無感動な少女と魔眼使いの少年(リメイク版)   作:しぃ君

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 鶴乃「前回までの『無少魔少』。東のボス、和泉十七夜と合流しに結翔たちは、ようやくの思いで双子の天音姉妹からわたしたちの居場所を聞き出したって話だよ」

 しぃ「今回は文字数多いので、、目が痛くなったらごめんなさいね」

 結翔「詰め込みすぎなんだよ。もうちょっと小出しにすればいいのに」

 まさら「そうよ、一万字に届いたら分けるとか、出来るでしょ?」

 こころ「ま、まぁまぁ、頑張って書いてくれたんですから…」

 みふゆ「ワタシの出番がぁ……」

 ももこ「色々言いたい人も居るけど、五十四話をどうぞ!」


五十四話「本当のわたし」

 ──まさら──

 

 魔女を倒して結界を出てきた時には、既に外の戦いは終わっていた。

 …彼が、結翔が一人で終わらせていたのだ。

 周りの惨状からして、あまり手加減はしなかったのだろう。

 微かに残る、何かが焼け焦げた臭い。

 

 

 チラリと、結翔を一瞥するが、特に変わった様子はない。

 あくまでも、いつもの彼。

 

 

「由比君と粟根君の現状と、居場所は分かった。移動しながら説明しよう。…時間がないんだろう?」

 

「そうね…。急ぎましょう」

 

「はい…。それで、場所はどこなんですか?」

 

「うむ、自分の地元だ。大東区の観覧車草原に居る。まぁ、邪魔な箱物の名残だがな」

 

 

 そう言うと、和泉十七夜が先頭に立って移動を始めた。

 移動の最中に聞いた話では、どちらも洗脳されたまま、鶴乃はウワサを守る為にウワサの一部に、こころは巴マミと同じくウワサを纏う実験体にされたらしい。

 

 

 なるほど。

 アリナ・グレイの言葉通り…か。

『沢山殺して貰う』、つまりは遊園地のうわさに鶴乃を組み込んで、客として来たものを殺していく…。

 恐らく、こころは外で行く手を阻んでくる。

 

 

 …率直に言って、こころに力技だけで押し勝つのは至難の業だ。

 技術があっても、攻略には時間がかかる。

 耐久戦、その一つに限れば、彼女は魔境と言ってもいい神浜でも、トップを目指せる。

 

 

 走りながらではあるが、七海やちよと環いろはが連絡をとって、二葉さなと深月フェリシアに増援を頼んだ。

 黒羽根の数を考えれば…増援は必須。

 私の勘では…確実にマギウスの一人が出しゃばってくる。

 

 

「……分かった。伝えておくね」

 

「何かあったの?」

 

 

 大東区に入って、観覧車草原まであと少し…そんな時に、仲間との電話を切った環いろはが、焦りが見える表情で言った。

 

 

「あの、うわさを聞いた人がもう動き出してるみたいです!」

 

「はぁ!? ちょっと、早すぎるだろ! って……」

 

「徹夜する気か…? バカ野郎! 余計時間が無くなりやがった…!」

 

「…なら、急ぎましょう」

 

「はい!」

 

 

 何とかできる限界など、とうに超えている。

 余裕なんてものはない、虚勢でどうにかしていたが、それも持たなくなってきた。

 文句を吐き散らす結翔から、色濃く焦りが見て取れる。

 

 

 先程よりスピードを上げて、目的の場所を目指す中、増援として呼んでいた、二葉さなと深月フェリシアが合流。

 

 

「おーいーつーいーたー!」

 

「お待たせ…しました…!」

 

「フェリシアちゃん! さなちゃん! ありがとう、ふたりとも来てくれて」

 

「おう、さっさと鶴乃とこころ助けようぜ! もう元気だからな!」

 

「はい、元気ですから…!」

 

 

 …疑う訳ではなかったが、本当に元気らしい。

 昨日とは比べられない程に、顔色は健康そうだ。

 洗脳の影響もここまでくれば、流石にもう残っていはいないだろう。

 安心しきるのも良くないが、一応は仲間だ。

 疑うばかりでは意味がない。

 

 

「ふふっ。これで頭数は揃ったわね。来てくれて助かったわ。天音姉妹が言ってた通りうわさが重要なものだと、激戦になるって思ってたから」

 

「おう! バリバリのドンだっ!」

 

