結翔「…遅せぇよ」
ももこ「と、取り敢えず、前回までの『無少魔少』。メルと結翔がライブに行って、会場内で人波にもまれて痴漢されてるメルを結翔が連れ出して、その後告白したって話だな」
まさら「要約し過ぎてぶっ飛んだ話に聞こえるわね」
こころ「そうだね。…なんだか、すごい話に感じる」
メル「ボクの独走が決定した話でしたね!!最っ高の気分ですよ!」
みふゆ「それがどうなるのか分からないのが、人生なんですよメルさん」
みたま「そうねぇ、面白いわよねぇ、人生って」
結翔「なんだか、深い話みたいになってるけど…皆さんは無視して四十四話をどうぞ!」
──ももこ──
長い長い夏を終えて、二学期が始まる。
少し時間はかかったものの、学校生活のリズムを取り戻し、非日常の中の日常を謳歌する筈の今日。
アタシの隣の席に居る結翔は──どこか上の空だった。
一緒に登校している時も、休み時間も、果てには授業中までも、ただただぼーっと虚空を見つめる。
登校中や、休み時間中なら、まだ何かを疑う事はなかっただろう。
疲れてんるだろうなぁ、とか。
昨日も頑張ったんだろうなぁ、とか。
そこら辺で思考は途切れる筈なのに──まさか、授業中まで上の空だなんて……
あの、バカが付くほど真面目な結翔が、授業を聞かないなんて有り得ない。
疲れてノートを取れないだけならまだしも、授業を全く聞かないなんてなかった。
何か…あったのかな?
心配になって聞いても、結翔はただ聞き流すだけで……それが少し悲しかった。
今日はもう、四時間目の授業に入っている。
残暑の所為か、はたまたお陰か、エアコンのお陰で快適な授業だ。
…だと言うのに、アタシはずっと集中する事が出来ず、隣の幼馴染を見続ける。
授業も耳に入れているし、ノートもちょこちょこ確認して取っているが、授業を受けてる気分ではない。
どこか落ち着かない。
このまま結翔を放っておいたら、どこかに行ってしまいそうな気がしたから。
アタシの手の届かないどこかに、行ってしまいそうな気がしたから。
それが、怖い。
どうしようもないくらいに、怖い。
友達は居る、仲間も居る、家族だって…居る。
一人欠けたところで、気にしないと他の誰かは言うかもしれない。
けど、アタシにとって、結翔は欠けてはならない存在だ。
苦しい時も、辛い時も、嬉しい時も、楽しい時も、悲しい時も、隣に居るのが当たり前なんだ。
昔からそうだったんだ。
今更になってそれが変わるなんて……無理だ、無理に決まっている。
耐えられない、アタシはそれに耐えることが出来ない。
色々な感情がごちゃ混ぜになって、結局、途中からはノートすら取らずに結翔を見続けた。
嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!
アイツの瞳に、アタシが映らないなんて嫌だ!
隣に居るのに、なんで見てくれないんだ!?
頼むから…頼むからさ、隣に居る時くらい、アタシだけを見てくれよ。
アタシじゃない誰かを、遠くに見ないでくれよ。
ザワつく胸の感情が制御出来ない…
痛い…チクチクと刺されるような痛さを感じる。
なんで? なんでなんだ?
こんな痛み、アタシは知らない。
…恋って、誰かを好きになるってこんなに痛いのか?
好きな人に見てもらえないって、こんなに苦しいのか?
