こころ「魔眼の能力自体は、完璧には把握してないけど。凄いやつばっかりだよね」
結翔「俺からしたら、まさらやこころちゃんに笑顔の事バレた方が印象に残ってるよ」
まさら「あれは、貴方が分かり易いから悪いのよ」
こころ「……ノーコメントで」
結翔「う〜〜〜!!もう良いよ!それじゃあ、五話をどうぞ!」
※一月二十七日に一部改稿しました
──ももこ──
結翔の家でこころちゃんやまさらちゃんとの同居が始まって二週間の時が経った。
最近は、「そこそこ上手くやれてる」と本人は言っているが、目の下に隈を作っている所を見ると、本日は寝不足らしい。
いや、偶に登校途中に隈を良く見る事から、睡眠事情はよろしくないみたいだ。
何せ、私やかえで、レナが何か言っても反応が薄い。
「──って思うんだけど、ユート君はどう思う?」
「…………悪い、ぼーっとしてて聞いてなかったは。何の話だ?」
「アンタ、最近ちゃんと寝てんの?」
「だな。今日の隈は特に凄いぞ」
最初に結翔に話題を振ったのが中等部二年の
その解釈に間違いわななく、怖がりで心配症だ。
だが、優しく仲間思いで、アタシやレナと言ったチームのメンバーのためには、困難にも立ち向かって行く勇気があったりする。
次に、続くように呆れた言葉を吐いたのが中等部三年の
その解釈は、親しくなるまでの誤解であり、本当は自信のなさを隠しているだけ。
不器用なだけで、仲間のアタシたちの事をしっかりと見てくれて、思いやってくれる。
そんな二人にとって、結翔は兄のような存在であり、遠慮なく寄りかかれる友人や良き相談相手。
だからこそ、二人が心配するのは当たり前だし、アタシだって心配する。
「昨日は何やってたの?」
「……あー、休みだったから、まだ揃ってなこころちゃんとまさらの日用品買いに行って、丁度いいからと思って外で昼を食った。…で、帰りに何故か突然現れた魔女を倒して、次いでに変質者もとっ捕まえた」
……あれ?
アタシの勘違いか?
途中までは、普通だったのに後半が少し可笑しかった気がする。
いや、後半と言うより最後のやつだ。
魔女の次いでに変質者って……なんで、そこで変質者が出てくるんだよ!?
「…のは良いんだけど、報告書作るの頼まれて、作って事務所に持ってったら書類整理の仕事も追加されちゃってさ……。帰って来たのが夜の十二時過ぎで、ご飯食って勉強してたら寝るの三時過ぎだった」
「レナ、色々ツッコミたいけど面倒臭くなってきた…」
「大丈夫だレナ…私も同じ気分だよ」
「私も、何だかいつも通りだけど、流石に頑張り過ぎだと思うよ?」
三人中二人が揃って頭を痛そうに抱える中、残る一人であるかえでは心配そうな瞳で結翔を見つめた。
身長の関係的に、かえでは下から見上げる形で結翔を心配そうな顔を見せる。
妹のような存在から受ける心配そうな上目遣いは、存外答えるらしく、結翔は苦笑いしながら呟くようにこう言った。
「平気平気、ここ一年は風邪ひいてないし。幾ら不健康体になっても、風邪なんてひかないさ!」
……フラグだと、その場の全員が思ったし、それが当たると私はなんとなく信じていた。
まぁ、翌日になると結翔は、予想通り三十八度越えの風邪で休んだが…。
──結翔──
…体がだるい。
頭は痛いし、喉はイガイガするし、体中熱いし。
風邪の三拍子が揃ったような体調。
鉛のように思い体の所為で、まともにベットから起き上がれず。
こころちゃんが起こしに来てくれるまで、ひたすらに呻いているしかなかった。
「三十八度七分。完璧に風邪ですね。学校にはお休みの連絡入れておきます」
「ゴホッゴボッ! …助かるよ。…ああ、あとは俺の部屋あんま入んないで。風邪、移すと悪いから」
「嫌です。だって、中に入らなかったら看病できないじゃないですか?」
もしかして、こころちゃんも休む気か?