「でも…そんなに危険なんですか…?」

 

「自分が七海に付いたのはあちらも想定外のはずだからな。マギウスと幹部勢揃いなんて可能性もゼロとは言えん」

 

「それってかなり不利なんじゃ…」

 

 

 表情を曇らせる二葉さな。

 彼女の言う通り、幾ら雑兵と言えど数が集まれば、将を討ち取ることも難しくない。

 数、その一点だけで言えば、私たちは不利も不利だ。

 加えて、マギウスも居るとなると、対応を間違えた時点でゲームオーバー…なんて事も有り得る。

 

 

 和泉十七夜も同じ意見だったのか、険しい顔付きで答えた。

 

 

「二葉君の言う通り。全ての戦力を一点に集中されたら…ひとたまりもないだろうな。羽根とはいえ、積もれば山になる下手をすれば呑まれるかもしれん」

 

「だけど、今なら間に合うわ」

 

「羽根が集まる時間が無いから…」

 

「その通りよ、私生活があるし、市外の子も沢山いるはずだからね」

 

「…けど、多くても関係ないわ」

 

「だな、邪魔な奴らは蹴散らして、鶴乃とこころちゃんを取り戻す」

 

「短期決戦上等だよ。どっちみちタイムリミットは夜明けって決まってるんだからさ」

 

 

 ももこの言う通り、タイムリミットは決まってる。

 だったら、多かろうが少なかろうが関係はない。

 時間内に助け出して、それで終わりだ。

 …絶対に失敗は許されない。

 失敗したら、それは関係性の崩壊を意味する。

 

 

 結翔のマギウスに対する印象は今でさえ最悪なのに、今回の件が成功すれば……彼は確実に許さないだろう。

 視界に入った瞬間に、死が決定する。

 それだけは、阻止しなければ…。

 

 

 未来の事を考えて意識が飛んでいた私を、現実に引き戻したのは、七海やちよの言葉だった。

 

 

「そこで、人の割り振りについてなんだけど。『みふゆ、灯花、アリナ、粟根さん、羽根』に対しては5人であたって。『遊園地のうわさ』に対しては3人であたりたいわ」

 

「その、うわさには誰が入るんだ?」

 

「私とやちよさん…あと、結翔さんで行こうと思います」

 

「……………………」

 

「分かってちょうだい、結翔。遊園地のうわさの強さが分からない以上、オールマイティに動けるあなたがこっちにいて欲しいの」

 

 

 口を一文字にして黙りこくる結翔。

 悩んでいる内容は…分かりやすい。

 どちらを助けるべきか、悩んでいるのだ。

 …はぁ、全く以てしょうがない、優柔不断なヒーローだ。

 

 

 私は立ち止まる彼の背中を蹴飛ばすように、言い放つ。

 

 

「こころは私が何とかする。鶴乃は貴方が何とかしなさい」

 

「…悪い、頼んだ」

 

「決まりね。鶴乃を助ける方法は、今の所、大元のウワサを消す以外思い付かないわ」

 

「ですね…」

 

「でも、やるしかないでしょ? こうなったら…!」

 

 

 その後、和泉十七夜の、二葉さなと深月フェリシアに対する自己紹介が入り、それから数分の間に目的の場所に辿り着いた。

 おまけとして、魔法少女の反応付きで。

 

 

 ──結翔──

 

 観覧車草原。

 数度しか来た事がないが、忘れるのが難しい光景が広がっている。

 何せ、パッと見るだけではただの草原なのに、奥にはデカデカと観覧車が建っているのだから。

 

 

 異物感が凄い、俺はそう感じる。

 だから、忘れることが出来ない。

 

 

「ここに、鶴乃やこころちゃんが…」

 

「辿り着けば遊園地のうわさに入れるのかと思ったけど、入口は他にあるようね…。うわさの入口…どこに…」

 

モギュゥゥゥ(観覧車じゃないかな?)

