無感動な少女と魔眼使いの少年(リメイク版)   作:しぃ君

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 こころ「前回までの『無少魔少』。ウワサから鶴乃さんを引き剥がし、大元のウワサをカッコよく倒して終わりましたね!」

 結翔「今回は、その後、ウワサの結界を出てからの話だな」

 まさら「正直言って、今の状況で一番私が危ないのよね」

 こころ「そうだよ!再変身も出来ないくらい疲労しちゃってるもん。…ホントにごめんね」

 まさら「…別に、謝って欲しかった訳じゃないわ」

 アリナ「ハイハイ、そんなのどうでもいいんだヨネ。早くストーリーをスタートさせるワケ。五十七話、スタート!!」


五十七話「夜明けの彼ら」

 ──こころ──

 

 まさらに肩を貸しながら、私は場所を移動する。

 …多分、今のまさらは再変身することが不可能だ。

 そんな彼女を、戦闘が続いている場所に置いておけない。

 

 

 だけど……

 

 

「大丈夫よ。…あっちに行ってちょうだい」

 

「で、でも…体が!」

 

「そろそろ、来るわ」

 

 

 訳が分からず、困惑したまま固まっていると、先程まであった筈のうわさの反応が消えた。

 どうやら、結翔さんたちがやってくれたらしい。

 うわさの反応が消えてから数秒、体の芯まで響くような元気の良い声が聞こえた。

 

 

「今の元気は20点くらいだけど、やる気なだけならいつでも満点! 最強の魔法少女。由比鶴乃、復活だー!」

 

 

 みかづき荘の面々に加えて結翔さんが、うわさの結界への入口だったであろう、ゴンドラから出てくる。

 少し、鶴乃さんの魔力反応が弱く感じるのは、中での戦いで消耗したからだろう。

 …私のソウルジェムだって、穢れの溜まり具合が凄かった。

 

 

 まさらがグリーフシードを集めてくれていなければ、私は……どうなっていたんだろう。

 ドッペルシステムを信じるなら、助かっていただろうが──もしそうじゃなかったら? 

 ウワサを纏っていた私に効果がなかったら? 

 

 

 正直、想像するだけでも恐ろしい。

 魔女になるなんて…。

 いや、それ以上に、まさらや結翔さんを傷付ける方が…恐ろしい。

 

 

 灯花ちゃんといろはちゃんたちの話を聞きながら、私はそんな事を考えていた。

 

 

「これで、うわさに巻き込まれた人たちは無事だよね、灯花ちゃん」

 

「…そうだけ。本当に腹が立つよ、ムシャクシャするよ集めたエネルギー全部使って原子レベルまで分解したいよ。でも、やらない。また解放が遠のくから」

 

「良い判断だ。…もし、やろうとしたら。誰かが殺られる前に、俺がお前を殺るからな」

 

 

 喉を鳴らしながら固唾を呑み、背中から冷や汗を流す。

 ゾッとした。

 私の感性に間違いがなければ、それは、人生の中で絶対に向けられる事のない最恐の意。

 名前は……殺意。

 

 

 言葉や声音だけじゃ表現出来ない本気を、結翔さんは最恐の意で表していた。

 直接向けられていない私ですらこれなのだ。

 灯花ちゃんは良く、無事でいられていると思う。

 

 

 ……いや、違うみたいだ。

 よく見ると、足が微かに震えている。

 怖いのだろう、恐ろしいのだろう。

 それでも、彼女は虚勢を張り続けている。

 

 

 やちよさんは、その姿に呆れるように言った。

 続くいろはちゃんは、諭すように言った。

 

 

「こんなやり方は、これっきりにしておきなさい。…何があっても責任なんて取れないわよ」

 

「そうだよ、灯花ちゃん、もうやめよう…」

 

「やり方が気に食わないなら関わらなきゃいいでしょー!? はぁ〜あ…。今回上手くいけば全部終わり。マギウスみんなで揃ってお祝いできたのになー」

 

「マギウスみんなで揃って…? まさか、もう一人居るのか!?」

 

 

 結翔さんが、慌てて周りを見渡そうとしたタイミングで、聞き覚えのある喋り方の、あの声が聞こえた。

 

 

 ──────────────────────

 

 アラもう聞いた? 誰から聞いた?

