無感動な少女と魔眼使いの少年(リメイク版)   作:しぃ君

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 結翔「前回までの『無少魔少』。メルの告白を受けた後、上の空状態だった俺と、それを良く思えなかったももこが動き始めた話だな」

 ももこ「何だか…アタシが悪いみたいなんだが!」

 まさら「本編に出てるんだから文句言わないで」

 こころ「そうですそうです!私たちは出れてないんですからね!!」

 みたま「わたしも出れてないわよぉ…寂しいわぁ…」

 やちよ「面倒臭いのが湧いたけど、取り敢えず四十五話をどうぞ!」


四十五話「いつも通りの温かい日々が続いてくれたら、それで良い、わたしはそれで構わない」

 ──結翔──

 

「…きろ……翔…きろよ」

 

「………ですよ…結……くん!」

 

 

 夢現な状態の俺の耳に、聞き慣れた二人の声が聞こえる。

 どちらも、俺が今、色々と心労を掛けられている少女だ。

 

 

 全く以て、今日くらいゆっくり寝させて欲しい。

 昨日も……ん? 

 いや、可笑しいだろ。

 なんでコイツら、俺の部屋に居るんだ? 

 

 

 確か……今日は休日の筈。

 …はぁ。

 俺はため息を零しながら、ゆっくりと意識を覚醒させていく。

 最初に感じたのは、誰かがのしかかっているような重さ。

 

 

 御丁寧に、声が聞こえた二人分の重さを感じる。

 …寝てる人の体に乗るのはどうかと思う。

 

 

「お前らさぁ、なんでいんの? て言うか、なんで乗っかってるの?」

 

「…もしかして、忘れちゃったんですか?」

 

「はぁ〜、アタシらもアタシらだけど、お前もお前だな」

 

「ん???」

 

 

 呆れたような顔をするメルとももこ。

 俺は首を傾げて唸った。

 忘れた、と言うメルの言葉とももこの発言から鑑みるに…何か今日、約束があったのだろうか? 

 

 

 そんな訳ない、俺は約束を忘れるタチじゃない。

 なら、なんだ? 

 …二人の服装は、動き易そうな私服。

 遊びに行く予定だったのか? 

 

 

 唸っていても答えは出てこない。

 俺は一度諦めて、乾いた喉を潤す為に、リビングに降りる。

 階段を降りて行くと、リビングの少し開いた隙間から、楽しそうな喋り声が聞こえた。

 

 

 …これも、聞き慣れた声だった。

 本当に、何か大事な予定を忘れているらしい。

 嫌な予感に頭を抱えながらも、リビングのドアを開けて中に入る。

 

 

 そこには、ももこやメルたちと同じく、動き易そうな私服を纏ったやちよさんとみふゆさん、そして鶴乃が居た。

 困惑の表情を見せる俺に、三人もどこか違和感を覚えたようだ。

 俺が口を開くより先に、鶴乃が口を開く。

 

 

「ねぇ、結翔? もしかして、今日の予定…忘れちゃった?」

 

「…いや…まぁ…そんな事は無いぞ…多分…」

 

「諦めなよ!? その感じは絶対忘れてるよ!! 逆にその言い方で覚えてたら、びっくりだよ!?」

 

「ちょっと、あとホントちょっと待ってくれ。全力で思い出すから…!」

 

 

 頭をフル回転させて、記憶を探っていく。

 最近の記憶から順に、出来る限り詳細まで……詳細まで……

 

 

「ゴフッ!?」

 

「ゆ、結翔!? あなた、大丈夫なの?!」

 

「ち、血が出ちゃってますよ!?」

 

「アワアワアワ!? きゅ、きゅきゅ、救急車呼ばないと!!」

 

 

 やっべ。

 詳細に思い出し過ぎて、色々と胃にストレスが……

 ダメだ、これ以上思い出したら、胃に穴が開きそう。

 …いや、もう開いてるかもだけど。

 

 

 若干パニック状態になった三人を宥め、俺は諦めて今日の予定を聞いた。

 その頃には、メルとももこも下に降りてきていた。

 

 

「前々から話してたじゃない、今日はミナギーランドに行くって」

 

「…南凪区のあそこですか?」

 

「そうですよ。やっちゃんとワタシでチケット自体はもう取ってありますから、あとは足さえ用意出来ればなぁ〜と」

 

 

 なるほど、俺はアッシーか。

 みんなで行く予定ではあるけど、節約はしたい…と。

 一応、車の免許とバイクの免許、その他色々な乗り物の免許は持っているが…車は今、車検に出していた筈だ

 あるのはバイクだけ…どうするかなぁ……

 

 

 またしても唸り出しそうな俺だったが、ある事を思い出した。

 ないなら、借りればいいのだ! 