 

「遠くに見える観覧車…。遊園地のうわさなら、観覧車に名残があるし。あそこがちょっと怪しいと思いませんか?」

 

「だな、移動してみるか…」

 

 

 ももこの言葉を合図に、俺たちは先に進もうとしたが…思ったようには進ませてくれないらしい。

 白羽根と黒羽根が、行く手を阻む壁になるようにゾロゾロと現れた。

 

 

「悪いがここは我々で守らせてもらう」

 

「白羽根」

 

「……………………」

 

「おいおい、黒羽根のヤツも…。予想してたとはいえ、結構な数でお迎えだな…」

 

「喜んで迎えてくれるみたいで嬉しいよ、全く。……にしても、コイツらを…分かってんのか? 今回のうわさの事」

 

「救われることだけを望んで、考えることを放棄した輩だ。知り得るはずがない」

 

「何を話している? 引き返す気になったか?」

 

「…ここまで来て、引き返す質に見えるか?」

 

 

 全員が変身した状態で、武器を構えている。

 これを見て、引き返す気に見えるなら、どこかで気が狂ってるんじゃないか? 

 そう軽口を叩きたいが、正直、この数を蹴散らすしていくのは面倒だ。

 ももこもそう思ったのだろう、好戦的な顔付きはそのままに、ため息を吐いた。

 

 

「…初っぱなからコイツらだと、奥にはマギウスが居そうだな…」

 

「やっぱ、あの怖いヤツいんのかよ…」

 

「引き返さないなら、こちらからいくぞ」

 

「はい…」

 

「ふっ…。知った魔力をいくつか感じるな」

 

「こっちもですよ…。最悪の気分です」

 

「そうか…。まぁ、ここで無駄に足止めを食らうこともないだろう。元仲間も混ざっているだろうし。ここは、自分が受け持つ」

 

「いいのか?」

 

 

『元』が付くとは言え、仲間だ。

 やり合うのは、苦しいものもあるだろうに。

 申し訳ない気持ちが溢れてくるが、十七夜さん覚悟を無駄には出来ない。

 時間は一分一秒でも惜しいのだ、先を急ごう。

 

 

「どのみち誰かが当たる必要があるからな」

 

「すいません。頼みます」

 

「お願いするわ、十七夜」

 

「うむ、頼まれた」

 

 

 そう言い残して、俺たちは走る。

 後方では、数秒もしないうちに、戦いの音が響き出した。

 負ける…なんて事は有り得ないが、怪我が少ない事を祈ろう。

 

 

 思いは彼方に、目的地へと足を進めていく。

 少しばかり歩き辛い草原の先、ようやく目的の観覧車へと辿り着いた。

 

 

「この辺りに、うわさが…」

 

「反応は…あるな」

 

「そうね…。だけど、それだけじゃないわ」

 

「灯花ちゃんたち…」

 

「もう、目の前ね…」

 

「目の前っていうか、頭上なんですケドっ!」

 

 

 ありがとな、宣言してくれて!! 

 降り注ぐ、緑色のキューブ。

 一つ一つが、魔法少女の体に風穴を開ける威力を持っている。

 まぁ、宣言してくれたお陰で、全部破壊の魔眼で消せたんだがな。

 

 

「やってくれるわね、しかも…この攻撃」

 

「あのヤべーやつだっ!」

 

「アリナ…」

 

「ホント、ムカつくキンパツ、それに透明人間も…。邪魔しないで欲しいんですケド、ユウト? …そこにいるアサシンもだよねぇ、アリナの作品を壊してくれちゃってさぁ…! アリナ的にバット過ぎだヨネ」

 

「ほんと、今回は静かに全部終わると思ったのにねー。最強さんのお仕事も、あと少しで終わるのに」

 

「ワタシの責任です…。申し訳ございません…」

 

「まっ、良いよ? 実験の成果…見たかったし。一応、みふゆに任せてたんだから、ちゃんと反省してよねー」

 

 

 そう言いながらも、里見灯花はクスクスと笑っている。

 お礼を言いたかったのか、みふゆさんのことを呼ぼうとしたフェリシアの口を塞いでおく。

 …実験の成果ねぇ。

 さっきから感じる、異常なまでの魔力と……殺意。

 方角は分からなくもないが、目の前の敵から目を離すのは悪手だ。

 

 

 千里眼を使うのも、意識を二分させる行為なのであまり向かない。

 二兎追うものは一兎も得ず…だ。

 今は、目の前に集中する。

 

 

「はい…」

 

「ま、どっかのピーヒョロ姉妹と違って初めてのことだし、それでギルティーって言うのはちょっと酷だヨネ」

 

「酷いにゃー。わたくしだって一回は許すよ。それに、ここが見つかるっていう限りなく低い可能性を想定して、最強さんを使ったのが無駄にならなくて良かったしねー。予備の我慢さんも居るし…。くふっ」

 

「そういうことかよ…。わざわざアタシらが手出ししにくいように…」

 

「さーどーかにゃー?」

 

「不快ね。私の友人を予備扱いなんて。…反吐が出るわ」

 

 

 まさらの冷たい言葉とギラついた眼光が、里見灯花を射抜くが、彼女は意にも返さない。

 なんだ、心が鋼で出来てるのか? 

