しぃ「今回は文字数多いので、、目が痛くなったらごめんなさいね」
結翔「詰め込みすぎなんだよ。もうちょっと小出しにすればいいのに」
まさら「そうよ、一万字に届いたら分けるとか、出来るでしょ?」
こころ「ま、まぁまぁ、頑張って書いてくれたんですから…」
みふゆ「ワタシの出番がぁ……」
ももこ「色々言いたい人も居るけど、五十四話をどうぞ!」
──まさら──
魔女を倒して結界を出てきた時には、既に外の戦いは終わっていた。
…彼が、結翔が一人で終わらせていたのだ。
周りの惨状からして、あまり手加減はしなかったのだろう。
微かに残る、何かが焼け焦げた臭い。
チラリと、結翔を一瞥するが、特に変わった様子はない。
あくまでも、いつもの彼。
「由比君と粟根君の現状と、居場所は分かった。移動しながら説明しよう。…時間がないんだろう?」
「そうね…。急ぎましょう」
「はい…。それで、場所はどこなんですか?」
「うむ、自分の地元だ。大東区の観覧車草原に居る。まぁ、邪魔な箱物の名残だがな」
そう言うと、和泉十七夜が先頭に立って移動を始めた。
移動の最中に聞いた話では、どちらも洗脳されたまま、鶴乃はウワサを守る為にウワサの一部に、こころは巴マミと同じくウワサを纏う実験体にされたらしい。
なるほど。
アリナ・グレイの言葉通り…か。
『沢山殺して貰う』、つまりは遊園地のうわさに鶴乃を組み込んで、客として来たものを殺していく…。
恐らく、こころは外で行く手を阻んでくる。
…率直に言って、こころに力技だけで押し勝つのは至難の業だ。
技術があっても、攻略には時間がかかる。
耐久戦、その一つに限れば、彼女は魔境と言ってもいい神浜でも、トップを目指せる。
走りながらではあるが、七海やちよと環いろはが連絡をとって、二葉さなと深月フェリシアに増援を頼んだ。
黒羽根の数を考えれば…増援は必須。
私の勘では…確実にマギウスの一人が出しゃばってくる。
「……分かった。伝えておくね」
「何かあったの?」
大東区に入って、観覧車草原まであと少し…そんな時に、仲間との電話を切った環いろはが、焦りが見える表情で言った。
「あの、うわさを聞いた人がもう動き出してるみたいです!」
「はぁ!? ちょっと、早すぎるだろ! って……」
「徹夜する気か…? バカ野郎! 余計時間が無くなりやがった…!」
「…なら、急ぎましょう」
「はい!」
何とかできる限界など、とうに超えている。
余裕なんてものはない、虚勢でどうにかしていたが、それも持たなくなってきた。
文句を吐き散らす結翔から、色濃く焦りが見て取れる。
先程よりスピードを上げて、目的の場所を目指す中、増援として呼んでいた、二葉さなと深月フェリシアが合流。
「おーいーつーいーたー!」
「お待たせ…しました…!」
「フェリシアちゃん! さなちゃん! ありがとう、ふたりとも来てくれて」
「おう、さっさと鶴乃とこころ助けようぜ! もう元気だからな!」
「はい、元気ですから…!」
…疑う訳ではなかったが、本当に元気らしい。
昨日とは比べられない程に、顔色は健康そうだ。
洗脳の影響もここまでくれば、流石にもう残っていはいないだろう。
安心しきるのも良くないが、一応は仲間だ。
疑うばかりでは意味がない。
「ふふっ。これで頭数は揃ったわね。来てくれて助かったわ。天音姉妹が言ってた通りうわさが重要なものだと、激戦になるって思ってたから」
「おう! バリバリのドンだっ!」
「でも…そんなに危険なんですか…?」
「自分が七海に付いたのはあちらも想定外のはずだからな。マギウスと幹部勢揃いなんて可能性もゼロとは言えん」
「それってかなり不利なんじゃ…」
表情を曇らせる二葉さな。
彼女の言う通り、幾ら雑兵と言えど数が集まれば、将を討ち取ることも難しくない。
数、その一点だけで言えば、私たちは不利も不利だ。