 キレーションランドのそのウワサ

 

 ノンビリ、ダラーッとハッピーになれちゃう

 ストレスフリーなテーマパークが

 グランドオープン♪

 

 帰りたくなくなること間違いナシで

 いつまでもずーっといられちゃう!

 

 だけど満員のときはアテンションプリーズ

 出たくない人はこの世から退場させられるって

 神浜市の人の間ではもっぱらのウワサ

 

 まぁイイジャーン!

 

 

 ──────────────────────

 

「ウワサさん、そのうわさは消滅したよ」

 

「まぁイイジャーン!」

 

「今の声って、あの使い魔みたいなヤツの」

 

「それに…」

 

「あ、ねむ来たんだね。もう動いて大丈夫なの?」

 

 

 灯花ちゃんにねむ、と言われた少女は、ゴンドラと観覧車の中心を結ぶ鉄骨の上にちょこんと座っていた。

 …見た感じの年齢は、灯花ちゃんとそう変わらない。

 小学校の五か六年生あたり…かな。

 

 

 ウワサさんと呼ばれる、うわさを広める使い魔のようなものと一緒に現れた。

 何時からそこに居たのか、全く気付けなかった……

 さっきとは違う、別の冷や汗が背筋を流れる。

 

 

「万事問題なしと言えば嘘だけど祝いの席だと思って来てみた。だけど蓋を開いてみれば惨事も惨事の大惨事。まさか僕の命がまたひとつ消されているとは衝撃だよ」

 

「ねむ、ちゃん…?」

 

()()()()()環いろは、僕の名前は柊ねむ。随分と僕のことを嗅ぎ回っていたみたいだね。会いに来たのが今になったのは謝罪するよ。うわさをひとつ作るのは僕にとっても命を使うようなものでね。随分と疲労が蓄積して動けなくなるから、こうして顔を合わすのが遅れたんだよ」

 

 

 外国でよく見られるアカデミックドレスのような魔法少女衣装を纏い、現れた少女。

 いろはちゃんから聞いていた、柊ねむちゃんの顔立ちや瞳の色に髪色…そして喋り方までそっくりだ。

 

 

 同一人物…そう思って間違いはないのだろう。

 しかも、さっき言ったうわさを作る…と言う発言。

 うわさの元凶、彼女がそうなのは確定事項だ。

 

 

 いろはちゃんは動揺からかうわごとを言うように呟いた。

 

 

「うそ、ねむちゃんが最後のマギウス…。じゃあ、私とういの記憶も…」

 

「灯花の言う通りみたいだね。本当に摩訶不思議な記憶を持ち合わせてるみたいだ。それはさておき、僕が具現させた世界をいくつも消してくれたみたいだね。強い憤りと共に遺憾の意を表明するよ」

 

「なるほどね。お前が元凶か…クソッタレが…!」

 

「ご名答、僕が創造主だよ」

 

「…何が遺憾の意を表明…だよ。何人の被害者が出たと思ってる? 危うく、お前らの所為で人生を滅茶苦茶にされる人が出る所だったんだぞ? そこん所は分かってんのか?」

 

 

 明らかに怒っている。

 何時もより激しめの口調で、結翔さんは捲し立てる。

 だが、マギウスの面々はそんな言葉を涼しい顔で聞き流していた。

 …尤も、灯花ちゃんだけは、さっきの言い表し難い殺意を向けられた事で、完全に聞き流せていないが。

 

 

 それでも、他二人は全く以て反省する色なんて見えやしない。

 本当に…同じ人間なのか疑いたくなる。

 正常な倫理観はどこかに捨て去ってしまったらしい。

 無関係な誰かを犠牲に解放を目指すなんて、そんなの間違っている。

 

 

 今回に至っては、何百、何千の人達の命を犠牲にする所だった。

 それを彼女は、未来の魔法少女も救えるなら安いものだと…そう言ったのだ。

 

 

 信じられなかった。

 正気を疑うような言葉。

 …真っ当な思考では、解放など出来ないと暗に言っているのか? 

