まさら「結翔は寝言で何か言っていたり、体中に傷があったりと、過去が掘り下げられないと、分からないことばかりだったわね」
結翔「今回のお話は風邪を引いてから約一週間後。遂に、俺の師匠であるあの人が登場!」
鶴乃「わたしのししょーでもあるんだよ!ふんふん!」
まさら&こころ「過去が少しだけ掘り下げられるかもしれない、六話をどうぞ」
──結翔──
魔法少女に隠された秘密。
それを知る者は、この世界に多くは居ないだろう。
現に、俺自身も約一年前の事件まで知らなかったのだから。
知って良かったと思える真実、知って後悔する真実。
この二つに魔法少女の隠された真実を分類するなら、間違いなく後者だ。
だが、先程も言っただろうが、多くの者は真実を知らない。
多くの魔法少女は女学生である為、今日も今日とて青春謳歌している。
極小数の人間は違うが……
「……で? 何で居るんですか?」
「貴方に話があったからに決まってるじゃない」
「…ですよね。待ってて下さい、お茶でも出すんで」
ももこ曰く、「強いくせに反則じみて細い手足をしている」、「髪は絹のようだし肌は水をも弾く赤ちゃん大魔王」……らしい。
確かに藍色に近い青墨色の髪は絹のように触り心地が良かったし、肌も年齢を感じさせない潤い肌。
瞳は碧く、知的な雰囲気を醸し出している。
モデルをやっている事もあり、ラインは細く、お年頃の女の子の理想像のようだ。
……胸は別だ──
「結翔? 何か失礼な事考えなかった?」
「いえ、何も」
やばいな、付き合いが長い所為か、考えを読まれてる。
変な事を考えるのはよそう。
思考を断ち切り、俺は手早くお盆にお茶とお茶菓子を載っけてテーブルまで持って行く。
「ありがとね。お茶菓子まで」
「色々と世話になりましたから。これくらい」
「…そう。調子はどう? …ももこの方も」
「良い方…だと思いますよ。あの頃に比べれば」
事件当時に比べれば、俺の調子はすこぶる良くなってる筈だ。
まぁ、事件前に比べればまだまだかもしれないが……
「ならいいは。今回、私がここに来たのは──」
「噂の件ですね?」
「話が通じて助かるわ。その後どう? 何か分かったかしら?」
「咲良さんも全力で調べてくれてますけど、やちよさんと内容は変わらないみたいです」
「……仕方がない…のかしら」
そんな事は無い。
言いたい言葉は喉元で止まり、外に出ることは無かった。
慰めの言葉は無用だと、彼女の発する空気が──雰囲気が言っていたから。
「こればかりは、本格的に事が始まるまで待つしかないですよ」
「思ったより、早く話が済んでしまったわね。…それじゃあ、あと一つ聞いていい?」
「俺が答えられる範囲なら」
そう言うと、俺はどんな質問が来るか構えながら、お茶の入ったコップを手に取り口に含んだ。
アツアツのお茶が口の中を満たし、暖かさが体に広がる為に喉から落ちようとした瞬間、やちよさんの口から思わぬ質問が飛び出した。
「みたまから、他の魔法少女と同棲してると聞いたけど。それは本当?」
「ブフゥ!?」
…次いでに、俺の口からはお茶が飛び出した。
運良く、やちよさんにかからずに済んだが、テーブルはビチョビチョだ。
ボクシングやってたら、審判からボディーブロー受けたみたいな衝撃がある。
やったことないけど、ボクシング。
「本当だって言ったら?」
「取り敢えず通報するわ」
「同業者に捕まっちゃう?!」
「……冗談よ。通報する前に私が処分する」
「もっと酷くなったんですけど!?」
クスクスと笑う事からここまでの全てが冗談だと分かるが、目は全く持って笑ってなかった。
上辺だけの笑顔は簡単には剥がれない。
それに加えて、最近あまり笑わなくなった人が、笑っていたら誰でも不気味に思うだろう?
それと同じ現象が起きているのだ。
俺自身のタイミングが悪いのか何なのか、最近めっきり笑ったところを見ていなかったので、余計恐ろしく感じる。
本当の事を言ったら死ぬし、本当の事を言わなくても死ぬ。
(…あれ? よく考えたら。二つに一つの選択肢どころか、二つとも結果が同じじゃないか?)