加えて、マギウスも居るとなると、対応を間違えた時点でゲームオーバー…なんて事も有り得る。
和泉十七夜も同じ意見だったのか、険しい顔付きで答えた。
「二葉君の言う通り。全ての戦力を一点に集中されたら…ひとたまりもないだろうな。羽根とはいえ、積もれば山になる下手をすれば呑まれるかもしれん」
「だけど、今なら間に合うわ」
「羽根が集まる時間が無いから…」
「その通りよ、私生活があるし、市外の子も沢山いるはずだからね」
「…けど、多くても関係ないわ」
「だな、邪魔な奴らは蹴散らして、鶴乃とこころちゃんを取り戻す」
「短期決戦上等だよ。どっちみちタイムリミットは夜明けって決まってるんだからさ」
ももこの言う通り、タイムリミットは決まってる。
だったら、多かろうが少なかろうが関係はない。
時間内に助け出して、それで終わりだ。
…絶対に失敗は許されない。
失敗したら、それは関係性の崩壊を意味する。
結翔のマギウスに対する印象は今でさえ最悪なのに、今回の件が成功すれば……彼は確実に許さないだろう。
視界に入った瞬間に、死が決定する。
それだけは、阻止しなければ…。
未来の事を考えて意識が飛んでいた私を、現実に引き戻したのは、七海やちよの言葉だった。
「そこで、人の割り振りについてなんだけど。『みふゆ、灯花、アリナ、粟根さん、羽根』に対しては5人であたって。『遊園地のうわさ』に対しては3人であたりたいわ」
「その、うわさには誰が入るんだ?」
「私とやちよさん…あと、結翔さんで行こうと思います」
「……………………」
「分かってちょうだい、結翔。遊園地のうわさの強さが分からない以上、オールマイティに動けるあなたがこっちにいて欲しいの」
口を一文字にして黙りこくる結翔。
悩んでいる内容は…分かりやすい。
どちらを助けるべきか、悩んでいるのだ。
…はぁ、全く以てしょうがない、優柔不断なヒーローだ。
私は立ち止まる彼の背中を蹴飛ばすように、言い放つ。
「こころは私が何とかする。鶴乃は貴方が何とかしなさい」
「…悪い、頼んだ」
「決まりね。鶴乃を助ける方法は、今の所、大元のウワサを消す以外思い付かないわ」
「ですね…」
「でも、やるしかないでしょ? こうなったら…!」
その後、和泉十七夜の、二葉さなと深月フェリシアに対する自己紹介が入り、それから数分の間に目的の場所に辿り着いた。
おまけとして、魔法少女の反応付きで。
──結翔──
観覧車草原。
数度しか来た事がないが、忘れるのが難しい光景が広がっている。
何せ、パッと見るだけではただの草原なのに、奥にはデカデカと観覧車が建っているのだから。
異物感が凄い、俺はそう感じる。
だから、忘れることが出来ない。
「ここに、鶴乃やこころちゃんが…」
「辿り着けば遊園地のうわさに入れるのかと思ったけど、入口は他にあるようね…。うわさの入口…どこに…」
「
「遠くに見える観覧車…。遊園地のうわさなら、観覧車に名残があるし。あそこがちょっと怪しいと思いませんか?」
「だな、移動してみるか…」
ももこの言葉を合図に、俺たちは先に進もうとしたが…思ったようには進ませてくれないらしい。
白羽根と黒羽根が、行く手を阻む壁になるようにゾロゾロと現れた。
「悪いがここは我々で守らせてもらう」
「白羽根」
「……………………」
「おいおい、黒羽根のヤツも…。予想してたとはいえ、結構な数でお迎えだな…」
「喜んで迎えてくれるみたいで嬉しいよ、全く。……にしても、コイツらを…分かってんのか? 今回のうわさの事」
「救われることだけを望んで、考えることを放棄した輩だ。知り得るはずがない」
「何を話している? 引き返す気になったか?」
「…ここまで来て、引き返す質に見えるか?」
全員が変身した状態で、武器を構えている。
これを見て、引き返す気に見えるなら、どこかで気が狂ってるんじゃないか?