 

 

 

「ほんと、みんなヒドイよねー。時間がない中、命を削ってまで解放しようとしてるのにー」

 

「ここまでくれば、もういいと思うんですケド。アリナ的には、もう気兼ねする必要はないし。気を遣うことなく、フリーダムにやっちゃえばいいヨネ」

 

「今回で概ね必要なエネルギーは確保できる想定だったけど。秘密裏に動いても駄目で、素直に動いても駄目なら…。あとはもう、僕たちとしても身勝手に動くしかないよ…あっ…。は…はぁ…ぅ」

 

「ねむ! まだソウルジェムが安定してないもう少し休んでないと…!」

 

「環いろはに…挨拶ができてなかったからね…」

 

 

 垣間見えた優しさ。

 純粋な良心の形で、彼女の心にそれは残っている。

 なら、何故なの? 

 何故、その優しさを他の人に向けられなかったの? 

 

 

 仲間だけ助かれば、魔法少女だけ助かればそれでいいの? 

 私だって…私だって、解放に代わる案なんて浮かばないけど、それでもその優しさがあるなら、もっと他の方法を考えられたんじゃないの? 

 誰も巻き込まない、やり方を目指せたじゃないの? 

 

 

 ふつふつと湧く怒り。

 肩を貸しているまさらの存在に気を遣いながらも、私は彼女たちに噛み付いた。

 

 

「…ねぇ、どうしてなの?」

 

「なに、我慢さん? 何か言いたい事でもあるの?」

 

「なんで…なんで、そんな優しさを他の誰かに向けられなかったの? …まさらを傷付けた私が、こんな事言う資格ないって分かってるけどさ…それでも聞きたい! その優しさがあれば、今、仲間に向けた優しさがあれば、もっと違う方法を取れたんじゃないの!? 私たちは手を取り合えたんじゃないの!!」

 

「……粟根こころ。君の指摘は尤もだ。だけど、方法はこれしかなかった、だからやってるんだ」

 

 

 私の瞳を真っ直ぐと見据えて、ねむちゃんは答えた。

 …声音から、態度から、嘘だと思える要素は出てこない。

 結局、私たちはどう足掻いても、分かり…合えないらしい。

 

 

 それが、悲しくて。

 私の瞳からは、自然と涙が流れた。

 彼女たちはそれを見ても、何かを思ったような素振りをみせることはなかった。

 まさらが優しく、私の背を撫でた。

 

 

「ねむちゃん…」

 

「なに、環いろは…」

 

「私、ねむちゃんの作ったうわさのこと知ってるよ」

 

「それはどういう意味? ベテランのファイルの話?」

 

「うわさはきっと…病院で考えてたんだよね…。灯花ちゃんとねむちゃんと、あと…ういと一緒に…」

 

「やっぱり、環いろははおかしいよ」

 

「そうだね。残念だけど記憶違いだよ。いや記憶捏造と言ってもいいね。これは僕が考えた創作物。その真実を歪曲させるような証左はどこにもないよ」

 

 

 いろはちゃんの言葉を、ねむちゃんは否定する。

 ういちゃん…居なくなった、いろはちゃんの大切な家族。

 過去に結翔さんとも合ってるって言ってたのに、結翔さんも思い出せないし知らないと言ってた。

 

 

 でも、結翔さんはいろはちゃんの話を信じた。

 …だって、ういちゃんの話をしてる時のいろはちゃんは、何時も必死で──それでもどこか嬉しそうだったから。

 大切なんだなって、大好きなんだなって、凄く伝わってきたから。

 