 幸いな事に、家のお隣さんは大家族、車もミニバンで六人乗りなんて余裕余裕。

 

 

「ももこ!」

 

「な、なんだよ! いきなり肩掴むな!!」

 

「お前ん家の車貸してくれ!」

 

「…あぁ、そう言う。…良いぞ、父さんも最近は乗ってってないし、兄貴たちが偶に使ってるけど、今日は何処にも行かないって言ってたから」

 

「良し! そうと決まれば準備しますかー!」

 

 

 一人出遅れている俺は、すぐさま顔を洗い服を着替え、最低限の荷物をショルダーバックに詰めて、もう一度下に降りる。

 全員揃ったことを確認したやちよさんが音頭を取り、俺たち──みかづき荘一行は車でミナギーランドに向かった。

 所要時間は大体三十分程度。

 

 

 移動の間は、ももこが助手席で勝手に音楽を掛けたり、メルと鶴乃は後ろの席でガイドブックを読み込んでたり、やちよさんとみふゆさんは二人して真ん中の特に煩い席に座りながらも、悠々と眠っていた。

 

 

 ドライブの時間はあっと言う間に過ぎて、俺たちはミナギーランドのチケット売り場兼入口に来ていた。

 入る前に、やちよさんが先に買っていたチケットを俺たちに配る。

 アトラクションのフリーパスを買っているあたり、相当な覚悟が見えた。

 今日と言う休日を全力で満喫するつもりなのだろう。

 

 

 …まぁ、それはそれで楽しいからいいか! 

 

 

「最初は何処行きます?」

 

「そうねぇ、無難にコーヒーカップやメリーゴーランドでもイイわね、あとはちょっとヒネってゴーカートってとこかしら」

 

「えぇ〜! やちよさん、こう言う時はドンと行こうよ! 絶叫系がイイって!」

 

「わたしもわたしも!! 最初に勢いを付けて、全部のアトラクション制覇したいしね! ふんふん!」

 

「ボクは七海先輩の意見に賛成ですよ、飛ばし過ぎるとガス欠しそうですし」

 

「ワタシは、別にどちらでも…」

 

 

 相変わらず、好き放題やり放題な感じで意見が飛び出す。

 無論、俺はやちよさんの意見に乗っかるつもりだ。

 何故かって? 

 そんなの決まってる、こちとら、朝吐血したばっかなんだぞ? 

 最初に絶叫系に乗ったら胃がどうなるか分かったもんじゃない。

 

 

 ここは一旦、コーヒーカップやメリーゴーランドでクッションを挟んでからの方が、胃的には優しい配慮だ。

 

 

「俺も、やちよさんの意見に賛成です。最初は慣らしで行った方が楽ですし」

 

「…結翔がそう言うなら」

 

「多数決的に負けだしね…」

 

『…結翔(君・くん)』

 

「え? これ、俺が悪いの? 嘘だよね、絶対俺じゃないよね? なんでそんな目向けられなきゃいけないの? 可笑しくない!?」

 

 

 最初に乗るアトラクションが決まったのは良いが、メルとみゆふさんには何故か憐れむような目で見られた。

 

 

(おい、そこの占い大好きっ子、俺の事が好きなんじゃないのかよ! 哀れみの目を向けるな!)

 

(いえ、それとこれとは話が別です)

 

 

 テレパシーでの会話は、メルの冷静な一言で呆気なく幕がおりた。

 ガッテム! 