そう軽口を叩きたいが、正直、この数を蹴散らすしていくのは面倒だ。
ももこもそう思ったのだろう、好戦的な顔付きはそのままに、ため息を吐いた。
「…初っぱなからコイツらだと、奥にはマギウスが居そうだな…」
「やっぱ、あの怖いヤツいんのかよ…」
「引き返さないなら、こちらからいくぞ」
「はい…」
「ふっ…。知った魔力をいくつか感じるな」
「こっちもですよ…。最悪の気分です」
「そうか…。まぁ、ここで無駄に足止めを食らうこともないだろう。元仲間も混ざっているだろうし。ここは、自分が受け持つ」
「いいのか?」
『元』が付くとは言え、仲間だ。
やり合うのは、苦しいものもあるだろうに。
申し訳ない気持ちが溢れてくるが、十七夜さん覚悟を無駄には出来ない。
時間は一分一秒でも惜しいのだ、先を急ごう。
「どのみち誰かが当たる必要があるからな」
「すいません。頼みます」
「お願いするわ、十七夜」
「うむ、頼まれた」
そう言い残して、俺たちは走る。
後方では、数秒もしないうちに、戦いの音が響き出した。
負ける…なんて事は有り得ないが、怪我が少ない事を祈ろう。
思いは彼方に、目的地へと足を進めていく。
少しばかり歩き辛い草原の先、ようやく目的の観覧車へと辿り着いた。
「この辺りに、うわさが…」
「反応は…あるな」
「そうね…。だけど、それだけじゃないわ」
「灯花ちゃんたち…」
「もう、目の前ね…」
「目の前っていうか、頭上なんですケドっ!」
ありがとな、宣言してくれて!!
降り注ぐ、緑色のキューブ。
一つ一つが、魔法少女の体に風穴を開ける威力を持っている。
まぁ、宣言してくれたお陰で、全部破壊の魔眼で消せたんだがな。
「やってくれるわね、しかも…この攻撃」
「あのヤべーやつだっ!」
「アリナ…」
「ホント、ムカつくキンパツ、それに透明人間も…。邪魔しないで欲しいんですケド、ユウト? …そこにいるアサシンもだよねぇ、アリナの作品を壊してくれちゃってさぁ…! アリナ的にバット過ぎだヨネ」
「ほんと、今回は静かに全部終わると思ったのにねー。最強さんのお仕事も、あと少しで終わるのに」
「ワタシの責任です…。申し訳ございません…」
「まっ、良いよ? 実験の成果…見たかったし。一応、みふゆに任せてたんだから、ちゃんと反省してよねー」
そう言いながらも、里見灯花はクスクスと笑っている。
お礼を言いたかったのか、みふゆさんのことを呼ぼうとしたフェリシアの口を塞いでおく。
…実験の成果ねぇ。
さっきから感じる、異常なまでの魔力と……殺意。
方角は分からなくもないが、目の前の敵から目を離すのは悪手だ。
千里眼を使うのも、意識を二分させる行為なのであまり向かない。
二兎追うものは一兎も得ず…だ。
今は、目の前に集中する。
「はい…」
「ま、どっかのピーヒョロ姉妹と違って初めてのことだし、それでギルティーって言うのはちょっと酷だヨネ」
「酷いにゃー。わたくしだって一回は許すよ。それに、ここが見つかるっていう限りなく低い可能性を想定して、最強さんを使ったのが無駄にならなくて良かったしねー。予備の我慢さんも居るし…。くふっ」
「そういうことかよ…。わざわざアタシらが手出ししにくいように…」
「さーどーかにゃー?」
「不快ね。私の友人を予備扱いなんて。…反吐が出るわ」
まさらの冷たい言葉とギラついた眼光が、里見灯花を射抜くが、彼女は意にも返さない。
なんだ、心が鋼で出来てるのか?
