こころ「誰も来ないね」
みたま「そりゃあそうよ、あの子たちにとってはトラウマものだもの」
メル「それで済ませていいのか、甚だ疑問です。ボクはハッピーでしたよ?」
まさら「…それはあなただけよ」
こころ「結翔さんたちの事を思うと…そうですね。メルさんだけだと思います」
みたま「若干名可哀想な人が居るけど、四十六話をどうぞぉ!」
──結翔──
「……ゴホッゴホッ!」
「む。大丈夫か、藍川?」
「…はい、なんとか」
「しかし、驚いたぞ。体の不調は治ったと聞いていたからな」
吐血した俺にそう言ったのは、和泉十七夜さん。
ついさっきまで、一緒に魔女狩りをしていた、東のテリトリーを取り纏めるトップ。
そこそこ長い付き合いで、俺の体調のことやらなんやらも、やちよさん伝で聞いているのだろう。
吐血の件は、体の不調──ではない。
相応の対価、と言うものだ。
「体の不調じゃないですよ。…弱体化した件は話しましたよね? その後から、固有の能力──固有魔法が一部を除いて封印されて、残った一部を使うにもデメリットが付くようになったんですよ」
「なるほどな…。それは難儀だ」
「一応、デメリットが付かないものも有りますけど。威力がイマイチだったり、強くても並の魔女にしか効かないんで、結局はさっきみたいに──」
「自爆技や高火力高負荷の技に頼るしかない…と」
「…そう言う事です」
デメリットが吐血だけで済んでるのは幸運なのか、はたまた不運なのか、俺には分からない。
少なくとも言えることはただ一つ、俺の固有の能力は、弱体化などない万全な状態でなければ、扱い切れる代物じゃない…と言う事だ。
お陰で全ての技が自傷技や自爆技に近い。
…だけど、それを持ってしても、先程の魔女には敵わなかった。
通算二度目の戦いだったと言うのに、仕留め切れなかったのである。
一度目の戦い、南のテリトリーの取り纏めである、都ひなのさんとやった時も良い所までは行ったがそれまで、仕留め切るには至れなかったのだ。
魔女の進行方向的に、次は西のテリトリーに入って来る。
もし、新米の子が当たったりしたら、逃げる事すら叶わない…そんな結末が待っている。
それだけは…それだけは何としても阻止しなければならない。
一応、明日は鶴乃以外全員集合出来る。
今回の魔女への保険として、予定を空けておいてもらったのだ。
本音を言うなら、俺はあの魔女をみんなと戦わせたくない。
勿論、みんなの強さを信頼していない訳じゃないが、如何せんこれまでの魔女とは格が違う。
五人なら勝てる……なんて甘い考えじゃ、誰かが犠牲になる可能性は十分にある。
…気を、引き締めなければいけないようだ。
「…取り敢えず、今日はこれで。撃退は出来たので、東のテリトリーはもう大丈夫だと思います」
「了解した。正直助かった、自分一人でどうにかなる相手ではなかったからな」
「困った時お互い様でよ。それじゃ…」
十七夜さんと別れて、俺は帰路に着く。
運命の日は、刻々と近づいていた。
──────────────────────
翌日、逃した魔女を叩く為に集まった、鶴乃以外のみかづき荘のメンバー。
だが、戦いが始まり長引くにつれて、戦況が悪くなっていった。
明らかに、昨日より強い。
…やられたっ!
昨日逃した後に、相当数食われたんだ…。
だから…目に見えて強い。
みんなは何回もやり合ってないから、不思議に思わない。
強いて言うなら、何時も戦っている魔女より強いな…と言う程度。
メルのソウルジェムは穢れが溜まりかけ、最後のストックであるグリーフシードで回復している状態。
…そして、その護衛としてももことみふゆさんが付いている。
正直に言おう、俺とやちよさんじゃ火力不足だ。
幾らコンビネーションが良くても、フィニッシャーまであと一歩届かない。
だけど…ここで諦める訳には…いかない!!