 

 

 ……取り敢えず、コーヒーカップ乗るか。

 全員で移動しコーヒーカップの待ち列に並ぶ、フリーパスのお陰で優先的に乗れるのは有難い。

 こう言うテーマパークでは如何にして暇な時間をやり過ごすのが、関係を破綻させないキモだからだ。

 

 

 因みに、某有名なネズミの国でデートするとカップルは必ず別れるらしい。

 なんでも、待ち時間が長すぎるとか、男が美人のキャストに目移りするだとかで、関係が破綻するとか。

 

 

 そんな事が起こらないのが、ミナギーランドの良い所だ。

 人の入りは可もなく不可もなく、そこそこの賑わいが丁度いい。

 五分ほどで俺たちの番になり、係員の女性にマイクを使って声を掛けられる。

 

 

『三名一組でお乗りくださるよう、お願い申し上げます』

 

「…どうします?」

 

「グーパーで良いんじゃない? 丁度私たちは六人なんだし」

 

「それもそうですね」

 

 

 昔ながらの組み分け方法、グーパー。

 ジャンケンの要領でグーかパーを出して、同じく手を出した同士で組む。

 全員が頷き、最初の言葉を口にした。

 

 

『グッとパーで別れましょ!』

 

 

 結果は──

 

 

「…どうして…どうしてこうなるんですかぁ!!」

 

「…アタシも、アッチが良かった」

 

「諦めなさい、あなたたちも納得してやったんでしょ?」

 

 

 パー組は、ももことメルにやちよさん。

 そして──

 

 

「全力で回すからねー!」

 

「おいバカやめろ! 壊れるだろうが!」

 

「加減はしてくださいね?」

 

 

 グー組は、俺と鶴乃にみふゆさんとなった。

 恨みがましい視線が送られてくるが、無視してコーヒーカップを楽しむ。

 鶴乃が真ん中の皿を回してはしゃぐ中、みふゆさんはそれを見て微笑んだ。

 俺も、鶴乃と一緒になってコーヒーカップを回していく。

 

 

 あれ…コレすげぇな、やってると滅茶苦茶楽しくなる! 

 

 

「鶴乃! これ滅茶苦茶楽しい!!」

 

「でしょでしょー! 最っ高だよー!!」

 

「イエーイ!」

 

「ふっふっー!!」

 

「お、お二人共、ちょっと待てください!? は、早過ぎて目が……」

 

 

 みふゆさんの制止の言葉は、俺の耳を右から左に抜けて行き、どこかに飛んで行く。

 その所為で……アトラクション終了後、俺と鶴乃は地面の上で正座させられていた。

 …みふゆさんはと言うと、ベンチでぐったりしている。

 

 

「二人とも、言うことがあるわよね?」

 

「みふゆさん、ごめんなさい」

 

「わたしも、調子に乗っちゃいました。…ごめんなさい」

 

 

 半べそかいている鶴乃は可哀想だったのか、みふゆさんはぐったりとしていた体を起こし、大丈夫ですよと微笑んだ。

 …まだ少し顔が青いのは見なかった事にしよう。

 

 

 その後は、メリーゴーランドとゴーカートに乗り、緩やかに助走をつけて、俺たちは絶叫系のアトラクションに足を運んだ。

 絶叫系の王道であるジェットコースターにフリーフォールが二種類づつ、このミナギーランドにはある。

 

 

 そして、ここでも、事件は起る。

 ジェットコースターに乗る事が決まったのはいいが、ジェットコースターは基本的に二人一組で座る。

 

 

 …また、組み分けだ。

 出来るなら、ももことメルとは組みたくない。

 いや、組むことでどちらかを選ぶ切っ掛けになる可能性はあるが……その前に胃が死にそうだ。

 

 

 今日は休みを謳歌するためにここに来た。

 なら、しっかりと休息を取るべきだ。

 意志を固め、先程のグーパーにチョキを足した、グーチョキパーで組み分けを開始する。

 

 

『グーチョキパーで別れましょ!』

 

 

 掛け声が揃い、またしても一発で、組み分けは終わった。

 

 

「…なんでまた、ももこさんと…」

 

「いやまぁ、悪くないけどさぁ…」

 

 

 グー組は、ももことメル。

 そして、チョキ組は──

 

 

「今回も一緒だね、みふゆ!」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 

 鶴乃とみふゆさん。

 最後にパー組は──

 