それとも、切れないこんにゃくか?
イラつかせる要素満載な、どこまで行ってもクソガキとしか言えないヤツ。
いろはちゃんの懇願も…額縁に収めても良いくらいの綺麗な笑顔で却下している。
…勿論、遺影の額縁だけどな。
「みんなには遊園地で幸せになって貰わないとー。そして帰りたくなくなってー、でも入場待ちはいっぱいいるから強制退場してもらっちゃうの。この世から! その時の感情の起伏って凄そうでしょ!? とーってもエネルギーが得られそうでしょー!? くふふっ」
「それって、みんなを殺すってことじゃない!!」
「じゃないと、エネルギーが足りないし…」
「…いろはちゃん、止めとけ。話が通じる相手じゃない、平行線だ。無駄に時間を使う余裕は…俺たちにない」
「ハイハイ、ユウトがセイドした通り。ここから先はアリナたちを倒してから行ってヨネ」
「もー、せっかく時間を引き延ばそうと思ったのにー! …我慢さん、仕留めちゃってー」
「──っ!? まさら、二人で行くぞ!」
いつの間にか頭上に飛んで来ていた、我慢さんと言われる魔法少女を、俺は全力で開けた場所に蹴り飛ばす。
…彼女が誰か分かっている、だが加減をしている余裕はない。
久しぶりに感じた本気の殺意…そして、ウワサの魔力。
蹴り飛ばした場所の先に居たのは、天使──そう形容するしかない姿のこころちゃんが居た。
マミちゃんの聖女の次は天使か…センスが良いよ全く。
殺戮の天使…って奴か?
純白の翼を背に生やし、頭上には天使の輪が浮いている。
魔法少女としての衣装も、ウワサの影響か明るい黄色ではなく、眩しいほどの純白になっていた。
当たりはつけていたが、まさか倒した筈の『我慢少女のウワサ』を纏ってくるとは……
相性は抜群だろう……なんで『我慢
天使のように優しいって意味か?
安直だが、そんなのしか思い浮かばない。
…ただ一つ、言えることがあるなら、目の前に居るこころちゃんは危険だ。
魔法少女でありウワサ、その強さはマミちゃんで実感している。
「まさら、お前一人で勝てんのか?」
「やると言ったらやる。心配してる余裕があるなら、早く離脱してうわさの方に行きなさい」
「行かせませんよ…解放の邪魔はさせません!」
「解放で色んな人が犠牲になるとしても?」
「はい。だって、結翔さんは頑張ったじゃないですか!? そんな人が傷付くなんて、そんな人が悲しむなんて間違ってる!!」
言葉からして、俺の事を想ってくれてるのは分かる…分かるけど。
洗脳で捻じ曲げられた想いで助けられても、俺は嬉しくないし……こころちゃんにそんな事言って欲しくなかった…それなのに。
武器である可変型トンファーがこちらに向けられる。
射撃モード…やばい!