幾ら同居してるからと言って、まだ他人も良い所だ。
俺自身、出来るだけ家族と接しているような雰囲気で振舞っているが、彼女達がどうかは分からない。
程度によるが、魔眼が有れば一日も経たずに熱は下がる。
生と死の魔眼…他者に生命力を分け与え、使用者から死を奪う。
文字通り、他者の傷を生命力を与えることで癒し、自分の体の自然治癒能力を格段に上げる事が出来る。
契約してないフェーズ1の状態でも、即死レベルの怪我でなければ治すことは可能だし、俺自身も即死級の怪我を負わなければ死なない。
因みに、この魔眼は自分のソウルジェムの穢れを浄化出来た。
理由に不明点は多いが、体の自然治癒の中に含まれているのか、はたまた、魔眼の発動条件的には他者なのだろう。
……今はそんな事どうでもいい。
兎に角、俺の風邪はすぐに下がるので、こころちゃんやまさらを休ませる訳にはいかない。
…まさらが休むかは知らないが。
「こころちゃん…大丈夫だから。テキトーにご飯でも置いといてくれれば、それ勝手に食って薬飲んで寝とくし」
「ダメです! 私たちは今や家族同然ですから。助け合うのは当然ですし必然です!」
「………それじゃ、お言葉に甘えようかな。看病、お願いしてもいい?」
こころちゃんは案外頑固だと言う事が分かった。
それに、こころちゃんの想いも。
良かった、気持ち悪がられてはなかったみたいだ。
「はい! 喜んで!」
気持ちのいい笑顔で返したこころちゃんは、足早に部屋を出て下に降りて行った。
すると、五分もしない内に階段を上がってくるスリッパの音が聞こえた。
何か聞き忘れた事でもあったのだろうか、意識が薄いのであまりしっかりと返せるか分からないが、そこら辺は我慢してもらおう。
ガチャリとドアを開けて……まさらが中に入って来た。
…見当違いだったらしい、まぁ…まさらなら問題ない。
「風邪らしいわね。症状は?」
「頭痛、喉の痛み、体のだるさ…かな。…ゴホッゴホッ!」
「…そう。私も学校を休むわ。丁度、掃除と洗濯の当番は私だし。貴方には世話になっているしね」
「………………」
「鳩が豆鉄砲食らったような顔ね。何か可笑しかった?」
「いや…別に」
以外、そう思ったのは胸の内に秘めておいた方がいい。
失礼に当たるだろうし、それに────
(今言うんじゃなくて、ちゃんと元気になってからの方がいいだろうしな…)
その後のことはあまりしっかりとは覚えていない。
少し覚えている事と言えば、こころちゃんにご飯を食べさせてもらったことぐらいだ。
──こころ──
結翔さんに朝ごはん兼昼ごはんを食べさせて一時間ほど。
私は一人、結翔さんの部屋で、机の椅子をベットの近くに移動させて、彼の看病をしていた。
おでこにある濡れタオルが乾いたら、桶の水で濡らしてまたおでこに戻す。
汗を拭くのは、少し恥ずかしくて出来ずにいたが……結翔さんの寝顔は苦しそうだ。
服が汗でベトベトの所為…なのかな?
羞恥心より、汗を拭いて上げたいと言う良心が勝り。
私は、汗拭き用に持ってきていたタオルを手に取った。
「ご…ごめんなさい」
出来るだけ優しく丁寧な手付きで、寝間着の上を脱がし、タオルで拭いていく。
体の方は見ないようにしていたつもりだったが、偶然にも私は見てしまった。
いや違う、嫌でも目に入ってしまうほど、大きな傷があったのだ。
胸、腕、腹、背中。
普段見れている、顔や手首や手のひらの辺りに傷はないが、そこ以外の殆どの場所に傷があった。
胸にある大きい傷が一番目に付くが、それ以上にも大小様々な傷が視界一杯に入ってくる。
…生と死の魔眼のお陰で怪我を負っても治ると言っていたが、これはもしかて……
「生と死の魔眼に目覚める前に、出来た傷…ってこと?」
結翔さんによると、魔眼が目覚める時期はてんでバラバラだったらしい。
確か…強い感情の波が、魔眼を目覚めさせる
……いや、今はそれより看病が先!