 

「いろはちゃん…今の話は本当なの?」

 

「はい、私の記憶では3人で作ってたはずなんです」

 

「また、ういちゃん絡みで記憶が失われてるって事か…」

 

「不思議な事もあるものだな」

 

「不思議もなにも環いろはがおかしいだけだよ。みんなして、どうしてそっちの話を信じるのー?」

 

「仲間だからな。理由なんてそれだけで十分さ」

 

「ふーん。わたくしには並列化されたつまらない思考に思えるけど。まーいーや」

 

 

 仲間だから、その一言を薄っぺらいと貶すような口振りだった。

 ねむちゃんが言うように、私だって怒っている。

 結翔さんが言っている事は至極正しい。

 仲間だから信じる。

 仲間だから疑わない。

 

 

 そんなの、当たり前だ。

 それぐらい出来なきゃ、仲間なんてやっていけない。

 もし、それが出来ないなら、私たちは何時後ろから刺されるか分からないまま、戦闘中や日常を過ごす事になる。

 罪悪感の欠片もないのか、マギウスは話を進める。

 

 

「それより、もっと建設的な話をしようよ」

 

「まだ、譲歩するワケ」

 

「譲歩じゃなくて相互理解を促すんだよ。…我慢──粟根こころが言う通り、それができてれば無用な争いが無くていい。だから僕たちの目的、解放の手段。その共有ぐらいはしても損はないはずだよ」

 

「…うん、そーだね。変な記憶の話は置いといてー。マギウスが目的を果たすための方法を教えて上げるよ。もしかしたらこれまでのことも、納得できるかもしれないしね」

 

「…分かった。出来るかどうかは置いといて、聞かせてくれ」

 

 

 均衡状態はギリギリの所で保たれている。

 今、どちらかが刃を抜けば、その瞬間から戦争は始まる。

 それぐらいギリギリの限界値点で、均衡状態があるのだ。

 

 

 だからこそ、誰も戦おうとはしない。

 戦争は疲弊が激しい。

 あちら側だって、幾ら羽根が多いと言っても、限度がある。

 今後重要になる働きアリを、こんな所で浪費しようとは思わないし、こちらだって十分に疲弊している今の状態で戦いたいとは思わない。

 

 

 現に、まさらは限界を越えて、フラフラとしている。

 結翔さんがそっと、生と死の魔眼で傷を癒してくれたが、体力までは元に戻らない。

 今にも意識が飛びそうな中、話を聞こうと踏ん張っていた。

 そして、話が始まる

 

 

「わたくしたちの目的はね、魔法少女の解放。その、魔女化という呪縛からね。それはもう知ってるよねー?」

 

「お蔭さまでな。…続けてくれ」

 

「その基礎となる部分はね、もうこの神浜でできてるんだよ。邪魔なキュウべえはいないし、魔女化だってしないでしょ? それって、理想的だと思わないかにゃー? ソウルジェムが壊れること以外は、なーんにも怖くないんだもん。だからわたくしはね、それを世界中に広げたいと思ってるの」

 

「魔女にならない神浜を世界に広げるってこと…?」

 

「そーいうことっ」

 

「目的は分かったけど、それじゃ説明になってないわ」

 

「うん、どういう理屈で魔女とうわさが必要なの?」

 

 

 やちよさんが言う通り、今の説明は目的を話しただけだ、具体的な手法は言われてないし、鶴乃さんが言った、魔女とうわさの必要性も分からない。

 何故、人を呪う魔女が必要なのか? 

 何故、人を巻き込み苦しめるうわさが必要なのか? 