俺とまさらは急いで左右に避ける。
空気が焼けるような音が耳に届いた瞬間、先程まで居た場所は草が焼け焦げ地面に小さい凹みができていた……いや、凹みと言うよりはクレーターだ。
当たったらタダじゃ済まないのは、今ので証明された訳だ。
「本気…みたいね」
「避けるのが正解だな、ありゃあ、魔力でバリア張ってどうにかなる威力じゃない」
「結翔さんもまさらも眠って。私は…二人と戦いたくない」
「なら、戦わないで欲しいわ…全く」
ダガーを構えるまさらは、顔を顰めて、どう攻撃するべきか悩んでいる。
俺も、いつものように剣を編んで構えるが、攻め辛い。
固有の能力が──固有魔法が全部使えれば…なんて、無い物ねだりをしながら正面切って斬り掛かる。
攻略方法は、戦いながら考える。
足を止めたら、間違いなく死ぬからだ。
俺が距離を詰めたのを機に、こころちゃんは可変型トンファーを近接モードに変えて、俺の全力の振り下ろしを受け止めた。
さっきと言い…今と言い、全力でやった筈なのに、ダメージを与えられる気配が一切しない。
「っ!?」
「見えてるよ、まさら!」
恐ろしい事に、まさらが透明化状態で近付き、死角から攻撃を仕掛けたと言うのに、それに反応して跳ね返した。
しかも、きっかり一発腹に入れてる。
透明化状態は意地でも解除してないようだが、見えている…その言葉がハッタリではない限り、まさらは安全なんかじゃない。
だと言うのに…このタイミングで、その声は響いた。
「いろは、結翔、こっちよ!」
「は、はいっ!」
「クソっ! …今行きます!」
少なくとも、一撃入れてから!
いつものように右足ではなく──右の拳に魔力を集中させていく。
他の属性魔力を混ぜる余裕はない。
赤──豪炎だけを右手に纏わせ、可変型トンファーを盾に、防御姿勢をとるこころちゃんにぶつける。
マギアに近い攻撃だった為か、彼女は防御姿勢のまま後ろに下がっていく。
足を無理矢理地面にめり込ませて、吹っ飛ばされるのを回避したって訳か……
本当のこころちゃんでも、ここまで俺の攻撃を耐えた事はない。
まさらに任せるのは…不安が残るが…任せるしかない。
「まさら、あとは任せた!」
「…っ、えぇ、任されたわ」
「っぅ、行かせなーー」
「貴女の相手は私…よ。…悪いけどね」
「まさら…そこをーー退いて!!」
後方で激しくぶつかる二人を他所に、俺はやちよさんの方へ向かう。
やちよさんの後ろに続いて、ゴンドラの中に入ると──そこは遊園地だった。
ウワサの結界が遊園地になっている…という事だろうか?
地面のタイルは普通だけど、アトラクションの色合いとか流れる音楽とか……妙に気味が悪い。
「一応、入れましたね」
「…入り方も、鶴乃をウワサから剥がす方法も、みふゆが教えてくれたわ。フェリシアと二葉さんの時みたいに…」
「やっぱり…そうですか。みふゆさんも、今回の件は不本意だった…って事ですかね?」
「でしょうね」
「それで、鶴乃ちゃんを元に戻す──ウワサから剥がす方法って何なんですか?」
「ウワサから引き剥がすには、相当な量の魔力が必要になるわ。現に向かってる人を考えるともう時間も無いし…。私たちの魔力のことを考えても、多分、チャンスは一度ね…」
「一度きり…」
…どうするか。
無闇矢鱈に動き回って、鶴乃を探してる時間はないし。
それに…なんだ、思考が纏まらない。
魔眼はギリギリ使えるけど、精度も……落ちてる。
フェーズ1.5に上がった筈なのに…見辛い。
「…結構不味いですね。上手く頭が回りません」
「やっぱりうわさの中ね…なんだか急に意識がぼんやり…」
「はい、気を張ってないと、何か気力が削がれていくような」
「えぇ…」
「あれ、結翔! いろはちゃん! ししょー!」
その時、一番聞きたい声が聞こえて、一番見たくない姿が目に映った。
形だけで言えば、それは鶴乃だった。
だけど、決定的に違う。
この遊園地と同じく、鶴乃を構成する服や髪、瞳や肌の色合いは以上だった。
エメラルドグリーンの髪、緋色にも見える赤紫色の瞳、雪女のような真っ白な肌、そして緑系統で塗り直されたような服。
「鶴乃ちゃん…!?」
「つる…の…?」
「その姿…あなた本当にウワサに…」
「さんにんともキレーションランドにようこそ! って開園前なのに来ちゃダメだよ。さんにんともせっかちだなー」
「鶴乃ちゃん! あのね!」
「ここはね! みんなでワイワイ楽しむよりも、のーんびりするところなんだよ。何も考えないで済んで悩みからも解放されるって、とっても幸せでしょ!? さんにんはもちろん特別だから開園前でもノンビリしていいよ!」
いろはちゃんの声を遮って、鶴乃は──ウワサの鶴乃はキレーションランドの解説を始める。
対面したら分かる、少しづつ、少しづつ気力が抜けていく。
魔法少女の俺たちでこれなら…一般の人は?