 

「ふぅ…安心しました」

 

「…あなたねぇ」

 

 

 俺とやちよさん。

 それぞれ二人一組のペアになった俺たちは、係員の誘導に従いジェットコースターに乗り、安全バーを下げる。

 開始まであと数秒、そうなった所で、やちよさんが小さな声で聞いてきた。

 

 

「…モテるのは良いけど、しっかり決まったの?」

 

「…バレますよね。…すいません、まだ──」

 

「謝ることじゃないわよ。それに、謝るにしても相手が違う」

 

「ですよね」

 

「…悩んでるのは良い事よ、それだけあの子たちを大事に思ってるって事だもの」

 

 

 短い会話はそこで終わり、最恐の時間が始まる。

 体に感じるジェットコースター特有の重力感と、気持ちのいい風。

 後ろから聞こえる悲鳴が最高のスパイスとなり、俺も声を上げて叫んだ。

 

 

「いやっふうぅぅぅぅううううう!」

 

「きゃぁぁああああ!!」

 

 

 一番面白かったのは、ジェットコースターを乗り終わったあとの、やちよさんの髪の乱れ具合だが……これは心の奥底に閉まっておこう。

 一つ目のジェットコースターが終わった絶叫系を制覇した俺たちは、残るアトラクションも順調に制覇して行った。

 

 

 因みに、お化け屋敷では両手に花──いや、桃と蜜柑を両腕に押し付けられて、理性と戦いながらギリギリの所で踏破した。

 ……二度と、ももことメルと一緒にお化け屋敷に入らない事を、俺は今日ここに誓う。

 

 

 次は持たない。

 俺の理性と胃、概念的にも物理的にも死ぬ。

 

 

 結局、最後に残ったのは──お馴染みの観覧車だった。

 

 

 ──鶴乃──

 

 結翔と二人、わたしは観覧車の中に入る。

 一周は約十分。

 その間、わたしと結翔は二人きりで、景色を眺めて時を過ごす。

 

 

 ……正直に言おう、わたしは今、物凄く緊張している。

 だ、だって、目の前に居るのは、わたしの初恋の人で…今でも大好きな人。

 幾ら結翔を弟だも思っていても、姉として接しようとしても、好きなものは好きなのだ。

 

 

 この気持ちを無視するなんて…わたしには出来ない。

 向かい合って座る結翔は、偶にこっちに話を振りながらも、外の景色に見入っている。

 

 

「…広いよな。俺たちが守ってる街って」

 

「そ、そうだね。…こうやって見ると、結構広い…ね」

 

「ちゃんと守れてるか何時も不安になるんだ。でも…でもさ、こんな平和な景色見てると、しっかり守れてるんだなって確認出来る。…偶には良いな」

 

「ふふっ」

 

「何だよ、いきなり笑って…」

 

「ううん、なんでもなーい!」

 

 

 …彼とこうやって喋っていると、落ち着ける。

 さっきまで、彼の所為で高鳴っていた心臓も、今は元に戻っていた。

 観覧車が傾くのもお構い無しに立ち上がり、わたしは結翔が座る対面に足を運び隣に腰掛けた。

 

 

 そして、彼の肩に頭を預ける。

 服越しに伝わる彼の温かな体温が、わたしには安らぎを与えてくれた。

 ……家でも、みかづき荘でもない、わたしが一番安心できる場所は──彼の隣だった。

 

 

 少しづつ、少しづつ瞼が重くなっていって、ゆっくりと視界がぼやけていく。

 隣から聞こえてくる結翔の声も、もう聞こえない。

 ああ、だけど、見えなくても分かる。

 

 

 結翔は今、笑っている。

 …笑っているならそれで良い、それで良いんだ。

 いつも通りの温かい日々が続いてくれたら、それで良い、わたしはそれで構わない。

 

 

 遅くても良い、ゆっくりと前へ進めばいい。

 わたしたちには明るい未来がきっと、待っているんだから──

 

 

 ──────────────────────

 

 残った少ない時間を切り分けるように、彼ら彼女らは非日常の過ごしていく。

 永遠の終わりはすぐそこに。




 次回もお楽しみに!

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