将棋だったら王手、チェスだったらチェックのように。
完全なる詰みが目の前まで迫っていた。
……だが、俺だって馬鹿じゃない。
こうなった時用に、リビングには二人の私物を目立つ所に置かせてないし、言い訳だって考えてある。
やちよさん!
残念だったけど、今回は俺の勝ち──
「ただいま帰りましたー!」
「ただいま」
玄関のドアが開く音と同時に、
あっ、やちよさんの瞳からハイライトが消えた……
そりゃあ……怒られたよね、こってり一時間くらい。
最初は弁護しようとしていたこころちゃんも、俺への怒りのボルテージが天元突破したやちよさんに適う筈もなく。
最終的にまさらの一言で救われた。
「条件を飲んだのは私たち。貴女にとやかく言われる筋合いはないわ」
少し攻撃的だった気がするが、やちよさんもそれが正論だと気付き、諦めたようにため息を吐いていた。
その日、出会ってから初めて、まさらに本気で感謝した気がする。
──やちよ──
説教は加賀見さんの一言で幕を閉じ、私と結翔は藍川家を出て外を歩きながら話している。
特に意味のない、たわいない話をした。
久しぶりの無駄話、話題は尽きなかった。
ポイントカードのポイントが溜まりに溜まって、そろそろ使わないと不味いのに、何故か勿体なくて使えない話。
大学の講義中に、教授(三十代の女性)が資料室に引っ込んだと思ったら、JKのコスプレをして出てきた話。
それ以外にも、壊れた蛇口のように話題は出てくる。
そして、いつの間にか、私が祖父母から譲り受けた屋敷であり、私自身住んいでる「みかづき荘」に到着した。
何時もならここで別れるだろうが、その日はそこで結翔を帰そうとは思えずにいる自分が居て……玄関の前で足が止まる。
「まだ…持っている?」
「ソウルジェムとグリーフシードですか?」
「ええ。それ以外ないでしょ?」
「…しっかり持ってますよ」
「ソウルジェムは魂そのものであり、それが入った最高級の器。私たちに魔法少女にとって、心臓──核とも呼ぶべき存在。…色を失ったソウルジェムに、価値なんてないのよ?」
私の言葉に、結翔は黙り込む。
言いたかった言葉は口から出てこず、絶望に突き落とすような言葉が吐き出た。
違う……違うの……私が言いたいことは……
「…それでも…それでも、これはアイツが生きてた証です。グリーフシードも同じ。だから、価値はあります」
「言い切るのね」
「価値観なんて、人それぞれ。千差万別ですよ。正義と同じ」
「まだ、ヒーローを目指しているの?」
「……期間限定だって、気づいちゃいましたからね。俺なんかじゃなれないって事も…。取り敢えず、今はやれる事を全力でやるだけです。街に居る人も守るのも、街自体を守るのも……全力で」
目指してない……とは言わないのね。
やっぱり、心のどこかでは諦めきれてないって事なのかしら?
私にとって結翔は可愛い後輩であり、弟子のような存在だ。
困っている事があれば助けてやりたいが、私が近くに居ると……危険だ。
それに加えて、今の私は何かと嫌われている人が多い。
関わって、結翔の今までの友好関係を壊すのは気が引けてしまう。
『やっちゃんは、本当に優しいですね』
幼馴染の言葉を思い出す。
行方知らずの、大切な幼馴染。
彼女の言葉は、とても温かくて、今の私を刺し殺すような言葉だ。
「結翔、暇だったらお茶でも飲んできなさい」
「…今日の料理当番、俺なんですよ。待たせる訳にはいかないんで、帰らせてもらいます」
「分かったわ。引き留めて悪かったわね」
「別に大丈夫ですよ。気にしてません」
恐らくだが、結翔にとってここは思い出の場所でありトラウマの巣窟だ。
居るだけで、グサグサと過去の
…意地悪な言い方だっただろうか。
一言、「また」と残して遠くなる背中。
英雄になる素質があったのに、英雄になる努力を惜しまない少年だったのに……
彼は──藍川結翔と言う人間は、どこまでいっても英雄に向いていなかった。
山あり谷ありな結翔の人生は、
こう在らなければならない、と言う理想は重石となり、心はあの事件で完全に崩壊した。
何とか立て直してはいる……が。
「粟根こころに加賀見まさら。良い影響を与えてくれればいいけど…」
どこか他人事のように呟いて、私は家の中に入っていった。
気付いていなかったが、この時にはもう、物語の歯車は回り始めていたらしい。
次回もお楽しみに!
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