…一日と持たずして、生きる気力すら持ってかれる。
「さっきの感覚、やっぱりうわさの影響だったんだ。こんなの普通の人が入ってきたら…」
「下手したら、一日持たずに……」
「鶴乃ちゃん!」
「ん? どうしたの? ノンビリしてていいよー? アトラクションは準備中だからベンチでノンビリしてもいいし、芝生にゴロンってするのもオススメだよ!」
「違うの鶴乃ちゃん! ここから出よう!」
「そうよ、一緒に帰るわよ、鶴乃!」
「あーわたしはいいよー」
間延びした声で返ってきたのは、紛れもない拒絶だった。
だけど、それだけじゃ引き下がれない。
俺たちがここに居られるのは、外の仲間が必死で頑張ってくれてるからだ。
そんな仲間の頑張りを無駄には出来ない。
それに、俺はみんなで帰る為に、ここに来たんだ。
「お前の家は万々歳だろ!」
「それに、鶴乃ちゃんは私たちのチームの一員なんだから」
「ううん、わたしは帰らない。だってね、わたしにとってここは、楽しくて安心できるところだから」
「だけど、お前はこのままじゃ──」
「引っ張っていってでも、ここから連れて帰るわよ!」
やちよさんがそう言った途端、鶴乃は物憂げな表情で頷いた。
背筋に嫌な汗が…流れる。
「結翔…やちよ…いろはちゃん。そっか…うん…分かったよ」
「良かった、それじゃあ」
「さんにんとも邪魔するんだ。遊園地の運営を…邪魔するんだ」
「え?」
「まさか…」
「それなら黙ってないよ。さんにんには大人しくしてもらうから!」
『│ツッタッラッタ♪ │』
軽快な音を鳴らしながら、メリーゴーランドに居たであろう機械仕掛けの馬が、こちらににじり寄ってくる。
考えたくはないが、鶴乃の意思でここに呼び寄せられた…そういう事だろう。
数も少なくない。
強さが分からない以上、倍以上の戦力とやり合うのは…嫌だが、そうもいかない。
鶴乃を取り返すのを邪魔する以上、倒すしかない!