 

 

 理由が無いのに使うなんて有り得ない。

 しっかりとした理由もなしに使う程、彼女たちが考え無しには…私は見えない。

 できるだけ綿密に、できるだけ完璧に、彼女たちは作戦を立てているはずだ。

 

 

 まだ、幼い子供に見えるが、知識量だけで言えば負けず劣らずの引き分け所か、私たちが普通に負けているレベル。

 天才の知識量は馬鹿にできない。

 

 

「もう、急かさないでよー。えっとね。わたくしたちが魔女とうわさを使うのは、エネルギーが欲しいからだよ。うわさのせいで、神浜の人が悲しんだり、喜んだりして発生させるエネルギー。魔女が蓄えたり、魔法少女が魔女化するときに発生させるエネルギー。こうしたエネルギーたっくさん使ってね、みんなの解放に繋げるんだ」

 

「そういうワケ。集めたエネルギーはアリナたちが作ってるアートワーク、エンブリオ・イブの孵化を促すんだヨネ」

 

「そしてエンブリオ・イブの孵化と同時にマギウスが揃っていれば、僕達はこの神浜という街から世界に向けて、奇跡を起こすことができるようになる。実現すれば前代未聞。かつ、独立を確立するようなものだ」

 

「そう! キュウべえという存在から独立した人類は、宇宙に認められる。そうすればわたくしは、人類が何万年かけても知れないような、宇宙の全てを知ることができるかもしれないんだよ」

 

「僕は神浜だけじゃない。この地球そのものを原稿にしてあらゆる物語を具現化できる」

 

「アリナは、自分のアートワークを永遠に生の象徴として君臨させ、次は宇宙規模のアートに、このソウルを委ねられるワケ」

 

「もちろん、魔法少女は救われてみんなハッピーハッピーだよ」

 

 

 ……正直に言って良いなら、私は途中から話に着いていけなかった。

 まず、最初から可笑しい。

 ウワサを使って、人から感情と言うエネルギーを吸い上げる。

 魔女は──自我さえ無くした魔法少女の成れの果てを、道具のように使いエネルギーを回収。

 果ては絶望に染まった魔法少女が、魔女化する時のエネルギーさえ利用する。

 

 

 解放とは、そこまで残酷なことをしなければ成し遂げられないの…? 

 加えて、話に聞いたエンブリオ・イブ、それはなんだ? 

 ウワサなのか、はたまた魔女なのか? 

 得体の知れないものに、その回収したエネルギーを集めて、本当に解放は実現するのか? 

 

 

 疑問符だらけだ。

 相互理解、その言葉をもう一度、考え直して欲しい。

 これは相互理解なんて優しいものじゃない、ただの思想の押し付けだ。

 酷く醜い、最悪の表現。

 

 

 チラリと、結翔さんたちの方を見た。

 彼は、呆れたような表情で続けた。

 

 

「悪趣味な宗教勧誘ありがとよ。一人に一つづつ、アドバイスしてやる。灯花、お前は人を舐め過ぎだ──いいや、人の命の重さを舐め過ぎだ。ねむ、地球を原稿にするなんて止めとけ、幾らお前でもクソッタレな神様の運命(筋書き)は書き換えられない。アリナ、いい加減気付け、アートにご執心なのは良いけど、放ったらかしてると大事な人は勝手にどっか行くぞ」

 

「…なにそれ」

 

「意味が分からないね」

 

「ナンセンスだよね、ユウトって」

 

「あーはいはい、分かってたよ。話しても無駄だってな。…さっさと帰れ、奇襲なんて掛けないからよ」

 

 

 結翔さんの言葉を聞いたマギウスの面々は、どこか気の抜けたような顔で帰っていった。

 最後に一言、「もう、手段は選ばない」そう残して。

 

 

 私たちも、少し話をして帰路に着いた。

 東のリーダーでもある和泉十七夜さんと、いろはちゃんにやちよさん、あと結翔さんは、今後の方針──動き方を決める為に、話し合いの場を設けようと話していた。

 

 

 その間…私は取り敢えず謝りまくった。

 迷惑を掛けた色々な人に謝った。

 みんな、悪くないって言ってくれたけど、それでも私が自分自身を許せなくて、謝り倒したんだ。

 

