結翔「代わりに吐血って軽い感じだけど、結構辛いんだが…」
まさら「当たり前でしょ、辛くなかったらデメリットでもなんでもないわ」
こころ「ま、まぁ、極端な気がしますけどね……」
和恵「今回で家族編は一区切りだけど、皆さんは楽しんで六十二話をどうぞ!」
──結翔──
家に着くと、玄関の前に鶴乃が立っていた。
俺が向こうに気付くのとほぼ同時に、鶴乃も気付いたのか、手を振りながらこっちに小走りでやってくる。
「お帰りー! 待ってたんだよー?」
「…もしかしなくても、母さんと一緒に居たりしたか?」
「うん。色々聞いたよ。…ねぇ、結翔──」
「言わなくても良いよ。…少しだけ時間をくれ、先に話したい事がある」
真剣な俺の声音で何かを察してくれたのか、鶴乃は笑顔で頷いた。
こう言う時、コイツの察しの良さには助けられる。
鶴乃の横を通り過ぎ、俺は家の中に入った。
適当に靴を脱ぎ揃え、リビングの方に歩いていく。
幻覚や幻聴、加えて吐血の事を喋れば、説教されるのは間違いないだろうし、最悪泣かれる可能性だってあるが……
話さない、と言う選択肢は俺にない。
意を決してリビングに入ると、いつもと変わらない二人が寛いでいた。
…きっと、俺が気にしている部分に触れないようにする為だろう。
温かい優しさの現れだった。
あまりの嬉しさに笑みを零しながらも、話をするために声を掛ける。
「……二人とも、話があるんだ」
「帰ってそうそうね。…どうしたの?」
「なにか、あったんですか?」
「俺さ──」
その言葉に続くように、俺は魔眼による幻覚や幻聴、それを封印した事による吐血の話をした。
こころちゃんは何処か心苦しそうに、まさらは今日の俺のらしくない行動に合点がいったのか、納得の表情をして聞いていた。
だが、全部話し終えると、二人は揃って笑い始める。
困惑する俺を他所に一頻り笑うと、彼女たちも話し始めた。
「話してくれて嬉しかったんですよ。…いつも、結翔さん大事な事は全部一人で抱え込もうとするから」
「そうね。…貴方はいつもそう。自分一人で何とか出来る、自分一人で何とかしなきゃって躍起になる」
「…そんなにか?」
「えぇ」
「はい」
頷く二人を見て、俺は苦笑するしかなかった。
一応、こころちゃんとまさら、二人に話す話は終わったので、まさらにだけ声を掛けて二階に上がる。
…話さなきゃいけない話は、一つじゃないからだ。
──まさら──
結翔に声を掛けられ二階の部屋に行くと、彼は私をベットに座らせた。
他にも話があるのか?
あるとしたら、それはなんなのか?
私は何も分からないまま、ベットに腰掛けて、彼が話し始めるのを待つ。
少しの間を置いて、結翔は私に話し始めた。
一つは、自分がいずれ化け物になること、もう一つは……
「そうなった俺を…殺してくれ」
「…は? 貴方、本気で言ってるの? 私に貴方が殺せるとでも?」
「可能性はある。だから、言ってるんだ」
正直言って意味不明だ。
今の結翔は、完全ではないが実質不死。
誰がどう殺そうと、死ぬ事なんて有り得ない。
それを、私が殺す?
笑止千万、と言うやつだ。
それに、例え殺せたとしても、私は結翔の形をした物を──殺したいとは思わない。
その時が来るまで、殺そうとは思えないだろう。
けど、彼の願いを無下にしたいとも思わない。
話だけでも、最後まで聞くべき…か。
「……分かったわよ。それで、その可能性って言うのは?」
「俺はお前の──いや、お前たちの未来を視る事が出来ない。…それが可能性だ」
「…ちょっと待って、それは嘘でしょう?」
「嘘じゃえねえよ。俺が一度でも、お前たちとの鍛錬で魔眼使った事あるか?」
「…ないわね。でも、あれは鍛錬の意味がなくなるからって、貴方が……」
「悪ぃ、あれ少し嘘だ。本当は未来視が使えなかったから、他の魔眼も機能しないと思って使わなかっただけ。…まぁ、使えたとしても、使う気なんてなかったけど」
自分の命の終わりを、私に委ねようとしているのにも関わらず、何処か飄々とした態度で彼は言った。
…いや、そうでもしないと、普通では居られなかったのかもしれない。
結翔だって人間だ、怖いと思う心だってしっかりと備わっている。
こころを選ばなかった理由は…あの子じゃ出来ないからだろう。
優し過ぎるあの子は、結翔を──化け物に変わり果てた結翔を、殺す事は不可能だ。
消去法と言う理由に呆れながらも、それしか方法がない事に、私は自嘲気味に笑う。
最近、良く自分の無力さを痛感させられる。
強くなりたいと…心の底から願った。
そんな私を知ってか知らずか、結翔は最後の話しを始める。
