無感動な少女と魔眼使いの少年(リメイク版)   作:しぃ君

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 和恵「前回までの『無少魔少』。みたまちゃんの施術のお陰で、結翔は魔眼の幻覚と幻聴を封印できたけど、代わりに吐血するようになっちゃったり、私が魔女に襲われて、通りすがりの魔法少女に助けられたって話ね」

 結翔「代わりに吐血って軽い感じだけど、結構辛いんだが…」

 まさら「当たり前でしょ、辛くなかったらデメリットでもなんでもないわ」

 こころ「ま、まぁ、極端な気がしますけどね……」

 和恵「今回で家族編は一区切りだけど、皆さんは楽しんで六十二話をどうぞ!」



六十二話「家族だから」

 ──結翔──

 

 家に着くと、玄関の前に鶴乃が立っていた。

 俺が向こうに気付くのとほぼ同時に、鶴乃も気付いたのか、手を振りながらこっちに小走りでやってくる。

 

 

「お帰りー! 待ってたんだよー?」

 

「…もしかしなくても、母さんと一緒に居たりしたか?」

 

「うん。色々聞いたよ。…ねぇ、結翔──」

 

「言わなくても良いよ。…少しだけ時間をくれ、先に話したい事がある」

 

 

 真剣な俺の声音で何かを察してくれたのか、鶴乃は笑顔で頷いた。

 こう言う時、コイツの察しの良さには助けられる。

 鶴乃の横を通り過ぎ、俺は家の中に入った。

 適当に靴を脱ぎ揃え、リビングの方に歩いていく。

 

 

 幻覚や幻聴、加えて吐血の事を喋れば、説教されるのは間違いないだろうし、最悪泣かれる可能性だってあるが……

 話さない、と言う選択肢は俺にない。

 意を決してリビングに入ると、いつもと変わらない二人が寛いでいた。

 

 

 …きっと、俺が気にしている部分に触れないようにする為だろう。

 温かい優しさの現れだった。

 あまりの嬉しさに笑みを零しながらも、話をするために声を掛ける。

 

 

「……二人とも、話があるんだ」

 

「帰ってそうそうね。…どうしたの?」

 

「なにか、あったんですか?」

 

「俺さ──」

 

 

 その言葉に続くように、俺は魔眼による幻覚や幻聴、それを封印した事による吐血の話をした。

 こころちゃんは何処か心苦しそうに、まさらは今日の俺のらしくない行動に合点がいったのか、納得の表情をして聞いていた。

 だが、全部話し終えると、二人は揃って笑い始める。

 

 

 困惑する俺を他所に一頻り笑うと、彼女たちも話し始めた。

 

 

「話してくれて嬉しかったんですよ。…いつも、結翔さん大事な事は全部一人で抱え込もうとするから」

 

「そうね。…貴方はいつもそう。自分一人で何とか出来る、自分一人で何とかしなきゃって躍起になる」

 

「…そんなにか?」

 

「えぇ」

 

「はい」

 

 

 頷く二人を見て、俺は苦笑するしかなかった。

 一応、こころちゃんとまさら、二人に話す話は終わったので、まさらにだけ声を掛けて二階に上がる。

 …話さなきゃいけない話は、一つじゃないからだ。

 

 

 ──まさら──

 

 結翔に声を掛けられ二階の部屋に行くと、彼は私をベットに座らせた。

 他にも話があるのか? 

 あるとしたら、それはなんなのか? 

 

 

 私は何も分からないまま、ベットに腰掛けて、彼が話し始めるのを待つ。

 少しの間を置いて、結翔は私に話し始めた。

 一つは、自分がいずれ化け物になること、もう一つは……

 

 

「そうなった俺を…殺してくれ

 

「…は? 貴方、本気で言ってるの? 私に貴方が殺せるとでも?」

 

「可能性はある。だから、言ってるんだ」

 

 

 正直言って意味不明だ。

 今の結翔は、完全ではないが実質不死。

 誰がどう殺そうと、死ぬ事なんて有り得ない。

 それを、私が殺す? 

 

 

 笑止千万、と言うやつだ。

 それに、例え殺せたとしても、私は結翔の形をした物を──殺したいとは思わない。

 その時が来るまで、殺そうとは思えないだろう。

 

 

 けど、彼の願いを無下にしたいとも思わない。

 話だけでも、最後まで聞くべき…か。

 

 

「……分かったわよ。それで、その可能性って言うのは?」

 

「俺はお前の──いや、お前たちの未来を視る事が出来ない。…それが可能性だ」

 

「…ちょっと待って、それは嘘でしょう?」

 

「嘘じゃえねえよ。俺が一度でも、お前たちとの鍛錬で魔眼使った事あるか?」

 

「…ないわね。でも、あれは鍛錬の意味がなくなるからって、貴方が……」

 

「悪ぃ、あれ少し嘘だ。本当は未来視が使えなかったから、他の魔眼も機能しないと思って使わなかっただけ。…まぁ、使えたとしても、使う気なんてなかったけど」

 

 

 自分の命の終わりを、私に委ねようとしているのにも関わらず、何処か飄々とした態度で彼は言った。

 …いや、そうでもしないと、普通では居られなかったのかもしれない。

 結翔だって人間だ、怖いと思う心だってしっかりと備わっている。

 

 

 こころを選ばなかった理由は…あの子じゃ出来ないからだろう。

 優し過ぎるあの子は、結翔を──化け物に変わり果てた結翔を、殺す事は不可能だ。

 

 