 

 一通り全員に謝り倒したら、少しだけ心が楽になって、肩の力が抜ける。

 …少しだけ抜け過ぎて、まさらを押し倒しそうになったのは秘密。

 

 

 帰る途中、結翔さんとまさらの話によると、今回の戦いはみふゆさんがこっち側に助力してくれたから、私たちが勝てたらしい。

 尤も、彼女は別れる直前に耳打ちで、こう言った。

 

 

「ワタシには黒羽根と白羽根の皆さんを引き込んだ責任があります。夢を叶える、責任が…。マギウスのやり方は許せるものじゃないです、けど、離れることは出来ません。……ごめんなさい」

 

 

 とても、悲しそうな表情をしていたのを、私は覚えている。

 結翔さんを見て、申し訳なさそうに泣き笑いしていたのを覚えている。

 …勝手な思い込みかもしれないが、みふゆさんはきっと大好き人の前で笑顔でいたかったのだ。

 

 

 でも、申し訳なさを隠せなくて、中途半端な泣き笑いになってしまったんだ。

 …私は、ライバルの多さをここに来て痛感させられる。

 

 

 だって、家に着いたあと、結翔さんはもう一度外に出てしまったから。

 …何故かって? 

 それは──

 

 

「少し、鶴乃が心配だから家まで送る。みかづき荘に寄るとは思うけど、今日は家に帰るだろうし」

 

 

 多分、私はこの恋のレースで、最後尾を走ってるそんな気がした。

 まさらが参加するかは…正直分からない…けど、まさらもきっと結翔さんが嫌いではない筈だ。

 

 

 一寸先も闇、そんな未来が不確定な状態なのに、恋の道までイバラとは…神様は少し意地悪だと思う。

 

 

 ──鶴乃──

 

 わたしたちは、結局徹夜で今後の事を話し合った。

 朝日が見えてきた所で、一度話し合いは終わり、朝食をとる事になったんだけど……わたしはどうしても家が心配で、みんなに謝って帰ることに。

 みかづき荘を出て、実家である『万々歳』に足を向けようとした瞬間、門に寄りかかって眠り転けている結翔を見つけた。

 

 

「ゆ、結翔!? ど、どうしたのこんな所で? もしかして、みかづき荘に用があったの?」

 

「…んぁ? 鶴乃か…帰るんだろ? 送る」

 

「い、いや、送るって…。私が結翔を送りたいくらいだよ!」

 

「…お前の父さん、すげぇ心配してたらしい。俺が着いてった方が、説明が楽だろ? それに……」

 

「それに?」

 

「…今のお前を一人にするのは嫌だった。それだけ」

 

 

 …結翔はそう言って、フラフラとした足取りで、万々歳へと歩き始めた。

 もう時期的には冬だ。

 手袋やマフラー、防寒具の一つもしてない結翔は、手を少しだけ震わせて、トナカイのように鼻を真っ赤にしている。

 

 

 本当に、お人好しが過ぎる。

 …そう言う所が好きなんだが、少しやり過ぎだ。

 追いかけるように小走りで彼を追い、横に並ぶ。

 フラつく結翔の体を支えるように、寒そうな結翔の体を温めるように、腕を組み、恋人繋ぎの要領で手を握る。

 

 

「温かいでしょ?」

 

「…ありがとな」

 

「いえいえ、どういたしまして!」

 

 

 恥ずかしさを誤魔化すように笑って、私は家までの帰路を歩く。

 なんでだろう? 

 何時もなら、早く早く進もうとするのに…。

 今だけは、できるだけゆっくり、この時間を続けたいと思ってしまう。

 

 

 恥ずかしさと嬉しさで緩みそうになる顔を気合いで抑えるが…煩いくらいに鳴り響く鼓動は、どうしても止められない。

 …ま、不味いよ!? 