 それとも、切れないこんにゃくか? 

 イラつかせる要素満載な、どこまで行ってもクソガキとしか言えないヤツ。

 

 

 いろはちゃんの懇願も…額縁に収めても良いくらいの綺麗な笑顔で却下している。

 …勿論、遺影の額縁だけどな。

 

 

「みんなには遊園地で幸せになって貰わないとー。そして帰りたくなくなってー、でも入場待ちはいっぱいいるから強制退場してもらっちゃうの。この世から! その時の感情の起伏って凄そうでしょ!? とーってもエネルギーが得られそうでしょー!? くふふっ」

 

「それって、みんなを殺すってことじゃない!!」

 

「じゃないと、エネルギーが足りないし…」

 

「…いろはちゃん、止めとけ。話が通じる相手じゃない、平行線だ。無駄に時間を使う余裕は…俺たちにない」

 

「ハイハイ、ユウトがセイドした通り。ここから先はアリナたちを倒してから行ってヨネ」

 

「もー、せっかく時間を引き延ばそうと思ったのにー! …我慢さん、仕留めちゃってー」

 

「──っ!? まさら、二人で行くぞ!」

 

 

 いつの間にか頭上に飛んで来ていた、我慢さんと言われる魔法少女を、俺は全力で開けた場所に蹴り飛ばす。

 …彼女が誰か分かっている、だが加減をしている余裕はない。

 久しぶりに感じた本気の殺意…そして、ウワサの魔力。

 

 

 蹴り飛ばした場所の先に居たのは、天使──そう形容するしかない姿のこころちゃんが居た。

 マミちゃんの聖女の次は天使か…センスが良いよ全く。

 殺戮の天使…って奴か? 

 

 

 純白の翼を背に生やし、頭上には天使の輪が浮いている。

 魔法少女としての衣装も、ウワサの影響か明るい黄色ではなく、眩しいほどの純白になっていた。

 

 

 当たりはつけていたが、まさか倒した筈の『我慢少女のウワサ』を纏ってくるとは……

 相性は抜群だろう……なんで『我慢()()のウワサ』なのに、天使なのかは知らない。

 

 

 天使のように優しいって意味か? 

 安直だが、そんなのしか思い浮かばない。

 …ただ一つ、言えることがあるなら、目の前に居るこころちゃんは危険だ。

 魔法少女でありウワサ、その強さはマミちゃんで実感している。

 

 

「まさら、お前一人で勝てんのか?」

 

「やると言ったらやる。心配してる余裕があるなら、早く離脱してうわさの方に行きなさい」

 

行かせませんよ…解放の邪魔はさせません!

 

「解放で色んな人が犠牲になるとしても?」

 

はい。だって、結翔さんは頑張ったじゃないですか!? そんな人が傷付くなんて、そんな人が悲しむなんて間違ってる!!

 

 

 言葉からして、俺の事を想ってくれてるのは分かる…分かるけど。

 洗脳で捻じ曲げられた想いで助けられても、俺は嬉しくないし……こころちゃんにそんな事言って欲しくなかった…それなのに。

 武器である可変型トンファーがこちらに向けられる。

 射撃モード…やばい! 

 

 

 俺とまさらは急いで左右に避ける。

 空気が焼けるような音が耳に届いた瞬間、先程まで居た場所は草が焼け焦げ地面に小さい凹みができていた……いや、凹みと言うよりはクレーターだ。

 当たったらタダじゃ済まないのは、今ので証明された訳だ。

 

 

「本気…みたいね」

 

「避けるのが正解だな、ありゃあ、魔力でバリア張ってどうにかなる威力じゃない」

 

結翔さんもまさらも眠って。私は…二人と戦いたくない

 

「なら、戦わないで欲しいわ…全く」

 

 

 ダガーを構えるまさらは、顔を顰めて、どう攻撃するべきか悩んでいる。

 俺も、いつものように剣を編んで構えるが、攻め辛い。

 固有の能力が──固有魔法が全部使えれば…なんて、無い物ねだりをしながら正面切って斬り掛かる。

 

 

 攻略方法は、戦いながら考える。

 足を止めたら、間違いなく死ぬからだ。

 俺が距離を詰めたのを機に、こころちゃんは可変型トンファーを近接モードに変えて、俺の全力の振り下ろしを受け止めた。

 

 

 さっきと言い…今と言い、全力でやった筈なのに、ダメージを与えられる気配が一切しない。

 

 

「っ!?」

 

見えてるよ、まさら!