「あなた、本当にウワサなのね…」
「余裕はないですよ! 構えて下さい」
「│パッパカタッタ♪ │」
小物のウワサ──馬が放ってきた攻撃は、一見するとなんの害もないカラフルな光だが、当たった瞬間、気力がごっそり削られて体を重く感じるようになった。
厄介だ…光線技なら、ウルトラマンみたいに、ただ痛いヤツだけの方が万倍マシだ。
痛みなら生と死の魔眼で和らげられるし、怪我も治せるのに……
気力を削られると、段々と思考もぼやけてきて、魔眼の効力が落ちる。
そのお陰で、概念の破壊も出来ない。
「二人とも、気をつけて…。さっきの光線、当たったら気力をごっそり削られる」
「って言っても、戦う以上、全部は避けられないわ…!」
ウワサの結界の影響か、徐々に気だるさが増していく体。
未来視の魔眼で幾ら未来を視ても、体が思うように動いてくれない。
戦う事に、体が上手く動かなくなって、数分もしない内に、俺たちは地面に膝を着いていた。
「はぁ…はぁ…。だめ…やちよさん…結翔さん…。頭がフラフラしてきた…」
「気力が削られると、こんなに力が入らなくなるのね」
「…体が重い…まともに動かねぇぞ、これ」
「ほらほら、さんにんとも。そんなカッカしちゃだめだよー。ノンビリまったりだよ。何も考えなくていいからね」
「鶴乃ちゃん…」
「オープンするまで一緒にお喋りでもしてよーよ」
「鶴乃…だめよ…」
「そんな怖い顔しないでよやちよ。あ、そうだ。これねオープンしたら出そうと思ってるメニューなんだ。ドリンクメニューとフードメニューがあってね。良かったらさんにんとも試して欲しいな。みんなー持ってきてー!」
目の前にメニュー表を置いた鶴乃は、そう言うと、パンパンっと手を叩いて、ウワサにフードメニューの一つと、ドリンクメニューの六つを持ってこさせた。
持ってこられたフードメニューは……鍋だった。
ドリンクメニューも麦茶に紅茶、オレンジゼリージュースにメロンソーダ、コーヒーにホットミルク。
……ドリンクが注がれているコップは見覚えのあるものばかり。
鍋だって、昔からみかづき荘で食べていた、寄せ鍋。
「ほら、これ、どうかなどうかな!?」
「これ…私のマグカップ」
「私のも…。それにこれ…どうして遊園地で鍋なの?」
「だって、ノンビリといえば鍋だって思わない?」
当然!
と言った様子で、彼女は笑顔で胸を張っている。
俺のマグカップも出してくる当たり、鶴乃の優しさを感じる。
懐かしさも、どこからか溢れてきた。
二度と思わないと思っていたのに、少しだけ昔に帰りたくなった。
「ホント、変だよ…おまえ」
「これじゃあまるで…」
「みかづき荘ですね。…ふぅ。やちよさん、結翔さん…。ノンビリしてちゃダメですね…。鶴乃ちゃん、帰りたがってる…」
「そうね、外のみんなも長くはもたないわ…」
「…だからやりましょう」
「えぇ、そうしましょう」
いろはちゃんとやちよさんが、鶴乃の為に言葉を尽くしていた。
…多分、俺の勘違いじゃなければ、鶴乃がここに居る理由はそのままだ。
安心できるから、居心地が良いから、ここに居る。
何も…考えなくていいから。
気を揉むこともない…楽園ってことか。
本当に、どこまで似た者姉弟をやればいいのか。
背負い込んで、背負い込んで、背負い込んで。
転んで…でも、まだ立ち上がれる。
みんなの知らない、俺だけが知っている、由比鶴乃。
……あの時、あの公園で話してたのは、お前の事だったんだよな?
お前が求める幸せは安心できるこの場所に……ずっといる事なのか?
違う、絶対に違う!
お前が今までやってきたことは無駄じゃない。
お前が今までやってきたことは無価値じゃない。
お前が頑張ってくれたから、今があるんだ。
もう、笑顔の仮面は被らなくていい。
救ってやる。
あの時は、無意識だったけど、あの時は知らなかったけど、今知ったから。
絶対に救う。
頼ってくれたよな?
あの日、あの公園で、お前は俺を頼ってくれたよな?
