結翔「今回からはお前がメインだからな。頑張ってくれよ」
こころ「まさらがメインと言うより、私たちにライトが当たってる感じですよね」
みたま「わたしの出番?」
ももこ「話聞いてやれよ、アタシらの出番はないって」
メル「ボク!ボクの出番は!?」
結翔「いや、余計ないだろ」
まさら「少し話は短いけど、皆さんは六十三話を楽しんでどうぞ」
──まさら──
結翔と母親の件が終わってから早二日。
放課後の夕暮れ時、私は一人、レンタルショップからの帰り道を歩いていた。
今日も学校はあったが、結翔の仕事は休みらしい。
…まぁ、吐血して倒れかけたのが昨日の今日の話なのだから、当たり前だ。
だからこそ、そんな暇を持て余しているであろう結翔の為に、レンタルショップから彼が好きそうなものを何個か借りてきた。
……選ぶのに一時間以上かかったが、しょうがない。
なにせ、私は誰かの事を想って物を選んだことがないんだから。
初めての体験だった。
こころやあいみは、私に合う物を選ぶ時、こんな感情を持っていたのだろうか?
喜んでくれるか少しだけ不安になって、それでも結翔の笑顔が見れるかもしれないと思うと、楽しくて心がウキウキする。
色々な初めての感情の応酬だった。
歩く足が早足になるのも、仕方のない事なのかもしれない。
だけど、多分、これが最初の油断だった。
何時の間にか、私の周りを取り囲むように、魔法少女の反応が現れ始めたのだ。
一瞬、勘違いかと思ったが違う。
妙に統率と連携の取れた動きに加えて、少し離れた所に感じる強い魔力。
マギウスの翼…か。
逃げるのは簡単だ。
透明化を使えば、追うのは困難だろう。
しかし、これはチャンスでもある。
離れた所に感じる強い魔力、少なくとも幹部クラスが一人いる証拠だ。
捕まえれば、マギウスの翼のアジトを聞き出せる。
そう考えた私は、誘い込むように、路地裏への道を進んで行く。
薄暗く道幅も狭いが…襲うならもってこいの場所。
取り囲んでいた内の三つの反応が、私に向かって飛んできた。
急いで魔法少女に変身し、到着順に相手を潰していく。
一番目の黒羽根は鉤爪を切り裂くように振り下ろしてきたが、左手に持ったダガーでそれを受け止め、無防備な脇腹に回し蹴りを叩き込む。
二番目の黒羽根は鎖を利用して私を捕縛しようとしたが、動きが遅い。
回し蹴りの勢いを使って、向かってくる鎖を地面に踏みつけ、何も持ってない右手で鎖を引っ張り壁に叩き付ける。
三番目の黒羽根は、先の二人が瞬殺されたのを見て動揺したのか、鉤爪での攻撃を外したので、可哀想だが後頭部にエルボーを入れて眠らせた。
取り敢えず、三人はノーダメージで倒したが…あと四人か。
しかも、その内の二人は知っている魔力だ。
……天音姉妹。
「黒羽根じゃやっぱり、簡単にはやられちゃうかー」
「相手が相手ですから、しょうがないでございます」
「でも、私たちなら──」
「ええ、私たちなら──」
「……御託はいい、早く来なさい」
クスクスと笑って現れた二人に、私は挑発するように言った。
音の攻撃は厄介だが、ここはあの時の場所と違って、反響はしない。
フィールド的には私が有利な筈だ。
…なのに、何故だろう。
脳が警鐘を鳴らしている。
体が無意識に走って逃げようとしている。
不味いと、なんとなく察した。
透明化で撹乱しようとしたその時、二人が笛に口を付けた。
『笛花共鳴』
刹那、頭の中に直接音が響くような感覚に陥った。
とても綺麗な音のはずなのに、魔力によって色付けされた魔音とも呼ぶべきそれは、グチャグチャに私の脳を掻き回す。
痛いとか、苦しいとか、その程度では収まらない。
激しい目眩と手足の痺れ、手に持っていたダガーが流れるように滑り落ちた。
私自身も膝から地面に崩れ落ちる。
頭が上手く回らない、体が上手く動かない、辺りを見回すことさえままならない。
このままじゃ……
嫌な想像が脳裏を過る。
ダメだ…ダメだ!