「最後にもう一つ。これは…俺からのお願いみたいなもんだ。肩の力を抜いて、リラックスして聞いてくれ」
「……いいわ、話してちょうだい」
「俺が居なくなった後のこの街を…頼む」
「他の人じゃ、ダメなの…?」
「お前が良いんだよ。…お前だったら、俺の意志を継いでくれる。そんな気がするんだ。まぁ、お願いだから無視しても良い。お前は──加賀見まさらとして生きたいように生きればいい」
お願いと言うには余りにも大きいが、それは……信頼の裏返しなのかもしれない。
彼が死ぬ気で守った街を、死後、私に託してくれてる。
少しだけ頬が緩んだ。
加賀見まさらとして生きたいように生きればいい。
私の意志を尊重する言葉だった。
だからだろうか、私は悩んで…悩んで悩んで、それを引き受ける事にした。
「決めたわ。…貴方の代わりに、この街のヒーローになる。約束よ」
「ありがとな…まさら」
今思えば、悩んで悩んで、引き受けた理由は彼に大切なものを託して貰えた、優越感だったのかもしれない。
──和恵──
鶴乃ちゃんに言われて、玄関の前で待つこと十数分。
結翔…と思わしき魔法少女の子と別れてから、三十分以上が経過している。
見間違いや勘違い…そんなものではないと信じていた。
そして、答えはようやく明かされる。
玄関のドアが開かれ、結翔が中に入るように促す。
「お邪魔します」
「おじゃましまーす!」
「……別に、ただいまで良いよ」
寂しそうに、そう一言零すと結翔はリビングに進んでいく。
私と鶴乃ちゃんも、それに続くようにリビングに入った。
中には、既にこころちゃんとまさらちゃんが居て、準備は万端と言った感じだ。
対面のイスに座り、私と結翔は向かい合う。
お互いに、言葉が出ない。
一言、ごめんなさいと謝って、もう一度やり直したいと伝えるだけなのに。
喉につっかえて出てこない。
数分の間、静かな時が流れる。
一歩歩み寄るだけで、救われるのに…その筈なのに…
「……………………」
「……………………」
『あ、あの!』
「…結翔から話しなさい」
「いや、母さんから…」
『……それじゃあ』
まるで、コントのようなやりとりだった。
重なる声がリビングに響き、私と結翔は久しぶりに揃って笑う。
あぁ、写真じゃない、本物のこの子の笑顔を見たのは何年ぶりだろうか……
四年……四年前が、遠く感じる。
手を伸ばしても届かない、そんな遠い過去のように…感じる。
今なら掴める、今なら離さないでいられる。
もう一度抱き締めると…決めたんだ!
「結翔。…今までごめんなさい。あなたに、本当に酷いことをしたと思ってるの。我儘だって…分かってる。けど、もう一度、もう一度だけやり直すチャンスが欲しいの」
「…そんな事言ったら、俺だってごめん。朝、凄い酷いこと言っちゃった。本当はあそこまで言うつもりなくて、ただ聞きたかったんだ。なんで置いていかれたのか」
「話すべきよね。…良く、聞いて欲しいの。実はね、私──」
理由を話した。
臆病な私の理由を、話した。
最初は複雑そうな表情をしていた結翔も、段々と頷くだけになって、最後には納得したのか、ポロポロと涙を零し始める。
誰に何を言われた訳もなく、私はその涙を拭いた。
そして、イスから腰を上げて、結翔の方に歩き、優しく抱き締める。
ポロポロと流れる涙で私の胸を濡らし、嗚咽を零す。
「俺…おれ、ずっと捨てられたって…思ってて…! 嫌われたんじゃないかって……ずっと怖くて!」
「ごめんね。…ホントにごめんね」
泣いて、泣いて、泣いて。
泣き終わった結翔は、晴れやかに笑った。
明るい太陽のような、そんな笑顔だった。
良かった。
…きっと、やり直せる。
そう思った直後、結翔は誰もが思いもしない言葉を口にした。
「…母さん、もう少しだけ外にいて欲しいんだ」
「ど、どうして? やっぱり、まだ……」
「違うよ。…色々あってさ、母さんの安全が完璧に確保されるまで、外に居て欲しいんだ。今戦ってる相手は、手段は選ばないって言ったから、何をしでかすか分からない。もしかしたら、母さんに危害が及ぶ可能性がある」
「……そう。分かったわ。待ってるわね」
「任せて!」
笑顔を崩すことなく、結翔はサムズアップをして、私の言葉に答えた。
……やり直せるまではもう少し掛かるが、やり残した事を済ませる良い機会。
そして、私は家を出る前に、結翔と連弾をした。
揃って笑ったのと同じく、久しぶりだったが、気持ち良く弾く事が出来て、素直に嬉しかった。
また、こうして、弾けたら良いな。
あの頃みたいに……家族で──
次回もお楽しみに!
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