私は、結翔さんの体が冷えてしまわぬように、さっさと汗を拭いて新しい上着を着せた。
…下の方は……流石に手を出せなかったので放置せざるを得なかった。
だって、一応家族のような存在であろうとも、下の方を見るのは……その……ええと……あまりよろしくない事なんじゃないかと思ったからだ。
少し時間が流れて、時刻は二時過ぎ。
朝ごはん兼昼ごはんのお粥を食べさせてから約四時間の時が経った。
看病はどちらかと言うとされる側だった私は、疲れの所為かウトウトとし始めていたが気合で耐えていた。
どうしてか、眠ってはいけない気がしたからだ。
そして、私の勘は見事に当たって見せた。
結翔さんが魘され始めたのだ。
汗を拭いたあとからは、気持ち良さそうに眠っていたのに。
突然、呼吸が荒くなり、汗がぶわっ吹き出している。
…最後に、小さい声で何か言っていた。
何かして欲しい事があるのかもしれない。
そう思って、息が当たる距離まで顔を近付けて耳を澄ませた。
ボソボソ声だったのが、次第に鮮明になり……ようやくしっかりと聞こえた時、私の耳は名前のような単語を聞き取ることに成功した。
「……メル……かなえ……ごめん。……ごめんなさい」
弱々しく、それでいて悲しそうに、彼は──結翔さんは誰かに謝っている。
体の傷と言い、今の発言と言い。
藍川結翔と言う人間には、踏んではいけない地雷が道端の小石のように転がっている。
踏むなと言う方が無理だと思うレベルで、結翔さんの地雷──もとい心の傷は多い。
…それが、自分のことのように辛くて…苦しくて…。
必死に手を握り締めた。
家族のように接してくれる結翔さんに、私は惹かれていく。
温かさが嬉しくて、家族と似ているのに違くて……
…彼が作り笑顔を貼り続ける理由が知りたくなった……だからまさらの質問を止めなかった。
まぁ、最後には言葉のキツさから止めてしまったが…。
それでも、もっと…もっと、藍川結翔と言う人間を知りたくなった
だから────
「…もっと親しくなれたら、その傷についても教えて下さいね?」
そう言って、眠っている彼の手を握り続けた。
手を握ってから、ほんの少しだけ。
顔が柔らかくなったのは気の所為じゃないだろう。
そして、私は自然と瞼を下ろした。
──結翔──
目が覚めると、夕暮れ時。
外ではカーカーとカラスが鳴いている。
意識が薄ぼんやりとするが、朝よりかは体が楽になったことぐらいは分かった。
それと、自分の左手がこころちゃんに握られるいる事も、何となくだが分かる。
…過去のトラウマとも言っていい夢を見ていた。
だから、多分魘されていたのだろう。
それを見て、心配してくれたのだろうか?
確定ではないし、理由は定かではないが……
(そうだったら、なんか嬉しいな…)
縮まる距離が嬉しくて、だからこそ怖くなる。
魔法少女は命懸けの戦いを日常的に強いられる。
最も、それは奇跡の対価故、しょうがないと言えばしょうがないが……
キュウべえのやり方は詐欺に近い。
感情がないからこそ出来る芸当だ。
感情が在れば、どこかに綻びが生じる。
(守らないと…)
自分の手が届く全ての人を。
自分が落とさないで居られる限界まで守り抜く。
二度となにも失いたくないと願うなら。
でも、その覚悟を固めるより前に、やるべき事がある。
それは──
「ありがとね、こころちゃん…とまさら」
お礼だ。
父曰く「これが出来ない奴は永遠に半人前だ」とのこと。
…まぁ、出来た所で未だに半人前なのだが……
取り敢えず、それは良いだろう。
問題は別にある……とても悲しい問題が一つ。
「…こころちゃん、手……離して」
素の状態でも存外握力が強いのか、グッと握り締めてる所為で中々離れてくれない。
強く動かすとこころちゃんを起こしてしまうので何も出来ない…。
結局、ももこやレナ、かえでたちが見舞いに来るまでの十数分、このままでいたのは言うまでもない筈だ。
次回もお楽しみに!
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