私は結翔に託された、託されたんだ。
一度逃げて、体制を……立て直さないと。
透明化を使い、地面を這うように、私はその場からに逃げ出す。
流石の天音姉妹も透明化した私に魔音を当てるのは難しいのか、段々と体の自由が戻ってきて、何とか立ち上がり壁を伝うように離れて行く。
……良かった、借りてきたDVDやBlu-rayたちは無事だ。
折角借りてきたんだ、置いていく訳にはいかない。
自分が持った物まで透明化出来るなんて、そんな都合の良い固有魔法で助かった。
少しでも気分を楽にする為、態と脳天気なことを考えて、路地裏を進む。
あと少し、あと少しで、表道に出られる。
ある程度距離を離せた事を確認し、私は透明化を解除した。
便利な透明化だが、表道をそのまま歩く訳にはいかない。
もし、今の状態で一般人にぶつかれば、簡単に透明化が解けてしまうからだ。
一応、もう一度反応を確認してから、魔法少女の変身も解いて、私は動き出す。
やけに人通りが少ないが、気にしている余裕はない。
何故なら、逃げ切れた実感はあったが、それ以上に嫌な予感がしたからだ。
態々、幹部クラスまで引っ張てきて、こんなに簡単に私を逃がすだろうか?
仮に、私が敵だったらそんな事しない。
少なくとも、逃げる所までは想定内として、もう一つの罠を──まさか!?
私は再度変身し、そこら辺に落ちていた小石を、適当な方向に全力で投げる。
少し間を置いてから、『ガキン!』と、石を投げた方向から音が聞こえた。
…どうやら、嫌な予感は的中したようだ。
「……冗談、だったら笑えたのにね」
「残念ですが、そうではありません。…ここはもう、アリナの作った結界の中。先程まで居た少ない人影は、ワタシが作った幻です」
「ゲームオーバー…かしら」
「はい」
きっと、ここで一言、助けてと言えば結翔は飛んで来たのかもしれない。
だけど、私はそれを出来なかった。
託して貰えた私が、約束を交わした私が、助けてもらうなんてお門違いじゃないかと、そう思ったから。
そして、それ以上に、私は驕っていたんだ。
自分一人でもなんとかなると。
……結果は惨敗だった。
──結翔──
未だに帰ってこないまさら、もう夜も九時を回っている。
行くと言っていたレンタルショップに話を聞きに行ったが、店員さん曰く五時前には店を出ていたと言う。
探せる所は全て見て回ったが手掛かりは0。
お手上げだ、千里眼が使えれば別だが、生憎な事に魔眼は封印中。
全く以てタイミングが悪い。
「ったく。どこに行ったんだ、まさらの奴」
「──ここよ」
「っ!? おまっ!? いや、どっから湧いてきた!!」
「用があったのよ。帰るのが遅れた」
「用があったって……。あのなぁ、一本電話入れるくらいできただろ?」
俺の抗議を無視し、まさらはずんずんと先に進んで行く。
カチンと来た俺は、彼女の肩を掴んで動きを止めようとしたが、何時の間にか俺の視界は反転していた。
そして、一拍遅れて背中に激痛が走る。
痛い…痛いけど、そうじゃない。
今、コイツはどうやって俺を投げた?
…殆ど体を動かしてるようには見えなかった。
「お、おい、まさら。これはやり過ぎだろ、滅茶苦茶背中に痛てぇんだけど」
「自業自得よ。勝手に触らないで」
氷のように冷たい視線が俺に向けられる。
心底、俺の事をどうでもいいと思っている目だ。
…何か可笑しい、いつものまさらじゃない。
少しだけ気になった俺は、躊躇いを感じながらも、魔力を探った。
そしたら、本来ならまさらから感じる事のない魔力反応が出てくる。
それは──ウワサの魔力だった。
次回もお楽しみに!
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