 

 

 恐ろしい事に、まさらが透明化状態で近付き、死角から攻撃を仕掛けたと言うのに、それに反応して跳ね返した。

 しかも、きっかり一発腹に入れてる。

 透明化状態は意地でも解除してないようだが、見えている…その言葉がハッタリではない限り、まさらは安全なんかじゃない。

 

 

 だと言うのに…このタイミングで、その声は響いた。

 

 

「いろは、結翔、こっちよ!」

 

「は、はいっ!」

 

「クソっ! …今行きます!」

 

 

 少なくとも、一撃入れてから! 

 いつものように右足ではなく──右の拳に魔力を集中させていく。

 他の属性魔力を混ぜる余裕はない。

 赤──豪炎だけを右手に纏わせ、可変型トンファーを盾に、防御姿勢をとるこころちゃんにぶつける。

 

 

 マギアに近い攻撃だった為か、彼女は防御姿勢のまま後ろに下がっていく。

 足を無理矢理地面にめり込ませて、吹っ飛ばされるのを回避したって訳か……

 本当のこころちゃんでも、ここまで俺の攻撃を耐えた事はない。

 

 

 まさらに任せるのは…不安が残るが…任せるしかない。

 

 

「まさら、あとは任せた!」

 

「…っ、えぇ、任されたわ」

 

っぅ、行かせなーー

 

「貴女の相手は私…よ。…悪いけどね」

 

まさら…そこをーー退いて!!

 

 

 後方で激しくぶつかる二人を他所に、俺はやちよさんの方へ向かう。

 やちよさんの後ろに続いて、ゴンドラの中に入ると──そこは遊園地だった。

 ウワサの結界が遊園地になっている…という事だろうか? 

 

 

 地面のタイルは普通だけど、アトラクションの色合いとか流れる音楽とか……妙に気味が悪い。

 

 

「一応、入れましたね」

 

「…入り方も、鶴乃をウワサから剥がす方法も、みふゆが教えてくれたわ。フェリシアと二葉さんの時みたいに…」

 

「やっぱり…そうですか。みふゆさんも、今回の件は不本意だった…って事ですかね?」

 

「でしょうね」

 

「それで、鶴乃ちゃんを元に戻す──ウワサから剥がす方法って何なんですか?」

 

「ウワサから引き剥がすには、相当な量の魔力が必要になるわ。現に向かってる人を考えるともう時間も無いし…。私たちの魔力のことを考えても、多分、チャンスは一度ね…」

 

「一度きり…」

 

 

 …どうするか。

 無闇矢鱈に動き回って、鶴乃を探してる時間はないし。

 それに…なんだ、思考が纏まらない。

 

 魔眼はギリギリ使えるけど、精度も……落ちてる。

 フェーズ1.5に上がった筈なのに…見辛い。

 

 

「…結構不味いですね。上手く頭が回りません」

 

「やっぱりうわさの中ね…なんだか急に意識がぼんやり…」

 

「はい、気を張ってないと、何か気力が削がれていくような」

 

「えぇ…」

 

「あれ、結翔! いろはちゃん! ししょー!」

 

 

 その時、一番聞きたい声が聞こえて、一番見たくない姿が目に映った。

 形だけで言えば、それは鶴乃だった。

 だけど、決定的に違う。

 この遊園地と同じく、鶴乃を構成する服や髪、瞳や肌の色合いは以上だった。

 

 

 エメラルドグリーンの髪、緋色にも見える赤紫色の瞳、雪女のような真っ白な肌、そして緑系統で塗り直されたような服。

 

 

「鶴乃ちゃん…!?」

 

「つる…の…?」

 

「その姿…あなた本当にウワサに…」

 