訳が分からなくなって…アタシは教室を飛び出して屋上に走った。
着いた先の屋上は、四時間目の途中と言う事もあって誰も居ない。
それを良いことに、アタシは柵に寄りかかって腰を下ろした。
どんよりとした空気は、先程までの快適な教室とは雲泥の差。
終いには──
「…こりゃ良いな、泣いててもバレやしない」
ぽつりぽつりと、雨が降り始めた。
最初は弱かった雨も、時が経つにつれて強くなっていく。
大粒の雨がアタシの体を濡らしいてく。
肌にまとわりつく濡れた服の感触がやけに気持ち悪く感じた。
……嗚呼、この雨がアタシの恋心も──流し落としてくれればいいのに。
溢れ出る涙と大粒の雨が混ざり合い、流れ落ちる。
雨の音以外、何も聞こえない。
泣き叫びたい気持ちを押し殺して、ただ…涙を流す。
世界から自分だけが弾かれたように、アタシは一人ぼっちで……
でも、お節介なアタシのヒーローはそんな事を許せなかったのか、どこからともなく現れて、呆れが混じった笑顔で、傘を差し出した。
「どこ行ってんだよ…ったく」
「ゆうと…!」
込み上げるものをぶちまけるように、傘を払い除けて抱き着いた。
アタシを全身で感じられるように、アタシだけを感じてくれるように、抱き着いた。
──結翔──
正直、あの日から殆ど上の空…と言った状態だった。
悩んで、悩んで、悩み続けて、答えが出ない事に、また悩む。
メルの言葉を思い出す度に、心臓が締め付けられるような感覚に陥る。
多分……俺はメルに惹かれているんだと思う。
だけど、決定的なナニカが足りなくて、答えは出せない。
待ち続けさせるのが嫌でも、待たせるしかない今の状況が歯痒く感じてしまう。
…でも、それ以上に、俺は今までの関係を壊すのが──怖い。
決定的なナニカを探す為に動き出したいのに、最初の一歩が踏み出せないでいる。
優柔不断な自分に呆れ果てながら、俺は今日も悩んで過ごす。
…だけでは終わらなかった。
四時間目の途中、ももこが教室から飛び出したのだ。
それに気付いて、ようやく俺は上の空な状態から抜け出し、イスから腰をあげる。
「あの、せん──」
「藍川、早く行って十咎を連れ戻して来い。お前の役目だろ」
「いや、俺の役目って訳じゃ……」
「いつも、お前の為に尽くしてるんだ、それぐらいやるのが
「…元々行くつもりですよ!」
数学教師の言葉を、俺はイラつきながらも聞き流し、教室の外に出る。
行く場所は限られている、しらみつぶしに探せば見つかる筈だ!
そこからは本気の捜索だった。
人に見られないように魔眼を使い、手当たり次第に探していく。
粗方場所を潰し終わった後、本命の屋上に眼を向ける。
……居た。
やらかしたなぁ…泣いてるよ、アイツ。
色々と思い当たる節が有り過ぎる事に、頭を抱えながらも傘を持って屋上への階段を駆け上がる。
朝は絶好のお洗濯日和だったのに、昼前にはこのザマだ。
洗濯物を干してこなかったのは僥倖だったと考えるべきだろうか?
現実逃避の為に、考えを逸らしながらも、俺は傘をさしてももこに近付いて行く。
……俺の足音にも気付かない所を見ると、相当参っているようだ。
罪悪感を感じながらも、俺は態と呆れ混じりの笑顔でこう言った。
「どこ行ってんだよ…ったく」
「ゆうと…!」
すると、ももこは差し出した傘を払い除けるように、俺に抱き着いた。
震える声や肩、雨に濡れて寒いから……なんて訳ではなさそうだ。
傘を持っていた手を離し、そっとももこを抱き締める。
何があったのか完璧に分かる訳じゃないが、少なからず俺がなにかしたのかは確かだ。
それを聞き出す為に、俺が口を開こうとした瞬間、ももこが震える声と揺れる瞳を向けてきた。
「ゆうと…ゆうとぉ…。お願いだかさ…お願い…だから、アタシのことを見てよ! 隣に居る時くらい、誰でもないアタシを見てよ! じゃないと…じゃないとアタシ、苦しくてどうにかなっちゃいそう」
「ももこ…」
「それだけだから…ね?」
懇願するような顔が酷く儚げで、俺は頷くことしか出来なかった。
この時の俺は、彼女の言葉が遠回しでもなんでもない、本気の告白だと気付くことが……出来なかったのだ。
今までずっと連れ添って来た幼馴染か、自分に好意を寄せる親友のような後輩。
どちらも大切で、どっちの手も取りたくて──でも、そんなのは無理だと分かっていて、それでも悩んで時間だけが無情にも過ぎていく。
シーソーのように、片方に寄ったらもう片方にも寄って。
それを永遠に繰り返すどっち付かずの日々。
メルのアプローチで心が惹かれ、ももこの何気ない仕草に心が戻される。
勇気を持って怖い気持ちを乗り越え、一歩前に踏み出せれば、答えはすぐにでも出せるのに……
隣に居る彼女の泣き顔が忘れられなくて、ずっと立ち止まっている。
残り時間は、もう僅かだと言うのに。
ちょこっと捕捉(ネタバレかも)
答えを出すためには決定的なナニカが必要で、それを探す為に動きたいけど結翔は動き出せない。
何故なら怖いから、関係を壊すのが怖いから。
本当は決定的なナニカ=勇気で、関係を壊して先に進む勇気がないからナニカを探せず、その為に答えも出せない。
一歩踏み出す勇気があればそのまま答えられる。
次回もお楽しみに!
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