誰にも頼った事なんて、なかっただろ、お前。
本当に、不器用な頼り方だった。
「鶴乃。お前、だけだったんだ。俺の家族ごっこに付き合ってくれたのわ。やちよさんやみふゆさんみたいに、導くお姉さんじゃなくて、隣に立って手を引いてくれるお姉ちゃんだった。…お互い、作り笑顔は卒業しようぜ?」
「……結翔」
「ヒーローだからな。…今、救ってやる」
「わたしは…わたしは、救われたくない。結翔が救われて欲しい」
「こころちゃんもそう言ってたよ。…でも、俺は救われてる。みんなが傍に居てくれてるだけで、俺は十分救われてるんだよ」
救いなんていらない。
俺は
仲間が、家族が傍に居てくれるだけで、俺は良いんだ。
「結翔、一体どういう事なの!?」
「私たち……鶴乃ちゃんの事、理解出来てなかったって事ですか?」
「……そうなるね。俺たちが理解すべきなのは、いつも笑顔で知らぬ間に背負い込んで、傷付いていく由比鶴乃なんだよ」
「なんでも、お見通しだね、結翔には…。でもさ、わたしが帰りたいって思っても、帰れないんだよ。わたしはウワサだから、責務がある」
「んなのどうでもいいんだよ!! 大事なのはお前の意思だ。…助けてって言え!」
「わたしは…わたしは…! これ以上、結翔に背負わせたくない! ここに居てよ! ここに入れば、苦しまなくて済む、傷付かなくて済むんだよ!? みんなだって、悩む事もない、ずっとゆっくり…していられるんだよ?」
揺さぶり問い掛ける鶴乃。
だが、やちよさんも、いろはちゃんもウワサ側に着くことは無い。
「私、口寄せ神社の時からずっとずっと頼ってきた! でも、これからは頑張るから。鶴乃ちゃんがいっぱい甘えられるように、頼ってくれるように頑張るから! だから、帰ろうよ!」
「あなたにキツく当たってしまってごめんなさい。私の勘違いで、凄く苦しめたと思う。殴られたって構わない、リーダーとして私は最低だった。虫がいいことだって分かってる、だけど、お願いよ…戻ってきて!」
「…だ、そうだ。答えは出たか?」
「………………分かんない。分かんないよ? こんな時、どうすればいいのか、分かんない」
「簡単だよ」
無責任なバカヒーローに向かって、『助けて』って言えば良いんだ。
──鶴乃──
「メルさんは、魔法少女として立派に全うしたと思います。悲しいけど、鶴乃さんだけが責任を感じることじゃないんですよ?」
まだ、わたしが頼りないから、本当のことを教えてくれないのかな?
頑張らないと、もっと頑張らないと。
「もう私に関わらなくていいの、チームは解散って言ったでしょ」
不安になっちゃだめだ。
わたしは最強なんだから、むしろ陰でししょーを支えるんだ。
「やちよさんにはほとほと愛想が尽きたよ。みふゆさんだって居なくなって当然だろ…」
みふゆに話を聞いて、やちよを説得して、結翔を引き戻して、ももこの誤解も解いて……
わたしが頑張ればなんとかなるよ。
「ありがとな。お前には助けられてばかりだ」
違う、わたしこそ結翔に助けられてもばかりなんだ。
凄く傷ついて、悩んでる。
わたしは、お姉ちゃんだから、弟を助けてあげなくちゃ……
その為にも、もっと強くならなきゃ。
「はい、いつかういを見つけて、また家族みんなで暮らすんです」
いろはちゃん、大変だな。
わたしが先輩として力にならないと。
なんたって最強だからね。
「こんなメニューあんのー? 覚えきれねーし読めねーよ…」
ひとりで生き抜くなんてわたしより大変。
わたしがフェリシアのししょーとして勉強も仕事も鍛え上げないと!
「………………」
まだ不安なんだろうな。
ここはやっぱりやちよチームの潤滑油、由比鶴乃が居場所を作らないと!
わたしが頑張らなきゃ。
不安になってるヒマはない。
だって最強なんだから。
偉業を成すんだからこれぐらい、みんなに幸せになって欲しい。
そう思ってたのに、そう思ってた筈なのに。
今は?
今はどうなんだ?
本当のわたしをみんなが知ったら、わたしはどうすればいいんだ。
そしたら…そしたらどうすればいい?
わたしは──なにをすればいいの?
わたしは、なにをしていいの?
分からない、分からない筈なのに、結翔の簡単だよの一言で、スっと口から言葉が漏れた。
「助けて」
「分かった、今から…助ける!」
今日、この日、わたしの笑顔の仮面はヒーローに剥がされた。
……悪い気は全くしなかった。
次回もお楽しみに!
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