 消去法と言う理由に呆れながらも、それしか方法がない事に、私は自嘲気味に笑う。

 最近、良く自分の無力さを痛感させられる。

 強くなりたいと…心の底から願った。

 

 

 そんな私を知ってか知らずか、結翔は最後の話しを始める。

 

 

「最後にもう一つ。これは…俺からのお願いみたいなもんだ。肩の力を抜いて、リラックスして聞いてくれ」

 

「……いいわ、話してちょうだい」

 

「俺が居なくなった後のこの街を…頼む」

 

「他の人じゃ、ダメなの…?」

 

「お前が良いんだよ。…お前だったら、俺の意志を継いでくれる。そんな気がするんだ。まぁ、お願いだから無視しても良い。お前は──加賀見まさらとして生きたいように生きればいい」

 

 

 お願いと言うには余りにも大きいが、それは……信頼の裏返しなのかもしれない。

 彼が死ぬ気で守った街を、死後、私に託してくれてる。

 少しだけ頬が緩んだ。

 

 

 加賀見まさらとして生きたいように生きればいい。

 私の意志を尊重する言葉だった。

 だからだろうか、私は悩んで…悩んで悩んで、それを引き受ける事にした。

 

 

「決めたわ。…貴方の代わりに、この街のヒーローになる。約束よ」

 

「ありがとな…まさら」

 

 

 今思えば、悩んで悩んで、引き受けた理由は彼に大切なものを託して貰えた、優越感だったのかもしれない。

 

 

 ──和恵──

 

 鶴乃ちゃんに言われて、玄関の前で待つこと十数分。

 結翔…と思わしき魔法少女の子と別れてから、三十分以上が経過している。

 見間違いや勘違い…そんなものではないと信じていた。

 

 

 そして、答えはようやく明かされる。

 玄関のドアが開かれ、結翔が中に入るように促す。

 

 

「お邪魔します」

 

「おじゃましまーす!」

 

「……別に、ただいまで良いよ」

 

 

 寂しそうに、そう一言零すと結翔はリビングに進んでいく。

 私と鶴乃ちゃんも、それに続くようにリビングに入った。

 中には、既にこころちゃんとまさらちゃんが居て、準備は万端と言った感じだ。

 

 

 対面のイスに座り、私と結翔は向かい合う。

 お互いに、言葉が出ない。

 一言、ごめんなさいと謝って、もう一度やり直したいと伝えるだけなのに。

 喉につっかえて出てこない。

 

 

 数分の間、静かな時が流れる。

 一歩歩み寄るだけで、救われるのに…その筈なのに…

 

 

「……………………」

 

「……………………」

 

『あ、あの!』

 

「…結翔から話しなさい」

 

「いや、母さんから…」

 

『……それじゃあ』

 

 

 まるで、コントのようなやりとりだった。

 重なる声がリビングに響き、私と結翔は久しぶりに揃って笑う。

 あぁ、写真じゃない、本物のこの子の笑顔を見たのは何年ぶりだろうか……

 四年……四年前が、遠く感じる。

 

 

 手を伸ばしても届かない、そんな遠い過去のように…感じる。

 今なら掴める、今なら離さないでいられる。

 もう一度抱き締めると…決めたんだ! 

 

 

「結翔。…今までごめんなさい。あなたに、本当に酷いことをしたと思ってるの。我儘だって…分かってる。けど、もう一度、もう一度だけやり直すチャンスが欲しいの」

 

「…そんな事言ったら、俺だってごめん。朝、凄い酷いこと言っちゃった。本当はあそこまで言うつもりなくて、ただ聞きたかったんだ。なんで置いていかれたのか」

 

「話すべきよね。…良く、聞いて欲しいの。実はね、私──」

 

 

 理由を話した。

 臆病な私の理由を、話した。

 最初は複雑そうな表情をしていた結翔も、段々と頷くだけになって、最後には納得したのか、ポロポロと涙を零し始める。

 

 

 誰に何を言われた訳もなく、私はその涙を拭いた。

 そして、イスから腰を上げて、結翔の方に歩き、優しく抱き締める。

 ポロポロと流れる涙で私の胸を濡らし、嗚咽を零す。

 

 

「俺…おれ、ずっと捨てられたって…思ってて…! 嫌われたんじゃないかって……ずっと怖くて!」

 

「ごめんね。…ホントにごめんね」

 

 

 泣いて、泣いて、泣いて。

 泣き終わった結翔は、晴れやかに笑った。

 明るい太陽のような、そんな笑顔だった。

 

 

 良かった。

 …きっと、やり直せる。

 そう思った直後、結翔は誰もが思いもしない言葉を口にした。

 

 

「…母さん、もう少しだけ外にいて欲しいんだ」

 

「ど、どうして? やっぱり、まだ……」

 

「違うよ。…色々あってさ、母さんの安全が完璧に確保されるまで、外に居て欲しいんだ。今戦ってる相手は、手段は選ばないって言ったから、何をしでかすか分からない。もしかしたら、母さんに危害が及ぶ可能性がある」

 

「……そう。分かったわ。待ってるわね」

 

「任せて!」

 

 

 笑顔を崩すことなく、結翔はサムズアップをして、私の言葉に答えた。

 ……やり直せるまではもう少し掛かるが、やり残した事を済ませる良い機会。

 

 

 そして、私は家を出る前に、結翔と連弾をした。

 揃って笑ったのと同じく、久しぶりだったが、気持ち良く弾く事が出来て、素直に嬉しかった。

 

 

 また、こうして、弾けたら良いな。

 あの頃みたいに……家族で──




 次回もお楽しみに!

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