結翔「突然帰ってくるってメールが来て、驚いたなんてもんじゃなかったよ」
まさら「最初に母親だって聞いてなかったら、姉かと疑う程だったわ」
こころ「だよね。すっごく綺麗で若そうな印象が……あの肌の秘密を聞きたい」
ももこ「止めといた方がいいぞ、あの人、薄化粧程度であれだから」
みたま「突然現れた結翔くんのお母さん、これからどうなるのぉ〜?みんなは楽しんで五十九話をどうぞぉ!」
──結翔──
リビングを出たあと、俺はそのまま、家からも出た。
先程の会話の所為で、余計、家に居辛くなったからだ。
それに……
「幻覚や幻聴のこと、もしかしたら、咲良さんならなんか知ってるかもな…」
こう思ったからだ。
魔術と異能力、畑は違えど一応は公安Q科の部署内に属している。
期待はあまり出来ないが、正直な話、今は藁にもすがる思いだ。
右側に映る地獄の後継の所為で、少しづつ俺自身が変わりつつある。
……吐き出すつもりだったけど、あそこまで言うつもりはなかった。
ちゃんと吐き出して、しっかり話し合うつもりだったのに……あのザマだ。
とぼとぼと歩きながら、事務所を目指す。
時折すれ違う、赤の他人でさえ、地獄では俺に殺されている。
原因はフェーズを無理矢理上げたからだと予測しているが、何故フェーズを無理矢理上げたから幻覚や幻聴が起きるようになったのか?
その理屈や理由は何一つ分からない。
それを知るためにも…だ。
ようやく辿り着いた事務所の、玄関ドアを開けて中に入る。
靴を適当に脱ぎ揃えて、スリッパを借りて廊下を進む。
左手にあるドアを開き中に入ると、いつものように目の下に隈を作って、パソコンと格闘している咲良さんが居た。
「こんにちわ、咲良さん。……今、少し話し良いですか?」
「ん? あぁ、結翔君か。良いよ、どうしたの?」
「実は──」
俺は、取り敢えず、洗いざらい話した。
報告できてなかった諸々を含めて話終えると、最後にやっと本題に入る。
「幻覚に幻聴ねぇ…。しかも、魔眼を使う右眼の方で。なるほど、なるほど……」
「治す方法を知ってたらそれが一番良いんですけど…。なんでも良いから知りませんか? 情報が一つでも欲しいんです!」
「……結翔君もいい歳だしね、もう話してもいいか。ちょっと、キツイ話になるけど、良い?」
「大丈夫です。…お願いします」
いつもの喋り方じゃない、真剣味を感じる芯の通った声。
おちゃらけた空気は一切なく、少しだけ咲良さんの表情が曇った。
申し訳なさそうで、悲しそうな、そんな表情だったと思う。
俺が何故、思うとしか表現出来ないかと言われると、咲良さんが数秒後に発した言葉が、あまりにも信じられないものだったからだ。
暗闇に隠されていた真実を、嘘と偽りで塗り固められた真実を、解き明かす話。
「あなたのお父さんは……事故死じゃない。
「……ぇ?」
「…ごめんなさい、言葉足らずだったわね。私が殺すしかなかったの。あなたのお父さん──藍川
「可笑しく?」
「そう。本来なら十歳の時に契約悪魔が来るそうなんだけど、英斗さんの前に契約悪魔が現れたのは三十歳の時よ。……その時、英斗さんは国家を揺るがすような凶悪な事件を追ってて、国民を守る為にどうしても力が必要だったの」
「だから、契約を?」
三十歳な時に契約したなら、丁度他界する一年前になる。
なんで、なんで、この件を今話してるんだ?
一体、俺の幻覚や幻聴の件となんの関係がある?
……いや、ある。
関係なら、一つだけある。
契約したってことは、フェーズが上がってる筈だ。
俺も、やり方こそ違えどフェーズは上がった。
なら、根本の原因はフェーズを上げること…なのか?