 ガッツリ手を握ってる結翔には…バリバリこの鼓動が──心音が聞こえてる筈。

 

 

 昔とは少し違い、見上げるようになった彼の顔をチラ見した。

 

 

「…あっ」

 

 

 ……赤くなってましたね、ハイ。

 不味いよ、不味すぎるよー!! 

 緊張してるの、恥ずかしがってるの、思いっきりバレちゃってるよ!? 

 

 

 そ、そうだ! 

 素数を数えよう! 

 なんかで、素数を数えると落ち着くことができるって書いてあった筈! 

 

 

『2、3、5、7、11、13……』

 

 

 …ん? 

 ちょっと待って、今、声被ってなかった? 

 もう一度、結翔の顔を見上げる。

 あっ、目が…合った。

 

 

 お互いに、見つめ合って…同時に笑いだした。

 何がおかしいのか分からなかったが、わたしたちは笑いあった。

 …バカみたいだけど、こんなやり取りがわたしは大好き。

 

 

 どこまでいっても、わたしたちは簡単には分かり合えない。

 思想の共有なんて出来ないし、お互いが考えてる事なんて分からない。

 分かる人がいるなら、こっちが教えて欲しいくらいだ。

 

 

 もし、結翔の考えてる事が全部分かるなら…それなら…わたしは──どう思われてるのか知りたい。

 ねぇ、結翔、私の事──

 

 

「好き?」

 

「へっ? …悪い、今なんて言った?」

 

「…ん? んんんんん???」

 

 

 …や、やっちゃった。

 聞いちゃった。

 口に出そうなんて、全然思ってなかったのに…出しちゃった。

 

 

 ど、どどど、どうしよう!? 

 な、何かで誤魔化さないと! 

 えーっと、えーっと、えーっと………ダメだ、全然思い付かないや。

 

 

 良し! 

 ここまで来たら、逃げ腰は止めよう! 

 直球勝負で行こう。

 わたしは、何時だってそうやって来たんだから。

 そうしないと、メルにも結翔にも失礼だ。

 

 

 組んでいた腕と手を離し、わたしは結翔と向かい合う。

 彼は、いつも通り、わたしがなにか言うのを律儀に待っていた。

 …大きく息を吸い込んで、ゆっくりとそれを吐く。

 何度か繰り返して、落ち着いた所で、わたしは一気に結翔との距離を詰めて、唇を──重ねた。

 

 

 ドラマや映画でしか見た事なんてない、メルと結翔のは…ノーカンだ。

 経験なんてない、彼女と同じで初めてだ。

 …歯が当たる事もあると聞いたが、どうやら上手く出来たらしい。

 触れ合った瞬間、恋心を爆発させるような火薬が、わたしの中で投下された。

 

 

 頭が真っ白になって、ここが商店街だとか、人が通るかもしれないなんて事は、どこかに追いやられた。

 ただただ、この時間を続ける為に、彼を抱き寄せた。

 結翔は……抵抗しなかった。

 

 

 嗚呼、本当に優しいなぁ……

 きっと、拒絶してわたしを傷付けないように、気を遣ってるんだろうな……

 

 

 好きだ、彼のそう言う所が大好きだ。

 だけど、同時に……大嫌いだ。

 優し過ぎるそんな彼が大嫌いだ……

 気なんか遣わなくて良い。

 そう思わせたくて、わたしを刻みつけるように長い長い口付けを交わした。

 

 

 離れたあと、わたしは伝えた。

 閉まっていた、何時か伝えようと隠してきた想いを。

 

 

「結翔。わたしね、結翔の事が大好きなんだ。…付き合って、なんてそんな事、今は言わないよ? …まだ、苦しいと思うから。だけど、全部終わって、整理がついたら…答え聞きたいな」

 

「良い返事じゃなくても…か?」

 

「うん、聞きたい。…言っとくけど、わたしはもう止まれないからね? ガンガンアプローチさせてもらうから!」

 

「…分かった。…頑張るよ、お前の想いを裏切らないように」

 

「なら良し! 帰ろー! お店がわたしを呼んでるよー!!」

 

 

 これで良い。

 これで良いんだ。

 結翔が進むキッカケになれれば良い。

 まぁ、勿論、わたしを選んで欲しいけどね? 

