ち込んでた俺をメルが……

 

 

『結翔くん…大好きです。ずっと…あなたの傍に、居ていいですか?』

 

『好きです。大好きです。…ボクの好きは、こう言う好き…です』

 

 

 ……思い出したぞ。

 俺…メルとキスして…それで──混乱し過ぎて気絶…したのか。

 だせぇ、マジでだせぇ。

 いや、まで自分には純粋な部分が残ってたと喜ぶべきなのか? 

 

 

 それよりも、今の状況をどうにかしなければ。

 多分、今…俺は膝枕されているんだから。

 

 

 歪む視界のピントを合わせ、起き上がろうとすると……メルが余裕の微笑みを持って俺を見つめていた。

 ……クソっ! 

 顔が良いから、憎むに憎めねぇな! 

 

 

 いつもの彼女とは違う、大人っぽい雰囲気に…当てられているのか? 

 

 

「おはようです。ボクのファーストキス、如何でしたか?」

 

 

 余裕の微笑みを崩さぬまま、彼女はそう言った。

 

 

「……悪くなかった」

 

「そうですか…そうですか…」

 

 

 短く返した俺と、その返しにくつくつと笑うメル。

 今までの関係性がひっくり返ったような感覚だ。

 なんだろう、無性にムカつく。

 一泡吹かせてやったり…って顔が、無性にムカつく。

 

 

 でも…何故だろう、それさえもどうでもいい程に、メルの笑顔に見蕩れていた。

 メルの事は好きだ。

 だけど、俺の好きはあくまで親友に対する『好き』であり、家族や仲間に対する『好き』。

 

 

 恋と言うよりは愛。

 儚い想いではなく、深く厚いものの筈だ。

 友愛であり家族愛、それと同類の感情の筈なのに──胸の奥がザワつく。

 既知のものでは無い、未知のものを今し方実感している証拠…だとでも言うのだろうか? 

 

 

「答えは──まだ出せそうにない。悪いな、ホント」

 

「良いですよ。もし、ボクの事が好きじゃなくても、絶対に好きにさせてみせますからっ!」

 

 

 満面の笑みで答えるメル。

 後に知った事だが、この日のメルは占いを一切して来なかったらしい。

 彼女は──安名メルは、大一番の勝負を、占いと言う力を使わずに戦った。

 

 

『占いと言えばボク、ボクと言えば占い』

 

『占いはボクの生き甲斐であり、ボクの一部なんです』

 

 

 なんて言う迷言を残した彼女が、その力を使わなかった。

 やろうと思えば、良い方向に占えて、確実に付き合えたかもしれないのに。

 

 

 …変な所で誠実な奴だと、俺は今日再確認した。

 




 次回もお楽しみに!

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