「さんにんともキレーションランドにようこそ! って開園前なのに来ちゃダメだよ。さんにんともせっかちだなー」

 

「鶴乃ちゃん! あのね!」

 

「ここはね! みんなでワイワイ楽しむよりも、のーんびりするところなんだよ。何も考えないで済んで悩みからも解放されるって、とっても幸せでしょ!? さんにんはもちろん特別だから開園前でもノンビリしていいよ!」

 

 

 いろはちゃんの声を遮って、鶴乃は──ウワサの鶴乃はキレーションランドの解説を始める。

 対面したら分かる、少しづつ、少しづつ気力が抜けていく。

 魔法少女の俺たちでこれなら…一般の人は? 

 

 

 …一日と持たずして、生きる気力すら持ってかれる。

 

 

「さっきの感覚、やっぱりうわさの影響だったんだ。こんなの普通の人が入ってきたら…」

 

「下手したら、一日持たずに……」

 

「鶴乃ちゃん!」

 

「ん? どうしたの? ノンビリしてていいよー? アトラクションは準備中だからベンチでノンビリしてもいいし、芝生にゴロンってするのもオススメだよ!」

 

「違うの鶴乃ちゃん! ここから出よう!」

 

「そうよ、一緒に帰るわよ、鶴乃!」

 

「あーわたしはいいよー」

 

 

 間延びした声で返ってきたのは、紛れもない拒絶だった。

 だけど、それだけじゃ引き下がれない。

 俺たちがここに居られるのは、外の仲間が必死で頑張ってくれてるからだ。

 そんな仲間の頑張りを無駄には出来ない。

 

 

 それに、俺はみんなで帰る為に、ここに来たんだ。

 

 

「お前の家は万々歳だろ!」

 

「それに、鶴乃ちゃんは私たちのチームの一員なんだから」

 

「ううん、わたしは帰らない。だってね、わたしにとってここは、楽しくて安心できるところだから」

 

「だけど、お前はこのままじゃ──」

 

「引っ張っていってでも、ここから連れて帰るわよ!」

 

 

 やちよさんがそう言った途端、鶴乃は物憂げな表情で頷いた。

 背筋に嫌な汗が…流れる。

 

 

「結翔…やちよ…いろはちゃん。そっか…うん…分かったよ」

 

「良かった、それじゃあ」

 

「さんにんとも邪魔するんだ。遊園地の運営を…邪魔するんだ」

 

「え?」

 

「まさか…」

 

「それなら黙ってないよ。さんにんには大人しくしてもらうから!」

 

『│ツッタッラッタ♪ │』

 

 

 軽快な音を鳴らしながら、メリーゴーランドに居たであろう機械仕掛けの馬が、こちらににじり寄ってくる。

 考えたくはないが、鶴乃の意思でここに呼び寄せられた…そういう事だろう。

 数も少なくない。

 

 

 強さが分からない以上、倍以上の戦力とやり合うのは…嫌だが、そうもいかない。

 鶴乃を取り返すのを邪魔する以上、倒すしかない! 

 

 

「あなた、本当にウワサなのね…」

 

「余裕はないですよ! 構えて下さい」

 

「│パッパカタッタ♪ │」

 

 

 小物のウワサ──馬が放ってきた攻撃は、一見するとなんの害もないカラフルな光だが、当たった瞬間、気力がごっそり削られて体を重く感じるようになった。

 厄介だ…光線技なら、ウルトラマンみたいに、ただ痛いヤツだけの方が万倍マシだ。

 

 

 痛みなら生と死の魔眼で和らげられるし、怪我も治せるのに……

 気力を削られると、段々と思考もぼやけてきて、魔眼の効力が落ちる。

 そのお陰で、概念の破壊も出来ない。

 

 

「二人とも、気をつけて…。さっきの光線、当たったら気力をごっそり削られる」

 

「って言っても、戦う以上、全部は避けられないわ…!」

 

 

 ウワサの結界の影響か、徐々に気だるさが増していく体。

 未来視の魔眼で幾ら未来を視ても、体が思うように動いてくれない。

 戦う事に、体が上手く動かなくなって、数分もしない内に、俺たちは地面に膝を着いていた。

 

 

「はぁ…はぁ…。だめ…やちよさん…結翔さん…。頭がフラフラしてきた…」

 

「気力が削られると、こんなに力が入らなくなるのね」

 