 

 

 恋は勝負で戦争、負けないからね、絶対。

 救われた、助けられた、今日、わたしは結翔の恋敵たちに心の中で宣戦布告した。

 

 

 ──結翔──

 

 鶴乃を送り届けたあと、俺はゆっくりと自宅に足を運んだ。

 嫌でも、唇に残る感触から、さっきまでの事を思い出す。

 …顔がかぁーっと熱くなる。

 

 

 未だに、俺は誰かからの好意を、受け取る資格なんて無いと思ってる。

 それは変わってない…変わってないけど、鶴乃の想いを無下にしない為にも、ちゃんと向き合って進まなきゃ行けない。

 

 

 口寄せ神社の件で、進む意志は固めたつもりだったんだけどな…弱虫め。

 自分自身に悪態をつきながら、俺は歩を進める。

 彼女たちの話し合いは思ったより長かった。

 朝焼けが目に染みる時間になって来し、恐らく自宅にいる二人の家族は眠って──ないだろうな。

 

 

 きっと、俺が帰ってくるまで待っているに違いない。

 クスリと笑を零しながら、鶴乃との一件を心にしっかりと書き留める。

 

 

「やるしかない…よな」

 

 

 何時の間にか帰ってきていた自宅の玄関ドアを開き、中に入る。

 リビングの方で少し物音がするし、よく見ると電気も付いていた。

 やっぱり、起きてたか。

 

 

 靴を脱いで、廊下を抜けて、リビングに入る。

 最初に目に映ったのは、暇そうな顔付きで、ソファに体を預けてテレビを眺めるまさら。

 次に目に入ったのは、制服の上にエプロンを着て朝食を作っているこころちゃん。

 

 

 いつも通りの日常風景。

 ポカポカと心が温かくなるのを感じる。

 …そう思ったのも束の間、一瞬にも満たないコンマ数秒の世界で、右側の視界にノイズが走った。

 

 

 驚いた俺は目を擦って、もう一度確認するが…見間違いだったのか、右端のノイズは消えていた。

 その後は、こころちゃんの作った朝食を食べながら少し談笑し、学校までの時間を過ごした…が、その間に着々と右端の視界に映ったノイズは広がっていく。

 

 

 ノイズが走る時間は増え範囲も増え、消えた後にノイズが映る、その間の時間だけが減っていく。

 最終的に、行ってきますを言う頃には、俺の右側の視界は完全にノイズに支配され、テレビで稀に見る砂嵐だけが映されていた。

 

 

 そして──

 

 

「──っ!?」

 

「結翔? …どうしたの、顔色が良くないわ」

 

「それはお互い様だ。…何でもない、疲れてるだけだよ」

 

「本当に大丈夫ですか? 大事をとって休んだ方が……」

 

「大丈夫、大丈夫。その内良くなるよ」

 

 

 作り笑いは捨てた、だから浮かべないし、浮かべる余裕が無い。

 左眼に映る光景はいつも通りなのに、右眼に映る光景は──ハッキリ言って地獄だった。

 

 

 左眼にも右眼にも、確かにまさらとこころちゃんの二人は映っている…が、あまりにも差があり過ぎる。

 分断された視界で、一方が日常を、一方が地獄を垂れ流してくる。

 

 

 日常の中に居る二人はいつも通り、制服姿でスクールバックを片手にこちらを見つめている。

 地獄の中に居る二人は──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 日常の空は青いのに、地獄の空は黒い。

 夜だからとか、そんなチンケな理由じゃない。

 …暗闇だ、地獄では、空の上にある太陽の光さえ見えない、そんな暗闇が覆っている。

 

 

 最悪の日々は唐突に始まった。

 




 次回もお楽しみに!

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