「…でもね、契約をしてから英斗さんは可笑しくなっていった。日々、あなたと同じように幻覚や幻聴に悩まされ、まともに家に帰れてなかったわ」
「………………」
そう言われれば、そうだった。
他界する──死ぬまでの一年間、父さんはあまり家に顔を見せなかった。
死ぬ前の父さんに最後に会った日は、事故の二ヶ月も前。
…よくよく考えれば、最初から可笑しかった、そういう訳か。
「そして、事故があった伝えられた日。発狂寸前だった英斗さんは……弟子である私に二つお願いをした。一つは自分を殺す事。もう一つは──」
「俺と母さんの事…ですか?」
「………………」
咲良さんはそれ以上、何も言わず、ただコクリと頷いた。
恨んでないと言えば……嘘になる。
けど、俺は恨むのと同じくらい同情した。
大切な人が罪を犯す前に止める、それがどれだけ辛いか、俺はよく知っている。
父さんも、信頼する弟子に介錯してもらえたんだ、本望だろう。
…もし、何か望んでいたなら、それは俺や母さんの事。
最後に一目会いたい、それぐらいは思っていた筈だ。
優しい人だった、強い人だった──俺の憧れた、最初のヒーローだった。
そんな人でも、魔眼は狂わせる。
なるほど、時間は掛かったが理解したぞ。
右眼に映し出される地獄は、俺の未来だ。
発狂し悪魔に魂を売った後の、俺の最悪の結末の一つ。
一年あっても、父さんは治療法を見つけられなかった。
今すぐどうこうするのは、不可能と考えて良いだろう。
俺は、咲良さんに一言、ありがとうと伝え事務所を出る。
廊下を出た直後、すすり泣くような声が聞こえたが、俺は振り返らなった。
慰めるのが俺じゃ、きっと辛いだけ。
何せ、咲良さんから見れば俺は師匠から託された子供で、その子供が師匠と同じ未来を歩もうとしてるのだから。
無力感は相当なものだし、それを証明する存在である俺が慰めるなんて、辛いだけじゃ済まないかもしれない。
事務所を出たあと、色々な事を整理するように、俺はフラフラと街を歩いた。
父の死の真相、母の突然の帰宅、幻覚や幻聴の正体の一端、そして地獄のような未来。
歩いて、歩いて、歩いて。
気が付いたら……
「むっ、こんな所で何をやってるんだ藍川?」
「……ん? あれ、十七夜さん?」
「何故、そちらが驚いたような顔する。驚いているのは自分だ。ここは大東だぞ?」
「へっ?」
俺は知らぬ間に大東区にまで足を運んでいた。
そして、何故かそのまま、俺は十七夜さんがバイトしてるというメイド喫茶に、強制的に連行される。
理由を聞くと、彼女は……
「自分はこれでも、上に立つ人間だからな。顔見知りの精神状態くらい、表情を見ればなんとなく察せる。…なにかあったんだろう? 話ぐらい聞く」
「…ありがとう、ございます」
優しさが痛くて、でも、とても温かい。
流れないと思っていた筈の涙は、勝手に流れていた。
──和恵──
家を出てから数分。
行く宛てもなく飛び出した所為で、私はブラブラと、見知った景色を眺めながら歩くしかなかった。
そして、丁度その時、懐かしい場所を見つける。
公園だ。
あの子が、よくあの人──英斗さんやももこちゃんと遊んでいた公園。
まだ残っていたなんて…少しばかり感激した。
自然と足はそこへ向かい、キャリケースを引いて行く。
ベンチに腰かけ、昔の思い出を、この公園の光景に重ねる。
家族には戻れないと、分かってしまったからか、余計に感傷に浸ってしまう。
時計の針を戻すだけでは過去に戻れないし、進めても良い未来は訪れない。
過去と言うのは不変の事象、変わる事など有り得ないのだ。
でも、願ってしまう。
幸せだったあの日に戻れたら…と。
家族みんなが笑っていたあの日に……
「たった一人欠けただけなのにこうも変わるなんて。…やっぱり、あなたは大き過ぎるわよ。英斗さん…」
たった一人、されどその一人あまりにも大き過ぎた。
私の心にも、結翔の心にも、大きく存在していたんだ。
四年間、無くなった部分を埋めるように、旅に出て。
各地で嫌という程、ピアノを弾いて回った。
……得られるものなんてたかが知れていたというのに。
ポロポロと流れる涙は止まってはくれない。
思えば思うほど苦しくなって、それでも諦めるなんて出来なくて。
私は未練がましく、家族に縋りつこうとしている。
最低な事をしたのに、許されない事をしたのに、私はまだ──
「わわっ!? 大丈夫、お姉さん! そんなに泣いて、何かあったの!?」
「……ごめんなさいね。こんな所で泣いて、迷惑よね」
「全然迷惑じゃないよ? だって、公園にはわたし以外誰も居ないし」
「それでもよ。…私なんか気に掛けなくていいわ」
目の前に居たのは、サイドテールに纏めた明るい茶色の髪と、情熱の炎を幻視させる赤橙色の瞳を持つ少女。
可愛らしい幼さの残る顔立ちをしている少女は、私に心配するような表情を向けていた。
バイトの途中だったのだろう、出前缶を自転車のカゴに入れて、愛らしい私服の上にエプロンを羽織っている。
急いでるだろうに、私なんか気に掛けなくて良いと言ったのに、少女はただただ私を見つめ続ける。
結局、私の方が折れて、少女の名前を聞いた。
「お名前、聞いても良いかしら?」
「わたし? わたしの名前は由比鶴乃だよ! 参京区にある中華飯店『万々歳』の看板娘!」
「由比…鶴乃ちゃんね? それに…中華飯店『万々歳』…。あぁ、ももこちゃんから聞いてるわ。そう、あなたが最強の魔法少女ね?」
「そうそう! わたしが──ちょ、ちょっと待って!? なな、なんでお姉さんが、ももこを知ってて、私が魔法少女って事を?!」
「あぁ、名乗ってなかったわよね。私の名前は藍川和恵。…一応、藍川結翔の母親よ」
そう言うと、鶴乃ちゃんは、口をあんぐりと開けて固まってしまう。
彼女が驚きから開放されたのは、数分が経ってからだった。
和恵さんが魔法少女の事を何故知ってるのかは次回!
という訳で、次回もお楽しみに!
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