「…体が重い…まともに動かねぇぞ、これ」

 

「ほらほら、さんにんとも。そんなカッカしちゃだめだよー。ノンビリまったりだよ。何も考えなくていいからね」

 

「鶴乃ちゃん…」

 

「オープンするまで一緒にお喋りでもしてよーよ」

 

「鶴乃…だめよ…」

 

「そんな怖い顔しないでよやちよ。あ、そうだ。これねオープンしたら出そうと思ってるメニューなんだ。ドリンクメニューとフードメニューがあってね。良かったらさんにんとも試して欲しいな。みんなー持ってきてー!」

 

 

 目の前にメニュー表を置いた鶴乃は、そう言うと、パンパンっと手を叩いて、ウワサにフードメニューの一つと、ドリンクメニューの六つを持ってこさせた。

 持ってこられたフードメニューは……鍋だった。

 ドリンクメニューも麦茶に紅茶、オレンジゼリージュースにメロンソーダ、コーヒーにホットミルク。

 

 

 ……ドリンクが注がれているコップは見覚えのあるものばかり。

 鍋だって、昔からみかづき荘で食べていた、寄せ鍋。

 

 

「ほら、これ、どうかなどうかな!?」

 

「これ…私のマグカップ」

 

「私のも…。それにこれ…どうして遊園地で鍋なの?」

 

「だって、ノンビリといえば鍋だって思わない?」

 

 

 当然! 

 と言った様子で、彼女は笑顔で胸を張っている。

 俺のマグカップも出してくる当たり、鶴乃の優しさを感じる。

 懐かしさも、どこからか溢れてきた。

 

 

 二度と思わないと思っていたのに、少しだけ昔に帰りたくなった。

 

 

「ホント、変だよ…おまえ」

 

「これじゃあまるで…」

 

「みかづき荘ですね。…ふぅ。やちよさん、結翔さん…。ノンビリしてちゃダメですね…。鶴乃ちゃん、帰りたがってる…」

 

「そうね、外のみんなも長くはもたないわ…」

 

「…だからやりましょう」

 

「えぇ、そうしましょう」

 

 

 いろはちゃんとやちよさんが、鶴乃の為に言葉を尽くしていた。

 …多分、俺の勘違いじゃなければ、鶴乃がここに居る理由はそのままだ。

 安心できるから、居心地が良いから、ここに居る。

 

 

 何も…考えなくていいから。

 気を揉むこともない…楽園ってことか。

 本当に、どこまで似た者姉弟をやればいいのか。

 背負い込んで、背負い込んで、背負い込んで。

 

 

 転んで…でも、まだ立ち上がれる。

 みんなの知らない、俺だけが知っている、由比鶴乃。

 ……あの時、あの公園で話してたのは、お前の事だったんだよな? 

 

 

 お前が求める幸せは安心できるこの場所に……ずっといる事なのか? 

 違う、絶対に違う! 

 

 

 お前が今までやってきたことは無駄じゃない。

 お前が今までやってきたことは無価値じゃない。

 お前が頑張ってくれたから、今があるんだ。

 

 

 もう、笑顔の仮面は被らなくていい。

 救ってやる。

 あの時は、無意識だったけど、あの時は知らなかったけど、今知ったから。

 絶対に救う。

 

 

 頼ってくれたよな? 

 あの日、あの公園で、お前は俺を頼ってくれたよな? 

 誰にも頼った事なんて、なかっただろ、お前。

 本当に、不器用な頼り方だった。

 

 

「鶴乃。お前、だけだったんだ。俺の家族ごっこに付き合ってくれたのわ。やちよさんやみふゆさんみたいに、導くお姉さんじゃなくて、隣に立って手を引いてくれるお姉ちゃんだった。…お互い、作り笑顔は卒業しようぜ?」

 

「……結翔」

 

「ヒーローだからな。…今、救ってやる」

 

「わたしは…わたしは、救われたくない。結翔が救われて欲しい」

 

「こころちゃんもそう言ってたよ。…でも、俺は救われてる。みんなが傍に居てくれてるだけで、俺は十分救われてるんだよ」

 

 

 救いなんていらない。

 俺は救う側(ヒーロー)だ。

 仲間が、家族が傍に居てくれるだけで、俺は良いんだ。

 

 

「結翔、一体どういう事なの!?」

 