「結翔、右から攻めなさい! 私は左から!」
「はい!」
両サイドから、魔女に攻撃を仕掛ける。
魔女は巨大な黒い腕で、手には白い模様が描かれており、周囲にはトゲを持った肌色の腕が生えている。
使い魔は、黒い蜘蛛かノミのような姿をしており、細長い口と縞模様の尻尾を持っている。
両方とも異形と呼ぶに相応しい。
進行に邪魔な使い魔を、俺は戦斧で蹴散らしながら、魔女への最短ルートを走る。
やちよさんも俺と同様、最短ルートで魔女へと走る。
同時に着いたのを良い事に、俺とやちよさんは連携攻撃を仕掛けた。
戦斧の長所である重い一撃を入れるため、空中で体ごと回転させて遠心力を上乗せした一撃を。
槍が武器であるやちよさんは、追加の槍を魔力で編み、叩き込む。
少なくとも、この一撃がまともに効いていれば、気絶とは行かずとも怯みくらいには──
そう思いかけた瞬間、俺は魔女本体である黒い腕に吹き飛ばされた。
結界内が黒い森林だったのが幸いして、木に衝撃を分散させて遠くまで行かずに済んだが……
最悪だな、右腕がエグい曲がり方をしている。
グロテスクなB級映画に良くありがちな、あらぬ方向に曲がった腕。
アドレナリンがドバドバ出てるお陰か、痛みはそこまで感じないが…右腕が使えなくなったのは痛い。
数分すれば回復するが、その数分を稼ぐのが、この魔女相手には至難の業だ。
…後先考えず、マジカルダイナマイトで爆発して無理矢理治す手もあるが、長引きそうな今の戦いで、それが悪手だと嫌でも分かる。
「でも、休んでる暇はねぇよな!!」
震える体にムチを打ち、魔女の元に戻る。
戦斧はもう使えない、片手じゃあれは厳しいからな。
徒手空拳で使い魔を退けながら戻ったタイミングは──最悪な事件が起きた直後だった。
倒れ伏すやちよさん、それを庇うように前に出て、魔女の攻撃を受けた──肩代わりしたメル。
…良く見なくても、メルのソウルジェムが穢れていくのが分かった。
もう持たないと、直感的に理解した。
「メル!? やちよさん!?」
急いで二人に駆け寄る。
やちよさんは、俺の声で辛うじて残っていた意識を取り戻し、立ち上がったが……メルは起きない。
「…結翔、メルを連れて離脱しなさい」
「で…でも」
「命令よ! メルの命を優先! 私が時間を稼ぐ!」
「…すいません」
使い物にならない右腕ではなく、健在な左腕でメルを抱えて戦線を離脱する。
森林の影を移動しながら、使い魔をやり過ごして結界の出口まで急ぐが、その途中で聞こえる筈のない…メルの声が聞こえた。
気を失っていた筈なのに…もしかしたら、傷は深い所までいってないんじゃ?
俺がそう楽観視しかけたのも束の間、小さく震える声でメルがこう言った。
「…下ろして…です」
「は?! 何言ってんだっ! 今すぐグリーフシードで穢れを浄化しないと、お前がどうなるか!」
「…それでもお願いです。…下ろして…結翔くん」
この言葉で、俺は分かってしまった。
間に合わない…と。
でも、でも、諦め切れる訳ないだろ!!
無理でも無茶でも、やってみなきゃ分からない……何時もだったらそう言えるのに。
お前が…お前がそう言ったら、俺が何も言えねぇだろ!
そっとメルの体を下ろして、俺はぶちまけるように叫んだ。
朝の彼女の言葉が、嘘にしか思えなかったから。
「何が…何がラッキーデイだ!? 仲間守れても…死んだら…死んだら意味ねぇだろ!!」
「…ふふっ、そうですね。…でも、ラッキーデイですよ。だって、尊敬するリーダーを守れて、大好きな人の命を繋げてボクは幸せですから」
「…嬉しくねぇよ」
「…本当は──死ぬのは結翔くんだったんです。魔女の攻撃からやちよさんを庇って…それでソウルジェムが砕ける」
「嘘だ」
「嘘じゃ…ないですよ」
「嘘だ!!」
嘘だ、嘘の筈だ。
有り得ない、有り得る筈がない。
アイツの占いは絶対だ、俺が内容を知らない場合、俺が意図的に内容を変える為に動かない場合、結末が変わる事はありえない…その筈だ。
その筈…なのに、分かってしまう。
彼女が運命を──未来を変えられた理由が、分かってしまう。
想いだ、彼女は──安名メルはたった一つの想いで、俺の死という未来をひっくり返したのだ。
あの時、かなえが死んだ時出来なかった事を、彼女は想い一つでやってのけた。
それがとても嬉しくて、とても悔しくて。
…涙が溢れて止まらなかった。
なんだよ…なんなんだよ!!
こんなのってありか!?
ふざけるな…ふざけるなよ!!
俺が守る筈だったのに、彼女は守られる立場だったのに…なんでこうなるんだ!!