「私たち……鶴乃ちゃんの事、理解出来てなかったって事ですか?」

 

「……そうなるね。俺たちが理解すべきなのは、いつも笑顔で知らぬ間に背負い込んで、傷付いていく由比鶴乃なんだよ」

 

「なんでも、お見通しだね、結翔には…。でもさ、わたしが帰りたいって思っても、帰れないんだよ。わたしはウワサだから、責務がある」

 

「んなのどうでもいいんだよ!! 大事なのはお前の意思だ。…助けてって言え!」

 

「わたしは…わたしは…! これ以上、結翔に背負わせたくない! ここに居てよ! ここに入れば、苦しまなくて済む、傷付かなくて済むんだよ!? みんなだって、悩む事もない、ずっとゆっくり…していられるんだよ?」

 

 

 揺さぶり問い掛ける鶴乃。

 だが、やちよさんも、いろはちゃんもウワサ側に着くことは無い。

 

 

「私、口寄せ神社の時からずっとずっと頼ってきた! でも、これからは頑張るから。鶴乃ちゃんがいっぱい甘えられるように、頼ってくれるように頑張るから! だから、帰ろうよ!」

 

「あなたにキツく当たってしまってごめんなさい。私の勘違いで、凄く苦しめたと思う。殴られたって構わない、リーダーとして私は最低だった。虫がいいことだって分かってる、だけど、お願いよ…戻ってきて!」

 

「…だ、そうだ。答えは出たか?」

 

「………………分かんない。分かんないよ? こんな時、どうすればいいのか、分かんない」

 

「簡単だよ」

 

 

 無責任なバカヒーローに向かって、『助けて』って言えば良いんだ。

 

 

 ──鶴乃──

 

「メルさんは、魔法少女として立派に全うしたと思います。悲しいけど、鶴乃さんだけが責任を感じることじゃないんですよ?」

 

 

 まだ、わたしが頼りないから、本当のことを教えてくれないのかな? 

 頑張らないと、もっと頑張らないと。

 

 

「もう私に関わらなくていいの、チームは解散って言ったでしょ」

 

 

 不安になっちゃだめだ。

 わたしは最強なんだから、むしろ陰でししょーを支えるんだ。

 

 

「やちよさんにはほとほと愛想が尽きたよ。みふゆさんだって居なくなって当然だろ…」

 

 

 みふゆに話を聞いて、やちよを説得して、結翔を引き戻して、ももこの誤解も解いて……

 わたしが頑張ればなんとかなるよ。

 

 

「ありがとな。お前には助けられてばかりだ」

 

 

 違う、わたしこそ結翔に助けられてもばかりなんだ。

 凄く傷ついて、悩んでる。

 わたしは、お姉ちゃんだから、弟を助けてあげなくちゃ……

 その為にも、もっと強くならなきゃ。

 

 

「はい、いつかういを見つけて、また家族みんなで暮らすんです」

 

 

 いろはちゃん、大変だな。

 わたしが先輩として力にならないと。

 なんたって最強だからね。

 

 

「こんなメニューあんのー? 覚えきれねーし読めねーよ…」

 

 

 ひとりで生き抜くなんてわたしより大変。

 わたしがフェリシアのししょーとして勉強も仕事も鍛え上げないと! 

 

 

「………………」

 

 

 まだ不安なんだろうな。

 ここはやっぱりやちよチームの潤滑油、由比鶴乃が居場所を作らないと! 

 

 

 わたしが頑張らなきゃ。

 不安になってるヒマはない。

 だって最強なんだから。

 偉業を成すんだからこれぐらい、みんなに幸せになって欲しい。

 

 

 そう思ってたのに、そう思ってた筈なのに。

 今は? 

 今はどうなんだ? 

 本当のわたしをみんなが知ったら、わたしはどうすればいいんだ。

 

 

 作り笑顔(これ)はもう使えない、笑顔の仮面は使えない。

 そしたら…そしたらどうすればいい? 

 わたしは──なにをすればいいの? 

 わたしは、なにをしていいの? 

 

 

 分からない、分からない筈なのに、結翔の簡単だよの一言で、スっと口から言葉が漏れた。

 

 

助けて

 

「分かった、今から…助ける!」

 

 

 今日、この日、わたしの笑顔の仮面はヒーローに剥がされた。

 ……悪い気は全くしなかった。

 




 次回もお楽しみに!

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