嬉しくて、悔しくて、哀しくて、辛くて。
グチャグチャに混ざった感情を吐き出すように、いつものように軽口を叩いた。
「ポンコツ占い師!!」
「酷い言い草ですね、バカヒーロー…」
遅過ぎた、何もかもが遅過ぎたんだ。
こんな軽口にさえ、安らぎを覚える程に、俺はコイツの事が──好きだった。
元々、似ていたんだ、俺たちは。
バカで、アホで、お人好しで、占いなんかで人を救えると信じてる。
根っこの所で繋がっている、だからトントン拍子で仲良くなって、お互いに惹かれた。
今すぐにでも、叫んでやりたい。
想いを伝えたい。
でも、それはダメだ。
ここまで、ここまで待たせておいて、やっぱり好きでしたなんて…許される筈がない。
ああ…クソ。
なんだよ、これ、前が見えねぇ。
溢れる涙が視界を塞ぎ、歪んだ像が映るだけ。
そう、像が映るだけなのに、分かる…分かるんだ、彼女が笑っている事が。
「何笑ってんだよ…」
「いやぁ…ボクの事、大切に想ってくれてるんだなぁ…って」
「当たり…前だろ」
「…じゃあ、最後のお願い…聞いてくれます?」
「何でも言え、叶えられる範囲で全力で叶えてやる」
「じゃあ──告白の返事、下さいです」
「…今更だろ」
「叶えてやるって言ったですよ」
「分かったよ…やるよ」
…俺もバカだな、ホントに。
コイツがこう言うの、なんとなく知ってたのに。
最低だよ…自分が屑にしか見えない。
冷たくなった彼女の体を抱きながら、俺は想いの丈全てを伝えた。
「好きだ…大好きだよ!! 俺だって…俺だって、お前とずっと一緒に居てぇよ!!」
「…えへへ…そっかぁ…大好き…か」
「そうだよ、大好きだよ! だから頼むよ、死ぬな!! 死なないでくれよ!! ずっと一緒に居てくれよ!!」
「やっぱり…ラッキーデイですよ。大好きな人に、大好きだって言って貰えて、尊敬するリーダーをを守れて、占いもハズレた。…ボク、最高に幸せです」
そう言うと、メルの瞼がどんどんと落ちて行く。
だけど、それに耐えるように、メルは言葉を遺す。
「あの日、君に会えてよかったですよ。みかづき荘のみんなと過ごせて良かった。たった半年ぽっちでしたけど…かけがえのない大切な時間です。ありがとう、結翔くん。ボクに、この感情を教えてくれて。…君が初恋の人で…良かった」
「……………………」
何も言えなかった、遮るなんて、出来なかった。
だって、最期まで笑顔だったから。
溢れ出ていた涙を必死に止めて、出来る限りの笑顔で彼女の言葉を聞いた。
そして、ソウルジェムは穢れきり、その形を変えていく。
……クソッタレな光景が目の前に拡がっていって。
形を変えたソウルジェムはグリーフシードとなり、そこから魔女へと変化した。
驚く程に冷めた頭が、冷静に状況を理解し、今まで出ていたヒントから真実へと辿り着く。
願いの果の結末に、辿り着く。
頭では理解出来た、目の前で見せられたんだ、当然だろう。
だけど、心が理解出来る訳がない。
理解できなくて、理解したくなくて、絶望が俺の心を叩き割った。
「…なんなのよ…これ」
やちよさんの声が聞こえたが、俺は無視した。
叩き割れた心を必死に拾っていたからだ。
一つ一つ、パズルのピースのようにはめていくが…足りない。
所々に穴が出来ている、ハリボテも良い所だ。
けど、立ち上がるには十分。
いや、十分過ぎた。
「やちよさん。…メルからの遺言です。尊敬するリーダーを守れて幸せでしたって」
「…何が…何がラッキーデイよ!? ふざけないで…ふざけないでよ!!」
ボロボロの彼女を尻目に、俺はメルだった魔女の元に向かう。
後ろにはももこやみふゆさんもやって来ていて、この状況に驚いている。
…無理もない、こんな真実受け入れろと言うのが無理な話だ。
…はぁ、どうして、どうしてだろうな?
どこで間違えたんだろうな?
自問自答をしながら、魔女へと向かい合う。
メルだった魔女は、一向にこちらに攻撃を仕掛けない。
まるで、倒されるのを待っているかのように。
…止まっていた筈の涙が、また溢れ始めた。
いっその事、怪物になってくれれば、やりやすかったのに…それも許してくれないんだな──お前は。
ハリボテの心を引っさげた俺に、まともな魔力のコントロールなんて出来やしない。
光だけを──ただただ光だけを右足に集中させる。
いつものように構えて、息を吐いた。
最期に、言えなかった言葉を添える。
「メル。お前は俺の光だった。いや、みんなが俺の光だった。その中で、お前は特別明るくてさ、眩しいくらいだった。だから、すぐに終わらせる」
言い終えた俺は、マギアである『
光の魔力だけを纏った右足が魔女に当たると、次の瞬間には辺りが眩い閃光に包まれて、それが晴れた時には魔女は消えていた。
代わりに、魔女が居た証として、一つのグリーフシードが落ちている。
俺は無言でそれを拾い上げ、メルの下に持って行った。
そして、二度と動くことのない彼女の手に、それを握らせる。
「お前のだぞ…メル」
──やちよ──
結翔はメルにグリーフシードを握らせると、スタスタとこの結界の魔女が居る下へと向かった。
心の整理なんて着いてない…けど、結翔を一人行かせる訳にも行かなかった私は、彼を引き止める。
「結翔、待ちなさい! 何処に行くつもり?」
「魔女を…殺しに」
「あなた、さっきの見たでしょう!! あの魔女も、私たちと同じ……」
「だからこそですよ。これ以上、呪いを振りまく前に殺してあげないと」
魔眼を発動したのか、右眼が水色に光っている。
…だけど、その眼からは、明確な殺意を感じた。
私はそれを見て、結翔を止める事が出来ず、行かせてしまった。
仲間の二度目の喪失は、私たちに回復不可能──いや、修復不可能な亀裂を産んだ。
次回もお楽しみに!
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